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上場会見:Aiロボティクス<247A>の龍川社長、顧客を知るD2C

9月27日、Aiロボティクスが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1760円を42.84%上回る2514円を付け、2525円で引けた。自社開発のAIシステム「SELL」を用いたスキンケア商品や美容家電などを企画・開発・販売するD2C事業を手掛ける。主力のスキンケアブランド「Yunth」や、中価格帯の美容家電ブランド「Brighte」で商品を展開する。広告の運用やCRM施策など、これまで人が行っていたものをほとんど自動化しているのが特徴。龍川誠社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

化粧品の会社ではなく、あくまでもAIテクノロジーを開発するソフトウェアの会社と位置付けており、どんなものでも売れるので、今後はアパレルやアクセサリー、ヘアケアなど様々なジャンル・領域でブランドを展開していきたいと話す龍川社長。

―初値の受け止めは
上場価格よりも40~50%ぐらい上振れているイメージで、大変ありがたく嬉しいが、今期の予算はそもそも社内ではあまり見ていない。とはいえ、純利益が12億円ぐらいで、PERでは24倍程度。まあまあというところではあるが、遥か高みを目指していきたい。まだ1合目か2合目ぐらいのイメージ。今後、決算発表をしていくなかで、私が話している内容をより解像度を高めて理解してもらえるものと考えている。

―株主やこれから株を買いたい人たち(にとってか)
決算をしていくなかで、「本当なんだ」、「そういうことなんだ」というのをきっと分かってもらえる。少なくとも1年以内に1000億円(時価総額)を目指していきたい。

―上場の率直な感想を聞きたい
上場は長年の夢で、1つの通過点ではあるが大変感慨深く、ちょっと泣きそうになってしまっていたところだ。率直にまず嬉しい。自分が憧れる様々な尊敬する大経営者とようやく同じ土俵に上がることできて、とても感動している。ただ、これに満足することなく、今後さらに(時価総額)1000億円、1兆円、10兆円と目指していきたい。

―調達資金の具体的な使途は
資金は常に潤沢に確保している。今回はそれほど多く調達していないが、どちらかといえば上場で社会的な安心感や知名度、認知度、信頼感が今後の(資金)調達に繋がっていくと見ている。今回の資金は採用費などになるが、思い切り拡大するイメージもなく、AIが当社で劇的に賢くなっており、それほど人手を必要としていない面もある。何に使うのかは難しいところだ。

―ヒット商品の開発に再現性があるそうだが、一方、過去に同様な会社で「連続してヒットを生み出す仕組みが当社にはある」といって上場して、その後続かなかったケースもある。そのようななかで、Aiロボティクスにおける再現性について、AIのシステムはどこが違うのか
人数を見てもらいたいが、他社は同じぐらいの規模や売上で10倍ぐらい(の人員が)いる。労働集約的にやり続けるのは精度の面で持続可能性、再現性で難しい。その割にはマーケティング部分をほとんど100%外注する。我々はそれを引き受けて事業を行ってきた。マーケティング部分が弱いからこそ、(売上や利益が)落ちていく大きな原因になるのではないか。

マーケティングから逆算された商品開発も、近しい意味合いで課題に繋がっていくのではないかと感じている。どんな商品を作ったらよいかはなかなか分からない。いろいろな分析をして、いろいろな市場を見ていくが、我々の分析に対してのデータ量や考察量が(他社と)異なっている面はある。あとは、その市場や商品に対する理解度、美容系のD2Cのことを指しているだろうが、そもそも自分で使っていないような商品を売るのは、ユーザーに対する理解や考察がそれほど深くないのではないか。

この会社でいうと、業界で私よりも詳しい人はなかなか存在しないのではないかというほど勉強を重ねている。ただ成分に詳しいから、「どの会社の新商品がどう」というだけで売れるわけでもない。そういった複合的な要因によって我々は再現性を作れている。

―意識する競合について
同業のD2Cの会社はそれほど見てはいない。化粧品で強いて言うならば、ポーラ・オルビスホールディングス<4297>のなかにオルビスという会社があるが、そこは商品力というか、小林琢磨社長も株主に迎えているが、競合しつついろいろ勉強させてもらっていて、リスペクトしている。通販化粧品はオルビスが日本で最大手だが、そこを1つのベンチマークとして考えており、それ以外は、もちろん中身は見ているが、全く見ていない。

台湾の企業で、東京で上場しているAppier Group<4180>の事業展開、そのマーケティングのシステムや内容はいつも見ており、自分としてはそういうところと比較している。AI×マーケティング軸ではAppier Groupはかなり優れていると感じている。

