キャピタルアイ・ニュースは1日、キャピタル・アイAwards “BEST DEALS OF 2023”を発表した。引受証券会社と機関投資家へのアンケートをもとに編集部審査を加え、2023年度の債券・株式発行市場における優良案件・発行体を選出した。

債券は、日本銀行の政策変更への思惑で、金利変動が激しいなかでの発行となった。そうしたなかでの起債の成功が評価されている。セブン&アイ・ホールディングスや日本学生支援機構、千葉県がこの観点で受賞した。メガバンクでは三井住友フィナンシャルグループが国内で、三菱UFJフィナンシャル・グループが海外でAT1債を発行し、支持を集めた。ソフトバンクの社債型種類株式はEquity特別部門で受賞。IPOは1000億円のKOKUSAI ELECTRICが、POでは持ち合い解消の流れを作ったデンソーが、CBは当年度最大の大和ハウス工業と、POと同時に3日間でマーケティングしたJFEホールディングスが選ばれた。

以下が授賞リスト(< >内は主幹事/株式のグローバル案件はグローバル・コーディネーター、日付は条件決定日/決議日)。
~普通社債部門~
BEST DEALS OF 2023
第16回 セブン&アイ・ホールディングス債 10月27日 3年 600億円
第17回 セブン&アイ・ホールディングス債 10月27日 5年 600億円
第18回 セブン&アイ・ホールディングス債 10月27日 7年 300億円
第19回 セブン&アイ・ホールディングス債 10月27日 10年 700億円
〈野村/SMBC日興/三菱UFJモルガン・スタンレー/みずほ〉
講評: 中東をめぐる地政学リスクが高まり、直後に控えていた日銀会合(10月30~31日)への警戒があったなか、約3年ぶりの希少性や信用力、知名度の高さを生かし、総額2200億円のディールを無事に仕上げ、3400億円超の需要を集めた。長期の年限で苦戦する案件も見られた状況で、10年債で700億円の起債を実現した。
特別賞
劣後第11回 三井住友フィナンシャルグループ債 4月19日 永久(NC5.17) 890億円
劣後第12回 三井住友フィナンシャルグループ債 4月19日 永久(NC10.17) 510億円
〈SMBC日興〉
講評: クレディ・スイス債がスイスの金融当局によって無価値化される“AT1ショック”後、G-SIBsで第1号のAT1債。総額1400億円の起債に成功し、同商品の復活の第1歩を踏み出した。同時に、本邦金融システムの盤石さをグローバルにアピールした。
BEST ISSUER OF 2023
NTTファイナンス
講評: 7月に総額3800億円、11月に同2200億円と、当年度は計6000億円のグリーンボンドを供給。国内トップクレジットの発行体として人気の高さと存在感を示したうえ、グリーンファイナンスのマーケット拡大に寄与した。
WORST DEALS OF 2023
第113回 住友不動産債 6月1日 7年 100億円
第114回 住友不動産債 6月1日 10年 200億円
〈みずほ〉
~財投機関債等部門~
BEST DEAL OF 2023
第74回 日本学生支援機構債 1月17日 2年 300億円
〈三菱UFJモルガン・スタンレー/野村/東海東京〉
講評: 硬直的な運営が多い公共債のなかで、投資家の要望に応えた起債が好感された。金融政策変更への警戒と金利変動が大きかったことから、マーケティング期間を3日間から2日間に短縮し、翌週に控えた日銀会合から少しでも離すため、条件決定日を通常の金曜日から水曜日に前倒しにした。さらに、金利の低下に対応するため0.10%の下限利率を設定した。
BEST ISSUER OF 2023
日本政策投資銀行
講評: 四半期の初めに登場し、3年・5年・10年という基幹年限の水準を示した。財投機関債として最大の総額3850億円を起債。定例債のほか、20年債と2年サステナビリティボンドも発行し、幅広い年限での投資機会を提供している。4月の3年債では、下限利率を設定し、8月の2年債ではプライシング基準を絶対値からスプレッドに変更するなど、相場の変調に合わせて柔軟に対応した。
WORST DEAL OF 2023
該当なし
~地方債等部門~
BEST DEALS OF 2023
