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上場会見:ハルメクHD<7119>の宮澤社長、3つの事業で支え合う

23日、ハルメクホールディングスが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1720円を15.17%上回る1981円を付け、2381円で引けた。50代以上の女性を主要顧客とし、定期購読誌「ハルメク」やWebメディアなどを扱う「情報コンテンツ」や、オリジナル商品を中心とした「物販」、イベントや講座・旅行を催行する「コミュニティ」の3事業を手掛ける。宮澤孝夫社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

読者の反応を徹底的に調査し、シニア女性に対する思い込みを排して成長につなげたと話す宮澤社長
読者の反応を徹底的に調査し、シニア女性に対する思い込みを排して成長につなげたと話す宮澤社長

―初値が公開価格を上回ったことへの受け止めは
米連邦準備理事会(FRB)の利上げによる金利上昇もあり、短期の今日だけでなく投資に対して非常に逆風のなかでの上場だった。難しい状況だったが、ストップ高で引けたのは大変嬉しい。投資家からの期待が非常に高いと感じており、身が引き締まる。期待に応え続けられるように様々な挑戦を続けて成長を目指したい。成長することによって企業価値を高める。短期では上下するだろうが、中長期で見ると、企業価値が確実に上がっていくことには一生懸命取り組まなければならないと改めて感じた。

―このタイミングでの上場はなぜか
1つは2020年にマネジメントバイアウト(MBO)をすることができ、我々の経営の自主性と独立性が上がった。そうしたなかで、成長していきたいと強く思っていた。その際、課題になっているのが資金だ。我々は、レバレッジバイアウト(LBO)を複数回重ねてきたことから、赤字ではないが負債がかなりある。負債がたくさんあるので資金調達余力が限られている。成長資金がもっと必要で、株式上場を目指した。

―第3四半期時点での業績の進捗は良好で、営業利益や当期純利益の伸び率が高いが、その要因は
1番大きなところは、新規顧客の獲得が順調に進んだ。その時の売り上げだけでなく、その翌年以降にも、ある意味ストックとして効いてくる。昨年から今年もそうだが、新規の顧客獲得が非常に順調であったのが最大の要因だ。雑誌についても、12月末時点では50万部までいって大量の新規購読者を取れている。同じようにもう1つ新規を獲得するための商品を新聞に載せて買ってもらうことも非常に好調で、たくさん獲得できた。

―ほかの女性誌に比べて部数の伸びがかなり高いが、他誌も最近は高齢者向けの特集も組んでいる。ハルメクが特に伸びている理由は
要因が3つあり、1つは顧客のニーズを等身大で理解する取り組みが大きい。我々はエネルギーをかなり使っているので、この違いが差になっているのではないか。

2つ目はダイレクトモデルであることだ。一般的に、雑誌は書店やコンビニで買うことが大半だろうが、そうすると誰が買ったか分からない。記事を読んで面白いと思われたものや、読まれたもの、満足度の高いものは分からない。ダイレクトモデルでは、雑誌の購読者を全員把握している。紙のアンケートを毎月1000通ランダムに送っている。そこで、記事単位での閲読率と満足度の調査をしている。どういう記事の満足度が高かったか、低かったか、自分たちの想定と違ったものは何だったのかを把握している。そうすることによって次の企画を考える時の参考にできる。

3点目は収益面。3つの事業を持っている強みで、今は日本で最も売れている雑誌でかなりの利益を生み出すことができているが、雑誌単体では一時期は赤字だった。そんな時代でも、書店になく普通は目につかないので、我々は雑誌を知ってもらうために広告費を使って、目に留まるように認知を作っている。このためには、億(円)単位の資金を毎年使っている。この資金を雑誌だけで捻出するのは、小さい時は厳しい。3つの事業のうち、特に物販の利益を使い、認知を広げて契約してもらえるように、ほかの雑誌社ができない(大きな)ケタの広告宣伝費を投入できている。3つの事業が互いをうまく支え合っていることが、雑誌を成功させることができた大きな要因だ。

―投資家は、顧客の新陳代謝を順調に進められるか注目しているが、見通しや取り組みは
新しい顧客を獲得する手法をどんどん増やす取り組みをしている。以前は、ハルメクの定期購読から、我々はハルメクワールドと呼んでいるが、そこに入ってもらっており、それ1本だった。

今は、新聞に全5段のカラー広告で商品を載せて、そこで買ってもらうように新しい入り口を作っている。将来的には(Webメディアの)「ハルメク365」で、インターネットを経由して新しい顧客を獲得する。また、コロナ禍で一時的に止めていたが、百貨店のなかに出店する店舗の展開を増やして、そのなかで初めてハルメクの店を見てもらい、商品を買ってもらい、ハルメクワールドに入ってもらう。入り口を複線化している。

