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上場会見:Chordia Therapeutics<190A>の三宅CEO、RNA異常からがんを叩く

Chordia Therapeuticsが14日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の153円を66.67%上回る255円を付け、192円で引けた。タンパク質を合成するための遺伝情報を伝えるメッセンジャーRNA(mRNA)の生成過程に作用し、“RNA制御ストレス”を加速させることでがん細胞を死滅させる治療薬を開発する。昨年に上場を延期しており、今回は武田薬品工業とメディパルホールディングス、New Life Science 1号投資事業有限責任組合が親引けした。三宅洋CEOへのインタビューを24日に行い、事業の現状や今後について聞いた。

三宅CEOは「上場することができ、投資家や株主の支援に大変感謝している。我々を支援することによって、社会的なインパクトを出せる可能性がある。新しい薬を生み出し、今は治療法のないような疾病にも新しい治療の選択肢を届ける社会的に意義のある仕事に対して支援をしてもらっている面もある。我々はパイプライン型なので、プラットフォーム型と比べると、比較的中長期な目線で成長を見守ってもらえるとありがたい」と話した

■上市に向けて
―上場から10日程度が過ぎ、株価も公開価格近辺で推移しているが、市場での受け止められ方についてどのような認識か
現時点での市場からの評価は真摯に受け止めて、今後研究開発を行っていくことによってより高い評価が得られるように進めていきたい。

―何のために上場するのか
まずは上場時の資金調達が必要だった。現在、リードパイプライン「CTX-712」の上市に向けた米国での第1/2相臨床試験を開始している。2026年の前半には上市の申請時に必要な有効性のデータが取れる想定だが、そこまでの開発資金の手当てという意味がある。上場時に調達した12~14億円程度をそこに活用することによってデータを取り切る事業計画になっている。

もう1つは、これから上市に向けて、日本と米国で規制当局とのコミュニケーションを行っていく想定だが、上場会社となることによって社会的な信用を得た会社として当局とコミュニケーションを取ることが必要だと考えている。医薬品の場合、上市の承認を得た後に供給し続けていく責任を負うことになる。規制当局もそれ気にして我々を見てくると思うので、このタイミングで上場会社となって、当局としっかりとコミュニケーションをしていく視点も持っている。

■がん細胞にストレスを
―どんな病気をどのように治していく薬を作っているのか
リードパイプライン「CTX-712」もそうだが、手掛けている5つのパイプラインのうちの1つは、小野薬品工業に導出している。残りの4つは当社が全ての権利を持っている。これらのパイプラインは、がんの弱点の1つであるRNA制御ストレスを増大させる働きを持っている。がん細胞はそもそもRNAを生成する過程に異常が生じているので、ストレスを抱えている状態だが、我々のパイプラインがそのストレスをさらに大きくすることによって、がん細胞が耐えきれなくなって死んでいく。そういったRNAを生成する過程に異常を持っているようながんで効果が期待されるパイプラインを複数有している。

そのうちのリードパイプラインのCTX-712は、RNAを生成する過程の1つであるスプライシング反応を変化させる。そうすることによって異常なスプライシング産物が、細胞のなかで増えていって、それが追加のストレスとなってがん細胞を死滅させていく。スプライシング反応に元々異常があるがんがCTX-712による治療対象になると考えているが、そのようながんのなかには、「急性骨髄性白血病」という血液がんの1つや卵巣がんが含まれ、CTX-712での治療対象になることが、我々のこれまでの前臨床と臨床の試験で見えている。まずはこういったがんで、CTX-712の新しい治療を患者に届けたい。

そのなかでも、現在米国で仕掛けている試験は、急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群といった標準的な治療方法がなくなってしまった白血病の治療薬として開発を続けている。

