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IPOとIR(3)上場後編(中)、スタンスは長期戦

~特別企画・IR担当者座談会~

■IRとPRの連携
―第1回で永山さんがトピックとして触れたが、IRとPRの境界線が薄らいでいるのではないかという話があった(こちら)。シェアホルダーリレーションシップ(SR)といった話もある。定義的に曖昧になっている気もするが、もう少し深めたい。もう一度思い出す意味で永山さんの話を聞きたい
アピリッツの永山氏:境界線は年々なくなってきている。当社はシステムを開発する会社だが、例えば、IRでこういう感じでこういう特徴と強みを持って、こういうシステムを作っているという開示もするが、伝わりやすくするために「皆さんが生活で日々使っているアプリは当社が作っていました」といった事例は、IRでもPRでも出す。そのターゲットが投資家なのか、顧客なのかの差でしかない。発信する媒体は多少工夫するが、伝えていることは近しくなってきていると非常に感じている。

スマホのゲームも作っているので、ユーザーと投資家のいずれに向けて発信するのか、ターゲットを定めてアクションを決める意味では、マーケティングに近い。手法がPRとIRで少しだけ違う。でも一部かぶっている状態になってきたので、その垣根はなくなってきている感じだ。

あとは、それぞれPRに強い媒体やIRに強い媒体となってきているだけで、行っているアクションはほぼ変わらない。PRの人もIRの人もお互いに両方の視点を持っていると、リンクするアクションを取れるとここ何年かで思った。

―今の話を踏まえ、製品との関わりという意味で、普段は一般消費者の目に触れているようで触れていない側面もあるとは思うが、森川さんはそのあたりはどうか
オーケーエムの森川氏:当社はバルブを扱っているBtoB企業であるため、一般の人によっては、「バルブって何?」というところから始まる。個人投資家に対しても、そこから事業を理解してもらうのに時間がかかることを課題に感じており、認知度向上の取り組みに注力しなければならない。

その上で、どのステークホルダーに対してコミュニケーション、リレーションするのか、というその違いぐらいだと思う。当社は圧倒的に知名度・認知度が低いので、まずオーケーエムという社名と上場会社であることを広く知ってほしい。そこがスタートだと思っているので、PRとIRの重なるところで、認知度向上に向けた施策が、本当に課題だと感じていて、社内でも注力していこうと話しているところだ。

―消費者から少し遠い側面もあるかもしれないが、セレンディップHDはどうか
セレンディップHDの井村氏:事業承継プラットフォームの会社で、M&Aを含めて事業承継を行っているものの、上場区分は輸送機器になっている。当社には製造業の子会社が多くぶら下がっていて、売り上げの9割が製造業だからだ。

そうなると投資家からは輸送機器製造業と見られる傾向が強く、当社の本業が事業承継と経営の近代化である点を、投資を検討している人に大きく伝えていきたい。この点について非常に課題として感じている。私もこの場に参加して、今どのようにアピールしているのか非常に勉強になっている。課題としてはそんな感じだ。

―一般の人にも触れやすい面もあると思うが、特にnoteはどうか。PR室も本格的に作っておりアピールしている部分もあると聞いている
noteの三浦氏:PRには早くから力を入れていたので、一般の認知度が高いなかでIRができる。「使ったことあるよ」というところから入ってもらえるのは非常にやりやすい。IRは突き詰めていくと、会社のファンになってくれる株主を増やすことが重要だと思うので、noteをユーザーとしても投資家としても興味を持ってもらい、ファンになってもらうにはどうしたらいいか、そういったところも含めて議論して進めている。

SRも一般的には、株主総会など形式的に終わりがちなところもあるかもしれないが、「ファンになってもらうには」という観点で議論がしやすい環境にあるのは、PRに以前から力を入れているからかもしれない。PRのほうがどちらかというと社内を動かしやすいので、そういった意味でも幅広い場面でPRと連携しながらやるのが大切だと思う。

―消費者に身近なはずだが、なかなか認識してもらいにくい部分もあるサービスでは、渡邉さんはどうか
ユミルリンクの渡邉氏:使われ方としてはメールマーケティングなので、分かりやすく言うと著名なサイトやECサイトから送られてくるメルマガ的なもので使われている。商売としてはBtoBで法人向けに提供する。BtoB商材なので、外からは分かりづらい、伝わりづらいという課題はある。