令和5年度第1回 千葉県債 4月5日 10年 200億円
〈野村/みずほ/東海東京〉
令和5年度第2回 千葉県債 4月5日 5年 200億円
〈野村/みずほ/三菱UFJモルガン・スタンレー〉
講評: 当年度最初の地方債として登場。国債カーブ対比のスプレッドを10年債で5bp、5年債で3bp上方修正し、3月の金融不安や金利の低下による両年限の需給不安を払拭した。後続や並走銘柄の消化を伴う適正値を示し、トップバッターとしての重責を果たした。
BEST ISSUER OF 2023
地方公共団体金融機構
講評: 2年連続の受賞。毎月の10年債を始めとした安定的な発行と、これを通じた継続的な投資家との会話、投資家基盤の厚さへの評価が高い。10年のほか、5年・20年・30年の年限にわたって、総額5480億円を供給した。10~12月に金利が急低下して需給が緩んだことで10年地方債の流通実勢がワイド化し、新発債の販売不振も見られたなかでも地方債フラットのスプレッドで起債し、増額や超過需要を実現した。
WORST DEAL OF 2023
第1回グリーン共同発行市場公募地方債 11月17日 10年 500億円
〈野村/みずほ/大和〉
~非居住者円債部門~
BEST DEAL OF 2023
第 A号 ポーランド開発銀行債 5月17日 10年 930億円
〈主斡旋人:大和/野村〉
講評: ウクライナ難民向けの支援基金に資金を拠出するための起債。同国の隣国という地政学リスクが意識された一方、国際協力銀行(JBIC)保証付きで1%超の利回りが付く点が注目され、1000億円近いオーダーを集めた。広島でのG7サミットを直前に控えていたなか、議長国の日本にとっては、ウクライナ支援を国内外に示す象徴的な案件だった。
BEST ISSUER OF 2023
BPCE
講評: 当年度は2回の起債で総額3427億円と、前年度の同1851億円を大幅に上回る額を供給した。7月は各4本のシニア債と非上位シニア債で、発行体の円債として過去最大となる同1977億円を調達。12月の5本立て債は、長年円債を担当してきたローランド・シャボンネル取締役の“引退ディール”として注目され、同1450億円まで札を積み上げ、同氏の有終の美を飾った。
WORST DEAL OF 2023
該当なし
~証券化部門~
BEST DEAL OF 2023
該当なし
BEST ISSUER OF 2023
住宅金融支援機構
講評: 証券化市場最大の発行体で、同市場の維持・拡大に引き続き貢献している。当年度は12件・合計7662億円の月次RMBSを供給した。10年近辺の公共債の好調ぶりをRMBSでも示し、タイト化が7ヵ月連続して進んで4月債の国債+57bpから10月債では+34bpとなった。スプレッド縮小による見送りがあった一方、絶対値を好感する参入も回号によっては見られ、総じて強い需要が続いた。12月には1bpワイド化したものの、3月債は、マイナス金利解除を見込んだ需要などを集め、+34bpに戻している。
WORST DEAL OF 2023
該当なし
~外債部門~
BEST DEAL OF 2023
三菱UFJフィナンシャル・グループ劣後債 10月18日 永久(NC5) 7億5000万ドル
〈モルガン・スタンレー/MUFGセキュリティーズ〉
講評: 邦銀初の海外市場でのAT1債で、バーゼル3導入後においても初の海外での資本性証券。クレディ・スイス債が無価値化された“AT1ショック”を受け、AT1債のストラクチャーや、日本における破綻法制の強靭性を投資家に説明するなど、入念な準備を経て登場した。邦銀AT1債の希少性や安定的なクレジットという強みを生かし、持ち出しから大幅にタイトな水準でのプライシングを実現したうえ、その後の邦銀AT1債のベンチマークにもなった。
BEST ISSUER OF 2023
該当なし
WORST DEAL OF 2023
該当なし
~Equity特別部門~
BEST DEAL OF 2023
ソフトバンク第1回社債型種類株式 11月2日上場 公募:3000万株 1200億円
〈野村/みずほ/大和〉
講評: 議決権を希薄化させずに、会計上と格付け上の資本を拡充するという発行体のニーズに応えたハイブリッド商品で、資本市場に新風を吹き込んだ。普通社債よりも高い2.5%の配当利率でミドルリスク・ミドルリターンを志向する個人投資家の需要を集めた。
