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上場会見:カバー<5253>の谷郷社長、海外の熱量を高める

27日、カバーが東証グロースに上場した。初値は公開価格の750円を133.33%上回る1750円を付け、1400円で引けた。VTuberのIP(知的財産)開発や、女性VTuberタレントグループ「hololive(ホロライブ)」のプロダクションなどを手掛ける。東南アジアや英語圏にも展開し、在籍VTuber(ライバー)は75人。昨年11月にはメタバースサービス「ホロアース」の一部をベータ版としてリリースした。谷郷元昭社長と金子陽亮CFOが東京証券取引所で上場会見を行った。

人気VTuberを安定して育成するプロセスを確立したと話す谷郷社長
人気VTuberを安定して育成するプロセスを確立したと話す谷郷社長

―今日の初値の受け止めについて
金子CFO:難局のマーケットのなかではグロース市場で100億円程度で、フローティングで25%弱、長期の投資家に入ってもらうために相対的に大きめの流動性を、IPOであえて構成した。それゆえにほかの銘柄よりも株価が高騰するのは難しい環境だったと考えていたが、期待を超えて株価が大きく上昇した。こういった(市場の)強い期待に応えられるような経営を、長期目線でやっていきたいと気持ちを引き締めている。

―この時期に上場することになった理由について。欧米などの金融不安や、ロシアによるウクライナ侵略など、相場がかなり不安定な状況がある。あえてこの時期に上場することになった理由を教えてほしい
事業上の意義としては、今、狭義のVTuber市場、つまりYouTube上で顧客を取り込んで、そこにEC上でグッズを売っていくというようなマーケットに加えて、さらに広義のVTuber市場というものを広げていく必要がある。それは、強くしたIPを大型の小売店のディストリビューショや、メジャー音楽レーベルとの提携、あるいはゲームや漫画、他のメディアとのタイアップによって大きな市場を取っていく広がり方になる。そういった時に、強いメディアを持っている既存のプレーヤーとの交渉関係は非常に重要になり、上場は一定程度意義深い。

市場環境について、米シリコンバレー銀行の破綻や足元の状況は、上場が世のなかに出てきた後に公表されたものだったので、予想外のものではあった。確かにウクライナ戦争や物価不安などで、マーケットが非常に軟調ななかでの案件執行とはなったが、(上場を)見送っても先行き不透明感を完全に払拭することは難しい。底打ちが一定程度確認された今のタイミングであれば、事前のインフォメーションミーティングなどでも海外のロング投資家を中心に大きな投資意欲が確認されていたなかで、我々がこのタイミングで案件を執行できる確度が高いのかと見ていた。

―上場することで多くの人が株主となり、資金調達をする場合、上場前よりも厳しいジャッジがなされるのではないか
株主や多くのパブリックの投資家と上場後も付き合っていくことになるだろうが、我々は、競合と比較すると、メタバースや大型のスタジオ投資などのように、長期の投資をビジョンを持ってやっている。そういった長期の目線に付き合ってもらえる投資家とコミュニケーションしながら安定的な上場市場での値動きを目指し、結果として、それ以外の投資家も我々の取引に関わって、大きな損や(そのような)思いをする事がないような流通市場の環境を目指したい。

―海外の視聴者が4割ぐらいあり、海外での人気の高さを受けてグローバルオファリングを行っただろうが、上場前の説明会などで海外投資家とコミュニケーションした際に、どういう意見があったのか
グローバルオファリングというよりも、今回は国内オファリングを前提とした旧臨報方式という、日本語のドキュメンテーションで一部を海外投資家に販売できるストラクチャーで執行している。実際には国内外の投資家に対して当然マーケティングを行っているわけだが、事前のコミュニケーションやIPOのマーケティングなどで聞かれる声としては、このセクター自体の成長について非常に大きな期待が寄せられていると改めて感じている。

加えて我々のロードショーでは、このビジネスを単なるインフルエンサービジネスや芸能ビジネスというよりも、IPビジネスの側面が強く、かつVTuberというのは短期間に参入障壁の高いIPで、コミュニティを温めやすいという説明をしている。そこについて理解は得られていると見ている。まずIPを温めたうえで、それに基づいた収益性・拡大性の高いビジネスに繋げていくという説明をした。そこを説明通り進めていきたい。