私がPRもIRも両方やっているが、境目という面で言うと、永山さんが言う通り、内部的にもそれほど意識しておらず、対象がその媒体や消費者なのか、株主なのかという違いだ。最後のつなげ方だけ、見せ方は若干変わるが、基本路線は変わらず、最後の作法だけが変わっているイメージで捉えている。

あえて変えるケースがあるとしたら、PRとして出すのは比較的自由なので、「PRとしては良いが、株主に伝えてもどうなのか」というそれほど大きくないものを行うケースでは、PRだけに掲載して、IRには未掲載でという切り分けを行うことはある。ただ、そのようなケースはほとんど稀で、両方に対して開示することが多い。

―財部さんはどうか。BtoBもBtoCもあり、特徴あるサービスだと思うので、認知度はある印象だが
グラッドキューブの財部氏:当社はBtoBとBtoCがあるので、広報・PRとIRは完全に分けている。ただ、私は両方見ているので、連携しているが、IRで出すプレスリリースはPRでも基本的に全部出す。PRだけというのも多く、それは事業部から来るリリース関連だ。

例えば、サービスや機能の追加といったものは、IRで都度出すと逆にうるさくなってしまうので出さない。文章は近いものもあるが方針は変えている。IRの場合は、投資家に株を持ってもらいたい、投資してほしいという目的なので、「Know me!」という文脈が多いが、広報の場合は「好かれてなんぼ」なので「Love me!」でとにかく当社のファンになってサービスを使ってもらう方針でやっている。

■認知の獲得と自動化
―個人投資家とのコミュニケーションの実際について。支援会社もあるだろうし、勉強会も増えていて、各地でいろいろなことをしている個人投資家の存在も聞いている。また、最近はいろいろなAI系の会社がIR支援ツールを出している。ざっくり大きなところから聞いてみたい。渡邉さんはどうか
ユミルリンクの渡邉氏:個人投資家とのコミュニケーションには、IRのサイトやフィスコにレポートを依頼したり、SNSを運用し、個人投資家向けにリアルやWEBでも機会があれば何回か参加している。いろいろな層の人に、媒体も変えながら、出来高を増やすために認知を広げる活動を行っている。

いろいろなツールが出てきていると思うが、当社ではそこまで活用できていない。例えば、事前のQ&Aの想定質問を用意し、場合によっては一定量の自社の事業データを入力しなければならないが、 ChatGPTを使えば、個人投資家対応の元の雛形を作ってもらえるだろう。決算説明資料のスライドを作る、事業の説明をする画像の作成は、今後どんどん使いやすくなってくるのではないか。

自動で作られたものに対して、最後にIR担当者がチェックして、さらにプラスアルファを付加する形にはなると思う。

―noteはChatGPTの利用に積極的なイメージではあるが、そういったところも含めて、DXとの関連や、IRのこれからについてはどうか
noteの三浦氏:IRの業務ではまだツールを使うところに踏み込めておらず、まずはリアルで会える場所をということで勉強会に参加し、SNSでの発信を行っている程度で、ツールやIR支援会社の活用はそれほど進められていない。

ただ、出していく情報は多いほうが目に触れる機会も多いと思うので、SNSでの発信に加えて説明会の議事録や質疑応答を公開している。探そうと思った時にできる限り目に触れる情報が多いような形を整えたいので、そういった観点で使えるツールやサービスを活用していきたい。

オーケーエムの森川氏:現在、当社ではXやnoteを使えておらず、ログミーファイナンスの書き起こし記事を、年2回の決算説明会で掲載・公表している。その他、リアル、オンラインを問わずにIR支援会社や地場の証券会社が主催する個人投資家向けの説明会や個人投資家主催の投資勉強会に出ている。

ちょうどnoteの営業担当者から提案を受けているところで、IRマガジンの立ち上げ時にはツクルバ<2978>の元IR担当者である重松英さんから誘ってもらっていたこともあり、noteの活用には凄く興味を持っている。自社内での提案を進められていないので、後押ししてもらっている状況だ。

