31日、Faber Company(ファベルカンパニー)が東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1000円を19%上回る1190円を付け、1162円で引けた。企業Webサイト上での閲覧者の行動を可視化する機能などで流入の最大化を支援するデジタルマーケティング自動化ツール「ミエルカSEO」といった SaaSを提供し、顧客の生産性を向上させる。また、フリーランスや副業人材を活用したデジタルマーケティング支援を行う。古澤暢央Founderが東京証券取引所で上場会見を行った。

―初値の受け止めは
非常にありがたい。我々の今を考えると、このサイズで13%のCAGR(年平均成長率)が低いことは認識している。足元の営業強化でこれを伸ばしていく。実力ではまだまだである現在、株を買ってもらった投資家に恩返しができるよう精進したい。
―古澤Founderは黎明期からデジタルマーケティングを研究し続けて今に至るが、最近のトレンドで顕著に起こっていることは何か。また、それにどのように対応していくのか
SEO(Search Engine Optimization)に特化して話すと2017年頃に欧州で起きたGDPR(General Data Protection Regulation=EU一般データ保護規則)の問題があった。これはサードパーティーCookieをいろいろな業者が売り、それを事業者が買うことで“追っかけ広告”などが生じて「気持ち悪いね」という問題が欧州から沸き起こり、「サードパーティーCookieデータを渡さないよ」ということが、全体的に少しずつ起きていた。
先日、Googleがサードパーティーデータの廃止を撤回したというややこしい話があったが、世の中の流れを見ると、データを売買する、引き渡すことがなくなる方向にあると感じている。ファーストパーティーデータ(自社で集めた顧客などのデータ)を企業が活用すること、企業がSNSやYouTube、ホームページも含めて、自分でコンテンツを作ってエンドユーザーと交流していくことが求められている。
そこでは、良質なコンテンツとしてテキストや画像、動画、音声などを様々な形で世の中に発信していく流れは不可逆であると見ている。我々もYouTubeチャンネルやTikTokチャンネルを運営して実践している。こういったファーストパーティーデータを強化することは世の中の流れとしては大きなうねりであり、そこはチャンスだろう。
あとはAIだ。2つある。1つは我々の機能を強化するうえでのAIの取り込みで、顧客からも期待されている。顧客も専門人材が不足しており、省人化・自動化が求められる。我々はLLM(大規模言語モデル)を毎日使い倒して徹底的に調査・実践しているが、少しずつ形になってきており、特にメディアや新聞社から多くの問い合わせがある。今、新聞社と一緒に機能を強化している。これは本当に世の中から求められている。
もう1つは、先日OpenAIが「SearchGPT」を発表した。これがGoogleのシェアを奪うのではないかという見方がある。私もそこには同意で、おそらく世の中のSEOや検索に対するユーザーのあり方は変わっていくだろう。プロンプトを打つのは検索キーワードを打つよりも難しいので、人が慣れるよりは、スマートフォンに自動的に組み込まれていき、プロンプトを打たなくても何かが提案される時代から入っていくだろう。
プラットフォームの中心がGoogleからOpenAIに行こうが、「Perplexity」に行こうが、結局AIは世の中から様々なデータを収集していることには変わりがない。事業会社は情報をちゃんと発信していかなければならない。ロボットが会社にやってきてインタビューをしてくれるわけではない。テキストや画像、音声、動画など様々なフォーマットのコンテンツをしっかり発信していくことが必要になる。
その時に我々の仕事はフォーマットが少し変わるが、そこに寄り添っていく。仕事のその部分だけは変わらない。顧客に寄り添っていくことが何より大事で、江戸時代の呉服屋が火事になった時に、「顧客台帳だけを持って逃げろ」という言葉が有名だが、我々はこれまで1700社超の顧客を独自直販で開拓してきた。
今日もオフィスでは物凄い数の商談とサポートを若い人が行っている。それをしっかりやっていけば、SearchGPTに対する脅威は、良い形になってチャンスに変わるのではないか。
―プロダクトについて聞きたい。ヒートマップは他社も手掛けているだろうが、投資家から見ても差別化が分かりにくい。個人投資家がぱっと聞いて分かるような強みを聞きたい
副島啓一取締役:ミエルカSEOは大学と共同研究しながら開発しているものだ。ツールやソフトウェアは我々自身が活用しなければならず、我々が活用して、実際に「SEO」というキーワードで検索すると上位に表示される。Googleで検索してもらえると分かる。
自社内で実践・研究したいわゆる“職人”と言われる人たちの知恵をそのまま機能に落としているところがほかの会社との最大の差別化だ。
古澤Founder:自分たちのSEOが日本で1番レベル高くできていることを証拠として提示できるうえに、そこで何が行われているのかということを機能に取り込んでいるという2段構えで説得力が高い。