―海外市場への直接上場の選択肢はなかったのか
海外投資家の立場になって見ると、我々が東京に根ざして、当然海外の顧客にも対応しているが、取引環境としては日本国内の企業として活動するなかで、海外に上場したとしても、日本企業の海外上場として見られる。キャピタルマーケットの経験から、米国企業の純粋な銘柄としては見られない可能性が高い。ストレートに東証で上場したうえで、日本の銘柄としての地の利を生かして日本株を運用する全世界の投資家に対して、我々の長期的な価値を普及させていくことが重要と考えていた。

―競合のANYCOLOR<5032>と比べると、男性VTuberの登録者数は、それほどインパクトのある数字ではないが、男性VTuberの世界は、女性VTuberとは違うのか。違うとすればどう伸ばしていくのか
谷郷社長:そもそも我々は女性VTuberが強く、ANYCOLORは男性VTuberが強いプロダクションで、それぞれの強みを生かした形でチャンネル登録数が比例して存在する。これ以上はちょっと答えようがない。

―ANYCOLORに対する競合優位性は
チャンネル登録者数の大きいVTuberを抱えていることが競争優位性で、理由の1つは、コンテンツを多言語でしっかりローカライズしてグローバルに提供している自社の努力にある。2点目はそういったことをベースに、グローバルにファンのコミュニティが存在することだ。結果として、例えば日本人のVTuberに海外でも顧客がいる状況になっており、結果としてチャンネル登録数的には非常に大きいVTuberが存在している。

―営業利益率はANYCOLORが上回っているが、それは、カバーがスタジオやメタバースに投資しているからなのか
営業利益の違いは、グッズのプロダクトミックスの違いだ。想像の域を出ないので我々の事を説明する。我々が今まで行ってきたグッズ販売は、ANYCOLORが販売するようなグッズ展開ではなく、タレントの記念日、具体的には周年記念や誕生日といった記念日に販売する受注生産のグッズを重要視してきた。

背景として、こういったグッズは、タレントへの収益還元が大きく、その活動の支援に繋がると考えていたからだ。一方で、ANYCOLORは、会社が主導するようなグッズを大きく企画・販売している。ECサイトを実際に訪問してもらうとすぐに分かることだが、我々のサイトで何か買おうとしても、ほとんど受注生産品で今売っている物があまりない。ANYCOLORは、今売っている物がたくさんあり、タレントの記念日に紐づくようなケースはあまり展開していないと思う。

我々としても、上場を機にコマースの展開を強化していく。例えば、在庫リスクも取りながら、店頭あるいはECサイトでファンになった人たちが、ファンになった瞬間に買える商品を提供していきたい。つまり、今は機会損失しているような状況で、結果的に我々は利益率的には劣後している。

―今後のマネタイズについてもう少し詳しく聞きたい。足元ではグッズ販売やタイアップという、IP活用がコアになってくるだろうが、ほかに業績の伸びしろや、今後の第3フェーズでのメタバース事業はどのような稼ぎ方になってくるのか
(成長戦略の)第2フェーズはコマース展開としているが、メディアミックス展開全般になる。これは中長期的に非常に大きなビジネスになっていく想定だ。

短期的には、それがコマースやライセンスのビジネスだ。ライセンスは、足元ではフィギュアなどのライセンスが中心になっていて、来年度の収益のライセンスや、コマースのビジネスが牽引していく。

再来年度以降に関しては、それ以外の、例えばゲームへのライセンスアウトや、アニメーションの企画など、多様なメディアとのメディアミックス企画を実現していける可能性が、こういうIPのビジネスではある。

メタバースに関しては2024年ローンチになるが、本格的なマネタイズはおそらく2025年以降になる。主に2種類を想定している。1つは今も実験的に実施しているライブでのマネタイズ。ライブのチケットを販売するよりは、ライブ時に投げ銭などをしてもらう、あるいはライブと連動するようなアバターグッズや物理的なグッズを販売していく。

もう1つは、いわゆるアバターの衣装販売を想定している。ユーザー数が増えるに従ってアバターの衣装の販売も可能性が広がっていく。ビジネスとしてはモバゲーやアメーバピグなどをイメージしてもらえると少し分かりやすい。

―第4四半期にグッズ販売の売り上げが跳ね上がるという話だったが、プロダクトミックスの調整で平準化していくのか
金子CFO:一定程度平準化してくると想定されるものの、急激に平準化するというよりも徐々に平準化していくと見ている。

谷郷社長:基本的には、夏場に大型の企画が発生する以上、第4四半期などにグッズの大きな収益が乗ってくる事自体はプロダクトミックスの平準化に関係ない形で起こってくる。

