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上場会見:アストロスケールホールディングス<186A >の岡田CEO、技術とルール作りを推進

アストロスケールホールディングスが5日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の850円を50.71%上回る1281円を付け、1375円で引けた。運用が終わった人工衛星など地球の周囲を高速で周回するスペースデブリの除去や、衛星の寿命延伸、故障機や物体の観測・点検という4つの軌道上サービスを研究・開発する。物体に安全に接近して捕獲するRPO(Rendezvous and Proximity Operations Technologies)技術を保有し、世界初のデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」や観測衛星「ADRAS-J」を打ち上げている。岡田光信CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

2年ほど前の契約受注残は十数億円だったが、RPO技術の実証を経て、現在は300億円規模となっていると話す岡田CEO

―初値が公開価格を50%ほど上回ったが、その受け止めと、どのような点が評価につながったのか
今日は朝から分単位でスケジュールがあって、初値がいつ付いたのか、今もどうなのか、聞いてはいるが分かっていないところがあるが、基本的には株価は市場が形成するものであって、私がどうこう言うものではない。ただ、数多くのロードショーを実施し、特に海外機関投資家の需要が大きかったのは、1つのシグナルなのかと思った。

多分、1、2年前にロードショーをやっても、そうではなかった。この2年ぐらいで我々の技術が進み、(設立から)今年でちょうど11年経ったが、やっと売上が加速するようになり、世界のルール作りもこの2年でだいぶ変わった。そういった大きなトレンドが、今の我々を後押している気がする。

―ispace<9348>やQPS研究所<5595>のような宇宙スタートアップの上場が相次いでいるが、この2年ぐらいで資金が入ってくるようになったと感じているのか
宇宙の上場企業では、ispaceやQPS研究所はそれぞれ少し違うセグメントだが、出てきたことは素晴らしいことだ。資金が集まるかは、ビジネスが立ち上がるかとは別の話だ。

我々は上場前に、シリーズAからGまで7回(資金を調達していて)、1年から1年半後ぐらいごとに合計で445億円を調達した。スペースデブリや宇宙環境問題は、初めから強い関心が寄せられていた。この2年で変わってきたのはビジネスとルール作りで、技術がまず出ないと、事業機会がない。技術を証明したのは非常に大きかった。

国の立場からすると、技術とルール作りは両輪になっており、どこまで技術があるから何まで規制ができる、ルールを作れるので、そういう意味ではこの2年でだいぶ変わった。それとともに、我々が技術をどんどん前に進めていくことで、世界のルール作りも前進していくのではないか。

―今回はいわゆるダウンラウンドIPOだと思うが、今のタイミングで上場することに、それを上回るメリットがあったのか。目立つ競合もないように見えるが
松山宜弘CFO:今回、重要視していたことが2点ある。1つはしっかりと資金を調達することだ。資金がないと成長の速度が落ちる。そうすると競合が出てくることも考え得るので、まずはしっかりと資金を調達することが非常に大事だ。

2点目は、多くの投資家から広くサポートを得ることだった。これは国内のリテール投資家も機関投資家も、海外の機関投資家、ヘッジファンドもロングオンリーも合わせて、広い投資家のサポートが今後の我々の株主層を形成していく上では、すごく重要だと思う。そうすると、上場時にいたずらに高い株価を付けることが必ずしも長期的な利益にはなっていないとも考えられる。

そういった株主層をしっかり作っていくことは、今回の案件を通して実現されているし、200億円の調達もできているという意味では、我々にとっては今市場に出ることが、結果的には経営戦略上で最適だった。

―黒字化の見通しと、利益率目標や売上収益イメージの達成確度などは
収益の予想については決算発表時に、いろいろな業績予想を発表するのでそちらを参照してもらいたい。マージンに関する質問については、長期的には粗利益で3割台半ばというイメージ、営業利益率で長期的には2割台半ばを志向していきたい。これはけっこう長期的な目線で、5~10年といったスパンで考えている。

足元は研究開発のプロジェクトが非常に多い。こういったものは、政府と共同出資のような形で、我々がコストを一部持って、一部は政府に持ってもらう。マージンがマイナスのようなプロジェクトも、まだいくつか走っている。ただ、これは数年以内には収束していく見込みだ。

