30日、Heartseedが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1160円を33.45%上回る1548円を付け、1580円で引けた。慶應義塾大学発のバイオベンチャーとして2015年に設立し、世界初の「心筋補填療法」の確立を目指す。重症心不全患者を対象としたiPS細胞に由来する“心筋球”移植治療を始めとする再生医療等製品を研究・開発する。現在のパイプラインであるHS-001は開胸手術の際に投与し、HS-005は心臓カテーテルを用いる。福田惠一社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値の受け止めは
大変高い評価を得ており、投資家に感謝したい。また、身の引き締まる思いだ。投資家の期待に応えられるよう、まずは事業進捗を確実にする。バイオベンチャーはどうしても多くの場合は赤字上場になるが、欧米でもいろいろな企業が出ており、しっかりした事業進捗をして、それが達成されると非常に有望な会社に育っているところが多数ある。そういったものを手本として、この会社をより成長させ、投資家に安心してもらうとともに、患者にも希望の光を与えていきたい。
―日本は山中伸弥教授のiPS細胞から始まって、国として大きく力を入れてきたが、一方で世界中に輸出し、大規模に展開まではしていない。ここでHeartseedが上場を果たして、さらに海外進出などの展望も描いている。今後の日本の再生医療等をどうリードしていくのか
当社のことと日本全体のことを分けて話す。当社に関しては、開胸手術の治験は日本国内で行っており、これに引き続きカテーテル投与の治験をそう遠くない段階で始めたい。そのための準備を鋭意行っている。
日本でのカテーテル治験が始まると、その経験を踏まえて世界共同治験になるだろう。日本で開発された治療法が世界に普及していくものはそれほど多くない。例えば、オプジーボや、岸本忠三博士のインターロイキン6の抗体などいくつかあるが、日本から世界に出ていったものは意外と少ない。
幸いにして、世界の中で、心臓の筋肉の中に直接移植する治験は日本でしか行われていない。その技術も完成しており、ノボノルディスクファーマと提携できている。同社は世界168ヵ国に販路を持っている。この治療法が普及すれば、世界共同治験を行っていくわけだが、それが成功した暁には、世界168ヵ国に非常に早い段階でこの治療法を普及させることができるのではないか。
日本では成功例にならなければならない。我々がそういうプロセスを踏むことで、後輩の大学の研究者あるいは企業の人たちが同じようなステップで世界に打って出てくるような道を作るための先鞭にしなければならない。そのような立場になりたいし、これからほかの領域の研究者もいろいろな治療を開発している。
我々は求められれば開発戦略をどこでも話している。ここにいる安井季久央COOも金子健彦CMO(Chief Medical Officer)も高野六月CFOも、招かれればどこにでも行って話すので、それを参考にし、日本の取るべき戦略にしてもらいたい。
―ノボノルディスクからのマイルストーンを受け取るのはどんな時か
詳細は言ってはいけないことになっている。ただ、概念としては、大きな進捗があった時、例えば、製造法がうまくいった、あるいは治験がどこまで進んだ、次の治験のメドが立ったといった時だ。幸いにして商品化された時に支払われるだけでなく、開発途中のバイオベンチャーなので、早い段階での資金も必要になる。
それを途中で補ってもらえるマイルストーンを設定している。通常、バイオベンチャーは億単位の収入はほとんどないが、当社にはそれが入る。例えば、500万ドルがあれば8億円入るとか、そのような形のマイルストーンがステップごとに支払われるので、大変リーズナブルなシステムだ。
―HFrEF(heart failure with reduced ejection fraction=ヘフレフ)の治療、あるいはHFrEFにしない治療ということで、薬物治療やデバイス治療の進歩は一方で著しいだろうが、心筋球の競争力をどう見ているのか。また、HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction=ヘフペフ)に関する展望は
まず、HFrEF に関して簡単に解説する。平たく言えば、心筋細胞が心筋梗塞や心筋炎などいろいろな原因で心筋細胞が失われてしまって起こる心不全をHFrEFと言う。例えば、左心室の重さは150gぐらいだが、このうち50gが心筋梗塞になったとする。大きな心筋梗塞ではそのぐらいは簡単に死んでしまう。そうすると残り100gの心筋で心臓を動かさなければならない。そうすると当然、心筋細胞の力が足りず心不全になってしまう。