―海外戦略や事業の展開方針は
我々は昨年度、海外のアニメ系の21個のイベントに出展して、ファン向けのイベントを開催してきた。今年も18のアニメーションのイベントに出展する予定のほか、7月にはロサンゼルスで英語圏のタレントが出演する大規模なライブのイベントも実施する予定で、特に北米を中心として我々のプレゼンスやファンの熱量を高める。

そのうえで、ライセンスについてもコマースについても、海外に関してはまだまだ需要に対して供給が追いついていない。海外向けのライセンスビジネスの強化や、コマースで海外の人に買ってもらいやすい商品の開発などに力を入れていきたい。

―ほかの東南アジア諸国やアジアの国などへ地域を広げていくのか
収益性の面で、やはり北米圏や東アジア、東南アジアという順番で非常に重要と見る。日本や東アジアのエリアはいわゆる課金意欲が高い顧客が多い点で重要ではあるものの、北米圏は人口が非常に大きいため非常に重要なエリアとなる。

東南アジアに関しては、足元の収益面での貢献はそこまで大きくはないが、中長期的に非常に成長している諸国として重要になってくる。

―中国のYouTuber市場をどう見ているか。bilibiliや何かで盛り上がっていると聞くが、カバーとしてはどうか
金子CFO:中国についてはVTuber以外も含めエンターテインメント全般について日本のプレーヤーが、今非常に活動しにくい状況になっている。言葉を選ぶものの、中国大陸の展開のエンターテインメントの規制が強い状況にあり、日本のアニメのパブリッシャーなども中国国内での展開が難しい状況が続いている。

ただ、一方で中国語を話す人々という意味では、香港や台湾、マカオ、あるいは欧米にも中国語を話す顧客は大勢いて、我々のファンも非常に広く分布している。簡体字・繁体字圏に対して、我々のコンテンツをローカライズしてコマースを拡大していく伸びしろは大きい。

―かつて中国に進出していたことがあるが、その経験も踏まえて今は簡体字圏に行くのが得策ではないということか
文化圏として簡体字・繁体字圏に行くのは十分可能性があり、伸びしろとなる。一方で、中国大陸で展開するとなった時に規制が強い状況にはあるので、収益性の観点や優先度としてはやや劣後すると見ている。

―ホロアースが本格的に稼働した際のエコシステムについて、それ自体でマネタイズしていくのか。今のところMinecraftのようなUIに見えるが、今後の流れとして、ハードウェアの進展に伴いVRやARといったものに進んでいくのか
谷郷社長:まず、VR・ARへの対応は基本的には考えていない。あくまでFortniteやMinecraftのようなマルチプラットフォームのオンライン3Dコンテンツであると理解してもらいたい。ただし、例えばライブの体験だけをVRで提供することはあり得なくはない。

ビジネスモデルに関しては、基本的なところはアバターの課金が大きくなってくると見ている。コンテンツが非常に人気を得たあかつきには、そのなかでのUGC(User Generated Contents=ユーザーが作るコンテンツ)の販売、あるいはUGCに限らないサードパーティのコンテンツ販売の場所として機能していく可能性がある。

―そうすると、かなりオープンなものを想定しているのか
オープンというのがなかなか難しい表現で、既存の、例えばVRChatがオープン過ぎることによって、一般の人にとっては、何を遊んで良いのか分からないような空間になっている。既存のVRChatに比べると、統制が取れたクローズな空間にはなってくるのではないか。

―ここ何年かで登場してきたAI VTuberは脅威なのか。それとも、ゆくゆくは1つのコンテンツになって収斂していくものなのか
人のVTuberとAIのVTuberは、楽しみ方が別のものである。また、AIは、例えばメタバース内やゲーム内での役割も、また違うものになってくる。

今、人のVTuberは、あくまで、1人ひとりは演じているのではなく、1人のクリエイターとして夢を持って活動し、それをファンの人たちが応援することが、いわゆるコンテンツになっている。

一方で、AIのVTuberは、応援というよりは、それをどうやって皆で一緒により良いAI VTuberにしていくかという風にトレーニングしていく。要するに、ボーカロイドに少し近いコンテンツで、あるいは、例えばメタバースのようなゲームの中でのAIは、誰かオンラインで接続しているプレーヤーがいなくても、自分の相手をしてくれるようなエージェントとしての役割を担うのではないか。

それぞれ役割が違い、脅威というよりは、それ自体がVTuberやバーチャルの経済圏をさらに拡大していくような役割を担う。

※noteにも記事があります。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]