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上場会見:売れるネット広告社<9235>の加藤社長、LPから他産業、媒体、国へ

23日、売れるネット広告社が上場した。初値は公開価格の910円を8.02%下回る837円を付け、768円で引けた。D2C(ネット通販)事業者のインターネット広告の費用対効果の改善を目的としたクラウドサービス「売れるD2Cつくーる」を月額14万9800円で販売する。ネット通販で、利用者が最初に開く画面であるランディングページ(LP)の制作を始めとする広告に必要な機能を一貫提供する。作成したLPページに集客するマーケティング支援サービス「最強の売れるメディアプラットフォーム」も運営する。加藤紘一レオ社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

海外展開に関し、台湾では日本の越境ECが既に多く、ベトナムは成長率はナンバーワンで初期段階で進出できると話す加藤社長
海外展開に関し、台湾では日本の越境ECが既に多く、ベトナムは、成長率がナンバーワンで初期段階で進出できると話す加藤社長

―初値が公開価格を割った所感は。また、なぜこの時期に上場したのか
きっと見え方が凄く悪かった。有価証券報告書で最初の数ページには2期前の、13期の我々が赤字だった時の数字が書いてあることが1つ。もう1つは、13期から収益認識が適用されているので、今まで20億円あった売り上げが8億円という粗利計上となった。

機関投資家は分かっているが、個人投資家はなかなかそこまでの知識がない人もいると思うので、見え方は悪かったかもしれない。ただし、今日は上場して、これから数字を堅実に、確実に上げていけばいいので、初値がどうこうというのは現時点では(ない)。もちろん上がってほしかったが、これから未来に向けて上げていけば良い。

この時期に地合いが悪いのは、常々周りの全員から言われてきたが、上場はタイミングが全てだろう。とりあえず1回出ておくのは大事なことだ。今期が15期という1つの節目でもあるので、このタイミングで上場して、これから事業を広げていき、株価も上げていければと思う。

―スタートアップ企業の場合、上場に向けてマネジメントチームが必要だが、どういう機能が上場に向けて最も必要だと感じ、どう補足したのか
上場に限っては、一番充実させて拡大したのは管理部だ。上場ではコンプライアンスなど内部管理体制が見られる。植木原CFOが4年ぐらい前に上場を準備するタイミングで入ってきて、その後管理部を充実させた。内部管理体制をいかにパーフェクトできるかだ。

あとは予実だ。出した予算に対していかに実績を上げていけるか。我々は年間契約型で、全部ストック型なので、予実はブレがなかった。

植木原宗平CFO:(申請期だけのブレは)売り上げが0.5%ぐらいで、利益が2.3%ぐらいだ。

加藤社長:その程度上回ったぐらいで、ほぼ予実が見えた。それをきちんと管理するのであれば管理部(が重要になる)。営業などは、それまで会社が伸びてきて強い部隊はあった。上場基準に合わせる観点では管理部を育てるのは上場についてだけでは重要だった。

―会計などの変更などを含めて赤字を出した際の、クライアント平均化戦略を説明してほしい
第12期は、売り上げも利益も上がった時期だが、暗黒時代と呼んでいて、この頃は、フィネスとランクアップ、ファンケル、プレミアムアンチエイジング、この4つで全体の6割の売り上げを計上していた。6割も特定のクライアントに依存するぐらい多くなったので、これでは上場できないと考えた。

そこで第13期にクライアント平均化戦略を取った。シンプルに言うと、大手を下げて、ほかのクライアントの単価を上げていった。ちょっと失礼な言い方をすれば、大手に営業に行かなくなって、ほかのクライアントに全部3ヵ月に1回、百何十社に訪問することで分散化していった。当然ながら当時は2割が8割を作った世界だったので、そこの部分は大幅に下がることによって、13期だけが唯一売り上げが下がって利益も赤字になった期がこの平均化戦略だった。