~新規公開株式部門~
BEST DEAL OF 2023
KOKUSAI ELECTRIC 10月25日上場 売出:5884万7600株 1082億7958万4000円
〈野村/モルガン・スタンレー/SMBC日興/ゴールドマン・サックス/みずほ〉
講評: 1000億円を超える大型案件を成功させた。半導体サイクルの底で関連銘柄が値崩れするなか、投資家の需要やセカンダリーを踏まえた価格設定と、海外優良ロング2社によるIOIなどで、海外を中心とする需要を喚起した。
WORST DEAL OF 2023
トライト 7月24日上場 売出:4000万株 480億円
〈SMBC日興/モルガン・スタンレー/BofA/UBS〉
~既公開株式 公募・売出部門~
BEST DEAL OF 2023
デンソー 11月29日 売出:2億5637万3400株 5305億6475万1300円
〈野村/SMBC日興/大和〉
講評: トヨタグループで先陣を切って日本企業固有の課題である政策保有株式の問題に取り組む姿勢が市場にインパクトを与えた。持ち合い株解消を本格化させる流れを作った功績が評価された。オファリング総額は当年度最大。
WORST DEALS OF 2023
ACSL 11月13日 公募:150万株 13億6650万円
〈マッコーリーキャピタル〉
ソシオネクスト 7月5日 売出:1262万4800株 1851億8056万6400円
〈野村〉
~投資法人投資口 発行・売出部門~
BEST DEAL OF 2023
インヴィンシブル投資法人 7月19日 公募:60万9792口 338億8370万2272円
〈SMBC日興/みずほ/モルガン・スタンレー〉
講評: 4年ぶりホテル系リートのグローバル案件。コロナ禍が収束し、国内旅行やインバウンド需要の回復を捉えたタイミングでローンチした。客室稼働率の上昇による分配金の成長期待で海外のロングオンリーやプロパティファンドが全員出動し、ホテルセクターの回復を印象付けた。
BEST ISSUER OF 2023
該当なし
WORST DEAL OF 2023
該当なし
~転換社債型新株予約権付社債部門~
BEST DEALS OF 2023
大和ハウス工業 ユーロ円CB 1月11日 5年 1000億円
大和ハウス工業 ユーロ円CB 1月11日 6年 1000億円
〈野村/モルガン・スタンレー/SMBC日興/大和/みずほ〉
講評: ダブルA格の優良ネームによる大型CB で発行額は当年度最大。金利の上昇が見込まれたなか、ゼロクーポンで開発資金を調達するとともに、自社株買いによる資本効率の向上を実現した。100件程度が参加する盛り上がりを見せ、日本物CBへの投資意欲を再認させた。
JFEホールディングス ユーロ円CB 9月5日 5年 900億円
〈JPモルガン/ゴールドマン・サックス/野村〉
講評: POとの同時マーケティングにより、CBでは珍しい3日間のマーケティング期間を設けた。投資家に配慮したストラクチャーで仮条件のレンジの10%引き上げに成功し、ボラティリティ対比で高い約40%のアップ率を実現した。
WORST DEAL OF 2023
該当なし
■キャピタル・アイAwardsとは:
当年度の資本市場でなされたファイナンスのなかで最も優れた案件は何か、発行体は誰か、普通社債、財投機関債等、地方債等、非居住者円債、外債(日本企業による海外発行債)、証券化、新規公開株式、既公開株式、不動産投資信託証券(J-REIT)、転換社債型新株予約権付社債(CB)の各部門にわたって引受証券会社と機関投資家へアンケートを実施。回答をもとに、市場に円滑に受け入れられたか、市場にとって意義があったか、市場の発展や活性化に資するかなどの観点で編集部が選出し、表彰する。
最後になりましたが、アンケートにご協力いただきました皆様には心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
キャピタル・アイ編集部
本件に関するお問い合わせ先
編集部:菊地健之 03-6824-7531
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