情報開示などで企業価値を投資家に伝え、そのフィードバックや外部の情報を経営陣や社内に還元して事業運営の望ましい方向性を提示しながら企業価値の向上につなげるIR(Investor Relations)の担当者。彼/彼女らの日頃の活動について前回に引き続き座談会を開催し、IR体制や業務分担、情報収集の工夫、外部機関の利用状況などを上場企業6社の担当者に話を聞いた。
参加企業(50音順、カッコ内は上場日と当時の主幹事)
・eWeLL<5038>(2022年9月16日、大和)、経営企画室大谷智仁氏
・セレス<3696>(2014年10月22日、SBI)、コーポレートコミュニケーション部IR・サステナビリティ推進グループ川上真帆氏
・タウンズ<197A>(2022年9月28日、大和/三菱UFJMS/MS)、経営企画室高橋清治参事
・note<5243>(2022年12月21日、大和)、 IR三浦愛梨氏
・ファーストアカウンティング<5588>(2023年9月22日、大和)、財務経理部IR小林明央氏
・ユミルリンク<4372>(2021年9月22日、野村)、渡辺弘一取締役
■専任は半数
参加各社の半数がIRの専任担当者を設置しており、ファーストアカウンティングとnoteでは1人ずつ、セレスでは担当者とマネージャーの2人という構成になっている。eWeLLでは経営企画室が担い、タウンズでは野中雅貴社長と経営企画室、総務部が、ユミルリンクでは清水亘社長と財務・経理責任者、マーケティング部門がIR業務を分掌している。
■業務は多岐に
具体的な業務分担に関して、決算短信や有価証券報告書などの作成は経理・総務部門やCFOが主導するケースが多かった。IR担当者は、決算説明資料や統合報告書、コーポレートガバナンス報告書の作成や、投資家との個別面談や個人投資家向け説明会の設定、日程調整、議事録作成など多岐にわたる業務を担当している。
eWeLLは経営企画室が中期経営計画やエクイティ・ストーリーの策定を含め広報業務も扱い、中野剛人社長や北村亜沙子常務と近い距離にあるため「柔軟な情報発信ができる」(大谷氏)。また、セレスでは都木聡社長がIRに注力しており、PRも連携していく必要があるとの考え方から、「広報とIR・サステナビリティ推進Gが密に連携している」(川上氏)。noteは経営企画とIRでCFO室を作り、鹿島幸裕CFOの主導で「会社の数字が実際にどうなっていくかを見ながらエクイティ・ストーリーを構築する形でIRの発信が全て進んでいく」(三浦氏)という。PRチームとの垣根も低い。
■適時のヒアリング
外部への発信に必要な情報は、社内の各部署に散在しているが、各部の担当者は日々の業務で忙しい。ファーストアカウンティングでは森啓太郎社長や社長室と連携しつつ、営業と開発、カスタマーサクセス部署の担当者に四半期ごとにヒアリングを行い、そこで得られる情報を投資家向けの質疑応答に活用。タウンズでは「部門長同士の連携で行っていることが非常に多い。ファーストコンタクトを取ってもらった後に、その部下のメンバーたちが合わせて動き出す」(高橋参事)。
ユミルリンクでは清水社長が主導して、資料をある程度まで作り込むため、「他部署に直接聞かないと分からない領域はほぼない」(渡辺取締役)。清水社長が関与しない部分については、必要に応じて各部門への聞き取りを行うほか、統合報告書など新しいものを作る場合には、各部の主要メンバーでワーキンググループを組むこともあるという。
■現場を見る
一方で、各部門が日常的に開くミーティングや会議に積極的に参加し、事業の進捗などを把握するスタイルもある。「“日々がIR”というように社内向けの情報収集をかなり意識して行っている」(eWeLLの大谷氏)。セレスの川上氏も、事業部単位のミーティングに参加し、キーパーソンを見つけて現場の情報を集める。そうした細かな情報を用い、進捗を財務責任者や経営層と擦り合わせていく。「投資家は、経営のビジョンや判断軸と同時に、現場が何を考えて、今どのようなこと重要視しているのかも知りたい」(川上氏)。そのような要望に応えらえるIRコンテンツ作りを念頭に置いているという。
