30日、アスタリスクが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(3300円)を74.5%上回る5760円を付け、6310円で引けた。スマートフォンに装着して使用するバーコードリーダーや無線自動識別(RFID)リーダーの「AsReader」シリーズを開発・販売する。スマホ装着タイプは専用機より安価で導入でき、汎用性が高い。小売りのほか、物流や医療現場でも利用されている。国内で唯一米アップルの認証を受けており、米国と欧州でも事業を展開している。鈴木規之社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値が高かった要因は
もっと高くてもいいのではないかと野村証券には話していた。これぐらいにいってほしいと思っていた価格には到達した感じだ。初めての経験でもあり、いい方向に向かって良かった。
―もっと高くてもいいのではというのは、業況が好調であるためか
ネットのブログなどを見ていると、いろいろな意見がある。プラスの意見もあり、ネガティブな意見もある。プラスの意見は、「応援したくなる会社だから応援しよう」という動きがある。IPOの株の普通の動きでいえば、ベンチャーキャピタルが入っているから、株価が1.5倍になる時点を境に、どう動くかと考えていたが、今日1日だけの部分ではそれなりに良い値を付けてくれた。
―製品の強みは
スマートフォンとセットで使うのは世界でもあまりない。多少はあるが本格的に使っているのは多くない。モバイルというキーワードでは、かなり強い。一番強いと考えているのは柔軟性だ。大手企業に採用してもらうケースが多いので、「この部分だけがこうだったらいいのに」というちょっとしたニーズが多い。きめ細やかな対応ができている。バーコードではそれが一番強い。スマホ装着型のRFIDは世界中でもあるのかというぐらい出ていない。
―スマホに装着する端末の良さは低価格と汎用性か
低価格もあるし、操作性がある。教育がほとんど要らない。我々の顧客で、チョコレートの販売で使ってもらっているパターンがある。バレンタインデーの時期に1000~2000人のアルバイトを雇う。昔は教育に時間をかけていたが、今は紙(説明書)1枚で足りる。操作に困ったら操作を説明するビデオもそのスマホで観られる。ビデオを観て自分で教育することになる。入社教育もスマホでできる。ログインIDと紐づけることで誰が教育の動画を観たか否かが分かり、管理できる。コストや操作性、性能でも勝る。スマホと専用機では、スマホの方が、圧倒的にCPUが良い。将来性もあり、すぐに代替機を確保できる意味でのスマホのほうが保守をしやすい。
―バーコードリーダーの市場で、どの程度が汎用機からスマホへの置き換えられる見込みか
見込みは難しい。ただ、5年前に我々がそうした提案をした時には「スマホでやるのは本当に大丈夫なのか」と日本の大企業はほとんど見向きもしてくれなかった。外資系企業には振り向いてもらえた。ただ、今こんな形になって、皆が普通に使っているので「スマホでいいのではないか」と認識してもらえてきて、話はしやすくなった。きちんと提案できていれば 半分とはいかないまでも、それに近い確率でスマホか専用機か検討する状況になっている。
―ストック収益の割合はどのぐらいか
AsReader事業のなかにはハードウェアもあり、我々がパッケージ商品として企画したものもある。これらが全て同事業に含まれる。そのため、パッケージとして出すソフトウェアの月額課金モデルや、ハードウェアの保守サービスもある。大手企業は機器の修理が必要な場合に都度見積もりをしていると業務を止めてしまうので、運用を止めない仕組みづくりをしている。その収益が今積み上がっている。
―RFIDリーダーをドローンに搭載することは可能か
可能だ。そのような話をもらうので実証実験でいくつかやってみたことがある。ただし、実際は話題性が先行し、実運用でドローンでRFIDを使うのは少し早い感じがする。
―安定性の問題か
ドローンへの信頼性をどこまで持っているかによる。例えば、店舗内に飛ばす場合、夜中に飛ばしたとしても落ちた時にどうするのかという懸念もある。特に、日本人は心配性な部分が多く、踏み切るのはしんどい。
