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上場会見:ケイファーマ<4896>の福島社長、創薬と再生医療の“二刀流”

17日、ケイファーマが東証グロースに上場した。初値は公開価格の950円を7.89%下回る875円を付け、947円で引けた。iPS創薬事業と再生医療事業を手掛ける。創薬では、神経難病の患者と健康な人のiPS細胞から作る神経細胞を比較して創薬に結び付ける。再生医療では、健康な人のiPS細胞から神経細胞を作り、亜急性期の脊髄損傷患者の患部に移植する。慶応義塾大学発のバイオベンチャーとして2016年に設立した。福島弘明社長と松本真佐人CFO、岡野栄之CSO(Chief Science Officer)、中村雅也CTOが東京証券取引所で上場会見を行った。

メディアとの質疑を通じ、上場の意義や今後の展望について話す福島社長
メディアとの質疑を通じ、上場の意義や今後の展望について話す福島社長

■患者は待ってくれない
―今日の株価の動きに対する感想は
株価は浮き沈みし、動くので、一喜一憂せずに長期的な展望で捉えなければならない。将来的には上げていく方向を考えながら対応していきたい。

―このタイミングでの上場の背景は
ここ2~3年、上場のために準備してきたが、基本的なスタンスとしては出来るときに上場しようというもので、もちろん昨今の状況は厳しいとかいろいろなことを聞くが、でも「トライしよう」と皆と相談して進んできた。いろいろな話があったが、期待してくれる人も、株を買ってくれる人の見通しも付いたので上場した。

岡野栄之CSO:今は本当に社会・世界情勢が最悪の時期だと理解している。何でこんな時にやるのかと。一方、この時期にできた事はそれなりに評価してもらえたのではないか。ただ、我々としては、世のなかでいろいろなことが起きても、患者は待ってくれない、1日も早く開発したいのは変わらない。

開発状況から、ALS (筋萎縮性側索硬化症)は、フェーズ1、2aの論文が出て、フェーズ3を始める準備をしている。脊髄損傷にしても、今年の11月で一区切り付き、これから一気に資金を投入してスパートを掛ける時期だ。そこで「今年はやめて来年にしよう」と言っている余裕はない。患者も物凄く期待している。株価は厳しいかもしれないが「上場してから頑張ります」と比較的楽観的なところもあり、頑張っていきたい。中村CTOはどうか。

中村雅也CTO:岡野CSOがずいぶん話したが、我々のターゲットは、代替の治療法がない。一番厳しい脊髄損傷であり、ALSだ。この患者達の講演会やセミナーをやると、彼らの叫びはそれはもう悲痛だ。僕は臨床家で、そういった患者達との接点を持つたびに、1日も早くより良いものを届けたいという非常に強い思いに駆られる。

確かに専門家の目から見たら、なんで今の時期に上場するのかという意見もあるかもしれない。個人的にはそんなことは関係なく、早く届けてあげたい思いがある。僕達の準備はもうできているので、国の資金や社会情勢だとか、そういうものに振り回されず僕たちがずっとライフワークとしてやってきたことを1日も早く届けたいと上場した。出だしの価格のこともあり、もちろんそれは投資家にとっては大きいし、大事な点だが、僕はスタートラインに立ったと思っているので、これからの勝負だという思いでやっていきたい。

―今年はクオリプスやノイルイミューン・バイオテックが上場した。バイオベンチャーは上場したが時価総額が下がっていくパターンが多い。株式市場で株価に振り回されてしまうリスクもあり、結局時価総額が下がって資金調達が苦しくなるとの懸念もある
福島社長:我々の作戦のなかに、会社を立ち上げる時に“二刀流”と呼んでいるが、創薬と再生医療を両方ともやろうといった。相当ディスカッションして1年ぐらい準備が掛かったが、要はどちらかがフォローできれば、危機的状況も脱することができる。今は、創薬のほうで、フェーズ2に到達してアルフレッサと提携できたのも1つの入口だと思う。