そこからサービス購入のような、マージンが出るものにどんどん置き換わっていくことで、政府ビジネスの収益性も上がっていくと見込んでいる。民間のミッションやプロジェクトも入ってくると、さらにマージンに寄与していく。トップラインだけでなくてマージンもドライブしていく形にしていきたい。

―黒字化のメドは。また、今後引き続き資金調達が必要になるのか
黒字化の具体的なタイミングについてはこの場では差し控えたいが、段階的に進捗していくと想定している。まず、売上総利益ベースで黒字化を達成し、営業利益ベースで黒字化を達成し、そしてキャッシュフローでもポジティブになっていくという段階をしっかり踏んでいくことが大事だ。サステナブルなビジネスになっていくうえでは、あまり長く時間をかけていては会社としては成り立たないので、スピード感を持って取り組みたい。

今後の資本調達について、現状ではこの後に追加の調達をすることを想定していないが、資金使途次第だろう。想定以上にプロジェクトが受注できたとか、魅力的な投資の機会、これはオーガニック成長も買収などもあるかもしれないが、そういったものが出てきた場合には、投資家が納得できる説明を提供したうえで、追加で資本調達することは成長戦略の一環としてはあり得る。現時点で何か予定があるかというとそれはない。

―軌道上サービス事業を取り巻く現状について聞きたい。特に衛星コンステレーションとの関係だが、需要という意味では事業にとっては衛星コンステレーションの拡大はプラスだろうが、衛星の増え方が急激過ぎる。ITU(国際電気通信連合)のデータを基にした推計で例えば、ペーパー衛星を含めて38万基の構想もある。拡大との向き合い方は
岡田CEO:かなり本質を突いた質問だと思うが、宇宙環境の悪化が加速している。まずグッドニュースは、軌道上サービスに参入する会社が今100社を超えた。1年前だったら我々は、30社ぐらいと言い、5年前だったら当社しかいないぐらいのことを言っていたと思う。

米国のある調査によると、軌道上サービスは今後10年で累計2兆5000億円の市場になると言われており、競合が入ってくるのは当然のことだ。技術で言えば、RPOの技術実証ができているのは、今のところスペース・ロジスティクスと当社の2社だ。スペース・ロジスティクスは、米国のノースロップ・グラマンの子会社だ。

ただ、“非協力物体”という位置情報も発しておらず勝手に飛んでいるような物体へのランデブー(が可能なの)は当社だけなので、我々が加速していかないと間に合わない。今は先手を打って我々のキャパシティを増やしながら事業機会を世界中で獲得しつつ、各国や国際機関とルール作りを積極的に話していくことを並行している。

ITUにも去年の11月に参加して、具体的にデブリについて考えている決議もした。今後、ITUのなかでも研究がスタートしていくのだろう。そのような取り組みをとにかく我々が先頭を切って待たずにやり続けることしかできない。とにかくそれを続けていきたい。

―アストロスケールHDが作成するドッキングプレート(DP)を備えた人工衛星がデブリなった場合には、サービサー衛星が磁石で回収して大気圏に再突入して処理するそうだが、DPがない昔のデブリに関してはロボットアームでサービサーごと再突入して処理するという理解で良いか
そうだ。

―当然、リスク管理をしていると思うが、どこに落とすかとの関連で、保険の話が出てくるのではないか。その辺りへの目配りはどうか
国によって規制が異なるのでプロジェクトごとにいろいろな国と対応している。保険も、あるものは使い、ないものは作っているので、リスクをいかに緩和していくのかというのは大事な考え方だ。ミッションごとにケース・バイ・ケースなので、保険については常に検討している。

―今後の予定について。次のステップにどのようなことがどんなタイミングでできるようになるのか
4つのビジネスセグメントそれぞれについて打ち上げを計画している。詳しくは目論見書に書いてあるので、ここでは繰り返さないが、今後3~4年後で複数機を打ち上げていく。4つのセグメントの実証と、顧客への提供価値がはっきりしてくるのが今後数年、数年でも短いほうでそうなるのではないか。政府需要が増えていくと考えており、できるタイミングで随時開示していく。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]