noteの三浦氏は経営企画に近いチームにいることから各部署の進捗を把握し、鹿島CFOから、加藤貞顕CEOら経営陣とのディスカッションや新しい方針をタイムリーに聞く。現場レベルでの出来事は、メディアプラットフォームを運営するデータチームが追う数字を見る、あるいは網羅的な報告を受け、トレンドを月次で追いながら説明を考える。また、連携するPRチームが積極的に新規施策の情報を収集しており、「投資家向けに出せる情報がないか、定性・定量的に粒度の細かいものから大きいものまで自然と取れている」(三浦氏)。
広報部門の兼任や事業部門に対する日常的な情報収集を継続しているケースでは、投資家向けに公開するFAQ(よくある質問との回答)の作成も容易になる。「あまり労力をかけずに社内での議論をそのまま発信できる」(noteの三浦氏)。さらに、FAQに過度にこだわらずに「肌感があるものでそのまま答えられる」(eWeLLの大谷氏)という。
■事業部にも還元
情報収集の成果物であるIR資料を社内の各事業部門に還元するか否かに関しては、「一部ある」(ユミルリンクの渡辺取締役)。決算資料や統合報告書で大局の数字やKPIを参考にするメンバーも存在するという。また、この数年で上場企業各社の課題とされている人的資本に関し、「人がメインのビジネスなので、人材育成や教育に投資していく方針でいるが、外部向けの資料も見ながら理解を深めているメンバーが一部いる」(同)。
■ハードル下がるAI翻訳
IR業務を遂行するうえでは、組織内での分担に加えて、外部機関の活用もテーマになる。2025年4月に東証プライム上場企業での英文開示が義務化され、上場市場に関わらず英文開示が広まっており、開示資料の翻訳を外部に委託するか内製化するか各社それぞれに工夫がある。ユミルリンクとeWeLLは外部に委託しており、ファーストアカウンティングは、和文をChatGPTで翻訳しつつ、プルーフチェックを外部のベンダーに依頼している。「和文と英文を一気に自分で翻訳しながら理解していくので、説明する分には内容が頭に入って良い」(小林氏)。
タウンズとnote、セレスは内製で対応。noteは、過去に東京都の「FinCity.Tokyo」の英文開示支援プログラムで英文化支援を受けており、その際に作成した単語集なども併用しつつAIによる翻訳を活用し、「それほど手直しすることなくできている」(三浦氏)。また、参加者の話からはAIによる翻訳精度の向上で内製化のハードルが低くなっている様子も窺えた。セレスは有価証券報告書の英文化など対象の拡大や、海外機関投資家による企業分析に資するインフラとして「スポンサードリサーチ」の維持など開示の拡充を検討しているという。
■機関投資家、いつ買える?
外部の力という観点では、機関投資家を探索するためのサービスや、発行体と機関投資家を引き合わせるコーポレートアクセス業務を提供する会社の利用にも話が及んだ。後者については、面談の設定が難しい海外の優良機関投資家にも働きかけが可能で、すぐにセッティングできなくとも「株式を1年後や3年後、5年後に買ってほしいと考えており、買えるタイミングがいつなのかも含めてスクリーニングできるので、凄く役に立っている」(eWeLLの大谷氏)という。
一方で、エクイティ・ストーリー構築支援のコンサルティングに対する需要はさほど強くなく、「自社独自の文化を大事にしていくイメージがある」(ファーストアカウンティングの小林氏)、「規模がまだそれほど大きくないので、やりたいことや収益性の出るポイントが明確である」(eWeLLの大谷氏)といった声が聞かれた。
次回は、IRにまつわる情報発信に焦点を当てた議論を展開する予定。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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