今後はそれでおしまいではなく、来月は欧州に行く予定だが、欧州や中国、インド、あるいは米国を攻めていく戦略で、そういうところで創薬を手掛ける。一方で、再生医療にも準備にお金がかかる。したがって、じわりじわりと行こうとしている。そうなると数年後に再生医療のほうが商品になれば、多分ひっくり返るだろう。

いろいろなバイオベンチャーの経営を見てきた。我々も立ち上げる時に相談してきたところもある。1本足打法もリスクが高いと思い、大谷翔平選手のようにピッチャーとバッターと両方行ければ、たとえ手術になったとしてもできるところまでいけるので、今から勝負だが、戦略としては間違っていなかったと見ている。

■脊損領域はダントツ
―iPS細胞の再生医療と創薬をできるのはなぜか
福島社長:山中伸弥 教授がiPS細胞を2007年に発明した。今、日本では11個ぐらいの臨床試験が進んでいる。脊髄損傷に関しては慶応がリードして、岡野教授と中村教授が、iPSが来る前の段階から取り組み、そこを展開して一昨年から臨床試験に入った。

ケイファーマは元々慶応のスタートアップだ。岡野教授と中村教授の研究成果を実用化するための動きをする。大学側と一体になって、もちろん知財はこちらに移してもらって、そういうことを準備して今に至っている。脊髄損傷に関してはダントツで進んでいて、もう少しで効果が発表されるだろうが、その段階まで来ている。

岡野CSO:少なくとも脊髄損傷について、私と中村教授が共同研究を始めたのは1999年の全盛期の頃で、iPS細胞ができる前から、ある程度これがいけるという目鼻が付いてきた。

ただ、日本では胎児由来の細胞や、今ではできるようになったがES細胞を使った臨床研究はできない状況だった。これに風穴を開けたのがiPS細胞技術で、2006年にマウスで、2007年にはヒトのiPS細胞を作った。山中教授に、脊髄損傷にぜひ使わせてほしいと頼んだ。彼も整形外科医だったので、共同で研究することを快く理解してもらい、いち早く進めることができた。

AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の研究費を獲得し、(ヒトに初めて投与する)ファースト・イン・ヒューマンを2021年に行った。慶応病院で数例実施するだけでは社会実装にならない。フェーズ3の治験を行い、一般市民病院などでもできる体制を組まなければならない。

これはもう会社を作るしかない、私と中村教授のやっている研究を人々にぜひ届けたいと2016年にケイファームを作った。だから、この会社がiPS細胞をいち早く手掛けられるようになった。

■効く化合物を探す
―ALS研究の経緯は
福島社長:iPSの技術がノーベル賞を獲った理由は、人の機能を再生する細胞移植ともう1つ、化合物のスクリーニング、いわゆる薬を作るための手段に使えることが大きい。いわゆる「疾患特異的iPS技術」だ。、患者の血液をもらって、健康な人との比較をして、そこから化合物を見つけ出す手法で、いち早く岡野教授が神経難病で取り組んだ。

日本中の全部とは言わないが、岡野教授の下にいろいろな人が集まってきて、いろいろな疾患のiPSを取って研究を進めてきた。そこで最初に進んだのがALSで、臨床に入って、フェーズ1と2の試験でクリアな結果が出たので、それを開発する流れになった。

岡野CSO:iPS細胞について2007年に山中教授らが最初の論文を出して、これはもう国として応援しようとなって、2008年から文部科学省を中心とした再生医療の実現化プロジェクトがスタートした。そこで4拠点ができた。それが京都大学と慶応大、東京大学、理化学研究所だった。

特に、慶応の拠点は神経の病気、脊髄損傷を治すことと、病気のiPS細胞、ALSやアルツハイマー病、認知症、あるいは精神疾患のiPS細胞を使った創薬研究だった。特に力を入れたのが、神経の難病中の難病であるALSだった。

ロピニロール塩酸塩という既にパーキンソン病の薬として認可されている薬がALSの治療薬になるという論文を、2018年にNature Medicineに発表した。その1ヵ月後の12月1日に医師主導治験を開始した。この治験は凄くお金がかかる。AMEDの資金は獲得したが、それだけではどうしても足りない。そこから立ち上がったばっかりのケイファーマに手伝ってもらった。

