~特別企画・法律事務所に聞く~
IPOを法的な側面から支援する法律事務所は、シード・アーリー期のベンチャー企業の資金調達をサポートする機会もある。大手金融機関の顧問や訴訟を手掛け、ベンチャーの相談にも対応するリンクパートナーズ法律事務所の菅沼匠弁護士と小野祐司弁護士に、ベンチャーファイナンスのトレンドやIPO手続きでの法律事務所の役割、今後の展望などについて聞いた。
■複雑化と標準規格の試み
―リンクパートナーズ法律事務所はどのような活動をしているのか
菅沼弁護士:社会人・非法学部出身の弁護士が多い。弁護士として法律の面だけではなく、事業の面や、悩みを持つ人に対して、なるべく同じ目線で相手や状況に応じた支援をすることを意識して、専門性だけではなく多様性も重視して取り組んでいる。
―複数の領域に携わりながらベンチャー支援を打ち出しているが、法律業界から見たベンチャー企業のファイナンスについて、これまではどのような状況で、どう変わってきたのか
私の経歴としては、監査法人と証券取引所の審査部、法律事務所、ベンチャー企業内での資金調達など、20年間ほどいろいろな視点で携わってきた。見ているなかでは、老舗の投資家として例えば、ジャフコ(現ジャフコグループ<8595>)が存在していたが、その後は多様な投資家がどんどん出てきているという感覚がある。
旧商法(2005年に商法・会社法に改正)の時代には使われていなかった種類株の発行が、新会社法になって急速に普及してきているのが、ベンチャー業界の投資の流れだと思う。私も経済産業省付けで、投資契約のガイドライン的なもの(「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」)の執筆に携わったが、種類株の導入に伴って、「投資家間の利害関係の調整等」も意識されてきている。投資家からのモニタリングが強まっている部分もあるが、投資契約として定める範囲も複雑化し、今は株主間契約や買収分配合意のようなものがある。
投資契約というと、引受契約のような株式を引き受けるだけのものに加えて、今は株主間契約として企業に対するモニタリングなども定めている。また、影響力が強い投資家間でも、「多数投資家がOKと言えば良い」とか、「モニタリングを誰に委ねるか」、そのほかとして持株比率の維持のような投資家間の権力関係も含めた契約が増えている。
買収分配合意では、M&Aの普及も相俟って、みなし清算やドラッグアロング(同時売却請求権)といった、優先株を持っている投資家を優遇するため規定がされている。そういったものが投資契約を複雑化させている。シード・アーリーステージとレイターのステージでは、ファイナンス契約の内容も変わってきているイメージがある。
付け加えると、最近「J-KISS(Keep It Simple Security、ジェイ・キス)」と呼ばれる資金調達のための投資契約書が出ている。Coral Capitalが、弁護士や司法書士とチームを組んで作ったもので、日本語と英文のものが存在している。
海外には、いわゆるコンバーティブルエクイティがあるが、それに類似させた日本の新株予約権だ。発行時点では株価はまだ固定しておらず次のラウンドで決まった株価で新株予約権を株式に転換させるスキームで、2016年に公開されたが、4~5年前から多く使われるようになったように感じている。
それを使うと、海外のコンバーティブルエクイティに近い機能が得られるので、「ひな型を使ってください」という要求に応え、普及させようとして導入されたものだ。当所のクライアント先でもつい最近、シード・アーリーステージでJ-KISSを使った会社が上場承認を受けている。
数値さえ変えれば良いという基本形になっているので、「公表されているJ-KISSを皆で使っていきましょう」と、規格として普及しやすくなっている。数値以外の部分を変えていくと、分かる投資家からすると、「何でここを変えたのですか」ということになり、発行会社は自分に有利に(規定を)敷いているのではないかと見られることになる。
発行会社にとっては、厳しい条項もあるかもしれないが、資金を受け入れる側として共通の水準からの交渉はやりやすいのではないか。ゆえに、J-KISSを発行会社として不利だと考えて受け入れなければ、別のメニュー、生株(普通株式や種類株式)で発行すれば良い。
■増える海外投資家
―単純だったものが複雑化しているが、新会社法ができて米国化していくという流れのなかで起こってきたことなのか
