25日、ROXXが東証グロースに上場した。初値は公開価格の2110円を8.01%下回る1941円を付け、1958円で引けた。製造や建設、運輸、サービス業など“ノンデスクワーカー”向け転職プラットフォーム「Zキャリア」の運営を通じて正社員化を推進し、低年収層の所得向上を目指す。求職者の適職探しに伴走するキャリアアドバイザーの存在が強みの1つ。蓄積した登録者のデータを基にAIをスカウトや面接で活用する。求職者の実績やスキルなどを調べるリファレンス/コンプライアンスチェックサービス「back check」も手掛け、人材紹介との相乗効果が現れてきた。中嶋汰朗代表が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値が公開価格を下回った
非常に残念というか、我々がまだ力不足だったと受け止めている。一時的には公募価格を少し上回るぐらいで推移していたとは思うが、成長過程かつ赤字である点に関しては非常に厳しく受け止められることを改めて深く理解することができた。
今後、赤字を継続しながらも、「正社員になるならZキャリア」という領域をしっかり取ることで、今後5~10年で大きな成長ができると見ている。しばらく赤字を継続する可能性もある。そういったなかでなるべく多くの情報や進捗をしっかり伝え、この領域をやることで日本全体の活性化にも繋がることも伝えながら真摯に受け止めて、今後も対話をしっかり重ねていきたい。
―ノンデスクワーカーの市場をどう見ているのか
今後人手不足がより深刻になっていくが、極めて異常なスピードで人が足りなくなっていく。そこにAIをどう活用するかという話もあるが、現場の仕事はどうしても人と接する、物を運ぶなど完全に機械だけで自動化できるものではない。今でさえホワイトカラーの4倍の人口がいて、そのうち6%の人が毎年転職している。この人数の割合も大きく上がってくる。
一方で、人が採れないとより良い求人が増えてくる。今までよりも高い良い条件を出すことで人手を確保しようという企業・求人が増え、転職活動をする人の割合が増えていく。当社はしっかり認知を作っていくことによって、「これから正社員になろうかな」と思った時にすぐに使えるサービスとして、市場が拡大してさらに人手不足が深刻になっていくことと、当社の認知が上がっていくことで大きく成長できると見ている。
―既に一定の競争優位性を築き、新規の競合があまりないが、これだけ人材プラットフォームの会社があるなかで、このようなポジションを築けたのか。これからの競争であり得るシナリオや時期について聞きたい
人材業界全体の話になってしまうが、人材紹介業はキャリアがある人、年収がある程度高い人をマッチングして、高い手数料を取っていくところから始まっている。経験がない人や当社の領域では何があったのか。これは求人広告の世界だ。リクナビ転職やマイナビ転職といった求人媒体だ。自分で探すようなものはあった。ただ、これもこの10年で業界構造が大きく変わっていて、Indeedの登場以降、各媒体の集客力は年々弱まってきている。
検索上位をIndeedに全部取られてしまった。それまでのように求人広告が売れなくなる、かつ人口も減ってきて、媒体に出しても人が採れない。そういったなかで当社のように徐々に成果報酬型かつ低年収領域は世のなかや市場環境の変化から、ここ数年で大きく出てきた。そこに人手不足が相俟ってきている。
低年収領域に皆が入ってくるかというと、全く同じオペレーションをすれば決まるわけではない。求職者の課題も全く違う。企業側のニーズも、ハイクラスをたくさん採る会社と、当社のノンデスクワーカーの顧客は全く構造が違う。企業の業態も違う、顧客がそもそも違うので、大手の参入は現状まだ大きくない。パーソルキャリアも過去何度かは参入を試みているが、毎回うまくいかない。同じようにできると思うと求職者のニーズが違って、そこには横展開ができないがゆえに新しく立ち上げなければならない。
―最近、タイミーの決算があって予想よりも成長率に陰りがあるという見方があった