マッチング型の治験で20例に対して、実薬群が13人、プラセボ群が7人、これに関して安全性と忍容性、有効性の一環を示すことができて、それを論文にしたのが今年だった。

フェーズ2aまで終わったら、次はもう承認を取るためのピボタル試験でフェーズ3だ。これはアルフレッサファーマと組んで、現在PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)と相談をしているところで、1日も早く体制を作ってピボタル試験を始めたい。

―再生医療の研究を進めているが、臨床研究の進捗は
中村CTO:現在、亜急性期の完全脊損(完全損傷)に対する臨床研究を行っている。マスコミにも報道されたが、第1例目は2021年の12月に移植し、3ヵ月後の独立データモニタリング委員会の承認を得て、2例目以降のリクルートを行っている。現在までに時間が結構掛かっているが、3例の患者に移植を行っている。この臨床研究は今年の11月末までに4例のリクルートを目指している。

ただ、プロトコール(臨床研究実施計画書)を策定する段階から、3例でも研究としては何とか成り立つ前提で進めてきた。今後約1ヵ月の間で急性期の患者は不幸にして怪我をする人なので、不確定な要素がどうしても拭い切れない。

その3人の安全性が主評価項目だが、詳しいデータは、今後しっかりとした形でしかるべき場所で伝えたい。安全性に関してはほぼ問題がないだろうと考えており、有効性に関しても一定の手応えを感じている。

■慢性期にも広げる
―脊損とALSの治療薬を使うとどのような効果が期待できるのか。一般の人にも分かりやすい感じで聞きたい
中村CTO:脊髄損傷と一言で言っても、その病期と損傷の程度によってかなり違う。今やっている臨床研究は亜急性期の完全脊髄損傷で、当然その次には、慢性期に移っていこうと考えていて、慢性期も不全脊損そして完全脊損、最もハードルが厳しいのは最後だが、それによって機能的な改善は当然変わってくる。

亜急性期の完全脊損に関しては、細胞治療だけで、全く動かなかった人がスタスタ歩くのはなかなか厳しいと見ている。そのためには、我々はもちろんiPS細胞由来の神経幹細胞の移植を軸にするが、様々なリハビリテーションなどを組み合わせる前提で話すと、足がピクピク動くだけではその人の人生を変えていないので、今まで全く動かなかった人が日常レベル、ADL(Activities of Daily Living、日常生活動作)に改善が得られるような、何らかのADLやQOLが上がるようなレベルまでの機能改善を目指したいし、それを想定している。

慢性期の人に関しても、先の話になるがインパクトは大きいと見ている。完全に機能的な回復がプラトーというか平衡状態に達している人に対して介入をするので、不全脊損の人に関しては、効果が最も見えやすく、機能的な改善が得られやすいのではないか。一方で、慢性期の完全脊損に関しては、まだハードルが高い。

今年の1月にBiomaterialsという雑誌に、動物レベルだが、慢性期の完全脊損に対する方向性を出した。それをさらにブラッシュアップするための前臨床研究を、AMEDから支援を受けて、これから4年間、さまざまなリハビリテーションや磁気刺激、電気刺激といったものを併用した形であれば、慢性期の完全脊損の人でも機能的なADLなどに影響がしっかりと見えるような改善を目指したいが、ここに関してはちょっとまだ不確定だ。

岡野CSO:ALSは本当に神経の難病中の難病で、人工呼吸器を着けない限り3年から5年で必ず亡くなると言われている。今のところ我々が開発してきたロピニロール単独で根治するのは難しい。ただし、このフェーズ1、2aスタディの結果はなかなか有望で、例えば、生存期間も1年間の観察で、189日間、50%以上延びている。

それから、人工呼吸器を着けるような呼吸不全状態になるまでの期間が倍ぐらいに伸びている。また、全体的に機能がどんどん悪くなるが、その低下の仕方がとてもなだらかになる。病気の進行をかなり減速させることができた。加えて、根治を目指した研究を今後さらにいろいろな形で行いたい。それが、ボストンに研究所を持っていろいろな情報を持つ。それを次の手としてALSを何とか治していくことに取り組みたい。

