28日、Arentが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1440円を25.14%上回る1802円を付け、1483円で引けた。建設やプラントエンジニアリング業界の大手企業向けに、業務効率化や生産性向上のコンサルティングとシステム開発、SaaS製品の販売などを手掛ける。関連会社のPlantStreamは千代田化工建設<6366>とのジョイントベンチャーで出資比率は50%ずつ。Autodeskが提供するBIM(Building Information Modeling=建築部材の素材や品番・寸法・価格などのデータを組み合わせた3次元の図面を作成するもの)ツール「Revit」上で動作し、建物の鉄筋の配置を自動化する「LightningBIM 自動配筋」も開発・販売する。鴨林広軌社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

―初値の受け止めは
目論見価格を1750円と出して、公開価格は1440円になった。そこは超えられればとは思っていたので、初値でそこを超えたのは良かった。とはいえ、我々としても、初値や公開価格に関しても、そんなに売る気があまりなかった。「まだこれからいけるな」という肌感はあったので、自信を持っているからこそ、私もあまり(自分の持分を)売っていないと見てもらえばと思う。長期的には割安だと思っている。もちろん今回投資した投資家にとっては少しでも上に行っていて良かった。ここから先は業績を伸ばしながら、価値をしっかり出していければと思う。
―競合が存在する建設業界の品質管理領域について
個社名を伝えるのはどうかと思って言っていなかったが、説明資料にあるB社とC社、D社はスパイダープラス<4192>とアンドパッド、フォトラクションといった企業をイメージしている。どの会社も「品質管理だけではない」と言うと思うので、そこで気を悪くしたらいけないと思い個社名を出さなかった。
とはいえ、品質管理(領域)で、コスト削減のために最もそこに使われているのは事実だ。建設業界でも品質管理の領域はコストを使う部分でもあるので、そこに集中しているのが現状と見ている。建設系のDXというと、おそらくこの3社を皆が思い浮かべるのではないか。建設業界では、それ以外の領域も非常に多いということを伝えたかった。
例えば、A社は、建築の設計の設備領域のCADを作っている。売り上げが130億円だが、経常利益が97億円だ。利益率が8割近いというお化けみたいな会社で、こういう企業がニッチな領域にしっかり存在するが、意外と皆に気付かれていない。
品質管理分野は結構目立つ。海外でもプロコアというすごい成功事例があるので、「こんなすごくキラキラなスタートアップがいっぱい出てきているんだ」というようにイメージされる。ほかの領域に目を向けても凄い会社がいっぱいあるが、気付かれていないのでこういった図をあえて作った。投資家と話しても品質管理の企業しか出てこないことが多いためだ。
―建設業界でも複数の領域に進出するプロダクトが、今後いろいろ出てくるのか
いっぱい出てくると思う。既にかなり着手してきて、今年中には、当社のプロダクトもクライアントも含めてかなりのことを伝えられるのではないか。適宜、例えばJR東日本<9020>と自動配筋を使ったものを一緒にやろうという話も出ている。
―配管のシステムに関して技術力の凄さを言葉で教えてほしい。2年かかっていたところを1分でというものは、今までなかったものが技術として出来てきたからなのか、他社でもできるのか、Arentだからできるのか
いろいろな理由があって、これまではどこもできてなかった。千代田化工建設だけでなく日揮ホールディングス<1963>もITグランドプランで配管の自動設計をやりたいと言っていた。業界的には「これは改善したい」というのも明らかだった。理由は端的に言うと技術力があって、業界のことも知っていて、そこに投下する余裕のある資金を持ってるプレーヤーがいなかったからだ。
当社の強みで言うと三次元周りの技術で、三次元空間の最適化は結構難しい。数学力が非常に要る。加えて業界のことをよく知っている必要がある。知っていないと、どういうルールで最適化すればいいのか分からない。数学力と業界のことを知っている、この両方がないとできなかった。さらに今回はそれを事業化しているので、事業創出力があって、この三本柱が当社の強みだ。今まではそういうものを持ってる会社がなかったからできなかったという部分はある。
―優秀な人材を集めており、かつ物凄いスピードで組織を大きくしていくつもりはないとのことだが、オンボーディングの方針はどのようなものか