顧客の平均年齢が上がっていってしまうのではないかと懸念する人も多いと想定されるが、新規で獲得する人たちの年齢は、平均年齢よりも低い60代後半の人たちが多い。こうすることで平均年齢が上がりすぎないようにしている。将来的にはハルメク365は、50代の人たちから入ってもらうことで、平均年齢をさらに大きく下げる。下げることが主目的ではないが、上がらないようにできる取り組みをしている。

―シニア女性だから成り立つマーケットは、男性に比べてどのような特徴があるのか
会社の優先順位という考え方では、シニア女性を今は優先すべき時期だと考えている。グループ全体で顧客は、3200万人いるうちの130万人ぐらいで、4%程度の水準でまだ少数だ。4%のマーケットシェアで、もちろん50~60%までは取れないかもしれないが、数十%まで持っていけると見ており、ここで他のところにリソースを分散するより、シニア女性のなかでのビジネスを大きくしていくべきだと優先順位を考えている。

ただ、私も男性なのでよく分かるが、仕事を辞めた後の男性は、女性よりも目標や生きがいを喪失しがちで、そういう意味では女性のほうがたくましい。シニア男性に対するニーズはけっこう強いと考えている。将来、役に立てるようなことがあればしたい。ただし、男性と女性の違いがあり、難しさも男性の場合はあるのではないか。

雑誌であれば生活誌はあまり読まない。趣味のゴルフなどに関しては読むが、情報を自分から取るのではなく、受け取るような形は少ない。コミュニティ事業でイベントを開くと、女性は非常に短時間で仲良くなって、10分後には知らない者同士で話をするなど人と交わることが非常に上手だ。男性はなかなかそういうことが難しい。そういう難しさもある。

―いつまでにシニア女性全体のシェアを取りたいという目標はあるか
まだ公表できるレベルではない。内々には持っている。

―まずは数十%を目指しているのか
よく例えに出すが、私の世代では、学校のクラスに大体40人いて、半分を女性とすると20人。20人に1人というのは5%なので、1クラスに1人いないというシェアなので、それは低い。我々のサービスは特殊なサービスではなく、広くシニア女性に利用してもらえるポテンシャルを持っているので、クラスのなかでもう少したくさんの人に利用してもらえると考えている。

―第4の柱としてサービス分野を拡大していきたいとのことだが、顧客層の特徴に金融資産が豊富であることから、金融サービスを提供する考えはあるのか
具体的な計画というよりも構想段階ではある。日本では個人金融資産の8割は、50歳以上の世帯で1600兆円を持っている。特に終活に関連して、相続など様々な金融に関連するサービスニーズが発生すると見ている。ここを捉えていきたい。

我々は(顧客が)元気な時代から一緒にお付き合いさせてもらい、そこで信頼してもらい、終活のなかでも「信頼できるところにお願いしたい」と言ってもらえるようにしたい。最近、有料老人ホームの紹介サービスを開始した。まだ小さなビジネスだが、こうしたものを大きくしていって、例えば相続は非常に複雑な手続きを要するが、そういったものを手伝うであるとか、金融の分野に非常に関連したニーズが高い。将来の構想としては持っている。

―M&Aは考えているのか
成長戦略でM&Aは考えていきたい。もちろん自分たちで作り出してオーガニックに成長するのは基本として考えていきたいが、BtoBもアライアンスという形でいろいろな機会を捉えて積極的にやっていきたいが。特に、単なる業務提携ではなく買収の可能性があれば積極的に活用していきたい。

―子会社のハルメク・ベンチャーズの事業上の位置づけや展開は
ベンチャーズという名前が表しているように、新しい事業にともかくトライしようとスタートした会社だ。ただ、最近は新しいビジネスを、必ずしも別会社を最初から作って始める形ではなく、むしろ会社のなかでインキュベーションして、独立会社として独り立ちできるようになったら分離する。その1つの成功例がハルメク・エイジマーケティングで、そういう考え方でやっている。

今は、一般的な新規事業というよりも、ヘルスケア分野での商品・サービス開発をする会社という位置付けに変えている。

―CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)的な動きをするのではないのか
CVCではない。CVC的にやるとしたらホールディングスが中心になる。

―長い目で見ると日本人が減っていくなかでこの事業でいつ頃まで成長できるのか
シニア女性の人口はまだしばらくもう少し増え続ける。年率の増え方はパーセントにすれば非常に小さな伸び率だ。減るリスクは、しばらくは低い。その後も減り方は比較的緩やかであるという意味では、まだ可能性はある。

我々のシェアはまだ小さいので、マーケット自体が小さなパーセンテージで減少してもシェアを伸ばしていくことで成長を続けることが、まずは国内でもできる。その先は例えば、男性マーケットには出ていかないのか、あるいは海外のシニアを対象にしたビジネスをできないだろうかということは、絶えず見ていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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