もう1つは、申請期に入る前に投資を全部終わらせておきたいと、13期にオフィスに3億円以上使った。福岡と東京を、上場を見据えて4倍に拡大した。その時にテレビCMも3000万円程度投下して、社内研修や人を中途で取るのも全部そこで終わらせた。14期に入って、申請期に入って投資は全て止めたので、普通に黒字になった。過去最高の売り上げとなり黒字化した。物凄く怖い時代だった。1社抜けたら20%の売り上げが減る世界だったので、それを避けたのが正直なところだ。

―ネット広告市場は非常に競争が厳しい。そのなかでも一番の強みで、これで勝っていくというところを教えてほしい
ネット広告は確かにプレーヤーが多くて伸びている市場だが、その分競合も多い。プレーヤーの大体9割が、アナログな普通のデジタルマーケティングをやっている。いわゆる広告代理店や運用会社のような形で、GAFAといわれるGoogleやFacebookに加え、TikTokといったところに広告をアナログに出稿している業態が多い。我々はそれを全部デジタル化・自動化したのが大きなポイントだ。

今まで例えば、サイト1つについても全部アナログに約2ヵ月かけて通販サイトを作るが、当社では10項目の情報を入力したら3分間でベースのクリエイティブとシステムができ上がってしまう。そういうものを作る自動化と、今までは広告運用は、運用チームが例えば、最近であれば宮崎県や沖縄県のように人件費が安い場所に大きな広告代理店がどんどん大きな運用部隊を作って、アナログに発注・入稿をずっと繰り返す作業をやっている。我々はそれを自動化してマッチング、いわゆるクライアントである通販会社と、媒体社がプラットフォーム上でマッチングできることを自動化している。

今までは労働集約型で、アナログで人が必要な事業だったのを、我々は極端な言い方をする人がいらない。全部自動化をしたのが大きなポイントだ。そもそも我々は広告代理店ではないので、広告運用というポジショニングを持っていない。アナログの世界を全部システムとクラウドサービスで自動化した。今後もそれほど人は増えないので、人件費も増える業態ではない。いかに自動化を加速して、将来に売り上げが100億円になったとしても、社員数は、きっと今から10人ぐらいしか増えない。そのような経営方針でいる。

―調達資金の使い道は
今回調達した資金は、使途を主に3つ想定している。1つは、今までは営業活動を全部SNSで集客していた。無料でお金をかけずにいたので、タクシー広告やネット広告を見たことがないだろう。今までは販促に投資しなかったので、ネット広告のツールを売っているのにネット広告をやらないみたいな世界だったのを、販促をきちんと作ってリードを3倍、4倍に毎月増やしていく。

2つ目は、顧客の満足度を上げなければならないので、開発に注力する。これからD2C、ネット通販に必要な機能をどんどん実装していくことはもちろんだが、ほかの業界、例えば、金融や不動産、自動車などにも展開していくためのツールの横展開の開発費だ。

上場するまで言えなかったが、海外展開を検討しているので、ベトナムや台湾などに、今のツール2つを多言語化し、世のなかに出していきたい。

人をそれほど増やすつもりはないが、ほかの業界、国、産業に行くうえで、一部の役員レベルの中途採用は必要なので、人件費として一部を使うイメージとなる。

―それが成長戦略となるのか
どんな業態でも成長するためには、顧客の数を増やす、継続率を高める、顧客単価を上げる、この3つで、それぞれのKPIをいかにして毎年1.1~1.2倍ずつ上げていけるかだと考えている。

―自動化の追求で増員は最小限との話だが、手掛けているコンサルやデザインなど人手を使う部分があるだろう。そういった分野での増員は
究極を言うとなるべく労働集約型に入りたくないので、クラウドサービスとマーケティング支援サービスを自動化した。ただし、クロスセル、単価を上げる商売として、資金を持っているクライアント(全体の5%程度)に関しては、コンサルティングを月々50万円で提供している。全部丸投げでやる作業が1つある。

「売れるD2Cつくーる」は、10項目を入力したら180秒でベースのシステムとクリエイティブができ上がってしまう。あとはそれを微調整する。調整も任せたいというクライアントに対しては、98万円程度で提供しているが、メインではない。