要因としてはあると言える。海外投資家がどんどん増えてきている。当所でも今、海外投資家からの出資案件が2~3件ぐらい走っている。海外の投資家は、向こうの尺度で捉えて投資契約を作る。それを日本の法制度や契約文化に置き換える作業をしていくと、シード・アーリーの時は、J-KISSが海外投資家にとって理解しやすい時もある。会社法の流れというより、海外の流れが期待として表れている。
―基本的には米国なのか、それとも欧州なのか
多様だ。中国マネーを受けているところもあれば米国の場合もある。シード・アーリー時期の発行会社は、通常であればそれほど投資家を知っておらず、プレゼンできるわけでもない。
有名な投資家づてで海外ファイナンスを行っているのか、あるいはその人の出身母体・キャリアの関係で海外からの資金を受け入れているのかといった多様な状況だ。欧米だけとは限らない文化が融合し、「ある海外投資家ではこういうニーズで来る」というような状況だ。
■コンプライアンスと金融支援
―業界のなかから、J-KISSなどの策定によって複雑化に対応しているとのことだが、シード・アーリー段階での資金調達から、その先に進んでIPOまで進む場合、法律事務所の役割について聞きたい。監査法人との棲み分けや連携などいろいろあるだろうが、普段どのような活動をしているのか
IPOで考えると、法律事務所に対する大体のニーズが、コンプライアンスを上場企業水準に高めることで、これは、どの法律事務所でも取り組む内容なのではないか。
次に、ファイナンス支援に付随した支援でも特徴が出てきている。ファイナンスが複雑化・高度化しており、種類株を発行している会社は種類株主総会の運営、投資契約や株主間契約を締結している会社はこれらの契約書に留意した運営をしなければならないため、法務やCFOの人たちも弁護士に質問するようになってきている。通常の法律だけではなく、ファイナンスに付随した運営や支援が求められている。
もう1つの特徴は、東証や証券会社への質問回答への助言や、意見書の提出、調査報告書の提出などだ。昔から弁護士の意見書が求められることはあったが、以前よりも弁護士の意見書を求められる事案が広がってきている気がする。また、最近では「セカンドオピニオンの弁護士の意見書をください」と言われる機会も増え、二重に取られる機会が増えているようになっている。
昨年も、東証に上場した会社が何社かあるが、意見書を3~4通ぐらい書いている。ほかの弁護士も例えば、フィンテック領域の弁護士がいればその領域の意見書を書いている。小野弁護士は信託法が専門なので、最近SO信託といったものがベンチャー界隈で普及したが、その事後処理としての質問を受ける。
■2種類の意見書
―意見書は、全ての発行体に求められるものではなく、ビジネスモデルが特殊であり、または今まで市場にないタイプの会社が出てきた時に求められるというふうに、状況によって変わるものか
2タイプあって、ビジネスモデルの新規性が高いがゆえに法令も付いてきておらず、解釈も文献もない場合がある。そういったところを、既存の法令などに照らしてグレーなのか黒なのか白なのか見解として意見を述べる。
もう1つのパターンとしては、「“過去にこういうことが起きてしまいました”ということに対して、“今はどうなっているのですか?”」というものもある。過去の法令違反がどの程度の問題だったのか、それが治癒されたのか。裁判を経ているわけではないので、我々のほうで事実認定して、法令に照らして抵触しているか否か、抵触しているとしたらどの程度か、抵触していたリスクの程度は現在どう治癒されたのか、上場して良い状態なのかを判断して意見書で述べる。
―過去に事業上何かあって、取引所としてもそれをどう判断するかという面でサポートしてほしいニーズがあるということか
取引所は法令の判断機関ではないので、上場審査基準に照らしてコンプライアンスに問題がないか、我々が言語化して評価し、提供している。
上場会社になるための一般の法律は、どの法律事務所でも求められるし提供できるサービスだろう。次がファイナンス層で、もう1つは特殊なIPOのものだ。それは、私が過去にIPOの経験者でもあるし、取引所の審査部にもいたことで、「こういう質問が来たらこう返せばいいのではないか」という話で、予備校でいう予想問題や模範解答といったところだ。
ただ、文字や言葉の回答があっても、実体として適正な運営がなければならないので、話は戻るが予防法務の観点から、「こういうのを見られるからこういうのをきちんとしてくださいね」、「嘘は駄目ですよ」というところから指導している。
■事務所のマインド
小野弁護士:私は大手企業で勤務した後、こちらの事務所に入ってきた。顧客が大手企業かベンチャー企業かで事務所に求められるものの違いはとても大きく、法務部にいて大手企業を顧客に持つ数多くの大手事務所の弁護士とも付き合っていたが、ベンチャーのファイナンスを分かる専門的な人が全ての大手事務所にいるかというと、そうでもなかったりする。