スキマバイトの領域は手数料商売、手数料の比較が大きくなる。スキマバイトの領域は、今日働きたい場所で働きたい時間に仕事があるかが凄く大事になってくる。「今日(午後)6時から空いているから、6時から行ける場所にあるか」というのが大事になり、案件の数がたくさんあるほうが勝つ。案件を取るためには手数料をなくしたほうが集まるので、後続勢はそういった形で参入してきている。ディップなども新たに入ってきて競争が激しくなっている。
当社の場合はどうしても労働集約性がある。人と企業を増やしたら増やすだけ勝手にマッチングするかというと、残念ながら「やりたいことが分からない」というところからスタートするので、ちょっとしたサポートや、面接の仕方などをある程度支援しないとマッチングしないという面がある。タイミーほどの急激な成長はできずとも、競合が入ってきた時にオペレーションの細かい部分までそっくり模倣できるかというと、当社の領域はそうではない。
タイミーはプラットフォームかつWebのサービスという側面がある。そこは似たようなターゲットであってもサービスの構造が大きく違う。当社のメインクライアントは、少し不人気業界だ。建築やドライバー、飲食店など、「何かちょっとブラックな感じする」、「体力仕事になるのではないか」などいろいろな懸念を持たれている業界が基本的には凄く多い。
ただ、実態としては当然ながら企業もそういった部分の懸念をなくすためにいろいろな努力をし、実は良い会社だというのはたくさんある。そういったものは直接伝えて初めて、「だったら応募してもいいかな」という動機を形成する部分があり、間に人が入るからできている。
―キャリアアドバイザーは、かなり難易度の高いオペレーションをこなしているとのことだが、独自の育成戦略やシステムがあるのか
求職者の転職相談に乗るキャリアアドバイザーが当社では一番大きく増えている。キャリアがある人に向けた転職支援では、一定の業界知識や何らかの専門性がないと相談しようとは思えない。
当社の場合は、これから働くということや、正社員になるメリット、その仕事の良い部分や悪い部分を伝えることが非常に大事になる。業界ごとの専門性というよりは、これから正社員になろうという人たちに向けたいわゆる“スクリプト(マニュアル台本)”や、これまでたくさん支援してきたなかでのデータがある。
新卒で入社した人も、中途採用のキャリアアドバイザーと同様のパフォーマンスを出せてきている。どのような人が来たらどのように支援をすれば最も転職しやすくなるかをデータと実績を基に全てパターン化している。
―成長戦略としてダイレクトリクルーティングを活かしていくようだが、事業のなかでの位置付けや、どのような効果を狙うのか
今後マッチングを大きく伸ばすことで当社の売上を成長させていくのが主な戦略の柱になっているが、現在は人が間に入って支援しているので、当社の人数とともに成約も増えている状況だ。
一方、スカウトサービスは間に人を介在させずに、企業からのスカウトによって求職者が応募して選考が進んでいく。その先にAI面接がある場合もあるが、人が間に入らないで伸びていく。足元で成約が徐々に出始めてきているが、単純にプロダクトのアップデートによって成約率が上がってくる。
今後の計画については、人員の増加とともに比例する形で売上計画を策定している。スカウトサービスによる成約が増えてくれば、計画を上振れさせる形で売上と利益に直結してくる。
今は足元では赤字だ。間の人の人件費がなくなることで1件当たりの収益性も上がってくると見込んでいる。
―成約単価の上昇について、どのような指標や外部要因を見て判断しているのか
成約単価は毎年少しずつ大きくなってきているが、足元が60万円弱になっていて、2年前と比べると10万円、20%程度上がっている。要因としては、人手をなるべく多く確保しようとすると、他社よりもちょっと高い成功報酬を設定する。
例えば、携帯販売では大手通信会社A社とB社、C社があり、業務内容も比較的近いという時に、「他社が50万円だったら、うちは60万円にしよう」となる。当社のZキャリアは多数のエージェントが使っている。当社のみならず400社のパートナーが常に求人を見て「どこに人を紹介しようか」と案件を探している。エージェントからすると高いほうに紹介するほうが、売上が伸びる。同業他社との競争環境ができて、求人単価も徐々に上がってきている。