―特にクリエイティブの部分、今、生成AIがどんどん出てきているが、そういったものを取り扱っていくのか
AIも事実ベースのデータを取ってくれないので、どうしても今流行っているトレンドなど仮説で生成すると思う。今のChatGPTを見てもそうだろう。間違っているものも多い。世のなかのアナログな広告代理店も、大体マーケッターやプランナーが“意識高い系”で「こうしよう!」みたいな「ばえる!」みたいな感じでやっていく。

そこに関しては、我々は全部A/Bテスト、即ち事実ベースでしか新しいクリエイティブ・テンプレートや機能化をしない。仮説をゼロ%にして全部の機能もテンプレートも事実ベースでしかやらない。

AIを活用するとしたら、決まっているやり方を効率化するために使うかもしれない。例えば、今はA/Bテストの結果が出て、大体8割のクライアントで勝ったら、当社の開発部隊がアナログ的にテンプレート機能を開発していく。一番良いのは、A/Bテストの結果が出て8割以上のクライアントと同じ結果が出たら、開発部隊がプログラミングしなくても自動的にテンプレート化、機能化させたほうが会社としては楽なので、そういう場面で使う。

あとは、例えば、今のメディアプラットフォーム「最強の売れるメディアプラットフォーム」は、クライアントと媒体社のマッチングをするが、それも、より各クライアントと媒体社の相性をAIが分析していって、マッチングをさせていく精度を上げられればと思っている。

構造自体は、こだわったビジネスモデルがあるので効率化する。より人を使わないようにするためにAIを活用するイメージだ。

―LPを手掛け、そこからさらに金融などに広げるためにノウハウはこれからPDCAを回して集めていくのだろうが、どこから攻めていくか、どういったものを広めていくか、ロードマップ的なものはできているのか
今のところは、当然D2Cという今の分野は、深掘りしてより拡大していく。来月から社内で、ほかの産業や国、媒体を手掛けたい人を募集していく。「売れるテレビ広告社」や「売れる新聞広告社」のようなほかの媒体も考えている。それは来週から公募する。

ロードマップとしてほかの産業、国、媒体の場合でも、最もニーズがあるところを取る。今、ネット広告の市場は3兆円あるが、一番伸びていて最もシェアがあるのはD2Cだ。2番目ぐらいに金融や人材が来る。もしも順番を付けるとしたら、金融と人材のどちらの成長率が高いか、どちらが良い人材を取れるかで判断する。

国という観点では、今、一番EC、特に越境ECが伸びているのは統計学上、台湾だ。ただし、伸び率だけではベトナムやタイがあるので、それを見極めながらやっていきたい。

ほかの媒体をどう見ているかというと、今、ネット広告は物凄く伸びているが、マスメディアは落ちている。落ちているが、はっきり言って電通と博報堂、私も元いたADKが寡占している。そのシェアの1%を取るだけでも数百億円の売り上げ向上になるので、そのあたりを攻めていきたい。

―海外事業を始める時期と、その時の売り上げ目標は
社内公募は来週からやっていく。立ち上げることを現実的に考えても、支社やパートナー、国によっては、資本関係で現地のものを一部入れなければ立ち上げられないものもある。そういうことを踏まえると、来年の年明け、第3四半期が終わったぐらいにはなってしまうだろう。市場だが、まず言えることは、市場性は日本のほうが当然大きい。例えば、台湾やベトナムに比べると日本の市場は大きいが、競合がいない。

最近、台湾では少しずつLPが出てきて、そこはすんなり入れるのではないか。日本でLPでは、今のところは独占でできているので良いが、まだプレーヤーが少ないので、そこは入りやすい。

ベトナムに関しては、講演もしたことがあるが、あちらはEC事業者でも「LPって何?」という状態だ。デジタルマーケティングの世界でいうと小学生レベルであるので、逆に型をこっちで作っていき、シェアを取っていけるのではないか。

初年度は別にして、いずれは海外比率を半分以上まで持っていきたい。来期は収益認識適用後に売上高が10億円というところだが、その後は当然13億円、15億円になっていくと思う。数年後には半分、海外でも十何億円を稼いでいる世界に持っていきたい。

