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上場会見:Japan Eyewear Holdings<5889>の金子社長、鯖江での製造を強化

16日、Japan Eyewear Holdingsが東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1360円を6.54%下回る1271円を付け、1111円で引けた。同社はアイウェアの企画からデザイン、製造、卸、販売を手掛ける「金子眼鏡」と「フォーナインズ」の持株会社。両ブランドはコンセプトの異なる中高価格帯の眼鏡を扱う。福井県鯖江市で1958年に金子眼鏡商会として創業し、IPOを目指して日本企業成長投資の関連ファンドが2019年7月に資本参加した。金子真也社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

メディアからの質問に答え、アイウェアメーカーの経営者としてさらに高みを目指したいと話す金子社長。
メディアからの質問に答え、アイウェアメーカーの経営者としてさらに高みを目指したいと話す金子社長。

―初値の受け止めは
なかなか厳しいスタートとなった。非常に悪い市況のなかであえて上場したいと思ったのは、上場しないと当グループのフェアバリューが市場からしっかりとした情報として伝わってこないということだった。

売出価格が多少安い状況で、内部でも議論があった。だが、まずは上場してから、しっかりと業績を示しつつ、最終的な投資家の評価を仰ぎたい。これが本当のフェアバリューにつながるのではないかと、初値に関してはあまり気にしていない。数ヵ月先、来年3月の今期決算の発表の頃から、当社の実力値が本格的に見え始める。

―65年という伝統のある会社だが、この時期に上場した理由と、金子社長の上場に対する所感を聞きたい
創業から65年、私が生まれた年からなので年齢と同じだが、私も50歳代の後半になって、金子眼鏡の業績も順調に上昇していた。ただ、65歳や70歳になって、この会社が、果たしてどのような成長ストーリーを描き続けることができるかと6~7年前に考えた。

そこでの選択としては、IPOを実現して、これまでのプライベート・カンパニーからパブリック・カンパニーへ進化させる。そうして永続的な成長をすることが、最大の、最後の仕事だという判断で目指した。

―福井は眼鏡の産地だが、そこに本社があることによるメリットとデメリットは何か
メリットとしては、日本の眼鏡の95%以上を鯖江市で生産しており、調達も含めて非常に有利だ。特に、ブランドの場合、一からものづくりを始めていく部分では、東京や大阪のような消費地よりは、生産現場にはるかに近く、クオリティのコントロールを含めて、開発には恵まれている。

一方で、デメリットは、こういったIPOなどを行ううえでは人材不足で、単独で上場を目指すことはとても困難だ。PEファンドと2019年の秋に資本提携した。ファンドと私の双方が、IPOをイグジットとするという約束事から始まった。約4年かかったが、地方のデメリットはそこで完全に解消された。

―ファンド株主の保有比率は何%に下がるのか
柴田俊一取締役:日本企業成長投資が全部で4つのファンドになっている。IPO後には全部で28%まで低下する。元々50%程度を持ち、3割ぐらいが残るイメージなので、彼らが持っているもののうち4割程度を売り出す。

―今後、日本企業成長投資とはどのような関係になるのか
金子社長:彼らとの資本提携の1つのイグジットの手法として、IPOはファンドとしても、それが最適な、win-winの関係性を保つ最大の出口という話になっていた。IPOを今日実現して、株の流動性も担保されるので、それが半年なのか1年なのかは分からないが、1~2年のうちにイグジットしていくだろう。

私自身にも決して上場ゴールの考えは全くない。今後、彼らの出る・出ないに関係なく、私が筆頭株主として、これから事業を執り行っていく。そのなかで、私中心の戦略をしっかりと遂行するのみだ。今までは筆頭株主がファンドだったので、両者で話し合いながらきた。今後はプロの眼鏡の経営者として、さらに高みを目指して頑張っていきたい。

―東証のIPO改革による上場日程の柔軟化を適用した第1号案件で、上場日をレンジで設定した。その方針の採用と最短となる16日に上場した理由は
柴田取締役:最大のリスクを考慮してレンジを持たせたのが実際だった。上場承認を10月12日に受けて以降、社長と私とで多くの投資家と、ロードショーでコミュニケーションを取った。そのなかで昨今のIPOマーケットが少し不安定だと見た時に、万が一需要が十分なレベルで集まらなかった場合を想定して、若干の幅を持たせた。結果的には想定以上の需要が集まり、最短である16日に上場日を設定した。

―金子眼鏡とフォーナインズのシナジーについて。両ブランドが同じ商業施設などに出店しているケースはけっこうあるのか
金子社長:そもそも、フォーナインズはまだ10店舗程度しかない。しかも東京に特化している。名古屋と大阪には1店舗ずつのみなので、首都圏での展開となっている。両社とも高価格帯のブランドで、2社のカニバリゼーションはないのかという質問をよく受ける。そこは、商業施設が同じところも一部ある。

例えば、銀座や渋谷などでは、互いに隣のビルに出店している状況が多い。そのなかで、全く異なる属性の顧客を獲得できていることも事実だ。1つの原因としては、両ブランドのコンセプトの違いと、それに基づいたデザイン展開の違いがあるのではないか。

