株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイト

上場会見:アズパートナーズ<160A>の植村社長、チャレンジする介護

アズパートナーズが4日、東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1920円を52.24%上回る2923円を付け、2423円で引けた。「シニア事業」ではDXを導入した介護付き有料老人ホームやショートステイ、デイサービスを提供し、「不動産事業」で介護付きホームの開発や老朽化不動産の再生、マンションなどの賃貸を手掛ける。植村健志社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

介護分野にもテクノロジーの導入やむなしの流れになっていると話す植村社長。DXによる効率化で夜間の定期巡視はゼロになり、介護記録にかかる時間は10分の1程度になっているという

―初値の受け止めは
介護事業という成長性が非常に分かりにくい業界と思っていたが、成長性を伝え続けてきたことが評価されたのではないか。投資家・株主の評価を継続して得たい。

―このタイミングでの上場は
コロナ禍の少し前ぐらいに、当社がこれから創業20年に向かってどんな会社になっていくのか社内で議論した。私は今58歳になる。13~14年間新入社員の採用を続けており、同業他社を見ながら、当社の風土や文化が好きで、当社で働きたいという若者が増えている。

この会社をこれからどうするかと思った時に、どこか大手のグループに属すということではなく、当社独自で培ってきた企業風土や文化、サービス、チャレンジしたテクノロジーの部分を活かして、「これから10年後も20年後もやっていきたい」という話が社内であった。

上場という選択肢を取って業界を変えたい、業界にいろいろなことを発信したいという思いもあって、このタイミングを選び、結果として創業20年目になった。

経営的な観点でいうと採用はこれからも楽になることはない。上場企業として採用に関する優位性を実感しているので、採用、営業、事業を広げていくところで上場会社になるという選択肢は、これから会社のステージを上げていくなかで必要だろう。

これからは、植村商店ではなく、上場企業として社会に貢献していく事業を、世代交代も含めて考えた。

―各ベンダーと共同開発したIoT/ICTプラットフォーム「EGAO link」の外販状況は
EGAO link を2017年に導入しており、コロナ禍では外販をほとんどしていない。今までは当社のホームを見学してもらい、例えば、(見学した企業が)パラマウントの「眠りSCAN」というセンサーを導入する時に、当社がコンサルティングをすることが少しあった。
松尾篤人取締役:販売手数料に関しては、平均2000~3000万円で、オペレーションを改善するコンサルティングは、今期はスポットで数百万円程度だが、今後拡大していくように動いている。
植村社長:これから本格的に力を入れていきたい。

―介護DX人材の事業上の位置付けについて。基本的に社内向けなのか、コンサル人材として活躍するのか
現在、ホーム長といわれる施設長のような立場の人間は、基本的にEGAO linkを中心とした介護DXのオペレーションを全て理解できている。ホーム長クラス、また、その上のチーム長と呼んでいるエリアのマネージャークラスがいるが、既に他社にコンサルできる人材だ。

これからは、現場のフロアのリーダーでITリテラシーが高く、新卒5~8年目の若い人材を介護DX人材として他社へコンサルできるよう育てて、外にコンサルをして、彼らも成長していける。また、コンサルをしながら他社のオペレーションを学ぶなかで当社のオペレーション変革や、EGAO linkの介護DXをコンサルできる人材を社内で増やし、輩出していきたい。

―介護報酬の改定について
介護報酬は3年に1回改定がある。2024年改定がつい先日決まった。私は業界団体の副代表や理事なども務めるが、国としっかりと、このサービスはこれから必要かどうか、どういうサービスが必要か対応している。

当社の特定施設入所者生活介護の類型とデイサービスはプラス改定になり、今回は訪問介護がかなりマイナスになる。サ高住や住宅型でうまくいっていないところや、制度を悪用というわけではないがうまく使って利益を上げているような業者がいる点もしっかり見て、顧客のニーズと合っていないことも含めて訪問介護は減額される。

介護付きホームとデイサービスの改定はプラス改定で、必要性があり顧客ニーズを捉えられる類型と国は判断したと理解している。介護報酬は、(当社に)テクノロジーのIT加算が付いたものも含めて、必要なものに対して加算が付き、基本報酬が上がるように類型ごとに見ていかなければならない。

―人材の確保策は
新卒は大卒の4年生が中心で、リクナビやマイナビ、会社説明会など一般的な媒体を使っている。介護系の学部の学生は2~3割ぐらいで、あとは文学部や経済学部や普通の四大卒の学生を採る。

当社の強みとして、現場を経験したケアスタッフがリクルーターになっている。現場で2~3年経験した人間が、本社の人事部、リクルーターとして学生に対応すると、「現場で夜勤が大変ではないか」、「介護の仕事はこういう辛いところがあるのではないか」という学生に対して、自分たちが経験したことを語れる。学生にしっかりと寄り添って、「介護の仕事のこういうところは大変かもしれないけど、こういう素晴らしいところがある」といったことを伝えていく。リクルーターが8人前後で対応しているが、他社とは違う。

あとは、介護付きホームの現場を見てもらう。スマートフォンとインカムを着けて先輩たちが仕事をしているのを見て、今までの他社の介護とは違うことを感じて入社してもらう。

―人材定着のために心掛けてきた方針や企業風土について
採用や定着にウルトラCはない。会社としてどれだけ魅力的になるか。魅力的な会社であることが採用と定着にあたってシンプルに大事だと思う。そういう意味では介護の仕事もそうだ。介護の仕事がきつい、汚いと言われて久しいが、「介護の仕事がやはり楽しい仕事だ」と思ってもらうことが大事だろう。

