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上場会見:VRAIN Solution【135A】の南塲社長、次は電デバ・半導体

VRAIN Solutionが22日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の2990円を73.58%上回る5190円を付け、5810円で引けた。製造業界向けに、AIやIoTなど新しい技術を活用したサービスを提供。生産性向上のために、自社開発する「AIシステム」と顧客のDX推進のための「DXコンサルティング」を手掛ける。AIシステム事業では、製造工程での人による目視作業をAIが担う「Phoenix Vision/Eye」を開発・販売する。南塲勇佑社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

特定の業界にのみ使えるAIソリューションではなく、ものづくりをする全産業がターゲットで、裾野が広い事業を行うことができると話す南塲社長
特定の業界にのみ使えるAIソリューションではなく、ものづくりをする全産業がターゲットで、裾野が広い事業を行うことができると話す南塲社長

―公開価格の2倍程度の終値となった。株価の受け止めと、上場の狙いや期待する効果は
株価については非常に高く評価されており、時価総額も大きなものになっているので、身が引き締まる思いでいる。ただ、株価はマーケットが決めることで、本質的にはグロース市場に期待される高い成長を1つずつ積み上げて結果として見せるしかないので、一喜一憂することなく高い成長性を引き続き維持していくことに尽きる。

製造業は本当に保守的で、去年できた会社ではなかなか「じゃあ(商品・サービスを)入れてみようか」とはなりにくい。「当社は上場企業です」という信頼感が加わるとビジネスの拡大や導入のハードルは一気に下がる。信頼性の向上という観点で上場を捉えており、今後の成長につながる起爆剤になると見ている。

―人材確保の面で期待することは
当社は、より本質的なことに時間を投下する考え方、付加価値を最大化するという考え方を持っているので、PR活動に時間を使うより目の前の顧客の課題解決をずっとしてきた。あまりメディアに情報が出ていない会社なので、この上場で当社の名前を世の中に知ってもらう。興味を持ってもらって実績を見ると、「非常に伸びているじゃないか」と。「伸びている会社に私も入ってみたい」、あるいは「成長している開発に最前線で関わりたい」というエンジニアや営業担当者の採用には、間違いなくつながるのではないか。

―AI人材は各社取り合いになっているが、技術力の高い人材を確保するためにどういう工夫をしているのか
技術力の非常に高い開発が求められるので厳選している。その時の1番のポイントとしては、自身が開発した技術を、当社が使える形にして顧客に使ってもらえることによってエンジニアのやりがいにつながるというのが、最も大きな訴求になる。当社以外の一般的なAIベンダーはPoC(実証実験)や分析にとどまっている。我々は使える形にして顧客にプロダクト展開をしていくことで、やりがいのある開発ができる。

―過去に何度かAIブームがあったが、今のブームは今後どうなっていくのか
堅調に推移し、成長していくと見ている。これまでのAIブームでは「世の中を変える技術だろう、活用ができるのではないか」という可能性が高く評価されてきた。ただ、我々の実績を踏まえても、実際にAIという技術を使って課題解決までやって、工場で使われる技術になってきている。ここが大きな違いになる。AIがきちんと使える技術になっていることから、今後は成長が確実に見込め、これまでとは違うブームではないか。

―外観検査の精度などAIシステムの特徴や優位性は
外観検査に特化した研究・開発をしているので、相当数の外観検査のデータが社内に集まっている。これを用いた研究開発によって、実際に製造現場で使えるアルゴリズムの開発ができ、他社と比較すると例えば、他社では検知できないものが当社ではできる。

AIでは数千データや1万データを学習しないと精度が出ないことがあるが、当社では数十データで実運用しているケースもある。少ないデータで検出精度が高いというような差別化は、傍から見ると同じように見えても、実際に比較してみると大きく違うというのが特徴だろう。

―製品を客先に実装すると、日々の運用でも新しいデータが集まってくるだろうが、そういったものは保有するAIの学習に生かされるのか
そういったデータを数多く蓄積しているので、それに対して高い性能が出るAIの技術開発に生かしている。そのままデータを使って横流しするのではなく、大量のデータを使って技術開発に生かしていくので、そういったところは当社の技術につながっていくのではないか。

―アノテーションデータは自社で集めているのか
顧客に導入した設備から大量にデータが取得でき、顧客から当社に共有してもらう。それはデータを見てサポートをしてほしいとか、アドバイスが欲しいということに対して受け取り、検証している。

