23日、アイビスが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格である730円の2.3倍に相当する1679円の買い気配で引けた。スマホ上で絵を描くためのモバイルペイントアプリ「ibisPaint」などを開発する「モバイル事業」、IT 技術者派遣サービスやアプリ開発などの「ソリューション事業」を手掛ける。ibisPaintの月間アクティブユーザー(MAU)は4080万人。今年1月には世界中で累計ダウンロード(DL)数が3億件に達した。神谷栄治社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値が付かなかったが、所感は
大変ありがたいことに人気ということで、期待に応えられるように成長していきたい。
―Windows版のibisPaintはどちらかというとプロ向けを意識したのか
機能がスマホやiPadなどと全く同じで高機能ではない。当社ユーザーの中高生がスマホで描いてきて大学でパソコンを買った、買ってもらったという時に行き先がなくて競合のアプリに100%流出していた。当社のファンがファンのままでいたかったのにという人がたくさんいたので、まずは受け皿的に作った。
スマホ版とiPad版、Androidタブレット版、Windows版は全部1個のソースでできていて一括でバージョンアップしており、この機種だけ機能が多いとか少ないというのはない。今後も基本的には全て高機能化していく。いくら絵が上手くてもプロの人はスマホでは描かない。仕事であれば1番良い環境で行う。そういう意味でもWindows版は重要だと考えている。
―ibisPaintについて、昨年12月に「AIが作成した絵ではないことを証明する機能」を実装し、画像生成AI対策が施された。今、画像生成AIに関する著作権の問題で、自分の書いた絵のデータが、勝手にデータセットに取り込まれてAIの学習に使われる一方で、AIの作成者側でもその点に配慮したものが出てきたと聞いている。例えば、AIに誤認させるようなデータを紛れ込ませて描いた絵を保護するような機能のようなものを製品に盛り込むといった考え方はあるのか
まず、学習セットに取り込まれたものが自動生成の絵で出てきてしまうことは著作権侵害ではないかとか、学習データセット自体が著作権侵害ではないかというのは、おそらく係争中で、世論がどうなるのか、世界中の著作権がどうなるのかまだ見えていない。
作った絵に対して、誤認識させる、学習の効果をなくすような目に見えないノイズを入れるような技術も出てきているが、これは本当に短期的な技術でイタチごっこということだ。それも含めて学習し直せば、超えられる技術が絶対に簡単にすぐできてしまうので、あまり根本的ではない。
ちょうど今日のニュースであったが、米国で、1枚の絵のなかの著作権のうち、人間が描いた部分とAIで描いた部分で、自分で描いた創造性がある部分だけが著作権として認められている。つまり侵害側の話ではなく、著作権を主張する側の人(の話)ということで、現在、世のなかの流れがどこに落ち着くのか全然見えていないのが現状と思う。
ibisPaint自体にそういう絵の自動生成の機能を付けるとか、妨害する、ノイズを入れる機能を導入するかはまだ検討中ではある。長期的には、大量に絵を描く仕事の人や、生産性を上げたい人はいると思うので、そちらはそちらで必要で、逆に現状の当社のユーザーは、中高生が絵を書く時間を趣味として楽しんでいる、または自分のスキルアップが楽しいという人もいて、両面考ないといけない。
―ibisPaintが出てくるまでにいくつかのソフトを作っており、そのなかで当たったものが残ってきたとのことだが、今後、ペイントを離れて別の領域に行く可能性はあるのか
別の領域に行く可能性は十分に高い。私自身絵が大好きでこれを企画したとか、絵をずっと毎日書いてますという人間ではない。ibisPaintは私が企画したが、売れそうなもの、勝てそうなものとして企画した感じだった。割と企画屋としてのビジネス方面がメインだ。
もちろん、今のユーザーに届く姉妹品というか隣の(領域の)製品という形で、このチャネルを使えれば強みになるものがあれば、そういうものも作りたい。そういうもののなかで勝てそうなものがないと思えば別のものもあり得る。
―ソリューション事業は安定収益だろうが、どのぐらいの力の入れ具合で展開しているのか。例えば、顧客層などを知りたい
ソリューションは、リーマンショックの2年以外は基本的には10%ぐらいの成長を続けており、順調に伸びてきている。今後もそういうペースを続けていくつもりだ。
―ガツガツ攻めていくというよりは
成長速度のボトルネックは技術者の数で、それに比例したビジネスになっているので、自社製品のように急激に何倍にもなることは難しい。採用ケースが律速要因となる。もうちょっと速度を上げる場合はM&Aでほかの会社を吸収する。お金を積んで速度を上げるみたいなものはM&Aしかない。
取引先は、特に業種に特化している感じではないが「モバイルアプリは強いですよ」みたいな感じのところは勧めている。業種としては金融や、東海地方であれば自動車関連など様々だ。
堀部拓人経営企画室 室長:SIer化の方針を掲げて進めている。
―M&Aに対する考えは
神谷社長:ソリューション事業で考えている。まだノウハウがあるわけでもないので、大きい形ではなく、同業でそれほど大きくないところから、最初のうちはトライアンドエラーになるのではないか。
―上場を機に認知をどう広げていくのか
海外の比率が多い状況なので、引き続き海外メインで広告費を投下していくイメージだ。
堀部室長:セオリー通りに広報機能を充実させたい。
―世界的にはどういう展開を考えているか
神谷社長:ibisPaintは、既存路線をそのまま延長していき、特に変化があるというか話題性があるものはない。
堀部室長:今の回答に付け加えると、欧州諸国やアジアなど比較的シェアが低い国が世界にまだあるので、こういった国を中心に海外への投資をさらに加速してアクセルを踏むという形で考えている。
―株主還元の考え方は
神谷社長:配当性向15~20%ぐらいで考えている。
―株主優待はどうか
現状で、プランは特に考えていない。
堀部室長:提供しないわけではなく未検討ということだ。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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