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上場会見:クオリプス<4894>の草薙社長と澤CTO、心臓以外も修復

27日、クオリプスが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1560円を7.69%上回る1680円を付け、1312円で引けた。人工心臓や心臓移植のみが治療法とされる重症心不全の領域で、iPS細胞を利用した新たな治療法の実用化を目指す。第一三共<4568>のシート化生成技術と組み合わせた心筋細胞シートを手掛ける。草薙尊之社長と澤芳樹CTOが東京証券取引所で上場会見を行った。

草薙社長は、iPS心筋シートとカテーテル治療法の実現で、かなりの数の心不全患者に適用できるソリューションになると話した
草薙社長は、iPS心筋シートとカテーテル治療法の実現で、かなりの数の心不全患者に適用できるソリューションになると話した

―初値の受け止めは
草薙社長:目先の話だから気にしていない。

―上場に伴う調達額とその使い道について改めて教えてほしい
多くを研究開発に使う。具体的に言うと、まずDCM(拡張型心疾患)の効能追加に大体5億円。それから、心筋シートの海外進出で6億円ぐらい。カテーテル治療法で大体10億円などだ。加えて、設備投資に3億円ほどで、29億円ほどのイメージとなっている。

―黒字化の見込みはいつごろか
なかなか難しいが、2028年3月期。うまくいけばもう1年早めて2027年の3月になる可能性も高い。これは承認申請がどれだけ早くできるかということと、既にいろいろな医師を訪ねたりしてニーズなどをかなりヒアリングしている。承認後、できるだけ早く立ち上がるために、いろいろな医師と勉強会などをしている。

―時価総額が120億円を下回っただろうが、最近はバイオベンチャーが上場しても、時価総額を含めて低めで、ほかのバイオベンチャーに自分たちも引っ張られるのではないかという状況をどう見るか
インベスターリレーションを強化していく。他社がどうやっているかよく分からないが、バイオはなかなかニュースが出ない。結局出てくるのは赤字決算だと投資家はどう思うか。
我々は、ニュースに出ない部分を埋めるべきで、IRで対話を強化していく。特にバイオは分かりにくい。時価総額が小さくなればなるほど個人投資家が増えるので、できるだけ個人投資家に対するIRを強化していく。易しく分かりやすく説明していく。私は薬の素人なので、その辺は多分プロの人よりも上手いのではないか。とにかくできるだけ丁寧に説明して投資家の理解を深め、徐々に時価総額を上げていく。

我々は治験が終わっているので、今後は、承認申請のニュースが出てくる。そこで多分株価が大きく上がってくると見ている。目先では、とにかく個人の投資家に対するIRを強化し、同時に研究開発を進めていく。あるいはほかのビジネスをやっていく。極力、対話の機会を作っていく。

―2028年まで時間があるので、そこまでの資金繰りや調達が必要と思うが
今のところは大丈夫だ。
澤CTO:個人的な意見では、小さくスタートしてだんだん大きくしていくのが妥当で、少しオーバーヒートな状況の市場が適正化されていくのか、これからまた頑張っていけば上がっていくのかと見ている。初値で高く出て直後にガーッと下がる印象の悪さよりは、地道に上がっているほうが、コツコツとした会社、真面目な会社で…。
草薙社長:やるべきことをやれば良い。

―心筋シートを使う治療は、心筋がダメになった状態でも有効なのか
澤CTO:心臓移植が必要な患者では、基本的にはもう再生は無理だと思う。心臓移植に至るまでに、ノーオプションという時期がある。これは、薬を使ったり、いろいろな治療をやっても、もうそれ以上状態が変わらない、何も手の施しようがない状況。ただ、それは心臓移植が必要な状態ではない。そこから次第に、時間とともに心不全が進行して、その間に数年ぐらいかかる。なぜかというと、ノーオプションであっても、患者の心臓は動いていて、何らかの形で機能はしている。

その機能をしている間は、まだ回復力があるので、そこで再生医療を成立させることによって、それ以後の重症化をまず防ぐ。それからQuality of Lifeを改善する、もしくは心臓の機能を改善する。その患者が本来持っている回復力を助長するような治療としての再生医療は、最も期待されるもので、そういう患者はたくさんいる。

心臓移植や人工心臓の対象者は年間で大体500~1000人だが、この治療の対象者は、日本に数千人いるのは間違いない。海外ではその数十倍以上ということになろうか。

理論と長期にわたる臨床経験を持つ澤CTO。強固かつ幅広いネットワークが、海外展開を含む発行体の成長に寄与するという
理論と長期にわたる臨床経験を持つ澤CTO。強固かつ幅広いネットワークが、海外展開を含む発行体の成長に寄与するという

―心筋シートの耐用年数やメンテナンスはどのようなものか
免疫抑制剤を3ヵ月投与して、それを切った段階でシートは消えると思う。ただ、3ヵ月の間シートが機能すること自体が大変重要で、組織の修復や創傷治癒、皆さんも怪我をしたことがあるだろうが、何年もかかって怪我が治ったわけではないだろう。大体1ヵ月、骨折で1~2ヵ月ではないか。そのような創傷治癒の期間に、新たな細胞が新たなサイトカインを出すことが非常に有効で、それによって血管が新たに作られ、心臓機能が回復された状況は継続する。これはもう間違いない。

