16日、テクセンドフォトマスクが東証プライム市場に上場した。公開価格の3000円を19.00%上回る3570円の初値を付け、3380円で引けた。二ノ宮照雄CEOなどが東証で上場会見を行った。

―初値の受け止めは
公開価格を19%上回る水準で付いたことはありがたい。通常、初値のタイミングで一定のディスカウントがあるので、正当に評価されるとこのくらいの数字になるのではと個人的には解釈している。
―通商政策の動向に関するリスクと為替変動に対するリスクを軽減するために日本政府に何を期待しているか
通商政策について、1つ目は、各拠点のなかで、サプライチェーンを作っているため、比較的納入のリスクになる。例えば、米国にラウンドロック工場があるが、域内で供給できる形をとっているため、金銭面で言えば、ここでのリスクは、日本から材料購入していることになる。ただ、これは物が作れないというリスクには及んでいない。
マスク材料についてが2つ目。基本はブランクスにしても、レジストにしても日本の材料が強い。かつ装置についても日本が比較的強いため、日本で調達できる点で、日本政府が環境を作ってくれる、あるいはこの競争環境を維持してもらえれば、我々は、リスクが軽減された状態で対応できる。そういった意味で、政府にもし求めるとすれば、日本のそういう材料や装置、あるいはマスクの周辺部分の政策について注目、強化をしてもらいたい。
為替リスクは確かにあり、我々は最終的には円で決済をするが、実際の通貨として6割ぐらいが米ドル建てになっているため、円のリスクがある。しかし、ドル税のほうが多いことで、多少は軽減されている。円安または円高がいいのかという議論は置いておいて、今回も1ドル140円ぐらいを見ているが、変動することがリスクとして一番大きいため、もう少し安定してもらいたい。為替の安定は、我々だけでなく皆が望むところだろう。
―政府に求める競争環境の維持とは
装置や材料、加工において、日本は強い位置にあるため、世界でそのポジションを維持できるような、例えば、フォーラムや資金を通じたサプライチェーンを国内で強化する。また、特に技術開発・R&Dでの税制や補助金など、様々な形の支援があるが、強みを維持していくうえで、政府からのサポートを得られるのはありがたい。
―先端領域、レガシー領域の投資計画は
年平均成長率は、先端と呼んでいる28nm以細は、13%程度。ミドル領域については、7~8%、レガシー領域は2~5%を見込んでいる。方針としては、先端領域を伸ばす。シンガポールの新工場や日本でのEUV(極端紫外線)の量産に向けた設備投資、アジア、韓国、米国も先端が伸びているため、投資の中心にしていく。レガシー領域はパワー半導体やEUVなどあまり調子は良くないが、過去に使っていた装置がエンドオブサービスを迎えているため、一定の投資を行っていく。減価償却費の急激な上昇を抑えつつ、数十億円規模、もしくはそれ以上を見込んでいる。
―IBMと共同開発しているEUVフォトマスクの量産計画の状況について。また、ラピダスがフォトマスクを全て外注する方針だが、事業機会となるか
EUVの外販が、市場でできていないなかで、ラピダスは2nmのEUVフォトマスク市場の有力な顧客候補となる。今、ラピダスが言っているのは、2027年に量産をする計画であり、2025年、2026年は、量産に向けたセットアップで、研究開発段階と捉えている。同社はIBMと技術連携をしており、共同で技術開発を進め、IBMが開発した技術を導入していることから、IBMが一歩先を進むのか、あるいは同時に進むのかは不透明であるが、2026年までに量産の技術を確立して、2027年に量産を開始する流れのようだ。こうした動きは事業機会と捉えている。ただ、2027年の量産がどの程度かまだ見えていない。現段階も、フォトマスクとしてサポートしており、今後もラピダスの計画に基づいて支援していけることを期待している。
―カタール投資庁(QIA)からの関心表明や海外への販売について、上場にあたって何か準備したのか、もしくはアピールをしたのか
糸雅誠一CFO:今後、安定株主を含めてどのような投資家がいいのか検討するなか、カタールの投資家から相談があった。我々からはアプローチしていない。
―意識している競合企業は、また、競合に対する取り組みについて
二ノ宮CEO:外販フォトマスク市場のなかで、我々はシェア38.9%で、残りの61.1%が競合となる。フォトマスク市場は特異なところがあり、現在、上位3社で市場シェアを合計すると83〜84%を占め、寡占に近い状況。そのため、当然ながら我々を抜いたこの2社との競合が生じる。この2社との競合については、顧客からの評価が重要であり、基本的にはQCDとなる。しかし、前進していくと、QCDに加えて、顧客に対してどのような提案ができるかが問われる。
例えば、収率を向上させることやチップの縮小、カーブリニア対応などが挙げられる。顧客にとっては、歩留まりが1〜2%向上するだけでも非常に大きなメリットとなるため、技術的な提案を盛り込むことが重要となる。また、ブランクスについても、例えばEUVであれば、露光量が少なくて済むなどの提案をすることが、技術的な競争の差となる。こうした技術力を顧客に分かりやすく提案していくことを考えている。
―中国市場をどう見ているか
仕向地として中国の割合は高く、現地からの供給とともに台湾あるいは日本からも一部供給をしている。一方、競合のマスクショップが中国で相当数出てきていて、競争が激化しているという現状。しかし、ファウンドリの顧客自体も先端ノード側の28nmや16nmに関心を持っており、当社はその領域で豊富な経験があるため、顧客へのサポートや提案において一定の優位性を持っている。そのため、いままでのミドルや成熟ノードの部分をより先端側に、我々のプロダクトミックスを変えていく方針だ。また、我々の工場は、現在ほぼフルキャパシティになっているため、追加投資をしてプロダクトミックスを変えて先端側での強みを発揮できるようにする。
―TOPPANグループ分離後の歩みと所感について
我々は、もともと上場企業であるTOPPANに所属しており、基本的なプロセスを踏襲すればIPOもそれほど難しくないと考えていた。実際にはそんなことなく、過去のルールを今の新しいルールに見直しながら、新しい社会に出て、責任を負うという経験をして、特に社員には迷惑をかけた。(社員の)家族も大変だったと思う。我々2人(二ノ宮CEOと糸雅CFO)も含めてずっと走り続けてきたが、そういった意味ではようやく上場できたと安心した。大きなトラブルもなく3年と少しの間で上場できたのは想定以上に順調だったと思う。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 紫乃]
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