そもそもベンチャー企業の人たちは、ファイナンスの専門性、ネットなどによる資金決済関連の専門性、もしくは信託の専門性といった法律の専門性は当然として、それに加えてスピード感も求める。
大手企業を相手にする大手弁護士事務所の弁護士は、顧客がそれを求めているため時間をかけて重箱の隅を突つかれても大丈夫なものを作る。その代わりにどうしてもお金がかかってしまう。それがベンチャー企業の人たちが求めているものかといえば違っていて、そこにかけられる資金の点からもなかなか厳しい。大手事務所と、当所のようにベンチャー企業のIPOに対応している事務所は、スピード感やリーズナブルに求めているものを掴んで出す点で、事務所のマインドが大きく違う。
菅沼弁護士:好きでないとできない部分もある。ファイナンスが付いてこなくて「来月にはもう倒産してしまいます」と身売りか倒産をずっと検討したが、結局ファイナンスもM&Aもできずという会社もやはりある。我々は、そのような状態でも支援することもあるので、最後は気持ちで、何とか最後まで二人三脚でやっていく気持ちでやっている。事業会社にいたということもあり、専門分野だけではなく気持ちの部分もあるのではないか。
■連携は必須
―IPOの際に弁護士事務所を起用することはマストではないようだが、この会社は法律事務所を使わずに上場しているのではないかということは分かるのか
弁護士事務所を使うことは事実上マストに近いと思ったほうが良い。その理由の1つは、コンプライアンス体制の一環として例えば、反社会的勢力への対応のような緊急性のある有事の場合も想定し、IPO準備会社は、その一環として弁護士と連携できる体制を構築しておく必要がある。
弁護士との連携については、日ごろから相談でき、例えば、株主総会で総会屋対策などを想定して同席できる弁護士を確保しておく必要がある。その結果として、事実上、外部の法律事務所との間でも、顧問契約を締結しておくことが求められる。
規則や文献などで弁護士と顧問契約を締結すべき義務が直接書いてあるわけではないが、顧問弁護士を付けておくことが指導され、IPO前には顧問契約を締結することが通常となる。特段、暴力団対応に特化した法律事務所であるべきとか、そういう制限もない。人員体制がしっかりしていて、法律事務所を使っておらず形式上の契約だけの会社もあるかもしれないが、今は大体どこかしらとの顧問契約を締結しているのではないか。
弁護士へ頼むかどうかは、会社の判断になっており、各人で高度なファイナンスを進めている会社もある。一方で、誰も分からない状態、前任者がどんどん交替していくから、むしろ法律事務所のほうが資料を持っていて「過去にこういうことありました」という回答をすることもあり、社内の担当や「CFOの代わり」のように利用している場合もある。
その会社に試されているのは、自身が弁護士に相談すべきか、自分たちで処理できるか判断することだ。リスクが高いのに弁護士に相談しない会社は、上場会社としての適格性が試されているのではないか。顧問契約も大体締結しているだろうから、上場できる段階では、ある程度は自身で、「これは弁護士に頼むもの、頼まないもの」という判断はしていると見ている。
顧問先との関係では、内部通報窓口として携わることもあるが、内部通報も厳格化しているうえ、コンプラ意識の高まりもあり、顧問法律事務所が内部通報窓口をやることは望ましくないという意見も出てきており、さらにセカンド的な内部通報窓口の法律事務所も紹介するようになっている。
―証券会社の引受審査部といった部署から「勧めがあって来ました」ということはあるのか
当所は紹介づてが多い。その流れのなかで、公開引受部と引受審査部があるが、大体は公開引受部の担当者から「顧問がなければここで」とか、「意見が欲しければここで」と話が来ることはある。
―菅沼弁護士はある新規上場企業の社外取締役でもあるが、一般論として、役員としての関わりに加えて顧問契約を結ぶことはあるのか
基本的には役員で入っている先の顧問は引き受けていない。ごく稀にクライアントのニーズがあって、上場する前であれば担当するケースがあり得るというところだ。新規上場の段階になると純粋に社外役員の立場でしか関与しておらず、新規上場の会社は別の事務所と顧問契約がある。
小野弁護士:顧問は、基本的に会社の経営陣への顧問で、社外役員は経営陣を監視するので、社外役員が顧問弁護士と同じことをバリバリやってしまうと利益相反になってしまう。会社の事情にもよるし、上場前であればそこまでの話でもないが、別であったほうが好ましい。
