22日、Schooが東証グロースに上場した。初値は公開価格の690円を10.29%上回る761円を付け、719円で引けた。社会人向けに教育動画のサービスを手掛ける。法人向け研修サービス「Schoo for Business」や個人向けの「Schoo for Personal」では、ビジネスやデジタルスキルに関する動画に加えて、リベラルアーツなどもカバーする。Schoo for Businessが売上高の90%を占める。森健志郎CEOと中西勇介CFOが東京都内で上場会見を行った。
■学び続けられるサービス
―株価終値719円の受け止めは
まずはしっかりと真摯に受け止める。初値に対して公開価格や終値との比較では、最初にポジティブな、堅調なスタートを切ったというところだが、話しているのはおそらく当社の資金調達上で最終ラウンドの株価と、現状の公開価格や終値を踏まえると誤差があるところかと思う。それに関しては、しっかりと今の株主に返せるようにしていくことが、一言で言えば答えだ。
最終ラウンドで入った株主のほとんどは、売り出しではなく360日のロックアップに応じ、当社の株主として残っている。2025年9月期を踏まえ、その先を見据えてバリューアップをして支援を得た分を返していきたいというのが前提になっている。
―なぜ上場しようと思ったのか
「社会人教育の第一想起を獲得する」という中長期の戦略的な目標を掲げている。このため、まず多くの人に、リスキリングや人的資本経営、今ホットになっているトレンドとSchooを結び付けて認識してもらう必要がある。それを最もやり易いのが、上場することだと考えていた。
―動画の教育サービスを受講するうえで必要な基礎能力を補充するタイプのコンテンツはあるのか
義務教育的なコンテンツはないものの例えば、数学やリテラシーに近いようなコンテンツもかなり充実している。我々がターゲットとしているのは、1人でeラーニングの動画を見切れて、“積読”せずに本を毎週何冊も読めるような学習習慣があって、学習意欲が物凄く高いビジネスマンではなく、一般的な本を買って、何かを学んで自分の今の生活を変えたいが、結果的に“積読”になってしまうような普通の人だ。
そのような人たちが楽しく学び続けてもらえるサービスを作りたいのが原点だった。簡単な数学のコンテンツや、デジタルリテラシーでも入門的なもの、「インターネットの仕組みはそもそもどうなっているのか」といったものも当社のなかには格納されている。
■ハードルを低く
―コンテンツに「リベラルアーツ」や「ライフリテラシー」といったものがあるが、最初からあったものではなく途中からできたものなのか。またどのような狙いでコンテンツとして提供しているのか
最初から作られたものではなく、段階的に作っていたもので、狙いとしては、最初に学び始めてもらうハードルをいかに下げていけるかを追求したときに、できる限り柔らかく日常に生かせるような学びを取り揃えていく。
そうすることで、ハードルをもっと下げていきたい、学びに対して抵抗感を持っている人たちにも、もっと学び始めてもらえるようにしたいことから、お金や健康を中心とするリベラルアーツやライフリテラシーについても、コンテンツの拡充を行っていた。
―中西CFOが仏教について社会人になってから大学で学んだというエピソードに接したが、歴史といったリベラルアーツに関しては、「教養的なものが社会人にも必要だ」という趣旨ではないかという印象を受けたが、そういったコンテンツを提供するコンセプトは
中西勇介CFO:当社のサービス全体の特徴でもあるが、そもそもどういうコンセプトかというと「世のなかの卒業をなくす」ということだ。他社では、資格の教室であれば合格して早く卒業してほしい。当社はそうではなく、長く続けてもらいたい。リカーリング型というのもそこにある。
つまり、社会人でどんどん学ぶべきものが増えていく。それが私であれば仏教だった。例えば、実学にちょっとつまずいて「人間ってなかなかうまくいかないな」と思い「仏教を学んでみよう」と考えた時に、リベラルアーツのようなポートフォリオを持っていることが当社の最大の強みで、「学びたいことがあったらSchooだよね」という「社会人教育の第一想起」を目指すことも、そこに繋がると見ている。学び続けていく人を増やす意味では非常に重要なポートフォリオと考えて、敢えて持っている。