―治療薬を使う際に正常な細胞に対しては特段の影響がないということだが、安全性は
作用機作からいうと正常細胞にも作用はするが、抱えているストレスの大きさが、正常細胞とがん細胞では、がん細胞のものが圧倒的に大きい。そこに我々のパイプラインが追加のストレスをかける。がん細胞は耐えきれなくて死んでいくが、正常細胞はそもそも抱えているストレスが小さいので、追加のストレスに対処できる。一過的にストレスレベルは大きくなるがすぐに元のレベルに戻って正常細胞が死ぬことはない。

一方、臨床試験では、60人を超える患者に投薬を行っているが、そのなかで見えてきている有害事象、平易な言葉で言うと副作用や毒性は、消化器の毒性が見えてきている。例えば、悪心(吐き気)を訴える患者や、下痢の症状が出てくる患者、食欲不振を訴える患者が存在する。一定数以上の患者で、そういった主訴があるので、今後こういった消化器の毒性をどう制御していくかが大切なところだ。

制吐剤を予防的に服薬してもらうことによって毒性を制御できることが、進行中の米国の試験で見えてきている。そこをしっかりと確認しながら今後も開発を続けていくことが大切になる。

■特徴に合わせた抗がん薬
―がん細胞の特徴であるホールマークは、RNA制御ストレスのほかに12ほどあったが、RNA制御ストレスに関する創薬を、ほかのホールマークに関する創薬と比較した時の優位性や特徴は
がんの特徴であるホールマークは、複数のがん種で共通して持っているものだ。そのなかでも例えば、RNA制御ストレスが大きな弱点になっているがん種や、DNA損傷ストレスが大きな弱点になるがんなどが、分かれて存在している。ほかのホールマークに対して開発された抗がん薬と、CTX-712が必ずしも市場を奪い合うわけではない。それぞれが、それぞれの弱点を抱えているがんに対して治療薬として機能し得る。

我々が主張したいのは、そういったがんの弱点や特徴に対処した抗がん薬は、商業的に大きな成功を収めているケースが多いということだ。なぜならば、がんが発症して原因そのものにアプローチするものや、がんが抱えている弱点を叩くような抗がん薬なので有効性が高く出やすい。

そういったところに対応した抗がん薬は商業的に大きな成功を収めているので、CTX712を含むパイプラインも同じように、将来的に複数のがんに対して効果を発揮することによって、大型の商品へと成長していくことを願っている。

―標的を絞って治療を行うプレジションオンコロジーの考え方とブロックバスターは両立可能なものなのか
両立すると考えているし、実際にブロックバスターへと成長しているプレシジョンオンコロジーのドラッグは複数ある。大きな視点で言うと、例えば、がんの遺伝子の変異を持った患者だけに処方される薬は、大型の製品とそうでもない製品がある。どれぐらいの患者がいるのかという話になる。非常にレアな遺伝子の異常に対応するプレシジョンオンコロジーのドラッグは、売上高が相応のものにしかならないが、それなりに患者数がいるような遺伝子の異常に対応したプレシジョンオンコロジードラッグの場合は大型製品になる。

CTX712は複数の遺伝子の異常に対応することができる。これはスプライシングを変化させる作用機作を持っている。複数の遺伝子の異常がスプライシングのストレスを生み出す。例えば、スプライシング反応を担っている遺伝子の変異は直接的だが、そういった遺伝子の変化は、そもそもスプライシングの異常を生み出しており、そういったがん細胞は大きなストレスを抱えている。

ほかにも例えば、転写を活性化する遺伝子。専門的になってしまうが、転写はRNAを1番最初に生み出す反応だ。生み出されたRNAがスプライシング反応で処理される流れだが、そもそもスプライシングの前の、RNAを生成する転写因子がおかしくなっているがんでは、RNAが増えてきてプライシング反応で全部処理しなければならなくなるので、RNAを生成する過程の異常として認識される。

そういったスプライシング反応の前の転写反応に異常がある場合も、CTX-712は効果を発揮する。複数の遺伝子の変化に対応する作用機作を持つので、対応できる患者の数が十分数存在するので、ブロックバスターになると期待している。

