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上場会見:ノイルイミューン・バイオテック<4893>の玉田社長、2つの分子で免疫強化

28日、ノイルイミューン・バイオテックが東証グロースに上場した。初値は公開価格の740円を6.08%下回る695円を付け、715円で引けた。CAR-T(カーティー)細胞に独自のPRIME技術を搭載し、より有効ながんの治療法を開発する。武田薬品工業<4502>と共同研究開発で提携し、パイプラインであるNIB102やNIB103のライセンス契約を締結した。IPOを今年2月にローンチしたが、延期していた。玉田耕治社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

会見の時間を全て質疑応答の時間に充て、記者たちの質問に答える玉田社長
会見の時間を全て質疑応答に充て、記者たちの質問に答える玉田社長

―初値が695円だが感想を
残念ながら当初の価格よりも若干下がってはいるが、今後業績を積み上げ、パイプラインの進捗と、最終的には患者に薬を届ける大きなミッションを背負っており、事業をしっかり進めていくことで、会社の価値を高めたい。

―株価の動きを見ての率直な感想は
株価が高くなることがありがたいが、事業をきちんと進めて、会社の価値を皆に分かってもらうのが1番大事で、今日の動きだけで会社の価値は変わらない。ただ、株価を非常に意識している。株主にも重要なことだと考えているので、正当に評価してもらい、会社の価値が上がっていくように、いろいろな事業の進め方を含め、情報共有・公開をしっかりしていきたいという思いを強くした。

―初値割れの要因をどう分析するか
バイオということで、どうしても足元で先行投資が進む。赤字での業績予想となるので、そういうところも影響したのではないか。

―直近で、そーせいグループ<4565>がストップ安になり、クオリプス<4894>が昨日に上場したといったように、バイオ関連株の動きは影響したか
バイオ全体あるいは他社の株価というより、当社の技術や事業の進展を見て判断してもらいたいという気持ちはある。だが、外的要因もゼロではないことも分かってはいる。重要なことは事業を進めていくことなので、そこはしっかり考えて仕事をしていく。

―バイオベンチャーの上場の意義だが、日本のバイオベンチャーは上場しても、その後計画が頓挫し、株価が低迷するパターンが多い。あえて日本で上場する意味はどこまであるのか。米国でも良いのではないか
その議論はよくある。ただ、業績が進むかどうかというのは、どこに上場しているかにはあまり関係なく、それは会社自身の努力だ。例えば、株価形成や資金調達額の大きさは日米で違いはあるかもしれないが、最終的にはプロジェクトが進むかは会社の本質の問題だ。

一時的な調達額が多いか少ないかは、重要ではない。将来的には分からないが、現時点では事業を進めるのに必要な金額を調達するのが第一義的な問題だと思っている。

―アメリカで上場しようというのは、検討ぐらいはしているだろうが、あえて日本で上場した理由は
日本発のベンチャーで、例えばナスダック上場を目指すとなれば、上場のための準備も変わる。日米は会計の制度も違う。米国の会計制度に合わせなければいけないなど準備がずいぶん変わってくる。これまでやってきたものの延長として、日本での上場を選んだ。

―延期をしてでも、今年の上場にこだわった気がするが、資金調達以外の理由はあるか
30億円超の手元資金があるので、それほど急いではいない。大事なのは第1相のパイプラインが3つあることで、これからどんどん臨床のデータが出てくる。そこでポジティブなデータを出していくことで会社の価値を上げていくことができ、そのタイミングで上場しておくことは非常に重要と考えた。

―現在最も開発が進んでいるパイプラインの現状と今後について
第1相臨床試験段階のパイプラインが3つある。そのなかでもNIB102が最も進んでいる。武田薬品に既に導出しているものだ。そこではTAK102という名前で臨床試験が進んでいる。昨年11月に、102に関しては、第1相試験の最初の4例の中間解析、初期的な解析データが、米国のSITC(米国がん免疫学会)で発表された。そのなかで、4例中2例の患者でStable Disease(治療前後でがんの大きさが変わらず安定している状態)となり、腫瘍マーカーが一時的に低下する、がんの局所に免疫細胞が集まっているという反応が見られた。我々が考えているPRIME技術が、がん患者に効果があると見えつつある。