―提供する機能やサービスが違う
菅沼弁護士:当所の場合は、ほかの会社などでの経験を持つ弁護士が多いため、社外役員の話は来やすい。単に弁護士だけの経験を積んでいる人であれば、顧問として入れば良いのであって、社外役員としてのニーズはあまり出てこないのではないか。
社外役員は、法律知識は専門として持っているけれども弁護士業ではない。今日も、東証と金融庁と経産省が共同で出していた「社外取締役のことはじめ」というものを見ていたが、それによると監督や戦略も見ていく必要がある。
―法律的な知識がベースにあるにせよビジネス的な要素が濃い
ビジネスやガバナンス的な、その組織を理解しつつということだ
小野弁護士:「社外取締役のことはじめ」のなかでも、「ガバナンスをちゃんと見るべきだ」ということがあった。もう1つは、「社外役員として会社の事業のことをよく勉強しなさい」ということが出ていた。
菅沼弁護士:それはもう弁護士であろうが会計士であろうが、そのほかの事業会社出身であろうが、社外取締役であればそういう視点であれということだ。上場会社の役員をしつつ顧問というのは、当所は行っていない。
■市場の変化、投資家の目線
―最近、IPOに関して、仮条件の範囲外での公開価格設定や期間の柔軟化など新しい試みがなされ、承認前提出方式などもこれから出てくるという話もあるが、そういったことも含めて最近の注目すべきトピックについては
市場設計がどんどん変わってきているのを、この20年のなかでいろいろ見ているが、マーケット自体がちょっと弱っているのではないか。
ただ、発行会社の上場のパターンとして、昔は赤字上場が少なかったが、だんだん増えてきている。増えてきたが結局成長しない、成長しないことによって上場維持基準が厳しくなっていることを、東証のスタンスとしては感じている。
確かに社会の目も、赤字上場が増えた今では「小粒上場やその後の成長が見込めない人たちは退場すべき」という意見がずっとある。成長性で企業価値が付きやすい環境はあるだろうが、成長維持力が従前よりも求められると見ている。上場する時だけ成長性を見せても仕方がなくて、その後の成長が維持できないと今後は厳しい。そこまで逆算して見られる可能性もあるのだろう。
ゆえに、配当などが期待できず、それを遡ると上場しても利益が出てこない。もちろん、売り上げが伸びていて、いつでも損益分岐点を超えるのが見えているような損益計算書の構造を持つ会社であれば良いかもしれない。だが、配当や利益が期待できないままでいると、投資家からは成長性の維持が見られるだろう。市場環境の変化で、今後は成長性だけではなく成長性の維持力が求められるのではないか。
―四半期ごとに成長可能性の説明資料が求められるようになったのも、その一環なのか
プライム市場はPBR1倍以上で、グロースについては成長性の説明をきっちりと求めて、あとは投資家の判断だというメッセージ性を感じている。
―最近の市場改革の件で、仮条件の上限外プライシングなどでは、助言も含めて法律事務所と関連するところはあるのか。
基本的には証券会社のほうで整備すると考えている。普段の取締役会議事録などは会社か弁護士がチェック・ドラフトするが、上場直前の必要書類は、IPOだけあってデリケートなので、証券会社も基本的にひな形で進めるようにレールを敷いている。もちろん、発行決議とオーバーアロットメントや公募・売り出しの諸書類は見るが、大体、証券会社で整えてくれている。
―承認前提出方式についてはどうか。ローンチ前から届出書を出せるようになって勧誘行為も可能になるとのことだが、助言なども含めて特にすることはないのか
東証の審査書類で、Ⅰの部の各種説明資料というものがあって、届出書と類似のものが走るようになっているので、それを届出書として移し替えるタイミングが早まるだけというイメージを持っている。
IPOはPOと少し違うのは、東証審査に入る段階で届出書に準ずるようなものができ上がっている。それをもとに審査も受けているという期間があるので、その作成が早まるだけかもしれない。
■上場企業が二極化
―今後の展望について。IPOとベンチャーファイナンスがこれからどういうふうになっていくか、ある程度見えるものか
今はちょっと景気に左右されているために、転換社債型のファイナンスも複雑化しているし、M&Aが積極的に行われている。
制度と景気の両側面での戦略的な変更があると見ている。昔からのトレンドからの比較で言うと、種類株の導入や買収分配合意の存在や景気やファイナンスが付いてこないのも相俟って、M&Aが増えているのは間違いない。