フォーナインズに関してはややフォーマルなビジネスに強いアイウェアを主軸としている。金子眼鏡はカジュアルかつファッションのトレンドをしっかり押さえたものづくりをしている。価格帯は近いが顧客属性は大きく違うので、共存が可能と見ている。

―特徴として、一貫生産がある。フォーナインズも一気通貫で生産するために第4工場を建設するが、分業制で成り立っていた鯖江では異色の存在ではないか。一貫生産にこだわる理由は
金子眼鏡に関しては、これまで15年ぐらいかけて、この仕組みを構築しながら、自前での生産が会社全体の売り上げの推移とほぼ同じスピードで実現できた。一方で、フォーナインズは、鯖江の地元のメーカーがしっかりと生産を担っている。決してその取り組みをなしにして、全て内製化しようとはしていない。

両ブランドが、今後グローバル展開を強化するなかで、現状の販売量の1.5倍、2倍、3倍を目指していきたい。ただ、販売数量が2倍になった時に、地元のメーカーで賄えるのかは、キャパの問題があって難しい。今後の両ブランドの成長に備えた投資が第4工場であり、決して外部との関係性を遮断しての内製化ではない。

―国内製造100%にこだわるとのことだが、福井県での生産比率を少なくとも何%以上にするという基準はあるのか
基本的に100%で、鯖江以外では今のところ考えられない。

―鯖江のなかでの技術者不足や疲弊している状況を以前に聞いたが、それを再び盛り上げるための上場でもあるが、改めて、事業拡大も合わせ、人材確保や技術者育成、鯖江の技術をどう継承していくか聞きたい
いろいろな会社で働いている人が、当社が新しい拠点を作ることで転職する。あるいは新卒で就職する人など多様な動きがあるだろう。とはいえ、魅力的なブランドであると同時に、経済条件的な部分も含めトータル的なバランスが求められる。

客観的に見て、「ラグジュアリー・ブランドを目指すグループ企業での労働の給与水準が低かったらまずいのではないか」という問題意識が当然にある。売り上げも利益水準も、雇用の部分でも、地域経済のなかで突出した存在になりたい。この三点セットを実現できれば、地元の雇用も含めて、魅力ある人材の確保が可能になるのではないか。

そういったものは高コストにつながるが、当社が今訴求している属性の顧客は、人件費のコストアップ要因をはるかに許容してもらえるような購買力がある。プライシング戦略によって十分に乗り越えることができると想定している。

―原材料価格の上昇、特にフレームにチタンとセルロイドを使っているが、コストへの影響を知りたい。また、有利子負債が大きいので日銀の金融政策動向などはどうか。ラグジュアリー・ブランドなのでコストに対して価格を上げていくとのことだが、見通しは
この1~1年半で、原材料費あるいは光熱費を含めたランニングコストが上がってきている。この状況は、昨年や今年に価格改定を行っていくなかで十分クリアできている。損益に与える影響は最小限にとどめることができたと見ている。

柴田取締役:借入金に関しては、金額そのものでは見た目が大きく見えるだろう。今の借入金は、基本的に日本企業成長投資が当社の株主になったときに発生した、いわゆるLBOローンだ。当社の事業成長のために投資したものではない。

一方で、金利上昇のリスクはある。毎年、年2回元本の返済があって、大体10億円ずつ返済をしていく。自ずと借入金の水準は今よりも改善していくと見ている。仮に金利が1%上がったとしても、今の借入金残高はおよそ140億円で、年間で1億4000万円ぐらいの水準なので、事業の成長のなかで十分カバーしきれる部分だろう。

―配当性向目標や資本効率について
連結当期利益の40%程度を目標あるいは目安としている。今期末の配当については、当社は1月期決算で、今日の上場なので、年間分ではなくその半分、1株当たり17円が配当の計画値となっている。

資本効率に関しては、貸借対照表自体が、フォーナインズがグループ化し、ファンドが作ったSPCと合体するなど、少し流動的なので、具体的な数値目標はこれから議論して設定していきたい。

―今後のグループ体制のあり方について。特にM&Aについて、青写真があれば聞きたい
金子社長:今日からはいわゆる上場企業として、ある意味、鯖江ではとても大きいインパクトで受け入れられると思う。これまで以上に産地における非常に強い求心力を持って業界全体に良い影響を与えていければ良い。

ただ、やはりM&Aを軸に成長よりも、まずは オーガニックな自前での成長が優先されるのが今の私の考えだ。M&Aを通じたインオーガニックな成長は、是々非々で、特に我々のものづくりの考え方や、ブランドの世界観と親和性がとても高いと思われるブランドに関しては、検討していきたい。

一方で、川上の鯖江での製造もグループとして強化しなければならない。こちらも第4工場の建設を始め、自前での成長・強化を主軸とするが、これもスピードをより上げるための、地元でのそういった案件も積極的に都度判断したい。どちらかに偏るのではなく、まずは上場後の周辺の動きをしっかりと見極めたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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