―モダリティについて。これから別のものに手を広げるかもしれない話だったが、それは現状で対応しているALSと関連するものか
岡野CSO:まだ大学での話だが、ゲノム編集やRNAの配列を変えるRNA編集、ALSにとって非常に重要な変化のあるRNA配列を変える研究をしているところだ。これも社会実装の段階になればケイファーマに持ってきたい。まだ、患者にすぐ適用できるところには行っていないが、学問的には非常に面白いし、うまくいったらロピニロールなどと組み合わせれば、かなり良いのではないか。

脊髄損傷も、これもAMEDのかなり基礎的な研究だが、今はiPS細胞から作った神経前駆細胞を移植する。それにリハビリテーションを組み合わせる方法だ。多分、次世代はCAR-Tと同じようにiPS細胞から作った神経幹細胞に機能遺伝子を導入すると、動物実験では物凄く良くなる。これを何とか臨床に持ってきたい。これは面白いとしてAMEDでも採択されたので、それに通じる1つのネタはケイファーマでもやっているので、それは次にやっていきたい。

■米国拠点を構想
―アルフレッサファーマに導出しているパイプライン「KP2011」だが、上市時期のメドは
福島社長:私の口だけで言うことはできない。契約上、国内だけだがアルフレッサファーマと一緒にやって、アルフレッサが主導でやることになっているので、大まかに言うと2020年代の後半を目指して、一刻も早く進められるように準備を粛々と進めている。

岡野CSO:ただし、神経難病中の難病であることと、フェーズ2aで良い成績も出たことで、もう少し縮める努力はしたい。先駆けプログラムなどいろいろある。

―早期期限付きとかそういうものか
条件付き早期は再生医療等製品だけで、これ(KP2011)は薬だ。ただ、審査などを早くするプログラムは、いろいろな条件を満たせばそうなるので、ちょっと考えてみたい。

―資金調達額とその使途について
松本真佐人CFO:オーバーアロットメントを除いた金額では、14億円強になる。主に研究開発資金で10億円強を使いたい。内容としては、特に再生医療の領域、亜急性期の脊髄損傷の企業治験の準備を進めているが、CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization、医薬品開発製造受託機関)への外注費用や、その他安全性試験などの費用に使いたい。

また、開示しているが、来年以降、米国の研究拠点を設立したい。大きく会社を設立するのではなく、まずは小さく、数人程度の研究員を抱えて最先端の研究の発掘を進めていきたい。あとは、これから研究開発をさらに加速させるための人件費を人員増のために使いたい。

―資金調達14億円強のうち10億円を研究開発費に充てるとのことだが、ALS以外のパイプラインに充てるのか。優先順位は
基本的には亜急性期の脊髄損傷のプログラムだ。

―第2相か
ここは治験の準備で、商業化していく上で、我々は工場を持っていないので、CDMOに外注するには、例えば、マスターセルバンクを作るなどでそれなりのお金が掛かる。商業用に細胞を作っていく過程のコストで使いたい。

―米国拠点で目指すことは
福島社長:我々は新しくiPS細胞の技術を使って7年掛かってここまで来ることができたが、向こう10~20年を考えると、今の状況でいいかどうかは疑問だ。新しいモダリティを入れていかなければならないので、岡野教授と相談しているなかで、今のところ候補としてはボストンだが、最先端のことをやっていて、新しい技術も、あるいは能力の高い人もたくさんいることを鑑みて、こちらとは独立して何らかの立ち上げをできたら良いと、年明けに動き出そうと考えている。

いきなり大きいことは考えておいないが、拠点を置いて動き出さないといつまでたっても始まらない。岡野教授はマサチューセッツ工科大学(MIT)の客員教授もしており、そのような人脈もある。そういうところをきっかけに進めていきたい。

岡野CSO:昨年からMITの客員教授をしており、毎年夏はずっと向こうに行っている。そのこともあり、やはり再生医療に必要とされる次の技術、ゲノム編集や計測技術、あるいは組織工学、あるいはトランスクリプトームの解析など、残念ながら日本よりも1歩も2歩も進んでいる。論文になる前の段階のデータのいろいろな話も、口コミで伝わってくる。

