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上場会見:サンクゼール<2937>の久世社長、冷食や海外食材にも商機

21日、サンクゼールが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1800円を22.28%上回る2201円を付け、2598円で引けた。長野県に拠点を置き、ワインやジャム、パスタソースなどを扱う「St.Cousair」と、日本全国の選りすぐりの食材を揃えた「久世福商店」、米国にグローバル展開を目的とする「Kuze Fuku & Sons」の3ブランドを持つ。売り上げ構成比は店舗が74%、スーパーマーケットなどが17%、ECが6%、グローバルが3%。久世良三会長がペンション経営からスタートし、1982年6月に創業した。久世良太社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

久世社長は、長期ビジョンとして、M&Aによる多数の食ブランドのグループ化と、グローバル規模でのオンラインプラットフォーム構築で、自社のSPAモデルを全世界的な拡大を目指すと話した
久世社長は、長期ビジョンとして、M&Aによる多数の食ブランドのグループ化と、グローバル規模でのオンラインプラットフォーム構築で、自社のSPAモデルを全世界的な拡大を目指すと話した

―初値が公開価格を上回った受け取めは
初値が午前中に決まって、それを上回る形で今推移をしているが、非常に安堵している。最初に購入してくれた株主にとってもリターンが得られている。短期的にもそうだが、長期的に成長できると考えているので、「持ち続けて良かったな」と思ってもらえる会社にしていけると自信を持って言いたい。まずは、この1日を通して好調に推移したことについては、安堵した気持ちとともに、これからさらに頑張っていきたいという気持ちでいっぱいだ。

―久世良三会長のペンションから始まり、サンクゼール、久世福商店ブランドと全国に様々な店舗を全国に展開してきた。なぜ上場を決めたのか。経過やタイミングについては
EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤーという起業家を称える賞があり、甲信越の代表に選ばれ、証券会社から評価を受けた。「このままいったら上場を目指せるのではないか」という直接的な指摘を得たことから、会社の発展を考えた時に上場という選択肢があると考えたのが直接的な切っかけだった。そこからチームを編成し、主幹事証券を決定する過程で1つひとつ物事を進めて今回の上場に至った。

我々は長野県の飯綱町と信濃町に本社(とセンター)を構えているが、上場会社は1社もない地域だ。大きな意味で言うと、企業の存在は、雇用を生み出し、その雇用から消費が生み出される波及効果や、設備投資に回っている資金を通して、生産量がさらに増え、また雇用が生み出される好循環が生じる。私は、企業の存在は地方の宝だと考えている。

オーナー系が全て管理するよりも、将来的には地域に根ざした形で開かれた企業体になることで、優秀な人材に支えられる企業に発展していく。そのことが私達の今後の成長を見据えた時に必要なのではないかと複合的に検討し、まさにグローバルに出てきたタイミングで上場を果たしていこうと考えた、

―上場に何を期待するのか
株式を公開することになり、一定の比率を、一般または機関投資家に持ってもらうことになる。我々経営陣からすると、その負託を受けて企業価値をさらに増大し、成長することでハッピーになってもらうことだ。それ以上に、働いている従業員や、顧客、500社を超える取引先の企業、地域の人たちに対して、利を与えていくようなことを企業としてバランスよく努めていきたい。

単に売り上げや利益を上げる以上に、尊敬される企業になりたい。身を律する意味で、また、周りから透明性を持って見られる意味からしても、上場は必要不可欠なものだと思っているし、その覚悟を持って経営に当たりたい。期待感というよりも、むしろしっかり頑張っていきたいという思いでいるのが本心だ。

―ECに関するこれからの事業戦略について聞きたい
コロナ禍のこの2年間、ECの成長は目覚しかった。利便性や食卓の質の向上、サービスの部分で、商品のリピーター顧客が非常に多く、特定の商品を一定期間で購入できるメリットがあり、大きく拡充できている。昨年の春に、サンクゼールと久世福商店、旅する久世福e商店のポイントを連動させて加算して使えるアプリの(提供を開始し)、会員が31万人ほどになっている。

店舗からECに流入する顧客はかなりの比率であり、会員数が増えている。店舗の拡充とともに、また、店舗の利用者でも、「通販を使ったほうが便利だな」という顧客には積極的にECの活用法を提案している。そのような流入によって売り上げを拡充していきたい。それとともに、ECに限定したサービスや商品も拡充し、店舗では味わえない体験を薦めていきたい。

―EC限定のサービスや商品とはどのようなものか
サービスについて、ECの売り上げの半分以上はギフトの購入者で、そのギフトを贈る人が、ECのアプリのなかで。贈答先である家族や友人に、「ありがとうのメッセージ」を書けるようになっている。

これはフォントが選べて、例えば、感謝の気持ちを添えて、子供の写真を添付できるなどレイアウト(を工夫)できるシステムをDXで構築している。そのようなものが顧客からの支持に繋がっているのではないか。また、ギフトセットなどをEC限定の商品として発売している。

―今後のDXの余地や、設備投資の必要性は
DXについては、領域を拡充しなければならない。例えば、今、外注先の工場を含めた管理、在庫の見える化や、生産量の管理といったところを、まるで1つの工場であるかのように一体となった形で、DX化を進めている途中だ。

これからも、ホールセールの営業支援のDXや、グローバル領域での横展開を図っていく点でも、しっかりとした形でデジタル化を進めることができるのではないか。

本社に11人ほどのエンジニアが在籍しており、上場後は、さらに人員を増強する形で投資を進めていきたい。

―上場で市場からの資金調達が可能になるが、デットとエクイティでの調達バランスについて知りたい
自己資本比率が50%に近くなり、財務基盤が非常に安定したことで、さらに信用力が増す。特に、海外を中心とした取引先への信用度の拡充、牽いては販路の拡大になっていくと思うので、しっかりとした販路拡大のための投資に振り向けていく。

我々はROICが非常に高い水準になっている(2022年3月期は24.8%)。店舗をFC化して展開でき、投資に対するリターンが高い。投資家の目線からは、非常に有利な状況ではないか。

一方で、今後は借り入れをゼロにするということは考えていない。適切な時期に、例えば、M&Aへの投資といった局面では、一部にデットを使い、最適な資本構成を模索していきたい。

―新しいブランドラインを考えていくとのことだが、久世福商店は「和のもの」、サンクゼールは「洋のもの」というイメージがある。どのようなイメージになっていくのか
冷凍食品や海外の輸入食材といった物は、我々のレパートリーとしては(現存し)ない。首都圏ではそのような物を店舗で購入できる環境があるが、地方の人は、長野も含めてないので、そういったニーズがあると見ている。フォーマットを作り込んで、来年の夏には1号店を出したい。

今はチームを組んで商品開発や、どのようなブランドにするか、流通をどうするか総合的に進めている。

―温度帯管理がシビアになるが、その点には照準を定めて取り組んでいるのか
冷凍食材は物流形態が違ってくるので、地域に密着した形での流通のために、卸売業者と組んで、配送ルートを各地域で構築できればと考えている。常温(の商品)は、長野県の須坂市にセンターがあり、共通基盤として活用できる。加えて冷凍の部分を、自分たちの強みを強くしていきながら活用していくことができれば、うまくいくのではないか。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]