今後は、102に限らず101や103、それに続く104、105があるが、それらを発展させて、臨床でのデータや臨床試験の数を増やしていく。同時に、自社だけではなく、いろいろな企業とのアライアンスを組んで、我々の技術を搭載した医薬品の数を増やしていきたい。

―102に関して、臨床試験の結果をいつごろまとめるのか
第1相臨床試験なので、投与量を細胞の数を徐々に増やして安全性を見るDose-Escalation試験が、第1の目的だ。投与量を上げていき、最終的に、予定していた全ての患者に投与して、投与は初めて完了する。そこからは、患者でどういう効果が出るか追跡しなければならない。そこまで見て、効果がどうだったか安全だったか確認して初めて第1相が完了する。

現在進行中で、明確にいつと言えないが、患者が順調に入ってくれば、少なくとも数年以内には確実に終了すると想定している。

―上場での調達額は
オーバーアロットメントを含めずにおよそ24億円で、含めると約30億円だ。

―調達した資金使途を聞きたい
主に、自社で開発中のパイプラインであるNIB101は第1相臨床試験の段階にある。調達金額の多くを、18億円ぐらいをそれに使うことになる。

加えて、それ以外のパイプラインを次々と作っている。これはまだ非臨床の段階で、101の臨床試験のような金額はかからないが、積極的に数億円の先行投資をしていきたい。それから、パイプラインだけではなくて新しいプライム技術をさらに改良していく。あるいは現在持っている自社のパイプラインや共同パイプラインなどは、自家のCAR-T細胞、患者自身の血液だ。これからは他家治療にも進めていく。製造技術についても、例えば、自動化も含めて製造方法を改良することで、より安く均一な品質の製品を大量に作ることを達成したい。それに数億円を投じる。

―人材確保には資金を使わないのか
開発にかかる費用は、純粋な開発費用ではなく開発人材の獲得も含む。臨床試験が進めば、製造も品質管理も、実際の臨床試験のモニタリングも入る。いろいろな観点で人材が必要となる。そういう人たちもしっかり雇用していく。

―3月に上場を延期した時よりも、公募増資をかなり絞っている。特に海外向けの増資を絞った。当初の想定と、前回に機関投資家内で話した際に、需要のミスマッチがあったのか
3月の段階では、我々がブックビルディングを行う直前や、その期間中に米国のシリコンバレー銀行が破綻し、クレディスイスの経営危機が起こった。3月には、かなり多くのトランシェを海外に分配する予定だったので、株式市場がかなり不安定になり、時期が良くないとして3ヵ月延期した。

公募の調達額については、前回に比べて海外分をかなり絞って半分ぐらいにした。それについては、海外市場は何が起こるか分からないと常に考えており、別の外的要因が6月に起こる可能性もゼロではない。また、今は世界的に地政学的な不安定なところもある。必要な分に絞って、確実に調達していこうとした。

6月のブックビルディングでは、その終了日の1日前に、海外ではブックを終了した。想像してもらえると思うが、かなり旺盛な需要があり、十分なブックが積み上がった。グローバルオファリングの海外分については1日早く終了した。それもあって、元々の海外と国内の比率は50対50だったが、海外を62.5、国内を37.5と海外の比率を高めた。海外からも非常に旺盛なブックを得た。

―赤字が続く見込みだが、資金調達をマーケットで続けていくのか
手元資金と今回調達した資金を合わせると、NIB101という第1相臨床試験のある程度のデータが出るところまでは自己資金で、追加の資金調達の必要なしにできると考えている。その間も、例えば、新しいライセンスや、既にライセンスを得ているパイプラインのマイルストーンなどが積み上がっていく。収支としては、基本的には追加の資金調達は必要なくとも事業が進められると想定している。

例えば、非常に有望なパイプラインがどんどん出てきて、パイプラインの数を増やしたいという時には、それらを進めるためのポジティブな資金調達の可能性はある。ただ、現状ですぐに調達しなければならないことは全くない。

―調達資金の30億円で十分だということか
上場前から30億円超の手元資金があった。今回、約30億円の調達をするのでトータルで60億円ぐらいの手元資金になるので、現在進めている開発プランを完遂できる。

