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上場会見:ワンキャリア<4377>の宮下社長、新卒・中途の就活を可視化

7日、ワンキャリアが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(2090円)を19.6%上回る2500円を付け、2200円で引けた。キャリアデータプラットフォームを活用した採用DX支援サービスを提供し、就職支援メディア「ONE CAREER」や「ONE CAREER PLUS」を運営する。求職者の声を中心とした就職活動の体験情報や行動履歴を蓄積。就職・採用の意思決定に必要な情報を求職者と企業の双方に提供する。宮下尚之社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

これまでオープンになりにくかった情報を1万社分保有し、情報収集・分析ツールとして使えることが既存サービスと全く違うと話す宮下社長。エントリー前のミスマッチを低減するという。
これまでオープンになりにくかった情報を1万社分保有し、情報収集・分析ツールとして使えることが既存サービスと全く違うと話す宮下社長。エントリー前のミスマッチを低減するという

―初値が公開価格を上回ったことの受け止めは
投資家に期待されていることに、まず感謝している。このような機会で身が引き締まる。改めて投資家からの期待を感じており、今後より一層事業に邁進していきたい。

―ユーザー獲得率が急激に上がっているが、その成功の理由は
これまで、いわゆるHR(Human Resource)のマーケットでは、特に新卒に関して情報がクローズドになっていた。例えば、ある会社がいつ選考を開始するのか、どのような人たちが何人内定しているのかは企業によっては公開していなかった。我々はこのような情報を求職者の体験談という形で収集し、今まで可視化されていなかった情報を可視化した。これがまず大きい。

特に重要なのが優れたユーザー体験で、情報を可視化することで、学生が就職活動をより効率的に進められる。その結果、多くの人を通じてSNSなどで情報が広まって、高いユーザー獲得率となっているのが現状だ。

―古くからある他社も口コミなどを重視しているが、それらと比較した優位点は
昔からいわゆる掲示板サイトや就職に関する情報サイトはあったが、そのような情報は玉石混交で真偽が分からないものが多かった。特に掲示板サイトは半分以上が嘘の情報が掲載されていることが特徴だった。

我々はユーザーに情報を投稿してもらうが、その情報を検閲し、正しい情報だけを掲載する仕組みを持っている。「1次面接で何を聞かれたか」、「グループディスカッションでテーマになることは何か」と正しい情報を出せたことが古くからある掲示板サイトとは違う点だった。

―これだけ短期で伸びたのは、プロモーションやマーケティングで独特のものがあったからか
2017年頃までは広告費をそれほど使っていなかった。最初に情報感度が高い人にアプローチすることで広がってきた。例えば、サマーインターンシップにたくさん参加する慶応義塾大学の学生などに集中してコミュニケーションを取ることで、情報感度の高いところから広がっていく。マーケティング戦略がうまくいった。

2018年からキャンペーンや広告活動に注力し、それによってユーザーが一気に増えた。具体的には、「ES(エントリーシート)公開中」というキャンペーンを行った。当社のサイトでは学生が書いたエントリーシートを見られるようになっている。WEB上で見られるESを紙で印刷し、渋谷駅の構内に設置した。就活生だけでなく、その親やいろいろな人たちが手に取る姿を新聞やいろいろなメディアに取り上げてもらうことで、一気に認知率が高まった。

―コロナ禍などで採用抑制があり、中長期では新卒者の数が減るが、高成長を維持していくためにはどうするのか
コロナ禍への対応については、2019年までは催事のようなオフラインでのイベントを行っており、影響はあった。ただ、オフラインの説明会を他社に先んじてオンライン化することで危機を乗り越えられた。今後は、少子化がある一方で、大学進学率は向上しており、新卒採用の就職者数は63万人程度で推移しており、直近の傾向は維持されると考えている。より長期的にどのように成長していくかというと、新卒領域だけでなく、今チャレンジしている中途採用の領域にも拡大していく。

―成長戦略は
契約数の拡大と受注単価の向上、事業領域の拡大だが、契約数については、51人以上の大規模採用を行う企業は22.2%のカバー率なので、残り80%弱にしっかり訴求して増やしていく。これは今持っている商品で十分できると考えている。大多数を占める中小規模の顧客は、新商品を開発していく。今は大規模顧客向けの商品が主なので、廉価版の商品を開発する予定だ。上場で得た資金もそうだが、マーケティングや営業活動に投資する。

