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上場会見:キャスター<9331>の中川CEO、労働バイアスを解く

4日、キャスターが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の760円の2.3倍の1748円の買い気配で引けた。企業のニーズに合わせて「キャスト」と呼ぶフルリモートワーク人材を提供。秘書や経理、人事、採用、カスタマーサポート、マーケティングなどバックオフィス業務を代行するWaaS(Workforce as a Service)事業を手掛ける。人材不足に悩む中小企業を中心に、5月末時点で約4100社が導入している。フルリモートワークに特化した企業の上場は初めて。中川祥太CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

800人を超えるフルリモートワーカーを抱える組織は日本初にして最大、世界でも発行体よりも規模の大きいところはおそらくないと話す中川CEO
800人を超えるフルリモートワーカーを抱える組織は日本初にして最大、世界でも発行体よりも規模の大きいところはおそらくないと話す中川CEO

―上場の感想を
今、会社を始めてから9年目が終わって10年目だ。上場に関しては現在、諸々の初値の状況などは確認できていないが、強い期待が寄せられていると認識している。そういった期待に応えられるように今までも取り組んできたが、今後も真剣に向き合って、期待をより抱えられるような状態を続けられたら良い。

―買い気配で終わっている
非常に強い期待が寄せられている。

―企業として大きな節目を迎えたが、このような企業にしてきたいであるとか、最大の目標は
現在のミッションをまずはしっかりと達成していくこと、それをできる会社であることを引き続き証明していく。その原因(障壁)になっているのは労働におけるバイアスと呼ばれるものだ。コロナ禍の前までは、皆はオフィスに来るのが仕事である、仕事イコールオフィスに来る、通勤するものであると思っていた。

だが、ほとんどの人は(リモートワークという働き方を)経験しただろう。別にこれが全ての正解だと言いたいわけではない。そういった方法もあることを認識して新しい方法を追求していくのが我々の使命だ。労働バイアスを解除していくことが我々の使命の1つで、そのような会社にしていく。

―将来的に、サービスや医療・介護業に進出したいとのことだが、リモートワークとの相性がイメージしにくい。どういうことを想定しているのか
同じような考え方が下地になっている。建築などの領域は、既に重機や建機をリモートで操作することは技術的には可能だ。だが、いろいろな制限があり、越えなければならないハードルがある。ただ、それができるようになれば当たり前だが効率化できる。そうしたほうが良い場面もある。

そういったものに関してはできる限り、今のやり方を否定するのではなく、新しいやり方でより良い方法であれば、提供し続けていく。全く同様に医療・介護業も挑戦している。そこに対して、我々はリモート専門の立ち位置でいろいろな協力関係を築けるのではないか。

―フルリモートワークを実現するためのセキュリティやディレクションのシステム、マネジメントに言及したが、参入障壁の本質的な部分について聞きたい。競合優位性も含めて、「こんなことができたので、このような組織で事業ができている」という意味合いだ
一例として伝える。コロナ期間中にリモートワークを体験しただろうが、リモートワークをしている時に「サボるのではないか」という話題はよく出ていた。そうすると、例えば、パソコンの利用状態をトラッキングする。ほかに、椅子に座っていることをトラッキングして「椅子に座っていれば仕事をしている」とみなす追跡手法を取る会社もあった。可視化されていないので不安になってしまう。

我々はそれをどうやって解決するのか。顧客から受けた業務は、(システムの)なかで処理するように先に起票する形式になっている。何をやったかを報告しているわけではない。「何をやりますよ」で起票される仕組みになっている。これができることで、「我々は今日、この業務を、これだけの物量、こういった形で行う」ということが、1日の早い段階で積み上がっていく。それが積み上がってこなければ、我々がクライアントに請求できないようになっている。それらが全部繋がることで生産性が全て可視化される。この状態を作ることが、このシステムの根幹の1つではある。

こういったものの組み合わせで、今までできていなかったこと、皆がコロナ禍で体験したような不安になることを一つ一つ独自の方法で解決している。

―コロナ禍は業績の追い風になったのか
端的にコロナ禍がなければもっと伸びていた。既に公開されている分析をしっかり見てもらえる機会があれば見えるが、コロナ期間中、当社の数字がかなり揺れていた。メインのドライバーは、市場が採用するか否かだ。人手不足かどうかが最大のドライバーだ。

コロナ期間中は、皆採用を止めているので人手不足が解消していた。経済活動まで止まっているので営業活動なども止まって、悪影響を受けた。ありがたいことにそこから業界全体がもう一度切り戻すように、いろいろな領域を拡張させていくことができ、業績としては拡大できた。だが、今思い返してみると厳しい足元だった。

―創業当初の売上高は
1年目は確か年間で1900万円程度だった。サービス開始から半年分ぐらいだった。

―規模が拡大していくと、先々の競合の認識はどのように変わっていくのか
競合は、今までもずっとそうだが、我々の後追い系の競合は出てくると見ている。厳密に言うと、当社の派遣モデルと同じものを、オンラインアシスタントといった呼び方などで展開する企業が9割だ。このモデルで展開してしまうと、サービスの内容が全く変わってしまう。担当したその人とサービス品質が紐づき、専門家でなければサービス品質がばらけてしまう。サービスレベルが全く違うので、3~5年に1度ぐらい競合が入れ替わってしまっている状況だ。足元がこのまま変わらない限りは、変化はあまりないだろう。

―既存の大手の派遣会社やコンサル会社と正面から当たることにはならないのか
派遣やコンサルの分野は当たらない。既存の大手のBPOとは少しずつ当たるようになっている。我々が当たりにいっているよりも、大手のBPOが中小の案件から手を引いているので、我々が呼ばれてしまう状況になっている。あちらとしても手を引きたい状況ではあるので、しばらくは棲み分けが行われるが、我々としてはその大手のBPOがどこかでスイッチするのが最大のターニングポイントになると考えている。

―調達資金はいくらで、それをどう使うのか
3億円強になり、広告宣伝費として変わらず使っていく予定となっている。

―広告宣伝費で、クライアントの開拓に投資するだろうが、今はどの程度のペースで開拓が進み、どれぐらいのペースで増やしていきたいのか
全社的には月間で足元の正確な数字ではないが、今までは数十社ペースで伸ばしていくものだったと思う。市場規模としては、これを数百社にできないかと言えばそういうわけでもない。あとはユニットエコノミクスのバランスを取りながら、ざっくり言うと損益計算書上のバランスを取りながらだ。利益をしっかりと出しながらどう進んでいくか、それが我々に課された新しい宿題だろう。

―株式の67.9%程度をいわゆるベンチャーキャピタル(VC)が保有している。上場後の資本構成をどのように想定しているのか
VCなので、どこかで資本構成は変えていかなければならない。市場で自由に売却するのはなかなか難しい内容になるので、テクニカルなものも含めて、我々としては積極的に持ってもらいたい株主と少しずつコミュニケーションを取って進めていく形になるのではないか。

―減らしていきたいのか
資本構成を変える過程で、株主の売却機会を折を見て作っていく流れになると考えている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]