―当面は外観検査の領域のソリューションに特化していくのか、少し広げていくのか。関連してコンサルティングやAI導入サポートのサービスでは、外観検査以外の仕事をしているのか
自社開発プロダクトを販売するAIシステム事業では、外観検査に特化している。一方で、DXコンサルティング事業は外観検査に囚われない幅広い課題解決を行っている。例えば、製造現場は非常に危険な場所なので、人の動作の検知や危険の予知を担うAI監視システムのようなものも実績がある。これをプロダクト化して、ベータ版などが社内に、技術あるいはプロダクトの種としてある。

それ以外にも、設備から取れるセンサーデータの分析や、異常検知システムもDXコンサルティング事業で、顧客の課題を解決し、社内でベータ版のプロダクトが一部あるので、そういった種自体は多く積み上がっている。

―プロダクト化するかもしれない技術や領域について、ソリューションで実績がある顧客の名前は
全ての顧客と秘密保持契約を結んでいるので、差し控えたい。

―外観検査で特に自動車や食品に強いとのことだが、特に需要がある、強みを生かせるのではないかというのは、どういった用途があるか
製造業のなかでも自動車や食品が大きな割合を占めるが、それ以外で今後伸びてくるのは、1つは電子デバイス業界だ。当社も業界の大手と取引が始まっているが、そういった電子デバイスはこれから需要がさらに伸びていく。

製品が1ミリメートルのチップであったりするので、とんでもない量を生産している。これは人の目で見るのは不可能なので、AIを入れて生産性や付加価値を上げていきたいというニーズを強く感じている。半導体・電子デバイス業界は強いのではないか。

―当面は外観検査にリソースをかなり振り向けるとのことだが、超長期の視点から、AIシステムは、工場全体のファクトリーオートメーションをどの程度カバーできるようになるのか。また、それにどのようにコミットしていくのか
工場というのは、基本的には機械化されているので、設備は自動化されている。自動化ができていない部分は、人が目視をしている、あるいは人が機械の作業オペレーションをしているという2点で、人がかかる大きなポイントになっている。

外観検査市場は巨大なマーケットなので、力を入れていくが、加えて、今DXコンサルティング事業でも、設備の自動最適化やオートメーション化という観点での自動化、ファクトリーオートメーションに関与しており、より汎用的に全国や世界の顧客に使ってもらえるようにプロダクト化する構想もある。今後そういった展開は当然に考えている。その2つをやれば、製造工場はある程度無人に近くなってくるのではないか。

―南塲社長の出身母体であるキーエンスが、この領域に乗り出してくる点は投資家も気になっているようだが、可能性は
キーエンスはメーカーなので、自社で作った製品をどれだけ早いサイクルでより多く販売していくかを突き詰めることが、利益率が最も高くなって売り上げが伸びる。キーエンスはこれでずっとやってきている。これまでキーエンスがAIや新しい技術に取り組む、我々のようにシステムまでやるという機会は、これまでもたくさんあったが、事実として手掛けてきていない。

プロダクトを作って売っていったほうが、事業が伸びることを彼らは分かっていて、創業者の滝崎武光氏は利益率を落とすことは絶対にやらない、売り上げが伸びたとしても利益率を落とすことは絶対やらないという考えがある。

キーエンスがそこに着手するよりは、1機能としてAIを積んだ商品を出していくことは想定しているし、現時点でもAI機能搭載商品を出している。当社のように先進技術を素早く開発に搭載する、あるいはシステムとして顧客に提供するという観点では、キーエンスとは似て非なるものと捉えている。

―中長期戦略にグローバル展開があるが、大体のロードマップやどこから始めるというのは見えているのか
現時点で確実なものは決定しておらず、今は東京本社だけだが、大阪拠点やそれ以外の拠点をどんどん広げていく。これを向こう3年以上かけてやっていく予定なので、土台がある程度築けた段階で海外を目指していく。現段階での予想だが、少なくとも、3年以降5年程度といったスピード感で海外戦略を掲げていくことを想定している。

―例えば、中期的にアジア中心、あるいは米国といったことは考えているのか
確定的なものではないが、現時点で既にアジア圏のフィリピンやインドネシアなどに導入実績がある。加えて、フォローしやすいという観点もあるので、まずは急速に人口が伸びているアジアを狙っていきたい。

―株主還元の方針は
数年先の範囲では、利益の還元ではなく、非常に高い成長性を達成していくことを投資家は期待しているのではないか。当社が高い成長性を掲げている以上、少なくとも直近数年では、還元よりも会社の成長に投資をしていく。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]