IRマガジンを使ってみて、出来高が増えたとの話もあったが、そのほかにnoteを見た投資家や株主から問い合わせが来るといった実際の効果や、メリット、デメリットなどを教えてもらえると嬉しい。

―ひときわ頷いている財部さんはどうか
グラッドキューブの財部氏:当初から活用している。結論から言うとそれで出来高が増えたというのはないと思う。ただ、知ってもらう機会は増えたのではないか。正直なことを言うと、会社によると思うが、IRマガジンの立ち上げ時は物凄い注目度があって、リリースも出したりして読まれていた。だが、徐々に“いいね”がつく数も減ってきて、アナリティクスを見ていても閲覧数は減ってきている。当たり前の差し障りない記事を書いているだけでは、あまり意味がないのかと感じている。

当社ではnoteとXをやっている。普段Xで投稿していても反応が得られなかったりもするが、事業の譲渡があった時など大きなリリースに対しては当然見られるし、ほかのSNSに転載されたりもする。今は、あえて控えめにして、出す時にだけ出すスタンスでいる。あとは、個人投資家のセミナーも出られる時期に出るようにアレンジしている。

―Xでの投稿も頻繁に行っている永山さんは
アピリッツの永山氏:知ってもらわないといけないので、ほぼやっている。Xもnoteも使っている。いろいろな説明会も、とにかくその第一義が、投資家に向けたPRと一緒で知ってもらうという意味なので、出来高との相関などはアナリティクスを見ているが、そんなにすぐ効果が出るものではないし、もっと言うと関連性は紐付けられない。業績が良かったからなのか、ニュースの中身が良かったから跳ねたのかというのはあるが、それを言い出すと動けなくなってしまうので、方針としては、もうとにかく全部やる。

時価総額が500億円に到達したら変えるが、そこまでは地道にやるのが基本路線なので、とにかくどの媒体でも出す。財部さんが話していたことで意識しているのは、IRのページで出ているものとnoteで言っているもので情報格差が出ると良くないので、基本的に言っていることは全く同じ。

ただ、通り一辺倒に言っていると食いつきが悪くなる。僕が使い分けているとでは、自分の感情を言う。さすがにIRのページには個人の所感を書けないので、noteでは少しライトだという特性を生かして、「今回個人的にはこう思っていますけどね」というのを、まずは知ってもらってなんぼなので書くようにしている。

今日集まっている会社さんはIRの理解が非常に深いが、いろいろなところでIR担当者とコミュニケーションを取っていてあるのは、「結局それが何になるの」というスタンスの会社は厳しいようだ。「頑張っているけど、なんか還元ないじゃん」と言われてしまう会社だと厳しい。IRの本質はそのようなことではないので、短期でどうこうではないというところで言うと、いろいろな媒体を使ってやり続けるのは非常に重要だろう。

毎年100社ぐらいが上場してくるので、「自分の子供が会社名を空で言えるぐらいでなければ知っているって言われないよね」ということを、僕は立場的に社長と話しができる。「自分たちの認識よりも知られていないよね」と言って、上場したから知られていると思うのはやめたほうが良いという話になっている。そこで理解を得て取り組んでいる。

DXに関して、当社は開発会社なのでChatGPTの研究開発はしていて、PRの記事と、IRの定型フォーマットのものはChatGPTで作っている。「俺要らなくなっちゃうな」というぐらい彼らは頭が良い。原稿をゼロから作ることはもうない。短信の訂正の文章もChatGPTでほぼ作れてしまう。あとは、日程調整は面倒くさい。かといってそのために担当者を貼り付けるかと言えば苦痛なので、TimeRexを使っている。

先程の育成ともつながるが、絶対にやらなければならないこと、例えば日程調整や原稿を作るとかもあるが、それらは慣れてくるとキャリア形成に寄与しないので任せにくい。作業にしかならないので、最初のうちは良いが、成長してくると彼らのキャリア形成に寄与しなくなる。かといって、新しい人を採ってコストをかけて、その作業を誰かに引き継ぐかというとそれもできない。

今進めているのはChatGPTを活用することと、TimeRexや日程調整のツールをRPAに組み込んで勝手にやる。メールアドレスを入力しておき、定型文で全て返し、TimeRexで勝手に選んでもらえる。Googleカレンダーにつながるようなものは少しずつ活用し始めている。

(後)に続く