これは採用場面でもそうだし、介護の仕事が楽しい、当社で働くことが楽しいということをどうしたら実現できるか考えてやってきた。そこでは企業風土が大事だと考える。介護の業界で、転職して隣のホームに行って、また辞めて近くのホームに行くという業界だが、当社で働く意味や意義を皆で共有することが重要だ。

楽しく働くためには、介護の仕事を楽にして、本当にやりたかった「顧客に寄り添うことができるゆとりを持って働くこと」を目指してテクノロジーを早期に導入した。

仕事だけでなく、仕事以外の部分で、イベントやサークル活動などもしている。コミュニケーションを取って、仕事以外の部分でも一緒に何かを、1つのことをやっていく風土を作っている。

楽しむことに加えてチャレンジすることも風土として大切にしており、テクノロジーの部分もいろいろな意味で挑戦だった。現場では最初からうまくいったわけではなく、弊害もあったが、それをやり抜こうとチャレンジする風土を培ってきた。

定着に関しては道半ばで、もっといろいろなことが必要と想定している。現場で同じ仕事を3~5年やって、元々介護が好きで、当社での介護は良かったが少し飽きてしまうという若者もいる。

彼らに違うステージを用意する。例えば、結婚やライフイベントで夜勤ができなくなったスタッフには、デイサービスで活躍してもらうジョブローテーションもある。入社して4~5年目ぐらいで、デイサービスの所属長や施設長、センター長になる人材もいる。マネジメントは苦手だという若者は、プロフェッショナル的に介護福祉士からさらにケアマネージャーという専門職になって成長する。

または、リクルーターになって学生と触れ合うような部署に異動して輝いてもらう。新卒介護の現場を経験した人間が教育研修の部署や経営企画、経理などほかの部署で活躍する選択肢もある。

この会社で、長くいろいろな機会があって多様な役割ができる。そういう働き方を提供すれば、定着率も上がってくるのではないかと、今いろいろとトライをしている。

―定着率との関係で、給与政策の現状とこれからは
給与が高い会社で定着率が高いかというと介護の業界は意外とそうではない。逆に、運営がうまくいかない会社が、人を採れずに給料を上げることもある。

当社は、給料は高いほうではあると思うが、めちゃくちゃ高いというレベルではない。ただ、会社としての魅力ということに加えて、処遇・待遇は必要なので、会社が成長するとともに、処遇の対応をやっていきたい。

離職率を下げることは常に努力をしていきたい。新卒はロイヤリティが中途の社員とは違う。新卒正社員が増えて7~8割になっていて、離職率が下がってくることも期待して、そのような施策を取っている。

―2023年3月期から2024年3月期にかけての売上高の伸び率は33.9%だが、2024年3月期から2025年3月期にかけての伸びは4.2%の見込みだ。前期から今期にかけては特殊要因があるのか。普段は4%程度の伸びなのか
松尾取締役:シニア事業の伸び率は平均10~20%で、施設が増えることによって介護事業が少しずつ伸びていく。開設が重なるところで経費を不動産で補填するので、不動産の売上の部分で多少増減する。

―不動産の売上があると上下するのか
不動産の利益率で売上高が多少増減する。

―中長期的には首都圏でドミナント戦略を続けていくのか。あるいは京阪神や全国に広げるのか
植村社長:今、1都3県で展開しており、ここ1年は3県の計画が中心になっている。ただ、この事業は大都市圏でやる事業と考えるので、上場を機に当社の知名度や信用度が上がっていくなかで、人口密度が高く、世帯数と働き手が多い札幌や仙台、名古屋、福岡、大阪のような都市圏であれば、機会を見つけてぜひ進出したい。

―上場すると、急成長を市場から求められるだろうが、そのためにどんなことをするのか。M&Aか、あるいはオーガニックな成長か
東証のスタンダード市場を選んだのは、数年の間に倍々で伸びていく事業ではないからだ。事業を20年間継続しており、基本的には安定成長と考えている。

売上は10~20%程度を上げていきたい。利益も10%ぐらいの成長ができるようにと見ているのでグロース市場とは違う。施設の数やエリアを増やしていくことも含めた成長と、介護DXのコンサルティングなど新しい事業もある。

M&Aは排除していない。これから介護DXコンサルをしていくなかで、うまくいっていない事業所との出会いがたくさんあると見ている。採用も含めて、「アズパートナーズでやってくれ」という会社が出てくるだろう。その延長で、当社の子会社になる会社は出てくると考えていて、M&Aも検討したい。特に、大都市圏に進出するきっかけはM&Aなのかとも想定している。

―施設数の目標は
今までは、1つの介護付きホームの部屋の数が60~70室ぐらいが多かったが、今年から来年にかけて90室程度の大きめの介護付きホームになっている。人員効率や利益率・額が大きいので、大規模な介護付きホームを年間3~4棟開設する目標がある。

今期だけは100部屋を超える習志野(千葉県)の案件があり、タイミングによって2025年3月期は2棟だが来期は4棟の計画が決まっている。加えて、50人定員のデイサービスを3~4棟、年間に合計6~8棟ぐらいを開設していきたい。

―調達資金の使途は
松尾取締役:開設の設備資金がメインで、一部に当社で建てる土地建物があるので、その借り入れの足が出る部分に充てる。一部は借り入れの返済だ。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

関連記事