―「学びの総合商社」と表現していたが、教育のプラットフォーマーを志向していった先には、放送大学的なものになっていくのか。目指す方向性は
森CEO:放送大学のようなアカデミックなコンテンツも網羅していきたいが、それと合わせて、すぐに使えるビジネススキルやテクノロジースキル、例えばプログラミングのようなものも充実しているという奥行きの深さが当社の第1の特徴となる。
ただそのコンテンツを見るだけではなく、集合学習機能のように皆で動画コンテンツを受けられるような体験を通じて、テレビで動画を流していくだけでは得られないオンライン上でのキャンパスに通えるような体験を作っていきたい。
―社会人大学院のグループワークの雰囲気に似ているような気がする。学びの場として、そういった社会人大学院的なものもあり得るのか
あり得るとは思う。我々は、MBAや大学院に通う層ではなく、資金面(で難しい人たち)やモチベーションが湧かない人たちに良い学びの体験を提供するポジショニングなので、似ている部分は出てくるが、全く違うものになっていく。
■皆で楽しく学習
―競合優位性に関してコンテンツやプロダクト、カスタマーサクセス(CS)を挙げているが、他社と比べた時の差別化が見えにくい。差別化を図っていきたい点があれば聞きたい
1つめがプロダクトの体験、もう1つがCSだ。プロダクトの体験では、皆で学ぶという点を、BtoCサービスで磨き上げ、それを研修サービスに反映している。
生放送で、双方向でやり取りをする機能だけではなく、集合学習機能という当社にしかない独自の機能に落とし込んでいる。当社にある動画学習コンテンツや、顧客企業が持っているeラーニング用データを、日時と参加者を設定し、その日時になると自動的にその動画が再生される。設定された参加者だけがそのページに入れて、皆でチャットをしながら、その動画で楽しく学習することができる。
皆さんもコンプライアンスやビジネスマナーといったコンテンツを受講しなければならないこともあると思うが、それを1人で見るのではなく、一緒に受ける仲間とチャットしながら楽しく学習できる。BtoCのサービス体験から法人向けのサービスに反映した独自の機能だ。こういった独自の機能開発を突き進めていくことで、競合の会社に対して優位性を発揮していきたい。
2つめは、CSが深く伴走して、その企業の従業員が独自に学び合いを行っていく支援をしていきたい。
―解約率の下降とカスタマーサクセス(CS)における手法の関係性について聞きたい。2%台から0.04%に下がるまでに、CSの整備があっただろうが、目に見えて下がったのはどういった施策によるものか
一言で言えば、組織のなかでの学び合い、これを当社のCSが一緒になって作っていった。当社の代表的な顧客に旭化成<3407>があり、同社でも一緒にCSの取り組みを行った。使い始めた新入社員の人たちと一緒にコンテンツを選択し、学んだ結果、その人が学んだ内容を社内のチャットツールで投稿し、一緒にコンテンツを使って勉強会を開くということを、サービスを使っている従業員や人事担当者任せにするのではなく、一緒になって企画をして使ってもらう。
それによって、使い始め、使い続ける人たちを増やすことに取り組んできた。旭化成の事例で話をしたが、その企業に合わせてCSが伴走し、組織のなかで学び合いの文化を作る支援を続けてきたことが、解約率を大きく引き下げることに寄与しているのだろう。
■全社に広げる
―2025年9月期の見通しについてもう少し詳しく教えてほしい。ARPAの高い大企業を中心とした新規獲得、既存顧客のアップセルを進めるため、単価上昇が全社業績を牽引するそうだが、どういう大企業を増やせそうなのか。既存顧客のアップセルについてもどのようなところでできそうか
中西CFO:進行期の業績についての質問と認識しているが、当社の売上には2つの要素がある。1つめは、契約者数×ARPA(単価)で、どのように売上を作っていくかという質問と捉えると、社数では前年対比の成長率は110%だ。それに対してARPA、1社当たりの単価の成長率は135%になっている。