成長維持力が見込めない会社は、上場前にM&Aに走る文化が、より一層広がるのではないか。逆に、ファイナンスも大きなところは大型化しているので、そういう企業がどんどん買収していって、上場していく可能性があるのではないか。
大きくなっていくファイナンスができている会社は、銀行からの借り入れもしっかりできていて、資金も潤沢になっている。競合相手を買うのは難しいが、周辺領域の会社をどんどん買収する動きはある。上場が見込まれる会社はお金も付いてきて、体力がちょっと弱った会社を買収する非上場会社も目立ってきている。大型上場か上場維持力の付いた会社がしっかりと上場していく、二極化していく可能性をより一層強く感じている。
小野弁護士:M&Aの仲介業者でIPOした会社が出てきているが、仲介業者が中小企業のM&Aに力を入れていて、紹介がどんどん活性化しているところもあるという気はする。
菅沼弁護士:仲介業者も、今までは大きな規模の案件を扱ってきたが、今のM&Aを見ると、仲介会社が携わって1億円というものもある。確かに、M&A業界が広がっていることは、IPO業界にもベンチャー業界にもかなり影響は出ていると思う。
―ビッグツリーテクノロジー&コンサルティングが2022年に上場を中止し、親会社であったインテグラル<5842>が昨年に売却したケースと、スタジアムが上場前にエクサウィザーズ<4259>のグループに入るといった動きがあったが、そういったことは増えてくるのか
投資契約の複雑化と関連するが、1つひとつが融合している。買収分配合意では、優先株が優先的にM&Aの時に取り分を取れる。海外では非参加型が多いが、日本の場合は参加型で出資した分以上の分配を得ることができ、M&Aが出れば投資家は儲かるからという点もあると見ている。
同時に、ドラッグアロング(同時売却請求権)もあるだろう。M&Aでほかの株主も一緒に売らなければならない義務が付いているので、M&Aもしやすくなっている。体力がなくなってきた場合や、一定の上場努力義務の期間を経過した場合、ファンドの期限が来た場合、「これ以上経営をやっても伸びないよね」と思った会社は売却しやすい環境になってくる。日本の場合は経営株主が株式を50%程度持っていて、M&Aをした場合であっても、創業者利潤がゼロではない場合もある。もちろんゼロになっている会社もあるが、そこはマイナスでなくて良かったという側面もある程度ある。
■NASDAQ志望も急増
―MBOもだいぶ増えている印象だ
親会社都合や経営者都合で、増えている理由は各社各様だ。上場企業から良い事業が育って、その社長がMBOして上場していくパターンもIPOのなかにはそれなりにあり、それは理想型だ。
小野弁護士:IPO前の海外からの投資が入ってきて、「英文契約や投資契約も見てください」というのも最近は出てきている。NASDAQ上場を目指す会社も急に増えた。
菅沼弁護士:当所でもNASDAQ上場を目指すクライアントはけっこう出てきている。ただ、監査法人との連携に関する話だが、監査法人は大手であってもNASDAQ上場にはなかなか対応していない。監査報酬が億円を超えてしまう。
コスト面もあり、今日の日経新聞にもあったがSPAC(特別買収目的会社)を使う上場では、昨年2月に上場したA.L.I. Technologiesのように1年も経たずして倒産してしまうこともあるので、NASDAQは、上場とは言うが日本の上場とはイメージが違うものだと見ている。
2つの理由があるだろうが、日本の取引所の審査は、私も審査部にいたので思うのだが少し難易度が高い。元々東証グロースの前身であるマザーズができた時、本当は緩く上場できるコンセプトで作ったが、結局日本だと投資家はそう見てくれない面がある。NASDAQであれば、取引所のスタンスや投資家の文化などで投資家の自己責任がもっと徹底されている。
もう1つは日本のマーケットが、ここ20年と比べると、最近東証もちょっと良くなってはいるが、私が取引所へ行った時は香港取引所や上海取引所と比べて、東証や日本の取引所は優位性があった。今やそこと比較して東証のほうが、マーケットにお金が集まっていないのではないか。NASDAQ上場した会社は資金が集まりやすい。もちろん、きちんと投資家回りをする前提だが、そういう体験談も聞こえてくるので、日本市場の弱さがだんだん出てきている。
将来展望という点からここはけっこう重要で、日本のマネーが集まらない限りユニコーンという話も難しいのだろう。結局は、金融市場は需給で決まるので、マクロ経済の部分も考慮要素としては重要ではないか。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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