そこにいてとにかくいろいろな人と会って、次の方向を模索するは非常に重要だろう。幸い、アカデミアの人だけではなく、ボストンに拠点を持ついくつかの製薬企業や臨床家の人たち、ベンチャーキャピタルなどいろいろな人たちと知り合いになったので、より効果的に次の手を打てると思う。

―米国拠点は、基本的にはALSなど創薬事業のための研究機関なのか。再生医療も扱うのか
福島社長:大きく言えば未定の部分はたくさんある。再生医療も今後の遺伝子導入なども含めて新たなモダリティに転換していかなければならない。創薬も、iPS創薬で確立した今回の方法以外も、もっと応用できる可能性があるのではないか。それはそれでいければ良いし、そのぐらいのことを見ておかなければ、20年後、30年後に会社が生き残るためにはやっていかなければいけない。

■海外は提携で
―米国市場への進出はどの程度の計画で考えているのか
例えば、創薬も我々単独で全部はまだできない。十何人しかいないので。今回のアルフレッサのケースのように米国のどこかの製薬会社と提携するのは普通の流れだろう。

再生医療はどうかというと、私自身が感じるのは、日本だけが進んでいるわけではなく、米国も欧州もかなり進めている。米国で細胞を調製し、日本の細胞が向こうで使えるかどうかは逆かもしれない。向こうの細胞を日本に入れることもあるかもしれないが、少なくとも米国で製造されたiPS細胞は米国で使う流れはできていて、展開している。我々だけでは無理かもしれないが、向こうのどこかで組むのは視野に入っていて、提携して開発していこうと考えている。

―米国で再生医療をしているビッグファーマか
ビッグファーマか専属のところなどだ。

―国内はいろいろと提携していく戦略か
iPS創薬は、プロジェクトごとに組んでいけたら良いが、再生医療に関しては、自社での展開を考えている。法律的にCDMOで製造できる。提携して我々が製造、販売権を取って展開するのは流れとしてはある。

例えば、クオリプスは自社で工場を持つが、今そこまでは考えていない。CDMOは進んでいるところがあり、数社に絞り込んでおり、そういうところに製造を委託することを考えている。かつ、欧州も米国も、同じ細胞を使えるプロトコルもできるレベルまで来ているので、そこも視野に入れる。ただ、相手先との話もある。一度に米国でも欧州でも一緒にできるかは難しいので、どこかと提携していく。

―ALSに関しては、アルフレッサが製造も流通も手掛けるのか
日本だけだ。

―それ以外のパイプラインについては自社でCDMOに委託して流通も…
再生医療のほうは…

―再生医療事業のほうは自社で展開する。
そうだ。

―iPS創薬に関しては導出を
導出を考えようかと…
岡野CSO:iPS細胞創薬に関しては、ALSが1番走っているが、ほかに3つぐらい病気のパイプラインがある。前頭側頭型認知症(FTD)やハンチントン病、フェリチン症、これはいずれも良いリード化合物が見つかりつつあり、やがて話したい。

―基本はなるべく自社でやっていきたいのか
福島社長:もちろんだ。

―再生医療企業、メーカーとして成長していく方針か
まさにそうだ。資金があれば全部やりたい。我々のストーリーは、2030年代には、全部成長していけば、私が以前に所属していた製薬会社を抜けるのではないかと思っている。
岡野CSO:再生医療に関して、まずAMEDの資金で、アカデミアで作った細胞を患者に移植する。それを実用化するような規模の施設は慶應大学にはないから会社を作った。ただ、それをちょっと関係ない会社に丸投げして、我々の望む品質の細胞を作ってもらえるかどうかは分からない。やはり我々が目を光らせているところで作りたい。大量培養になるとCDMOに委託しなければならないが、そこにしても、かなり厳しく目を光らせるつもりだ。

―再生医療は自社でとのことだが、海外では大変ではないか
福島社長:海外も全部やりたいが、今の力では無理だ。まずは日本を先行させて、そのデータも使いながら海外展開していく。そこは提携をベースにする。もちろん体力的にできるような資金があれば、展開も考えるが、今のところ分けたほうがいいだろう。

