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上場会見:コージンバイオ【177A】の中村社長、断らない培地開発

コージンバイオが25日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の1900円を6.84%上回る2030円を付け、2370円で引けた。微生物や細胞の培養に用いる「培地」の開発や製造、販売を手掛ける。臨床・食品や医薬・化粧品分野で用いる細菌や病原菌検査の培地を扱う「微生物事業」を祖業に、研究機関に細胞培養用培地を提供する「組織培養事業」と、自由診療向けに免疫細胞や幹細胞を受託培養する「細胞加工事業」へと業域を拡大してきた。中村孝人社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

産業用培地の市場に参入に必要となる生産量は、1回当たりの生産で500キログラムから1トン程度だという。アカデミアや、バイオ医薬品を含めた免疫細胞治療薬品を製造する会社、ジェネリック薬品向けに供給していきたいと話す中村社長

―これからも埼玉県坂戸市に本拠を構えていくだろうが、地元とどう歩んでいくのか
坂戸市で初めての上場会社だそうだ。市長を始め、大変喜んでもらえると思う。従業員も近辺にいる人たちが多い。誇りを持ってくれる、「私が勤めている会社は上場した」というようなところで地元への愛は出てくるだろう。理由があってというわけではなく、たまたま坂戸だった。それが40年経ったら坂戸の企業になっていた。これからもそうありたい。

―培地を作っている会社はそれほどいないとのことだが、それだけ大きいマーケットが予想されながら、他社が入ってこないハードルはどのあたりにあるのか
私にも分からない。Gibcoという米国にある世界最大の培地メーカーが、Thermo Fisher Scientificに買収された時の金額は2兆5000億円だったと思う。日本でも富士フイルムが、よく培地に関係する企業を買収して大きくなっている。

今、培地ができそうな会社をM&Aで手に入れることに目が向いているのではないか。我々のように非常に使い勝手がいい培地メーカーがあるので、シーズを持っている大学の研究者や起業家も、「培地はコージンに頼めばやってくれる」ということで、私は「先生、その細胞を増やすために必要な培地は自分で考えたらどうですか」と話すが、「俺にはそんな時間はないんだよ、お前たちがやってくれよ」という流れのなかで、この日を迎えた。

培地は儲かる。これから培地を作る会社がどんどん出てくるのではないか。我々はより一層企業努力をしなくてはならない。

―タカラバイオ<4974>を先発企業としていたが、大手と価格競争ができる強みはあるのか
最初から大きな仕事は取れない。一つひとつ仕事を取っていくことを、これまでもやってきたし、これからもやっていこうと考えている。現段階ではそうしたなかで十分に戦える経験と知力、人材がある。

これからさらに知名度と事業力が上がっていくにつれ、最も大事なのは人材確保だろう。今後、有能な人材を確保していくための人件費の高騰という大企業が苦労しているところに、我々も行き当たると見ている。今は、我々の優秀な従業員が頑張ってくれている。かなり自慢できるメンバーが揃っている。

―粉末培地の市場に参入していきたいとのことだが、実現した場合の業績に及ぼすインパクトについて
顧客を確保しなければならないことも含めて、業績に反映するまでに少し時間がかかる。現在でも5兆円(の市場が)あり、さらに数年後には10兆円にもなると言っているので、我々が具体的に商品を持って売っていく時に、そのなかで1%を取るだけでも、「どれだけの数字が上がるか」ということを目指したい。

これは「やらなければならない」と考えているので、この場で、何年後の業績には反映するという約束はなかなかできない。上場で得た資金をそちらにも投資したいので、さらなる発展を目指すつもりだ。

―「組織培養事業」について、「細胞培養用培地」が使用される分野の市場規模として、「培養肉」で218兆円(2030年予測)としているが、この分野にコージンバイオが関わっていく感触はあるのか
培養肉も、当然大きなマーケットになるだろう。こうした研究をする会社は、まだ名前を開示できないが「培地がないか」と当社に来る。薬も化粧品もそうで、これからは動物や環境のことを考えたら、いろいろなものを培養で作っていかなければならない。