これまで、テルモ<4543>のハートシートもずいぶん経験してきて、あちらも100例ぐらい実施している。効果のあるレスポンダーと効果がないノンレスポンダーがいて、そのなかでレスポンダーの人は一旦回復すると再発することはほとんどない。その最初の3ヵ月の有効性である程度予後が決まる。それで改善したものについては安定して維持される。

―承認申請だが、条件期限付き承認を想定しているのか
草薙社長:そうだ。

―最近、京都大学のiPS細胞研究財団が拒絶反応を抑制したiPS細胞の提供を始めたが、その利用などは考えているのか
澤CTO:これは大学のほうで研究開発を進めているが、心臓はなかなか難しい。抗原性、免疫原性とも言うが、免疫に対する抗原性が高いもので、心臓や肝臓、膵臓など内部臓器は、神経と違って拒絶されやすい。拒絶反応をどこまでカバーできるか、これから研究開発をしていかないと分からない。もちろん取り組んでいるし、一方で、山中伸弥先生はmy iPS細胞のプロジェクトもあって、どっちがどうというのは難しい。my iPSがビジネスになるかどうかも、これから検討していかなければならない。

―いずれにしろ、新しいiPS細胞を使おうとすると、治験をやり直さなければならない
その通りだ。「ベストサイエンス」か「ベスト医療」かで考えた時に、我々のやっている患者は、8例とも社会復帰している。元々NYHAの尺度でIII度の状態にあり、自宅待機が必要な患者が社会復帰しているレベルで、それは今の時点でのベスト医療として評価に値するのではないか。一方で、ベストサイエンスが、もっとどう追い付いてくるか、それがどう上回るかにもよる。

免疫抑制剤を使うデメリットを克服できたら良いが、その結果として、同等であった時にどう考えるか、コスト面でも、今まで積み重ねてきたなかでのコストは、かなりリーズナブルな形で再現できている。だが、自己細胞になると難しいかもしれない。新しい細胞で、心筋にしてどうなるか、免疫抑制剤が全くいらないのがどうかも、これからの研究だろう。

―年間5000人を想定しているが、治験では今は8例で、いきなり5000人を対象にというのはかなり難しい。提供施設や技術、社員数なども増やしていかなければならない気がするが、そのイメージは
草薙社長: 5000人は最大のマーケットで、我々としては、2割ぐらい、1000人ぐらいは行けるのではないかと見ている。

―黒字化する2028年や2027年には、何例程度を想定するのか
なかなか厳しい。損益分岐点を教えなければならないようなことだ。
澤CTO:そんなになくても黒字化するだろう。薬価がどうなるかというところだ。
草薙社長:1000人に行ったらそういうことになる。

―薬価について、当局の話もあり、今は億円を超えるような再生医療製品もあるが、他家治療なので、かなり低く抑えられると患者は期待するが
澤CTO:その考え方で正しい。この治療だけでなくいろいろな薬事承認を見てきたが、先行の商品に近い、例えば、テルモのハートシートの薬価、もしくはそれにプラスアルファした価格が承認されていくのではないか。

―ハートシートの類似ということで…
最初は類似製品で、そこからどう評価されていくかだ。

―多分、慶応大学のHeartseedだろうが、それに対して草薙社長から厳しい意見が出たが、澤CTOはどう見ているか
コメントは差し控える。関心がないというか、製品としての関係がない。治療対象患者も違うし、アプローチも違うので、全く別物で、それはそれでうまくいけばいいと思っている。競合他社とは、とても思っていない。テルモの製品は競合する可能性は高いが、テルモとも一緒にいろいろやろうという話になっている。

対象が違う。バイパス手術の時に行う。我々はバイパス手術にはやらない。対象の考え方が異なる。

―生物が本来持つ自然治癒力を増強して組織や臓器の再生を促す「YSシリーズ」のTAM(Total Addressable Market)のイメージは
動物実験では、かなりの可能性を持った薬剤だ。論文は、特に心臓でたくさん出している。創傷治癒のメカニズムを完全にスイッチオンする薬剤であるのは間違いない。そうであるがゆえに、心臓で起こる事が、肝臓や肺、腎臓などでも、同じように修復機転として起こる。しかも医薬品なので非常に期待できる。

一方で、どう使っていくか、例えば、コンビネーションも将来的にはあり得るし、そういう低分子化合物が治療のツールとして使えるようになると、早めに治療することで効果を発揮して、大きな役割を果たす可能性を非常に感じている。例えば、肝臓や腎臓、肺はいろいろな医師たちとコラボレーションして、我々が提供している。

―大株主に第一三共やテルモがいる。テルモのハートシートの話も出たが、今後、製販体制で協力していくのか
決定していないが、少なくともテルモは我々に出資している。我々もハートシートの開発にも関わってきて、長男次男と思っている。ハートシートは最初にできた製品で、2番目にできた製品が心筋シートだ。大阪大学の人間にとっては同じ系統に当たる。しかも、テルモは競合するつもりではなく、我々にも出資してくれたので、どんな連携が1番良いか、win-winとなるにはどうしたら良いかと議論をしている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]