―複数の遺伝子の異常に対応できるというものは、Chordia Therapeuticsならではなのか。他社でもそういったものを作ることは可能なのか
他社でも可能だ。例えば、DNA損傷ストレスに対応した薬として「オラパリブ」というものがある。PARP(パープ)というタンパク質の機能を阻害するもので、前立腺がんや卵巣がん、乳がんで適応を取っていて、それこそブロックバスターになっている。

元々は、BRCA(ブラッカ)という遺伝子に変異のあるようながん患者で有効性を示して承認を取った。ただ、作用機作的にはBRCA以外の遺伝子の変化にも対応できると考えられてきた。実際にHRD(Homologous Recombination Deficiency)という違った遺伝子の異常に対しても承認を取っている。CTX-712と非常に近しい開発戦略を取って既にブロックバスターとして市場に出ている物がある。

―現在のパイプラインの進捗状況について
1号パイプライン(CTX-712)は、米国で第1/2相臨床試験を実施中だ。2025年中には第2相パートを開始して、2026年中に上市のために必要なデータを取れる想定だ。2号パイプラインは小野薬品に既に導出しており、同社が米国において血液がんの1種であるリンパ腫で第1相臨床試験を実施している。3~5号パイプラインはまだ前臨床の段階だ。

■売上のタイミング
―バイオベンチャーの話を聞いていると、パイプライン型の創薬とプラットフォーム型の創薬があり、プラットフォーム型の会社の話を聞いていると、パイプライン型よりも有利という話を聞くことがあるが、どうなのか
おそらくゴールは一緒だと思う。新しい薬を作り出して患者に新しい治療の選択肢を届けたいという思いを持って、多くのバイオベンチャーは経営を行う。そのなかで我々は、医薬品の研究開発を支援する側であるプラットフォーム型ではなく、自分たちでパイプラインを研究して開発していく事業形態を選択している。

日本の市場において、1番問題視されるところは、パイプライン型の場合は定常的な売上が立てにくいところにあると認識している。パイプラインの権利をどこかに導出したタイミングでいわゆるマイルストーン収入を受領するので、定期的に発生するようになれば、定期的な収入を期待できるが、そういうふうになりにくいので、収入が計上できる年とできない年が出てくると株価もボラティリティが上がってくる。日本の市場で一定程度の投資家がパイプライン型とプラットフォーム型を見ると、後者を評価する傾向がもしかしたらあるのかもしれない。

一方、究極的な目的である新しい医薬品を生み出すという点では、パイプライン型も必要なビジネスの形態だと考えている。バイオベンチャーで先行している米国の市場を見ると、高い評価を受けている会社は、どちらかといえばパイプライン型、新薬を生み出せるか否かというところになっている気がする。日本のほうでも、バイオベンチャーの成功例が出てくると投資家の興味も、徐々にパイプライン型に移ってくるのではないかと期待している。

■価格はフラットに
―上場を1年間延期していることもあり、今回のIPOディールで工夫した点を聞きたい
昨年9月の上場を、市況の悪化を受けて延期する判断をした。その際に調達しようとしていた金額が28億8000万円だったが、この28億円は規模が大き過ぎたと分析した。

前回は150円を想定価格で出したが、この株価は投資家に一定程度受け入れられた感触があった。今回もリードパイプラインや2号パイプラインの開発が進んでいるにもかかわらず、株価としてはほぼフラットに153円の想定価格で出したが、市場からの調達額としては減らす方向でオファリングをデザインした。今回の主幹事であるSBI証券ともディスカッションしてそのような形にしている。

今回は、オファリング総額16億円のうち、5億円は既存の株主に親引けしてもらった。前回のロードショーの時に、一部の機関投資家からベンチャーキャピタル(VC)のエグジット案件ではないか、既存の株主からの上場後の支援が見えにくい案件だという指摘があった。上場時には今回このようなマーケットキャップになっているが、事業会社もVCも「ファンダメンタルズはもっと高い価値が付くはずだ」という思いを持っており、「上場後もしっかり支援していく」という声が寄せられていた。