―画像認識に注力するそうだが、スマホと組み合わせて使うものではないのか
スマホとは少し外れている部分がある。ただ、レジでいえば、端末が全てiPadであったりするので、タブレットを使う。画像認識のシステムの基礎は、スマホと関係ないが、例えば、遠隔で確認したり、通知を受ける場合にはスマホを使い、関連するといえば関連する。
―画像認識の分野は競合は多いと思うが、優位性は
画像認識関係の商品群は少ないと。作ってくれと言われて作れる会社やシステムインテグレーションできる会社はだんだん増えている。我々は商品群をレパートリーとして増やそうと動いている。
―商品群とは、パッケージ化したソリューションをクライアントの提供するサービスに合わせて提供するものというイメージか
そのようなものだ。店舗の特定の部分で使うために買ってもらうと「特定の業務が省ける」というものだ。
―それはストック型の収益モデルを採るのか
両面でいきたい。最初の導入の部分と、ソフトウェアのアップデートが必要になるので、その部分での月額課金を考えていきたい。ただ、決定ではないのでそのようなイメージを持っている。
―画像認識のコア部分の開発は内製化しているのか
内製化している。日本と中国のスタッフで共同研究している。
―高度人材の確保は難しいか。施策は
特に日本は難しい。中国はまだ採用ができている。日本は新卒採用に力を入れたい。中途は市場に人員が回ってこない。名前が売れて学生によく見てもらったこともあり、来年の4月に入社する新卒社員はかなり良い形で採用活動ができた。上場を機にという面もあるが、そのあたりを促進できる感覚はある。
―コンビニの無人店舗化の話が最近また盛り上がってきたが、参入はあり得るか
RFIDも画像認識の技術も、それらを融合したものも含めて、実際に現在取り組んでいる。実例をどこかで発表できる。
―業績へのインパクトはまだ先の話か
レジなどの部分ではもう少し先だ。直近ですぐというわけではないが、試みは既に始めている。取り組み内容はもう発表している。受けはいいと思う。
―海外は2021年8月期で、どのぐらいの売り上げ割合を占めているのか
山本和矢執行役員:1億9000万円の着地となっている。来期からは大きく伸びる。
―海外売上高比率の今後は
鈴木社長:自然に増えていく。半分以上が海外というのが普通になるのではないか。
―何年後ぐらいか
2022年でも海外は結構伸びると想定している。
山本執行役員:向こう2年間で3割ほどが海外の売り上げになっていくと見ている。
―半分になるのは5年後のイメージか
鈴木社長:そこまでかからないのではないか。大型案件を聞く話が、日本と比べて米国はても多い。ケタが1つ違う。米国の案件をやっと取れるようになってきたが、大手企業が採用を決めている。実績が認められてくるともっと伸びてくる。そのアピールをこれから頑張っていく。
―具体的に海外を伸ばすために営業拠点を増やすなどの施策は
営業拠点というよりもメンバーの数がまだ少ないので、増員したい。米国は西海岸が中心だが、メンバーも増やし、東海岸にも対応できる体制を作りたい。欧州では英語だけでは難しいので各国に販売パートナー網を作っていきたい。
―米国の大手飲料メーカーはなぜ取れたのか
答えにくいが、気合ではないか。日本のメーカーの場合もそうだ。いろいろな要素はあるが、ハードだけでなくソフトも含めてスマートフォンを中心とした知見が長けていることが最も大きい。加えて、顧客のニーズを細かく聞いていることも大きい。
―特別な技術があるわけではないが総合的にすぐ対応してくれるからということか
スピード力は社内でもキーワードにしている。スピーディーさはそこそこ強い。国内でも大手メーカーとコンペで並んだ時にはラッキーだと思う。大手しか入っていなかったら速度で勝てる部分がある。
―海外で家畜の管理にRFIDを使っているとのことだが、日本国内で利用の機運はあるのか
現在、日本では話をしていない。議論はされているので、そのようなニーズはあると考えている。
―養豚や養鶏にも広げられるのか
