株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイト

上場会見:セーフィー<4375>の佐渡島CEO、「現場」をDX

29日、セーフィーが東証マザーズに新規上場した。公開価格の2430円を37.8%上回る3350円の初値を付け、3350円で引けた。同社はクラウド型映像プラットフォーム「Safie」を手掛ける。サブスクリプション型の録画サービスで、店舗での顔認証や来店人数のカウント、建設現場などでDX推進に用いられる。佐渡島隆平CEOが都内で上場会見を行った。

佐渡島CEOは、セ―フィーは現場のDXを推進している会社であるとして、実際の活用例を示しながら説明した。
佐渡島CEOは、セ―フィーは現場のDXを推進している会社であるとして、実際の活用例を示しながら説明した。

―海外投資家の資金を集めた狙いは
マザーズで上場する観点では、大きなオファリング金額となり、SaaSビジネスモデルでは、海外の投資家のほうが非常に高いビューを持って積極的に投資する傾向がある。ロードショーの前にも、そのような投資家とのインフォーメーション・ミーティングを2回ほど開いた。

IPOのキーポイントは、市場に出ていく、グローバルに出ていく際に、長期的な視野に立って一緒に考えて分かち合える仲間を作ろうと、親引けの形で100億円近くを香港の機関投資家に、また、米国やアジア、欧州の投資家にしっかりアロケーションした。決して日本の投資家を軽視しているわけではないが、海外の投資家は非常に長期的な視野を持っており、そのような投資家と偶然話して配分したら海外だった。

―建設現場、ゼネコンでのシェアはどの程度か
トップ30のゼネコンのなかで、当社の顧客はたくさんいる。売り上げのなかの建設のシェアは、顧客ごとのサマリーを開示していないので出していない。建設現場で使われるカメラという意味では当社が1番なのではないか。数字については建設現場だけで取っているわけではないので、少し分からないところがあるが、多くのゼネコンに使ってもらっている。

―ゼネコンは大手が多いが、中堅、地場、中小建設業の利用状況はどうか
レンタルという仕組みでさまざまな建設現場に使ってもらう仕組みになっている。当社に問い合わせれば、いろいろな現場に送ることができる。さらに、電源を入れるだけですぐに使うことができるので、中小でも実際に使ってもらっていると思う。

中小の建設事業者は非常にたくさんあり、(発注が)インバウンドで自動的に入ってきたり、レンタル会社とパートナーシップを組んでおり、そこを経由した利用もあるので、何割ぐらいということは分からないが、中小企業でもかなり使われている印象だ。

―BIM(Building Information Modeling)との連携以外に建設現場でのユニークな使い方があれば教えてほしい
建設現場は、人の働き方改革を急速に進めなければいけないという危機感を持っていると思う。遠隔で自動操縦していこうとか人がどこにいるか確認したい、建機がどの程度使われているか映像で見たいというニーズは多いので、いろいろな課題を解決できるDXプロジェクトを大手の建設ゼネコンと実証実験の形で取り組んでいる。まだ具体的な事例としてこれとは言い切れないが、映像を遠隔で見ることで、AI化することが進んでいる。

―このシステムはスマートフォンでも使えるのか。システムがハードウェアに依存するとは聞いているが、将来的にそのような展開はあり得るのか
スマホも高性能なコンピュータだ。当社はファームウェア(をカメラに組み込むこと)で展開しているが、2~3台目のスマホを自宅に置いておく大きなニーズがあれば可能性はある。ただ、当社は起業する際に2~3台目のスマホにアプリを入れて(の利用を想定した)。ロジカルな人にはカメラとビューアーに分ける使い方があるかもしれない。顧客の分かりやすさという観点からは結構難しいのではないかと思い、カメラで起業した。

ニーズがしっかりとあればやっていく可能性はあるが、スマホは、電池が入っている状態でずっとつなぎっぱなしで使うことに適していない。今はそれほど考えていないが、十分に対応できる可能性はある。