成長するスピードに関しては、年率で倍程度の成長が心地良い水準で、それぐらいのスピード感であれば、かなり速いとも言える。オンボーディングについては、建設業界のナレッジをいかにうまく伝えるかが1番のポイントになってくる。
当社が採用しているメンバーは数学力が強い人が非常に多いので、そういったメンバーの採用は倍成長程度の速度で堅調に進んでいる。世界でも採用していて、例えばベトナムやインドでの採用意欲が非常に高い状態で、ベトナムでは実際にかなりの人数を採用できる状態になっている。
完全な状態ではないが、今のところは数学力の高い人材を採用できているので、あとは順次建設のナレッジ(を伝える)。動画で貯めていたりテキスト状にしてもいるので、そういったところを参画してもらったメンバーにどんどんインストールしながら、当社で欲しい人材の像に近づいてもらっている。
―幹部は京都大学出身で、優秀な人材を継続的に採っていかないと思うように成長できないと思うが、東京大学や京大繋がりで採用していくのか。公募か。
公募だ。
―求めるレベルの人たちが来ているのか
ありがたいことに今のところは、人事のメンバーも非常に頑張ってもらっているが、幸いなことに望むペースで採用できている。いろいろな要因がある。例えば、フルリモートであるので優秀な人材ほど成果で見て欲しい。働いた時間や、会社に来て働かなければならないという話ではなく、アウトプットさえ出せばちゃんと評価していて、それに応じた給与体系も、そういった人にはロジカルに親和性がある。アウトプットを出して、「これだけやったら自分の給料はこれだね」という納得を得ていると肌で感じている。
だからこそ、例えば、信託型ストックオプション(SO)の報酬制度も入れている。実績を出した人にSOも含めて報酬をしっかり払える体制になっているのは非常に重要だ。かつ、そういうメンバーが多いので、働きやすいという実感があることが多い。業務体験もしてもらうが、話してみると、「何かこの会社働きやすい」と自分と近しいような人がいると感じてもらえるようで、「コミュニケーションコストが非常に少ない会社ですね」といってもらえる。皆、物作りに強い興味があるメンバーばかりなので、逆に、「物作りに関係ないコミュニケーションを別にしなくても大丈夫」みたいな形で非常にやりやすいと言ってもらえる。
給与体系や、今のメンバーの働きやすさ、フルリモートという環境の良さも非常に重要になっている。フルリモートがあるからこそ、海外でも採用が十分に可能になっているので、世界で優秀な人材を惹きつけられている感じはある。
―今年は何人採用したのか
最初の時点では、今年2022年6月末に、日本国内で40人程度、第2四半期(2023年6月期)までに20人採用できている。加えて海外メンバーが40人程度採れているので、余裕で倍になっている。
―来期は
そういったペースで採用できると見ている。国内を倍にするのは少し厳しいが、海外含みであれば余裕でできる。
―海外人材は、コスト面からの採用か、優秀な人材を採用するためにか
優秀な人材の採用だ。かつ、コストも割安であったりする。ベトナムでは半額ぐらいになるので、余裕でペイする。優秀な人、例えばその一例を挙げると、数学オリンピックでメダルを取ったような人でプログラミングもしっかりできる人は日本では年収1000万円では全然雇えないが、そういう人を300~400万円で採用できるので非常にありがたい。
フルリモート体制で柔軟にして、社内のメンバーでこういう人が欲しいとある程度決まっているので、そうすると採用は物凄くハードルが高いということはあまりない。
―フルリモートだとその人の住まいはベトナムか
ベトナムだ。成果で見ることも凄くマッチしている。例えば、エンジニアでは、コードを書いたら、その書いた部分がGitHubに残り、アウトプットが明瞭だ。どこで働こうが、「あなたのアウトプットはこれだから良いよね、これだから駄目だよね」という評価はすぐにできる。そういう形で評価している。
―営業はリモートではないのか
今は営業をしていないような状態だ。私ともう1人ぐらいでやっている。もちろん営業すればもっと取れるが、倍成長以上になる感じがあるので、会社としては文化が保てない感覚はある。あまりそこまで無理に営業していないのが今のスタンスだ。
どんどん採用していくとまだArentに馴染んでない人を顧客のもとにアサインしなければならない。ナレッジも伝えられていない状態で渡すと、建設のことも分からない状態で、社内でメンバーとうまくパスし合いながら行う。「この人にこういうことお願いしたら、この辺は楽だ」となるだけでも全然違う。そういうことが1~2ヵ月ではなかなかできず、3ヵ月~半年となると顧客ともすぐに馴染めるので、これらを考慮した採用となると、大体が倍弱の成長がちょうど心地良い。組織文化は結構大事にしている。