人手不足の深刻化で例えば、飲食店はコロナ禍前の正社員募集は給与が月額30万円ほどが平均だった。最近は100万円近くまで上がってきている。「採れないからこそ高くしよう」、「採用できないから単価を上げよう」というものが結果的に当社の単価向上に繋がっている。
―売上の推移に季節性はあるのか
第3四半期、即ち4~6月に季節性として若干上がりやすくなる。年明けに転職活動をして1月、2月に内定をもらった人も、キリよく4月ということが多いため、第3四半期のみ高くなりやすい。それ以外はあまり関係なく推移している。
―黒字化の展望について。早期に売上高100億円、営業利益率20%を目指すとのことだが、どのような状況になれば黒字化するのか
直近でマス広告を展開するが、いわゆる認知のための広告を除けば既に黒字化できており、足元の第4四半期に関しては黒字化を業績予想としても出している。ここは人員の増加と構造の改善がしっかり進んでいるので、来期にかけては基本的には黒字化できている状況だ。それ以上に認知に対して広告費をかけていく点で、極めて管理可能な赤字になってきている。
当社が毎月必要とする求職者の獲得に対する広告費を別途取ったうえでそれも含めて黒字化できている。それ以上に、「正社員になるならZキャリア」という認知を作るための純粋なマス広告の広告費という部分のみを切り出して入れてしまうと来期はまだ若干赤字が残る。
だが、ダイレクトリクルーティングやAI面接、CMの効果は現状では計画にはほとんど入れずに進めている。こうした効果がしっかり出てくれば、前倒しでの黒字化や営業利益率の改善も見込める。
―解雇規制の緩和が話題となっていたが、事業に影響はあるのか
当社の領域はとにかく人が足りないというところで、人がいるだけ欲しいという顧客が中心なので、ほとんど関係がない。むしろホワイトカラーのほうでそういったところが今激しくなってきている。一方で、当社の領域では、とにかく人手確保なので、外国人も含めて流入を増やしていこうというところなので今のところ被害はない。
―Zキャリアは、いわゆる就職氷河期世代の人の助けになるのか
企業も人が採れないので、最初は20代が欲しい企業も30代OK、40代OKと、今は年齢に関する要件を広げている。結果的に氷河期世代で今まで正社員として働いたことがない人も、企業としては必要になってくる。
当社はどちらかといえば若手に向けてブランディングをしているが、年齢に関係なくこれから正社員になろうという人や、これからキャリアを付けたい人にはサービスをどんどん広げていきたい。その問題は日本の凄く大きな部分で、そこを変えていけるように我々も事業を大きくしていきたい。
―今は低年収帯で日本の中間層を分厚くすることが眼目になっているだろうが、事業が大きく成長してくると、高年収帯の人材紹介に進出する可能性はあるのか
現状は、年収を上に拡大させることは、全く考えていない。僕のなかでは、所得を上げることを、この事業・会社を運営する理由として捉えている。
そういった意味では、仕事に困っているというより、生活そのものに困っている人が非常に多い。例えば当社の場合、「交通費がなくて面接に行けない」、「内定をもらったが、健康診断を受けるお金がなくて辞退する」、「最初の給料日までお金がもたない」といったところで、転職先は決まったが行けないというケースがある。そういう人たちが少し余裕を持てるようにするところを目指している。
アイフルと提携しているが、「お金を借りてください」というわけではなく、今お金を借りている人に、「転職して給料を上げませんか」という取り組みをしている。お金や住む場所に関する問題、生活水準を上げるような取り組みといった横の展開を中心に広げていきたい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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