副島取締役:ヒートマップに関しては、先行者は一定数存在している。当社は後追いだが無料で出した。フリーミアムでできるツールはあまりなく、業界でかなり追い付いてきている。ヒートマップ単体でものを使うというより、ウェブサイトの全体の流入が増えなければ、ヒートマップで改善できる余地がない。
流入が10しかなければ、ヒートマップの改善は意味がない。流入を増やしながらヒートマップを改善する。SEOとヒートマップを同じプロダクトの中で、両方行き来できるようにしているので、そこが差別化要因の1つになっている。
―非注力事業であったEコマースとメディアから撤退したのは何年何月か
Eコマースは2024年9月期の第1四半期だ。メディア事業は2023年9月期第4四半期に撤退した。
―M&Aは、新しいプロダクトを持つ会社をグループに迎える、あるいは同業者に入ってもらうという2つの方向性があるが、どちらが優勢なのか
我々の顧客がこれから買うであろうマーケティングプロダクトを持つ会社が最優先だ。理由はとてもシンプルで、すぐに売れるからだ。ただし、多くの失敗をしてきた諸先輩方の背中を見ており、売れるかどうかを机の上で判断しない。
ロングリストの各社と話をしているが、まずは販売代理として我々が今あるプロダクトを当社の顧客に売れるかどうかを短期間で試し、売れ筋が分かる。
次のステップとしては、できれば我々のミエルカブランドでOEM供給させてもらう。プロダクトの外見がミエルカ(シリーズのプロダクト)になる感じだ。それを通じてお互いの文化がマッチするようであれば買収する。スピードには欠けるが確実な線としてはそれを考えている。今、実験している会社があって売れ始めているので、しっかりと見定めたい。
―成長投資として、人件費や採用費に充てるそうだが、職種などどういった領域に予算を配分するのか補足してもらいたい
稲次正樹代表:まず、営業人員をクロスセル戦略に基づき強化する。それに付随する採用コストの上昇を見込んでいる。販売人員の強化が最も大きい。
副島取締役:当社の人員構成は、開発とプロフェッショナル(コンサルティングやカスタマーサポート・サクセスのチーム)、セールス&マーケティングが1対1対1となっている。開発は、ベトナムで安価に採用できるので、ほとんどの費用は日本における大手中堅企業向けのクロスセル人員の増員と、キーエンスも新卒文化なので将来的な新卒採用に投資していく。
古澤Founder:販売促進については私から話す。かなり保守的に見積もっており、東証に向こう数年間の販売計画を提出した際の数字を示している。同業社で何社か、とても優れた企業をベンチマークとしている。そうした会社が年間に拠出している販売促進費用が、我々の4倍ぐらいだ。我々が昨年実績で年間1億5000万円ほどの販売促進費を使っているが、この3~4倍使ってうまくいっている企業は同業にある。
その人たちが、どこにどのように投資を振り向けているかある程度見えてきたので、売上利益との割合を見ながら、小さな話だが月100万~200万円といった手触り感のある金額で余力に対して踏み込んでいく。それに対してきちんとリードが来るのか、実際どのように成約して歩留まりして、ROI(投資利益率)が成り立ったうえで、少しずつアクセルを踏んでいきたい。
―確認だが、投資余力の24億円は3年間での想定か
そうだ。
―今後の財務戦略で公募増資とデットファイナンスについて触れているが、基本的にネットキャッシュでM&Aできそうで、それを超えるものについては調達で対応するようだが、そういったものはいつ頃に出てくるイメージか
DEレシオ✕0.5~1程度のデット活用も視野に入れているが、例えば、今年の初めに、我々と比べることはできないが、電通総研<4812>がミツエーリンクスを80億円強で買収した。
我々にとって大変勉強になる案件でミツエーリンクといえば老舗で、素晴らしいアカウントを持つ未上場の雄だった。そういう企業が我々の界隈にもいくつかある。今その会社と接触して何かという話ではないが、投資妙味があった時には、慎重に、デットを活用しながらM&Aに臨むことがあるかもしれない。
これまで1億円未満で2~3件買収した経験はあるが、大風呂敷を広げるほどの実力ではないかもしれないので、しっかりエクイティの中でまずいくつか勉強して、組織能力を付けて大きなものに挑戦していく。その時にはデットをしっかりと使っていきたい。
―配当・還元政策について。個人投資家としてはスタンダードで出たからには還元が近いのではないかという印象のようだが
期待には応えたいと思っており、今の営業キャッシュフローと営業利益の推移からは十分な還元ができる。ただ上場した今は、成長投資とM&Aを優先したい。高い配当と高い成長がベストだと心得ているので、これを目指したい。還元もばっちり、そして成長も悪くないということを数年内で実現できるように頑張っていきたい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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