鶏は分からないが、豚は耳に(タグを)付けているので、(RFIDにすれば)読める。米国や欧州ではペットにICタグを体内に埋め込んでいる。日本よりも進んでいる感じはある。米国では、個別の牧場ではなく、流通関係をデータとして補完しようという上場企業に採用してもらった。サービスの一環でAsReaderを使うため、牛の飼育状況などのデータを吸い上げる。どのようなプロセスやワクチンで育てられたかというデータがあるからこそ、家畜の価値が上がる。
―現状ではAsReaderのみを家畜の事業者に導入することは難しく、前提となるシステム構築が必要となるのか
そうだ。システムをどうするかという要素が入ってくるので、読み込めてiPhoneで表示
できるというよりも、どう使っていくかが重要になる。我々がシステムインテグレーターとしていろいろなことを手掛けてきたため、システムも含めて提案できることが強みでもある。最初の一歩を踏み出すのに手を挙げて資金を提供する人が必要になる。
―宇宙ステーションでの利用だが、NASAに採用されたのか
察してもらいたい。
―実際に使用されるのはいつからか
もう使っているのかどうか、まだ聞けていない。
―採用の事実はあるのか
(システムへの)登録はされている。
―どの州の警察が採用したのか
西の州だ。
―海外はシステムインテグレーションと機器販売のセットか
海外は、手離れが良く効率よく伸ばせるAsReader事業に絞っている。
―販売したらそれで終わりか
保守もある。導入しても紛失したり壊れたりすることがあるので、そこそこ出ていく。牧場のようなケースでは、パッケージ商品に組み込まれるので、導入先が個別の牧場に自動的に営業していくため、コンスタントに出ていくことになると見ている。
―今後の成長を現時点でどの程度見通せていて、年率何%の売上高成長を見込むのか
2022年8月期では年率で、売上高で前期比40%ぐらいの伸びを予定している。その翌年も30%ぐらい伸ばしたい。
ある程度の注文をもらっている。大手の企業では、今日受注して来月納品するようなものはあまりない。システムも全て連動させての業務改革となるので、半年~2年というスパンでプロジェクトが動いている。世の中の動きは活発だ。特にコロナ禍で、自動化したい部分はあり、人を集めにくい状況もあって企業が取り組んでいる。
―伊藤忠紙パルプとの資本・業務提携の狙いは
2019年6月に資本・業務提携した。上場前の株式で10%を持ってもらった。伊藤忠紙パルプは結構特殊な商社で、卸売というよりもエンドユーザーに紙を売りにいくことが多い。我々がBtoBの仕事をしているなかで、伊藤忠紙パルプと我々の営業先が酷似している。我々の営業販路を開拓する際にアタックしたい会社のルートを持っている。営業協力をしてもらうために手を組んだ。
紙はなくならないが、少なくしていこうという考えを持つ会社が多い。伊藤忠紙パルプとしては、今後DXの提案をしていきたいので我々の商品の提案を通じて、紙だけではない提案をする思惑があった。我々の思惑と一致して始めた。
―伊藤忠紙パルプを通じたシステムインテグレーションへのオーダーも入っているのか
実績では、コロナ禍の影響などで新規顧客を開拓しにくい部分もあり、比率としてはそこまで大きくないが、少しずつ進めている。
―NIPとの関係と、特許を譲渡したのはなぜか
資本関係も含めて関係はない。NIPがどうなろうとも我々に影響はない。特許を売ろうと判断した理由は前を向いて歩いていきたいというのが一番だった。上場して資金を調達し、信用力を上げて次のステップに臨みたい思いが強かったので、(ユニクロやGUとの)訴訟がずっと続くのは本意ではない。
いつ終わるのか分からない状態になっているので、そのリスクを加味し執着するだけの価値が我々にはあるのかと考えた。買ってもらいたいと思う何社かに当たって引き取ってもらった。とはいえ、発明者の立場でもあるので、特許がなくならないというところには力を入れたい。
―いつ譲渡したのか
契約は昨年11月で、今年の2月に特許庁で書き換えられた。
―株主還元の方針は
直近では会社を伸ばすことに力を入れたいのでしない予定だが、できるようになれば(配当性向)20~30%ぐらいで還元したい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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