培養でやろうとしたら培地が必要になる。アジアを含めて培地を作っているところはそれほどない。そうすると我々のところに自然に話が来る。我々は断らない。「やれるまで一緒になってやりましょう」という姿勢の会社なので、日本でも現在、京都大学などを含めて、大学のなかにはベンチャー企業がたくさんある。(メディアの)皆さんが知っている会社もたくさんあるのではないか。「培地はどこを使っているか」と突っ込んで聞いてみてほしい。必ず聞いたことがある名前が出る。

今、大きな市場になるものは、市場が作り出しているのであって、企業が作り出しているわけではない。まさに第5次産業革命だと思う。AIとバイオと言われたが、バイオが何を大きく変えようとしているのか形が見えてきたと感じ、考えており、そのなかで経営に努めたい。

―「微生物事業」で、マラリアの医療用抗原検査キットや、結核検査用培地の開発に取り組むとのことだが、既存の新型コロナウイルス関連製品の技術を転用できるのか
できる。新型コロナウイルスの抗原を使ったらコロナウイルスの検査薬になる。マラリアはアフリカと東南アジアで種類が違うが、その両方の抗体を保有している。(検査キットは)検体を落として線が出たら陽性という仕組みは同様で、同じ機械で作れる。

―現在WHOで採用されている海外メーカーのものとは異なるのか
性能(が違う)。米国製のものが使われていることが多いが、「それでは品質に納得できない」という日本の著名なアカデミアの人たちから、「作ってみろよ、一緒に作ろうぜ」と、逆に声をかけられた。結核予防会の医師・研究者は70年前の検査薬をそのまま使っている。変えようという話になり、私は「断りません」と言った。それでアカデミアと共同で開発していく流れになった。

―調達資金の使途について、特に冷蔵施設などの設備が、具体的にどういう場所にどういったものを導入する戦略なのか
物を作っていくうえでは、まず材料を買わなくてはならない。製造した後には、試験をする間に保管をする。我々の場合はまず冷蔵庫になることが多いが、そういう保管スペースも必要になる。

全部がすぐに右から左で売れれば良いが、少しは置いておかなければならない。それがもういっぱいだ。調達資金で、坂戸市にある我々の本社敷地内に5階建てのそういった建物を作る。来年の5月には完成を予定している。

従業員が増えてきたので、そこには、憩いの場としての食堂や休憩スペース、作業着を着替えるためのロッカールームといったものも確保していく。人材の増加に伴うことで、“倉庫棟”と言ってはいるが、従業員にリラックスしてもらうための、ある程度贅沢なスペースを作る。

―そこでは、部署の垣根を越えた社員同士の交流のようなものが予定されているのか
もちろんそうだ。

―基幹システムの更新も資金使途にあった。DXも企図しているだろうが、長期的にどのような影響があるのか
今のシステムは古くなっている。変えることができていなかった。やっと変えられる。これは、製販一体化を合わせた財務一体型ということで企業内収益の向上に相当な力を発揮する。

顧客からのオーダー全てをそのなかに取り込みながら、発注業務を行い、製造指示も出していく。そういう当たり前のことができていない部分があった。上場するか否か、資金が得られるか否か以前に、前々からこれはやらなければ駄目だと決めていた。社内で十分に討議・検討もしてきたところだ。

―配当性向も含めて株主還元策は
創業以来、赤字を出さない経営をしてきた。赤字を出して良ければ、会社の規模をもっと早く大きくできたかもしれない。我々の会社は親会社も何もついていなかったので、やれるスピードの枠内で、しかも、赤字を出したら銀行はお金を貸してくれないので、赤字は出せない、出さない。

黒字を出したら株主には必ず配当をする。これは創業からずっと守ってきた。配当性向は、上場したのでステークホルダーにもしっかりと示さなければならないのであれば、とりあえず配当性向15%として数字を捉えようとしている。今の世のなかの上場会社(の株主)は30%を超える配当性向を求めているとも聞いている。我々としては、企業内の、利益を出せるもの、削れるものを真剣にさらに絞り取りながら利益を求めていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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