これに対しては、心筋細胞を補填することができる。1gの心筋を補填して、推定で30倍ぐらいの大きさになると仮定して、30gの心筋を補填できれば、だいぶ治療のメドは立ってくるかもしれない。1億5000万個で足りなければもっと移植することは将来的にはあり得る。これが我々の目指すHFrEFの心筋補填療法だ。
一方、HFpEFは、同じ心不全でも若干異なる。心筋細胞の数が減ってしまったというよりは、心筋自体が硬くなってしまうことが原因だ。原因は様々で、1つに求めることはできないが、心筋細胞の問題というよりは線維化の問題で、繊維芽細胞が増えてコラーゲンやフィブロネクチンなど線維化する成分を多く分泌することで心筋が動きづらくなって硬くなってしまう。これに関しては持論があり、いろいろな研究によって解決できると考えており、再生医療でもできるのはないか。これは当社の将来的なテーマで、今話せるような実績はないが、頭の中に設計図はあるということだけは話せる。
―パイプラインのHS-001について、重症の人には向かない治療法とのことだが、ターゲットとなる患者数は
今回のように侵襲的な治験は、日本では今までされることが多くなかったので、患者の精神的なハードルをできるだけ低くしたかった。冠動脈バイパス手術をする重症心不全患者に限定し、症例数はそれほど多くない。
ただ、虚血性心疾患や拡張型心筋症などいろいろな原因で心不全になっている人は非常に多いので、困っている人がたくさんいる。我々のところには毎日のように、昨日はロシアからも「この治療を受けたい」というメールが来ている。潜在的な患者の数は非常に多く、いかに早く届けるかが我々の責務と考えている。会社全員が、そのような方向で取り組んでいる。
―HS-001とHS-005は併用するのか。HS-005ができた段階で、HS-001から移行していくのか
開胸で投与するのはHS-001で、カテーテルで投与するのはHS-005だ。患者の数からいけば圧倒的にカテーテルで投与するほうが将来的には増えてくる。最初からカテーテルで治験をするのは邪道で、我々が移植した細胞、外から心臓外科の医師に移植されれば、当初予定していた細胞はもれなく直視下で移植できる。例えば、5000万個から1億5000万個を移植した時に、効果がどのぐらいあるか分かる。そのうえでカテーテルに臨むのが良い。
将来的には心臓外科の医師に手術をしてもらう際に、先天的な心臓の筋肉の病気でちょっと心筋細胞が足りない、あるいはある病気を手術する時に、例えば、弁の病気や冠動脈の病気を手術する時に、「心筋細胞が一部補ってあげられると、心筋の収縮力がよく上がるのに」という症例が多々ある。こういった症例に対して外科の医師が使う場合も、内科の医師が使う場合もあるだろう。そのいずれにも対応できるようにするのが当社の目標だ。
―HS-001では独自の技術を使ってデバイスを作っているのだろうが、HS-005で使うカテーテルデバイスについてはHS-001のものと関連性があるのか
カテーテルの詳細を話すことは現時点ではできない。だが、カテーテルはかなり前から開発している。非常に繊細な器具で、医療機器の安全性を担保しなければならないので、当初予想していたよりも時間が長くかかっている。
ただ、心筋細胞を移植する時に、どのような移植方法をすることが細胞の生着に有利なのかということは、開胸で投与する注射針も、下町ロケットのようだが、微細加工が得意な会社を見つけ出して、依頼して作ってもらった。そこで得られた経験を新しいカテーテルにも盛り込んでいるということは言える。
心筋細胞を移植し生着させることで心不全を根本的に治す。心筋細胞を移植したら、一生その心筋細胞が生着することを目指している。サルにでも生着するので、ヒトだったら間違いなく生着する。長期の生着かは現時点では言えないが、それを目指せる内容になっているので、そういったものを移植できる優れたデバイスを作ることが、目下の最大の責務と考えている。
―「再生医療等製品の条件及び期限付承認」を狙っていくとのことだが、昨今は、コラテジェン(アンジェス)やハートシート(テルモ)などがつまずいており、「保険財政で検証的試験を見るのはどうなのか」という意見もある。福田社長の見解を聞きたい
他社の製品に関するコメントは差し控えたい。だが、この制度はほかに承認されている製品が多数ある。例えば、眼科の治療薬は作用機序も効果も明確なものであった。こういったものは非常に少数の例で、条件付きではなくいきなり本承認になっている。
これから制度をどのように活用していくのかは、日本の知恵を一番働かせるべきではないか。承認されたものを見て考えたのは、作用機序が明確で、その効果がはっきりしているものに関しては、非常に早いステップで承認ができており、これは国益に沿う領域のものもあるので、承認できなかった2つをもって制度に問題あるということはないのではないか。ケースバイケースで考えていく必要があるのではないか。
我々のものも、機序や効果は明白だと考えているので、そのように評価されるとありがたい。
―自信のほどは