―今後、具体的に新規開拓したい領域は。個人向けの販売についても考えがあれば聞きたい
ビジネスロードマップの形で進めている。飲食や建設、小売でかなり使われ始めている。具体的な使用例も増えてきている。今後はファクトリー・オートメーションや、デジタル庁ができることもあり公共分野で使われていく。スマートビルディングもある。設備に入るものは、ゼネコンや設計会社によってあらかじめ導入されるケースがあり、それらに対してDXをしていこうという流れがある。製造や公共、ビルに関しては、次の展開に活かしていきたい。

当初は個人利用を念頭にマクアケのクラウドファンディングでスタートした。私の印象だが、日本ではあまりDIYをする文化が根付いておらず、Amazonで検索するとクラウドのカメラがたくさん出てくるが、それほど大きく流行っていない。例えば、猫やペットを見る、子供が小さい時にベビー・モニタリングをする需要が多いとは思うが、月額課金で使う切迫感は恐らくない。どうしても「Nice to have(あればよいが、なくても問題ない)」なビジネスになっている。

そのような領域にプラットフォームを提供するのではなく、働き方を変えていきたい、生産人口が減っている、コロナ禍で遠隔で仕事をしたいというほうが、ビジネスとしてニーズが大きい。ハウスデベロッパーとたくさんの付き合いがあるので、BtoBtoCという形で個人宅にあらかじめ導入される可能性はある。それを殊更強くしていこうというものではない。

―小中学校といった公教育現場への導入は可能か
私立の学校であれば既に導入しているところがあるが、(製品を)パートナー経由で導入しており、例えばNTTグループは非常に公共に強いため、もしかすると公立にも入っているケースがあるかもしれないが、我々が積極的に公教育領域に営業していくことは、現時点ではそれほど強くは行っていない。

―映像データは個人情報に当たるが、カメラを導入する顧客に対する対応は
個人情報には非常に注意している。森本数馬取締役はセキュリティに非常に高い知見がある。今後、データガバナンスの問題が大きくなってくると考えるので、データ漏洩がないように、有識者会議で第三者のデータ検証委員会を作った。「AIと憲法」という書籍を書いている山本龍彦教授や、プライバシー領域に非常に強い森・濱田松本法律事務所の岡田淳弁護士、バランスの良い議論をするためにアスクル出身の岩田彰一郎社外取締役とともに、トップが自ら意見を吸収し反映していく。

個人にデータの取得をどう分かりやすく開示するかが焦点になっている。総務省と経済産業省が取り組む「IoTのカメラ設置ガイドライン」があるが曖昧になっている。当社としては積極的に、分かりやすいステッカーを作って、この色のステッカーであれば、例えば、この店では「顔認証をしてマーケティングをしている」もしくは「データを取らずにマーケティングしようとしている」、「防犯に使っている」ということを、国と一緒にルールを作って出していく。それによって当社の販売パートナーもともにルールを推進していくことが大事になる。

答えのない非常に難しい世界で、LINEやリクルートはネガティブな領域で、何か起きてしまったから何かしなければならないと取り組んでいると思う。当社は皆が分かりやすい社会のルール作りに積極的に参加することで、ルールを示していきたい。企業価値を上げるために活動しており、顧客や市民に対してトップとしても率先して進めることで、社会の公器に資する会社、プラットフォーマーとしての責任を果たしたい。曖昧な領域であるので具体的なことを示せないが、そう考えて取り組んでいる。

―カメラ映像とAIによる分析がもたらす影響に関して、プライバシーの問題にとどまらず、さまざまな倫理上の問題が出てくると思われるが、どのようなことを想定し、どのような備えや取り組みを考えているか
3つの観点がある。1つめは、時代が変わるときに当社が守るべきものは変わっていく。それは技術で解決していくことも非常に重要だ。例えば、ある会社の機械は国から覗かれるのではないかという心配があるから使わないということがあるが、技術的にIPをブロックしてしまう、もしくはデータが抜かれたらブロックチェーンで追跡していくなど、新技術の発展でデータを守っていく。