―場所は台湾とベトナムが念頭にあるのか
そうだ。

―海外はアジア圏ではなく南米などは見込があるのか
私はブラジル生まれではあるが、南米の事情はそんなに研究はしていない。少なくとも欧米と言われている世界、米国や欧州に関して言うと、日本よりもデジタルマーケティングは先進的だ。昔のイチロー選手のように、メジャーリーグに対して、いわゆる欧米地域、南米も今は進んでいると思う。

そこにチャレンジするよりビジネスの統計学上は、マイナーリーグというのは少し失礼かもしれないが、日本よりも知識や競合が少ないアジア圏のほうが勝つ確率は高いという勝率の問題で選んでいる。南米に関しては、マーケティング事情は分かっていない。米国はけっこう研究している。

―海外に出ていくとなると競合が出てくるような気もするが、リサーチなどは
意外に日本でも、LPに特化したツールが今のところはない。カートシステム、ショップ用のシステムは腐るほどある。LPが未だに出てこないのはなぜかというと、マーケットはモールに比べてやはり小さい。モールは少なくともネットで売りたい人に対しては全員がターゲットだ。

逆に、ショップは少なくとも年商1億円がある人しかやらない。LPは経験則上だが、5億円を超えたところしかやらない。例えば、今上場している、例えば北の達人コーポレーションやWaqoo、プレミアアンチエイジング、I-NEを見ても全部LP型で運営している。そういう歴史があるので、「そこまで大きくなるまで待ちたくない」、「より広いターゲットのほうが、ビジネス上効率が良い」と日本の会社も考えたのでそうなっている。イコール、仮に米国や南米、アジア圏に行って競合が出てきたとしても、競合は日本と同じように、モールとショップと見ている。

ニッチと言われればニッチかもしれないが、その分野で勝負している以上は、逆にマーケットを広げるのはほかの産業だろう。

―最低でも1社のM&Aを掲げているが、具体的にどういった業態で、いつまでにするのか
上場前はM&Aの話を一切できない。水面下ではM&A会社と話していて、我々が探している業態は主に3つある。

1つ目は基幹システム。我々はLPのシステムとしては物凄く強いものを持っているが、ある程度小さな会社でスタートアップでは、LPのシステムだけでなく、顧客管理までできる基幹システムまで欲しいという会社がけっこうある。そういう会社向けに提供できるように、一から作るのは非効率的なので、日本にたくさんある基幹システムの会社を買収したい。

2つ目は、オフラインの会社を買いたい。例えば、チラシや新聞をやっていて、顧客の取引先は多いが、ご存じの通りオフラインが下がっていっているので、取引先が多ければそれとのシナジー効果がある。チラシをずっとやっている会社があってそこに100社ぐらいの取引先がいたら、当社の「売れるD2Cつくーる」を導入する営業ができる。もちろんシナジーも組める。あとは、ネットで得たノウハウをチラシや新聞に持っていく。

3つ目は、台湾とベトナムでいうと、少なくともベトナムに関しては、ベトナム資本が必須になるので、デジタルマーケティング業界にある程度精通した広告系の会社を買収したい。

―今後の会社の売上高目標や中期経営計画があれば教えてほしい
植木原CFO:2024年7月期については売上高で10億5000万円、当期純利益が1億5000万円を目指していて、その先については、会社の方針として利益ベースで130%成長を安定的に出せるような会社になっていきたい。

―九州IPO挑戦隊に出ていたが、福証ではなく東証グロースを選んだ理由と、今後の重複上場の可能性について
加藤社長:本当にIPO挑戦隊では福証の人たちには勉強させてもらってお世話になって地元に愛着があるが、なぜそうしたかは植木原CFOに説明してもらう。

植木原CFO:少数精鋭でやっていて、重複上場は少なからずリソースがかかってしまう。それであれば、会社のためにも単独でリソースを集中させて、東証上場に集中するというのが大きな最後の判断理由になっている。

―リソースを掛けるのであれば、東証のほうがいい
加藤社長:最初は、いわゆる資金調達や知名度という観点ではそう考えていた。ただし、もう少し余裕が出たら、福岡本社の会社なので地元貢献を意識していきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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