―業績成長を見ると、近年倍々で伸びている。今後は1000億円、1兆円(時価総額)といった話があったが、業績の成長性・率については
社内としては常に倍々を狙っており、今回は第2四半期での上場で、かなり保守的に予算を出した。実際には上回っていきたい。

―売上も倍で利益面も(ということか)
明言するのは難しいが、今期に入ってから実際に利益率も上がっており、営業利益率は既に(開示済みの)17.8%ではない。しかし人数は変わっていないので、1人当たりの生産性は、もう3億円でもない。トップラインだけを伸ばして損益は赤字、変わっていないのであれば、本質的に事業があまりうまくないなと考えている。連動してきっちり毎期、通期でもクォーターでも、単月でも成長させることが我々の求める成長と考えている。

―基本的に女性をターゲットにしているイメージがある一方で、美容家電はメンズ向けにも作られている雰囲気もある。男性向けにはどういったことを考えているのか
特段女性に限定しているわけではない。本質的な話をすると、いわゆるメンズ美容やメンズコスメ市場が存在することは重々に理解しているが、当社がD2Cの事業を展開する前は、マーケティングの支援を多くの会社向けに提供してきて、そのなかにも多くあったが、我々がテストをしていった結果、メンズ美容はかなり難しいと思った。

美容好き、本格的に美しさを求めていくメンズは、決してメンズコスメは使わない。スキンケアも、わざわざ男の子向けに作ったものを買うメリットがない。本格的に美容を極めようとしたら、圧倒的に幅広く女性向けの商品が豊富に出ている。女性向けのものだからといって、男の子が使ってはいけないものでは全くない。

そうであるので、本格志向の人はそもそも買わない。女性向けの美容やコスメのなかでも、かなりの比率でメンズが既に使っているのではないかと考えているので、わざわざ男性に合わせたものを出していく必要性は、美容においてはないのではないか。初心者の男性にとっては確かに良いが、シェアとしてはそれほど大きくないと見ている。

私を含め、美的好奇心、美的な感度は一般的な男性よりは高いほうだとは考えてはいるが、(そのような人たちは)「良いものを求めて使いたい」、「効果があるものを活用していきたい」ので、わざわざ男性市場向けに何らかのアイテムを投下することは、今のところは計画していない。

―AIで何でも売っていけるとのことだが、おそらく女性とECはかなり相性が良いので、そういった領域でマーケティングを実践してきた印象がある。美容に限らず男性向けにD2Cで何かを出していく話はあるのか
それはある。プロテインなど食品は既にテストをしている。

―AIマーケティング事業について相当絞っている感じだが、今後完全にやめてしまいD2Cに注力していくのか
もちろんいろいろな新規事業を作っていくが、我々が期待する成長を達成するためには、基盤を強化していく必要がある。本業の収益は時価総額で一旦1000億円ぐらいまでに持っていく必要がある。その水準まではM&Aなども含めて多様な新規ブランドも投下していく。別事業はそこからまた先にあるイメージだ。

―海外展開ではどの地域に展開するのか。どのような基準で選定するのか
市場性は非常に重要で、あとはその価格帯の商品を吸収し得るだけの購買力があるかという意味合いでは例えば、大手の資生堂はかなり中国の比率が高いと思う。基本は中国、アジアで言うと台湾といったところで考えている。

―海外でもう売れているとのことだがYunthもBrighteも(そうなるのか)
Yunthだけで、Brighteはまだ展開していない。

―Yunthの展開国は
中国だけだ。

―日本でも売れている良い物が中国でも売れていくようになるのか
大体の会社は、日本でそれほど売れていないのに中国に行こうとするから、すぐ分かってしまう。日本の物だからといって安易に売れる時代では全くない。

最初から中国人好みに設計している部分もある。パッケージなどをより分かりやすくといったことも最初から考えている。商品のアルミパウチがキラキラしているが、その辺りは日本も一緒だが、より好まれるように考えている。写真を撮った時に“映える”かといったことだ。

―“映え”は中国でも大事なのか
そうだ。向こうは広告で売ることが難しく、実際には、ほとんどのECはライブコマースなどでKOL(Key Opinion Leader=消費者の購買意思決定に強い影響力をもつ人たち)を中心に売られていく。そういった人が売りやすい商品を設計している。

例えば、3分間でこの商品がほかとなぜ違うか一発で言いやすいものになっている。ただの化粧水では、「日本で今、何とかっていうメーカーから出されたもので中身の成分が実はアスコルビン酸が入っていて、コラーゲンやヒアルロン酸が入ってどうこう」というのは聞いても分からないし、飽きるしつまらない。「これを塗ると、何かお肌を何となく潤いに導いていって」ということではなく、もっとはっきり差別化を徹底することで、結果的にKOLが売りやすい商品になる。

