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IPOとIR(3)上場後編(後)、機関投資家の目線を知る

~特別企画・IR担当者座談会~

―北村さんはどうか
セレンディップHDの北村氏:情報発信にはいろいろなツール、チャネルがあるが、どのツール、チャネルを使っても、我々自身が分かりづらいビジネスモデルではあり、そこは苦労している。これは情報共有レベルになってしまうかもしれないが、当社は名古屋に本社がある。名古屋には名証があるが、そこに上場している会社とコミュニケーションを取った際に、名証が主催するイベントで出展している、との話を聞いた。

イベントには、著名人を連れてくるので、物凄い人数が来場する。そこにブースを置いて個人投資家とコミュニケーションが取れるという。当社が決算説明会でコミュニケーションを取り、発信する対象者とは比較にならない数の個人投資家とコミュニケーションが取れる。名証に上場していれば参加できるということで、証券市場自体の活動を利用していく方法もあると教えてもらった。

一方で、直近では株価が少しずつ上がってきており、機関投資家からインタビューしたいと声がかかることが増えてきている。当初は、個人投資家に認知してもらい、出来高をこなしながら、業績に伴って時価総額が上がったら、機関投資家への対応を強化していこうというものだったが、機関投資家からのアプローチも増えている状況だ。

個人投資家に対していろいろなPR活動をしていきながら、冒頭で皆さんから英語のホームページについて伺ったが、海外も含む機関投資家に対してのコミュニケーションを強化していくか、今ちょうど分岐点にいると感じている。

■その原稿、誰が書く?
話が変わってしまうが皆さんに伺いたい。実務的な話だが、IRやPRの記事を永山さんのところではChatGPTが一部書いているという話もあるが、その原稿を誰が書くかという問題が当社内でもある。

例えば、事業部があってサービスを展開することをPRしたい時に、専属のIR担当者がいた時は、担当者が書いて、それを見てもらっていたが、現在はチームで対応しなければならない。そのなかで、現場の担当者にフォーマットを渡して原稿を書いてもらい、我々がレビューするスタイルに移行しつつある。皆さんはどうしているか。

アピリッツの永山氏:最初はPRもIRも全部担当者が書いていたが、途中からは事業部側でリリースを出したい、PRを出したい、IRにも載せてほしいのであれば、教育の観点で、「自分で一旦書いて」と言っている。自分たちが作ったプロダクトで、知ってもらいたいから出すので、「感情を入れてちゃんと書いてよ」という。

そこまでがワンセットの仕事で、プロダクトを作ってあとは知らないというのは良くないということで、あえて書かせるようにした。それを、専門的なPRの観点ではこういう言い方をしたほうが良い、IRであればこうしたほうが良いというレビューは必ずするが、タタキ台は作ってもらうようにしている。

あくまで僕が主体で出すものに関しては、全部ChatGPTにやらせている。各社でバラバラだと思うが、当社はそうしている。

ユミルリンクの渡邉氏:当社はまだ事業部制を採っておらず、セグメントが1つの事業体で、従業員数も120人程度と規模が小さいので、マーケティング部門にいる特定のメンバーがリリースまで全部書いている。

ただ、プロジェクトや新しい事を始める時には、PRの記事を出すとしたら、「自分たちがやっていることで、どのようなことがアピールできるだろう、世の中でどのように役立つだろうということから逆算して考えていこう」ということを、最近はやるようにしている。

将来的に規模が大きくなって事業部で分かれてきたら、文脈などはこちらで全部訂正するので、根幹のところで何を伝えたいのか、どのようなメリットが出せるのかという部分は現場から出してもらって、補正していくやり方にすると思う。

■メディア対応は現場任せか
セレンディップHDの北村氏:非常に貴重な意見をありがとうございます。情報を発信すると記者やマスコミからインタビューを受けるケースもあると思うが、皆さんは立ち会うのか、現場に任せるのか。現場に任せる場合、NGワードや禁則事項を展開すると思う。全部をIR部門がコントロールすることは不可能ではないか。永山さんはこのあたりはどうか。

アピリッツの永山氏:記事を絶対に事前に見せてくれる媒体は同席しない。例えば、東洋経済などがそうだが、事前に確認を取らないスタンスのところは、絶対に同席する。

セレンディップHDの北村氏:マスコミの種類で決めているということか。

アピリッツの永山氏:日経など強いところは出すか出さないかも分からないし、どのような理由かも「こっち次第だよ」というところは、怖いので必ず出るようにしている。

グラッドキューブの財部氏:私は基本的にPRもIRも全部見るようにしている。
ユミルリンクの渡邉氏:数や量によるが、今の状態であればまだ全部コントロールできる範囲なので、私は全部出ている。

セレンディップHDの北村氏:会社の規模や注目のされ方でIRの仕事や役割分担も変わってくるとのことなので、非常に参考になった。

■基本はプル型で
―機関投資家とのコミュニケーションについて引き続き、北村さんは現状でどのような状況か
直近では、機関投資家とのミーティングが月2~3件入っている。電話での質問も含めて2週間に 1回ぐらいのペースで入っており、増えてきていると感じている。業績予想の修正をしたのもあるが、コミュニケーションが増えている。当社としては、長期安定的な株主に当社の株式を購入してもらいたいので、取材の依頼には積極的に対応している。