受注単価の向上は、初年度を100の売り上げとすると、2~3年目で200、250とアップセルを実現できている。使ってもらう商品や、その量を増やすことで可能になっている。顧客のDX の完遂を支援するサービスをより多く作ることで、受注単価向上を目指す。

事業領域の拡大は、中途採用領域に展開していく。我々は若年層には認知度が高く、使ってもらっているので、そのユーザーのなかから中途採用のユーザーを増やすことを想定している。優れたユーザー体験と、それによるユーザー獲得のサイクルを回すことは新卒領域と変わらないと感じている。中途採用では、これまで作ったアセットを求職者に提供していく。また、これまでの782社の顧客に対して、新卒だけでなく中途のサービスも訴求していくことで事業の拡大を見込む。

―中途採用向け事業では求職者のキャリアが点ではなく線で見えることになるが、この6月に開始して、キャリアパスの再現性について何らかのパターンが見えてくるのか、既に見え始めているのか
中途採用でどこからどこへ行くのかという傾向は、海外ではLinkedInというビジネスSNSのサービスでn=1(個別)のデータをたくさん見られる。日本では200万人しか登録者がおらず、どう転職していくのか実例が見えにくい状況だ。

ONE CAREER PLUSというサービスでは、最近では、GAFAなど転職市場で注目を集める企業にアクセスが集まっている。どの会社からどの会社に転職したかという再現性は、集めたデータから傾向が見えてきている。

例えば、これまではA社からB社というIT企業に転職することが多かったが、コロナ禍以降、A社に入社した人たちはC社に行くというような傾向は、より顕著になっている。ほかにも、大手企業からスタートアップに行く人が増えているといったことは、既にデータで見て取れる。

―集積したデータを、いろいろな領域に活かすとあるが、金融であれば与信判断などに使うというイメージか
教育や金融、不動産などの領域だが、金融では与信判断のようなものがあると思う。就職先やキャリアが分かればその人の信用力もある程度判断できる。そういった領域のビジネスを我々のデータによって拡大していくことが可能だ。

教育では、最近は大学関係者から連絡がある。「この企業にはどのような大学から入社しているのか」、「どのような高校の出身者がどのような就職先や業界に進むのか」という質問をよく受ける。就職先やキャリアに対して教育からアプローチすることは、日本では一般的ではないが、欧米諸国のようにキャリア観を醸成する教育は今後必要になる。そのような場面で我々のデータと使ってもらいたい。

―キャリア教育関連では、コンサルティングの領域にも展開できるのか
我々のデータを使うことで採用のコンサルティングを実際に現在も行っている。「情報系の学生が欲しい」という場合に、具体的にどのような企業とバッティングするのか。例えばGoogleとバッティングする場合に、Googleがどのような採用手法を採り、いつ内定を出すか把握して勝てる戦略を作っていかなければならない。我々のキャリアデータを見て一緒に戦略を作っている企業もある。

―ユーザベース<3966>のファンドとPKSHA Technology<3993>関連のファンドが株主だが、関わり方は
事業では直接な提携はない。例えば、我々が動画事業を始める際に、ユーザベース・ベンチャーズ(UB Ventures)には、NewsPicksなどのコンテンツをどのように運営しているかなど、どのような機材を使えばいいかといったことも含めて順次相談している。

PKSHA Technologyは、就職は企業と個人のマッチングであるので、マッチングに際してのアルゴリズムでどのようなものを作っていけばよいのか、技術的な観点からアドバイスを受けている。

―PKSHA Technologyにアルゴリズムを作ってもらっているのか
それはまだない。

―KPIの法人取引累計者数は直近で782社だが、どのぐらいに拡大していきたいのか
3万社強がターゲットにできる顧客として存在すると考えており、具体的にどこまでと数字の面では言いにくい。ユーザーの獲得率は54.5%で6割に迫る勢いになっていて、毎年10%以上多くの人たちに使ってもらえているので、ユーザーと同じような規模になるように進めていきたい。

―毎年10%ぐらいで増えていけばよいというイメージか
長澤有紘副社長:10%ずつシェアが増えているので、増加率ではない。契約数が売り上げと概ね連動した伸びになっているので、(伸びを)しっかり牽引できるように取引社数も増やしていく。

―成長著しいが、財務の安定性、自己資本比率についてどう考えるか
宮下社長:自己資本比率は、これまでエクイティでの調達、増資を一切せずに借り入れだけで進めてきたが、上場を機に自己資本比率を高めて健全な財務体制で事業に邁進したい。

―定量的な目標はあるか
長澤副社長:具体的に今置いているものはない。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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