それはPMDAの人たちが決めることだ。そのことに関しては、我々は希望は持っているが、コメントは差し控えたい。
―今後の見通しについて、言える範囲で、どの程度で実用化するのか
現在、開胸投与で行う治験をやっている最中だ。この治験だが、日本人は保守的なところがあり、特に世界で初めての治験、しかも心筋の中に心筋を移植するということで、最初の段階では施行する医師も患者も非常に慎重だった。だが、症例を重ねるごとに理解され、安全性や有効性が見えてきた。治験の後半は少し加速をさせていきたい。
願わくば、今年度中に患者をリクルートできればありがたい。そうすると、最終の10例目に投与されると1年間の観察期間、その後データを求める期間、評価を受ける期間が1年近くあるので、最低でも2年半ぐらいはかかるだろう。その後そこで評価を得られれば世に送り出すことができるのではないか。
―2026年や2027年か
計算の通りだ。数字は言ってはいけないと厳しく指導されており、想像してもらいたい。
―上市後どの程度の期間で黒字になるのか
様々な要素がある。最初からいきなりトップ商品になるわけではないので、徐々に使われて皆に評価され、その経験が販売の伸びに繋がってくる。それによって黒字化が決まってくる。
私は様々な治験に携わってきたが例えば、カテーテルで大動脈弁を治療する「TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)」という治療法があるが、それは私の門下にいた林田健太郎医師が頑張って普及させた。今はもうフルのピークに達しているだろうが、発売されてから4~5年経つと、普及が非常に急速に進んでいった。
その通りに進むかどうかは分からないが、我々も可及的速やかに多くの患者に使ってもらえるようにしたい。その過程で黒字化されていくものと想定している。
―条件及び期限付申請予定はいつ頃か。今の治験の施設数は
この制度だが、条件・期限が付かずにいきなり本承認になっているものもある。それはPMDAが判断して十分な効果があるとなれば、いきなり本承認になる。そうでなければ一定の症例数をこなしたうえで条件・期限付き承認になると見ている。治験が終わるのは、今年度末を目指しており、最終症例の投与から1年間の観察期間がある。その後データをまとめる期間があって、その後データを提出した後、評価を受ける期間がある。2年半ぐらいはかかるのではないか。
治験の施設は、最初は関東地区の8施設にお願いしていた。途中の結果が治験施設から学会発表されると、どこの大学や病院も、「うちも治験に加わりたい」と、画期的な治療をいち早く手にしたいと希望したと思うが、追加で4施設が入ることが決定している。関東地区以外の施設もあり、全部で12施設ぐらいになる。
―進行中の治験で、これから高用量投与が行われるが、期待される効果や懸念点、技術的に難しい点は
治験なので予期せぬことが起こる可能性は否定できない。ただ、事前にいろいろなことをやっており、予測しながら開発している。一番懸念されるのは、多い細胞を入れた時に不整脈が起きるかどうかだ。
それをあらかじめ、ヒトで行うことはどうしてもできないので、サルを用いた前臨床試験で、我々が投与する1億5000万個の4倍量に相当する心筋細胞を移植したシミュレーションを行っている。4倍量を投与しても大きな不整脈の問題は起こらなかった。
心筋細胞の種類が問題であって、数が問題ではないだろうと考えていて、それは大丈夫だろう。それから治験の前半部分で、(デバイスは)3本針のフォークのような形の針が並んでいるが、その3本針で15回、心臓の45ヵ所に移植する。心臓を16個のセグメントに分けて収縮を解析しているが、心筋細胞の移植が多い領域はよく動いている。
移植したが少ない領域は、動きがそれほど良くなっていない。心筋細胞を多く入れれば効果はより強く出るだろうということは、現状の手持ちのデータからは予測できる。3倍量の心筋を入れれば、大きな不整脈の問題は起こらずに、効果は3倍出るだろうと予想しているが、もちろんやってみないと分からないので、現時点で保証するものではない。
―心臓の筋肉は3種類あり、パイプラインに関係するものは心室筋細胞についてのものだが、ペースメーカー細胞の培養の可能性について先日触れていた。そういったものは新しいパイプラインや製品になる見込みはあるのか
それは鋭意検討中で、今は言う段階ではない。将来的には視野に入っている。現時点では、それはパイプラインと呼べるほどまでにはいっていない。
―あくまでも心不全に適応するものか
今回の心筋再生医療は心不全がターゲットなので、今質問があったものは、その何年か先に来るものという理解だ。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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