―成長スピードが年率100%というのは
今の規模感なので、20億円の売り上げであれば、それぐらいのスピード感は、ボトムの利益になってしまうかもしれないが、例えば、当社は、メインはサブコンの事業が多くて、そのDXを行っている。そこのフルのDXみたいなことにも何社かと取り組んでいる。
それがスーパーゼネコンになってくると、売り上げもシンプルに10倍近くになってくる。実際に規模も10倍ぐらいになり得る。かなり幅広くなってくる。そうするとそれだけでも今の売上が何倍かになる。
当社は非連続な成長をすることが多く、「30%成長いきます」という感じよりは40~50%成長があった後に、「いきなり1.5倍になります」みたいなことになり、それで累計すると2倍弱の成長となる。足元もこの2.5倍から10倍ぐらいまでが、年平均で190%ぐらいなので、プラス90%ぐらいの水準で成長している感じだ。1ケタ大きいクライアントが突然来ることがよくある。
―営業利益率は35%ぐらいを保てるのか
その程度の水準だ。保てると思う。
―保ちながら伸びるのか
そういうイメージだ。
―一旦開発したプロダクトに対しては、追加でコストが凄くかかるわけではないから、利益率はすごく伸びるのではないか
今のところは、どちらかというとクライアントの開発をすることが多い。
―今後、例えばプロダクトとして立っているものは拡販するのか
自社で保有していないプロジェクトもある。それは売るという感じではない。クライアントの経営の支援や開発の部分が今のメインだ。それ以外のところで自社で作ったり、他社と作ったものに当社が出資すると、自社プロダクトやクライアントと一緒に作ったプロジェクトが立ち上がっていく。
―建設向けの話がメインでロードショーを進めてきたと思うが、NFT関連のVestOneはどのような位置づけで、今後どうなるのか
日清紡とのジョイントベンチャーで、今のところ金融をメインで取り組んでいる。経緯などを深く伝えることはできないが、日清紡としてもスタートアップのナレッジをしっかり知りたいという部分があるので、今までのArentの建設中心の堅い部分というよりは、もう少しスタートアップ寄りでJカーブを描きながらしっかりやっていく。目先の売り上げと利益を堅く出していくというよりは、大きなものを狙っていく。
―これは、前職での経験が活きているのか
私はグリー<3632>にいて、確かにグリーにいた時の経験は活かされている。NFT周りはゲームとも非常に親和性があるので、そういったところを深堀りしいる。ゲームを作っていると、今ではChatGPTなども使わざるを得なくなってきているので、そういったことも絡めながらやっている。
―株主還元の考え方について
配当に関しては、株主の資本コストを上回る水準で成長できている間は、基本的には配当するつもりは今のところない。なぜなら資本コストを上回る水準での投資価値が見出せているという状態だからだ。ハードルレートは15%ぐらいという風に、私自身は置いているが、今のところそれを下回る水準では全くない。最低限のレートとして5年で2倍を目指している。
自社株買いについては、株価にもよる。株価が我々の考える本源的な価値を下回っている水準だと思えば、自社株買いで報いていこうと考えている。
―暗黙知を蓄積して建設業界のいろいろな領域に広げていけるとのことで、ソフトウェアの部門から始めているようだが、今後、事業拡大とともに、ハードウェア領域、例えば建設現場で、テレ・プレゼンスで何かしたりといったことも含めての展開の可能性はあるのか
先の話だが、そこを妨げているわけではない。あまり詳細は言えないが、ほかのクライアントでは、そういったことにも取り組んでいる部分はある。ソフトウェアに限らないような改善をしていく予定だ。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
よく読まれている記事
2024年10月17日 東京都5年債:自治体初の海外ESG、 久々のユーロ建てをサステナで
2024年9月4日 ヤマハ発動機<7272>:個人に重点、機関もしっかり入りたい
2024年7月24日 みずほFG永久劣後債:AT1ショック後初の逆回転
2024年8月21日 上場会見:オプロ<228A>の里見社長、ITをシンプルに
2023年9月28日 上場会見:AVILEN<5591>の髙橋CEO、AI技術支援の規模を拡大