―元々60億円を調達しようと思ったのは、日本のマーケットでバイオ銘柄への理解がないということもある気がする。そのために海外から調達する意図があったのか
グローバルオファリングをしたので、国内外どちらにもトランシェを配分できる状況だった。海外の機関投資家に3月の段階で多く配分したのは、我々のような最先端の技術を使い、比較的息の長い事業を行うバイオベンチャーに関して理解を得て、事業をサポートしてもらいたいという考えからだった。

―PRIME CAR-T細胞は固形がんのみを対象にするのか、血液がんを含むのか
メインのターゲットは固形がんだ。PRIME技術の特徴は、投与したCAR-T細胞が十分に集まらず効果が出にくいような固形がんに対して、もっとたくさんCAR-T細胞や体内の免疫細胞を集める。そのような技術なので、メインターゲットは固形がんだ。

ただ、血液がんでも、例えば、リンパ腫のなかには非常に大きな塊を作るがんもあり、元来、骨髄のなかにがんができる骨髄腫のなかにも、髄外病変といって骨髄の外にがんができることがある。そういうものについては、免疫細胞が集まりにくい。特定の血液がんについては、PRIME技術は使えるのではないか。

―PRIME技術の競合優位性について
固形がんに対するCAR-T細胞はマーケットが非常に大きい。がん患者の9割以上は固形がんだ。そこで有効性が出るCAR-T細胞が出てくれば、大きなブレークスルーになるので、我々だけではなく、世界中のバイオベンチャーがそれを目指している。

我々の優位性の1つは、IL-7とCCL-19という2つの分子を出して搭載していることだ。CAR-T細胞を強くするためには、いろいろな分子を載せることがある。我々のように、2つ以上の分子を乗せてCAR-T細胞を強くしようとするのは非常に稀で、多くの会社は1つの分子を載せる。

もう1つの大きな違いは、他社が搭載する分子はほとんどの場合、CAR-T細胞そのものの機能を高める。我々のものは、CAR-T細胞だけではなく、体内の免疫細胞も一緒に活性化できる。CAR-T細胞がIL-7とCCL-19という分子を作ることで、体のなかのいろいろな免疫細胞が活性化する。他社の技術は主にCAR-T細胞だけを活性化する。そこは非常に大きな違いだ。

―4月に提携を始めたリバーセルとの他家治療の研究開発では、治験をやり直すことになるのか
今やっているものとは別のものが始まるイメージだ。例えばリバーセルとの共同研究が今後進んで、新しい医薬品の種ができてくると、有効性や安全性を確認するための臨床試験を開始することになる。それは例えば、iPSから作ったT細胞、そこにPRIME技術を搭載するというアイデアだ。

―PRIME CAR-T細胞やPRIME技術の応用範囲について、がん以外の疾患の治療に役立つことはあり得るのか。
PRIME技術は、免疫細胞を集めてくれる。集まってきた免疫細胞がどんどん活性化する。今は主にがんが対象となる。例えば、感染症。非常に治療の難しい感染症で免疫が十分に働いてくれない時に、免疫細胞を集めてきて、攻撃するには使えるかもしれない。

アイデアを変えていくと、細胞が集まってきて活性化することを全く逆転し、それを抑えることを考える。例えば、臓器移植をした時に拒絶反応が起きるが、そういうものを抑える。あるいは自己免疫疾患といって免疫が暴走することで病気になることがあるが、それを抑える。システムをかなり変えなければならないが、細胞が集まってこない、集まってきた時に活性化しないように抑えることができる。そうであれば、アイデアとしては、免疫の細胞の動きや、活性化を体の中で制御するのが我々の技術なので、工夫をすればそういうことにも使えると思う。

―いつまでに黒字化したいか
先行投資型のビジネスをしているので、臨床試験の間は費用がかかる。一方で、ハイブリッド型のビジネスで、プラットフォーム技術としてライセンスアウトして収益を得る側面もある。実際に、Autolus Therapeutics やAdaptimmune Therapeutics、中外製薬といった複数の会社に技術ライセンスをしている。

今後の事業計画としては、自社のパイプラインの開発のための費用はかかる。一方で、導出しているパイプラインや技術が進んでいけば、そこで収益が入る。マイルストーンなどが入ってくる。新たな契約が結ばれれば契約一時金を得られる。それらのバランスだと見ている。

長期的に見れば、現在の予定では3~4年ぐらいで、パイプラインの進捗に伴って、マイルストーン収入などが積み上がり、3~4年後にはトータルで黒字化することを目指している。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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