今回の上場時に、株主が投資家に見えるような形で、武田薬品工業とメディパルホールディングスが2億円、VCのNew Life Science 1号投資事業有限責任組合が1億円の親引けをしてくれた。16億円のうち5億円が親引けなので11億円を市場から吸収することで、需給がかなりタイトな状況のデザインだった。

■国内ロングの支持
―バイオベンチャーが海外に販売する場合、海外機関投資家の割合が大きくなりがちだが、今回は国内大手ロング投資家の引き合いが強かったようだが、その意味合いについて
非常にありがたい。国内のロング投資家が我々のビジネスをよく理解したうえで、株式を買ったことは、我々にとって非常に心強いことだった。直近のバイオの案件で、日本の投資家、特にロングの投資家が入れなかったと聞いていたので、我々もどうかというところだったが、前回のロードショー時にもそういった国内ロングの投資家からかなりポジティブなフィードバックを得ていた。

そのなかで、昨年の8~9月のマーケット環境ではバイオにはなかなか入りにくいというコメントがあり、残念ながら延期という結果になった。今回も同じようにかなり前向きなコメントをロードショーで得ており、昨年よりは入りやすいというコメントもあった。実際にブックでどのぐらいの注文を入れてくれるか期待して見ていたが、結果として数社がブックに参加してくれた話をSBI証券から聞いて非常に心強かった。

―バイオベンチャーの分野では海外の投資家のほうが目が利くという面もあるだろうが、海外機関投資家の反応はどうだったのか
非常に良かった。アジアの投資家や、日本などに拠点のある米国の投資家から幅広く需要を集めることができた。パイプライン型でリードパイプラインがこの先2年程度で上市に向けてデータを取りきれる話を非常にポジティブに受け止めてくれた海外投資家はかなり多かった。

―既存の医薬品のように薬価の引き下げが行われることを気にしている投資家もいたようだが、薬価は国の政策などに関連して決まるのでここでどういう言っても仕方のない話ではあるが、見通しについて
薬価は規制当局や政府・行政の影響を大きく受けるのはその通りで、個社で何かできるようなことではないが、かなり先の話になるとは思う。我々としてはまずはパイプラインを市場に届けて、そこでしっかりした薬価を付けてもらう。薬価は、我々の場合は類薬の参照で付けられる可能性が非常に高いと考えている。

類薬の薬価は現時点で我々の目線で見ると、十分な額が付いている。その薬価でまずは一定程度の市場を取った後に、再算定の影響を受けることになると思う。まずは日本のバイオベンチャーとして100~200億円、もっと売上を出せるような医薬品を市場に届けることに集中して会社を成長させていきたい。その後、会社が大きく成長した後に一定程度の薬価の再算定が入って、それが市場でどう評価されるかは将来的な問題と考えている。

■国内では自社販売
―今後の成長戦略と見通しについて
まずはリードパイプラインを市場に届けられるかどうかというところが大きいポイントだ。市場に届けたタイミングで、我々の戦略としては、日本においてはできるだけ自社で販売を行いたい。そのためにメディパルホールディングスと事業提携を行っている。メディパルホールディングスは日本最大手の医薬品の流通卸の会社で、日本で上市が成功した場合には、同社からの支援も活用しながら、自社で販売を行いたい。そうすることによって、研究・開発、製造、販売までを自社で手がける製薬会社へと成長していきたい。製薬会社というのは、高い利益率を持つので、そうすることによって会社を成長させていきたいというのが我々の考えだ。

―今後のIR方針について
非常に重要だと考えている。適当なタイミングで株主にとって必要な情報を発信していくことが重要で、適時開示は当然行うし、それに該当しないようなものもPRもしくはIRの形で情報を発信していきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]