―森川さんはどうか
オーケーエムの森川氏:ミーティング依頼があれば、基本的には全て受けている。足元の時価総額や流動性においては個人投資家に注力しなければならない。だが、将来的なことを考えて機関投資家やアナリストに対しても、投資家データベースを活用して、中小・小型株や機械セクター、当社の属する業界を見ているアナリストや機関投資家にメールや電話をして、ミーティング件数を増やしている。

完全に受身の状態の時だと四半期で2~3件ぐらいだったのが、期末などタイミングによっては、10件近くまでミーティングをアレンジできるようになってきた。当社は売上高の半分が造船セクター向けで、同セクターの盛り上がりも受けて、大手証券会社のアナリストが企画してスモールミーティングを組んでくれた。少しずつではあるが、取り組みの効果が出てきていると感じている。

セレンディップHDの北村氏:我々もアナリストから問い合わせが来るようになった。完全プル型で、今まではアナリストにこちらからプッシュして、「話を聞いてもらえませんか」ということを行っていたが、今年の後半ぐらいからアナリストから「ヒアリングさせてほしい」という問い合わせが、中小・小型株を見ているアナリストから来ている。

グラッドキューブの財部氏:ほぼプル型でやっている。来たら対応するというのをやっているぐらいだ。事業譲渡などを出すと依頼が増える。

アピリッツの永山氏:機関投資家には出来高の何%しか売買できないというルールがある。当社も全てプル型にしているのは、行ったところで、彼らが十分なゲインを得られるほどの出来高がないので、彼らは絶対に入ってこない。来るとしたらファンドマネージャーがある程度の裁量を任されているヘッジファンドの人が中心だ。

プル型にしているのは、ルールが厳然とあるので、一生懸命電話したところで、「良いとは思うけど、入りたくても入れない」と言われるのがオチだというのが頭にあって、今は割り切ってやっていない。

この記事を見ている人は個人投資家だと思うが、この話をすると意外と知らない。機関投資家が運用する時に、出来高の何%までしかできないことは、よく考えれば知るわけがない話だ。掲示板で「機関投資家が入ってこないじゃないか」と言われるが、「いやいやそれは入ってこないよね」という話なので、割り切ってやっているのはそういう理由だ。

ただ、近い将来に備えてIRを充実させているのは、機関投資家が入ってきた時に、きちんとウォッチしてもらえるように、ファクトブックも出している。そういった意味で今から準備をしている。

バランスが非常に難しい。特に大手ロングは電話をしたところで絶対に来ないので、声をかけるとすると1on1の時に言っている。あの世界は狭く、機関投資家のなかで動くので、「同じヘッジファンドならほかに言っといてください」とか、実際に売買しているのかとは聞いている。いくらになったら買ってくれるのか、どうするのかは毎回聞いている。面談に来ても買わない人が多いので、そのあたりは聞く。どうなったら買ってくれるのかというプロの目線は聞きたいので聞いている。

以前にいた会社は、プライム上場で時価総額が1000億円を超えていたので、その時は待っていれば四半期ごとに機関投資家から40件程度のミーティングが入っていた。ただ、あれは時価総額が大きいのと、運用ルールがあるからなので、そこを超えるまでは、個人に振り切っている。

機関投資家に入ってもらって、大きな商いでボラティリティを作ってほしいが、そこまでは今はできない感じがする。ただ、四半期ごとに、あるいはニュースがあった時にはミーティング依頼は15件ぐらい来るので、どこかの潮目で変えたいとは思っている。

投資家はプロなのでコミュニケーションの時は、僕が答えるのは半分、聞くのが半分になっている。どこが駄目だと思っているのかというのは全部聞いている。それを社内や社長にフィードバックする。機関投資家の言うことは大体、偉い人でも聞いてくれる。個人の意見は「そんなこと言ったって」と聞かないが、「プロが言っているから、それやらないと買わないってよ」というのは、意外とイエスという。そのような活用の仕方もしている。

noteの三浦氏:まだまだ個人投資家向けのIRが中心になるので、基本的には取材の依頼を受けた投資家に会うことが中心で、半期に1回ぐらいは証券会社に「アポを何件か入れてください」という依頼をしている程度。永山さんも話していたが、機関投資家と話してみても、直近のニュースを探るような質問ばかりになってしまうことがあるので、こちらからもどのようなIRの発信を期待しているのかという質問をさせてもらい、コミュニケーションの場として、できる限り長期に興味を持ってもらえるように話しているイメージだ。

ユミルリンクの渡邉氏:基本的にプル型で、永山さんや三浦さんが話していた通りのところもある。中小・小型株になると、50億円未満で機関投資家は入れないので待つ。上場から2年ほど経ったタイミングで、数は若干減り始めているが、四半期で10件いかないぐらいのことが多い。

なぜかは分かっていないが、海外の投資家の割合が増えてきている印象はある。海外もそうだが、機関投資家には中小・小型メインでマイクロキャップを狙っているのもファンドとしてはあると思うが、なぜ私達を見つけてきてくれて、IRしてくれたのか聞くようにしている。どのようなフィルタリングをして、私達のような小型株に興味を持ったのか必ず聞くようにしている。

(了、第4回に続く)