もう1つは、サービスを使う時に、それは良いことなのか悪いことなのか、倫理の問題がある。中国であれば、データそのものが国のものである。欧州であればGDPR(EU一般データ保護規則)といってプライバシーの問題であり、米国であれば差別の問題である。さまざまな論点で国のルールが作られていて、それに対して訴訟がなされたりしてしまう。そういったかなり広範囲な事象に対して、しっかりと自分たちのサービスを作る時、販売パートナーを含めて売る時に、果たしてそれが正しい使い方をされていくのかを委員会で議論している。世界中の情勢を見ながら、我々がどういう立ち位置で取り組まなければならないか、また、国にどういうルールを作ってほしいかという形で進めなければならない。

3つめのポイントは、ルールを決めたら分かりやすく一般の消費者に伝えることが大事になっている。IoTのカメラガイドラインも、データの収集に対応するもので、利用目的を文字で羅列してどこかに貼っておけばいいということになってしまうと、顧客がそれを見る間もなく情報が取得されてしまうという課題がある。

この3点をプライバシーガバナンスの委員会で毎月議論をして、するべきことを明確にしながらパートナーにも「規約を変えるのでこうしてください」というものをともに組み立てながら取り組んでいる。

―具体的な取り組みを進め、自社の立場を表明しているのか
まだ表明という形ではないが、委員会は何度も運営されているので、それで表明するために自分たちのルールを整えている。

―検証とモニタリングを今後どうするのか
どこかのタイミングで検証をちゃんと作り、運用がスタートするが、まだできていない。今後はしっかりとそこまでやっていくことを念頭に置いている。

―中長期的の加重平均資本コストの考え方は
古田哲晴CFO:現時点では中長期的な数値を公表していないので、しかるべきタイミングで目標値などを出していければと思っている。

―調達資金をM&Aに使う可能性はあるか
佐渡島CEO:100億円弱ほどを調達した。知名度がないとエンタープライズの顧客でも「良いサービスだけど知らない」となってしまうので知名度をしっかり上げる。もう1つはプラットフォームを作っているのでエンジニアリングを強化していく。また、人材面では、いろいろな業界があり深く掘っていくことができるため、レベルの高いソリューション営業ができる人たちをしっかりと集めていく。知名度と人材が中心になる。今後のM&Aの戦略は、まだ目論見書で全く開示していない状況で、今のところ考えてはいない。

ただ、Googleは、YouTubeやandroidなどメインのビジネスがほとんどM&Aで構成されていることを考えると、M&Aを戦略的に行っていくことはいずれにせよ必要なことだと思っている。ただ、今回の資金使途として考えているわけではない。

―将来的な海外進出の可能性は
見えるという世界は、プロダクトとしては非常に簡単にグローバルに出ていける可能性がある。当社は株主のソニーグループやキヤノングループなど海外で成功しているグループ会社と業務提携している。良いパートナーに恵まれたことによって成長機会を得ている。グローバルでも良いパートナーを選ぶことが非常に大事だ。どこの国かというより良いパートナーがいれば、世界中どこでも仕事ができるのではないか。

―オウンドメディアの「見える未来文化研究所」の意義と今後の展開は
見える未来文化研究所とは、IoTによって急激に社会が見える化されて、それによって人の体験が変わってくることを念頭に、当社が単に技術の会社であるだけでなく、社会をよくするために運営しているということで、歴史的、技術的、文化的な背景を発信していく。

より見えていく世界というのは、プライバシーに配慮していかなければならない世界だと思うが、皆さんにより分かりやすく見える世界を伝えるオウンドメディアになっている。今後もいろいろな有識者との対話など見える未来をどう作っていくかを発信していくのでコンテンツを足していく予定だ。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

関連記事