■熱いディスカッション
―パイプラインの取捨選択の基準や、切る手順は
会社を立ち上げた後に、iPARKという研究所を湘南に作って5年が経った。大学との共同研究を基礎にしているものやそこで新たに生み出されたものを含めて、基本的には主任研究員が興味を持ってくれるものを提案する形で進めてきた。マンスリーベースで教授たちにも入ってもらいながら科学的な議論をずっと繰り返してきた。

私の基本的なスタンスとしては、例えば、私はエーザイに在籍していたが、エーザイや武田薬品工業と同様の判断基準で良いかは疑問がある。よく見極めてしっかりやって、その結果、駄目なのは駄目で自分から提案して止めることをやらせたい。

創薬パイプラインの2つめと3つめのFTVとハンチントン病も、最後の化合物1個に絞り込んだ。これは5年近くかかっているが、我慢した甲斐があった。簡単に切ることはできるが、切ってしまったら終わりなので、「じっくりやろう」として、その最終の化合物まで来ている。

これをどうやって臨床試験に持っていくかという段階なので、2つめ、3つめの創薬のパイプラインができている。その話の裏返しとして、いつまでもやらせて良いわけではない。見通しのないものは教授たちの意見も聞きながら切るしかないし、次のテーマをやっていく。

岡野CSO:マンスリーミーティングで実際にデータを見て、これはきついのではないかという話が出ることもある。

中山CTO:我々の一貫した方針はサイエンティフィック・エビデンスだ。それが我々の強みだろう。アカデミアである岡野CSOや私達、もちろん他の人もメンバーとして参加しているが、マンスリーミーティングでの熱いディスカッションがベースだ。進捗状況を我々がどう判断するかが1番の強みだと思う。

■難病を制する者は万病を制する
―IR方針は
福島社長:一喜一憂しても3ヵ月に1回では研究は進まないので、しっかり見直して進捗を適正に評価していくしかない。両教授のほかに、アカデミアだけに偏ってはいけないので、最初から製薬会社のOBを入れている。エーザイの本部長だった吉松賢太郎氏と武田薬品工業の中西淳氏という大御所に入ってもらい、サイエンスと製薬会社の経験を基礎に、同様にコメントをもらう。

冷静に「もうやめたら」とも時々言われたが、「ここはちょっと我慢してください」という感じで次に進んでいるところもある。もちろんほかのテーマもしかるべき棚卸をしてやめなければいけない時にはやめる。

松本CFO:私の視点から言うと、基本的には四半期に1回の開示がある。説明会などを四半期ごとにやるかどうかはこれから検討するが、少なくとも半期に1回程度はWebなども使いながら行う。

ビジネスベースに乗るか否かという点はあるが、科学的に進捗があるか、プラスアルファで儲かるか儲からないか、製薬会社としてあるべき考え方もある。費用対効果を見ながら、迅速に意思決定していく。それを適時にしっかり投資家に伝えるコミュニケーションを取っていく。

岡野CSO:神経難病については、どれも臨床試験を始められる可能性が非常に高まってきているので、頑張って続けてもらわざるを得ない。スタートアップ企業の非常に良いところで、誰かがやっているとそこを何とか自分の手で世のなかに出すまで頑張る。大企業と共同研究をすると、3年ぐらいやっていい線に行くと、突然の人事異動でプロジェクトがなくなることもある。意外に連続性がなく、あまり生産的でないこともやっている。そういう無駄はなくそうと、とにかくプロダクティビティに繋げようというのは、非常に大事なことだろう。

言い忘れたが、神経難病に関して、(会場のメディア関係者は)あまり聞いたことがない病気だと思ったのではないか。何故そういうものをやるか。こういう難病を治す薬を見つけると、ほかの病気にも効くことは、「from Rare to Common」という1つの考え方で、「難病を制する者は万病を制する」。一方、難病はほかに治療法がないのであれば、承認を比較的得やすい。そういった戦略でやろうと取り組んでいる。これ以上のパイプラインがないというよりは、これらがほかの多くの疾患の治療法に繋がるではないか。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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