―アルミパウチのキラキラが中国の人に好まれるといった知見は、AIのシステムで導きだされるのか
それはさすがに人間(が行っている)。別に好まれるとは言われていないが、消費者に対する理解をどれだけ深めるかに尽きる。少人数であるため私が中心というか中に入って商品を作っていく。

―海外でのM&Aについては
M&Aに関しては、国内ではかなり積極的にやっていきたい。それこそGENDA<9166>と同様に、欲しい会社はたくさん存在していて、市況もあって上場企業のほうがより割安。我々のシステムで運営させてもらうことで、利幅を2~3倍以上上げていける会社は複数存在している。

海外のD2Cとなると、AIマーケティングは、配信する広告のプラットフォームに凄く影響を受ける。例えば中国では、Metaがそもそも存在せずGoogleもない、YouTubeもなくLINEは使えない。そうなると我々のシステムが連携していない部分が多々あるので、台湾ではあり得るかもしれないが、海外のM&Aは今のところそれほどは考えていない。

国内は、100億円程度のトップラインを持つ上場企業が(時価総額)数十億円台半ばで存在している。そこは積極的に考えていきたい。

商品は、安易に日本のものが海外、「中国の人たちは日本に対する憧れがあるから買うに決まっている」として皆進出するが、実際は全くそんなに甘いものではない。市場に対する理解を深めているつもりだ。

そもそもなぜ日本製の物を買うのか。安心感もあるが、結局は自分の肌に対して何らかの効果があることへの期待がある。顧客が買っているのは、その商品よりも未来の自分に対する変化といったものだ。例えば、中国にはいろいろな車があるが、日本車だから買う時代ではない。

中国の化粧品も海外に輸出しているなかで、結局は良いものが売れることが本質にある。我々は、日本で化粧品を売るのと全く同じニュアンスでチャレンジしている。「これは本当に良いものだから使ってくださいね」と、日本や中国にいるKOLをネットワーク化して毎日プロモーションを行っている。

価格帯も非常に重要で、中国は今、経済が物凄いスピードで変化している。以前の、超大手の決算を見ると分かりやすいが、皆下がっているのは、中国の売上がごっそりなくなっていることを表している。高価格帯のデパコスというデパートで売られている1万円前後から1万以上の化粧品が主力だったが、売れなくなっている。

現地での購買力が下がっているのは間違いないが、その層の皆で全くお金がなくなったわけではないので、中価格帯に下りている。日本ではLOFTやPLAZA、ハンズなどで売られ、バラエティーコスメと呼ばれているが、それが中国で今逆に伸びている市場になっている。我々はそこにドンピシャにハマっている。

(当社の製品は)日本でもバラエティーコスメで、LOFTでもデビュー以来3年連続でベストコスメに選ばれている。LOFTのベストコスメは、口コミではなく実売に基づいたアワードなので、日本で本当に売れているものが今後中国で売れていくと見ている。こちらでの販売戦略をしっかり保つことで、結果的に中国でも売れる。

本質的には良いものを作ってきちんと売れて、日本でめちゃくちゃ売れてバズっているコスメや美顔器など何らかの商品が海を越えて向こうでもたくさん売れ、ヒットに繋がる。実際にそれが起きている。

インバウンドでも店頭でかなり売れている。買う時にパスポートを出すと税金がかからず、店舗でそれを計測しているので、卸・店頭売上のうち何%がインバウンドかという点では、Yunthはとても高いとの報告を受けている。

―積極的にM&Aをしていき、かつ生産性が高いとのことだが、買収対象となる会社の人員が多い場合、Aiロボティクスの少数精鋭の考え方をどうマッチングさせていくのか
そこがキーポイントで、その人数をかける必要が全くないからこそ、おそらく収益性が少し下がり、あるいは赤字になっている。明言するのは難しいが、既存の働き手にとって選択肢をこちらから提案することが求められると考える。

―PMI(Post Merger Integration)との関係ではどうか
商品であれば何でも売れるわけではなく、ストーリーと思いが大事だ。顧客が商品のファンとなって使い続けることが多く、ブランドは欲しいが、全ての働き手については必ずしもそうではない部分があるので、PMIに関しては、今までいたマネジメントを中心に束ねていってもらうとは考えているが、友好的に私たちのメソッドや考え方を少しずつ広げて伝授していけたらというのは理解してもらえるよう努力するしかない。驚くことも多いとは思う。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]