つまり、前年対比では売上全体としては、137%の成長になるが、メインターゲットとして社数を伸ばすのではなく、1社当たりの単価の伸長に重きを置いている。新規はもちろん獲得していくが、1社当たりの単価を高めていくことによって売上高を実現していくのが当社の基本的な戦略営業戦略になる。
―単価に関して、部分的に導入している会社では全社導入を目指すといったところだろうが、どういったところに伸びしろがありそうか
部分導入している会社の特徴は例えば、階層別や新入社員の研修で最初に入った、子会社が一部で入ったというところが多い。それを全社導入していく。具体的には、Schooを導入した大企業はほかのサービスも導入している。そのなかで実際に新入社員が使ってみて、コンテンツの多さやプロダクトの分かりやすさから「Schooって分かりやすいね」ということになって「ほかの部署でも使ってみよう」、「今までは新入社員だけだったが、マネジメント研修でも使ってみよう」といったように範囲が広がっていく。これがARPA拡大の余地、ID数が伸びていくことが当社の拡大の作戦だ。
―一方、今年は社数がそれほど伸びる予定でないということは、大企業の開拓はだいぶ進んだからなのか
社数も線形で伸ばしていくが、それ以上にARPAを伸ばしていくイメージだ。
―2025年9月期の販管費や人件費が大幅に増える予定だが、どこに注力するのか
主に人件費で、増える分は大企業開拓に伴う営業人員、上場会社として必要な管理体制の強化を狙いとしている。そこが販管費の重要ポイントになる。
■変化する学びに対応
―中長期の成長戦略に関して、どの程度の時間軸でどういった形を目指すのか。5~10年ぐらいでも構わない。成長していくうえでの新サービスを作っていくのかも含めて聞きたい
森CEO:ここで具体的な数字の明言は難しいものの、長くない時間軸で実現していきたいということだけは言いたい。新規サービス、マーケットプレイスや地域の提供モデルを示しており、それに付随する新規サービスの開発はあり得る。現状何かを作っている企画しているものがある状況ではなく、必要があれば作っていく。
―利用企業や組む相手方も変わるなかで、発信する学習コンテンツの内容に今後、変化は生じてくるのか
学習コンテンツの変化はあり得る。13年間ビジネスをやってきたなかで、その変化が急激に、例えば、今まで必要だったロジカルシンキングが1年後に全く使えなくなるといったことではなく、緩やかな変化のなかで必要な学習は変化している。
テクノロジーを始め、新しく作り続けなければならないものがあるので、その分はしっかり原価として予算にも算入している。ほかのコンテンツはある程度長く使うことを想定して作っているものも多いので。時代の流れに合わせてアップデートしていくものもあるものの、今のコンテンツでも長い時間、有用な価値を発揮できるのではないか。
―動画コンテンツの作成に携わる講師の選定基準は
明確に汎用的な基準を設けているわけではない。ガバナンスやコンプライアンスを重視してもらえる素晴らしい人ということは前提となるが、明確な基準を設けているわけではなく、作りたい学習コンテンツに合わせて要件を設定し、その要件を満たした講師を探して連絡するので、コンテンツによって違う。
―事業で地方創生があるが、上場したことによって地方創生においてどういった展望があるのか
自治体と連携して、個人や企業に届けていく方式をもっと探っていきたい。例えば、地域にある企業や個人では、デジタルリテラシーや情報の非対称性、研修に掛けられる予算など様々な面で、その企業や個人だけでは導入に至れずサービスを使えない場面が多い。
その地域でパワーを持っている地方行政や地方自治体の人たちと連携して、そういった企業や個人にも、どうすれば学びを届けていけるのかを模索しており、鹿児島県日置市などでは取り組みを開始している。自治体と連携して地域の企業や個人にいかに学びを届けるかを第1に進めたい。
―これまでM&A的なことをしていたのか、今後M&Aについてはどのような考えがあるのか。海外には行けるのか、既に行っているのか
M&Aと海外ともに取り組んでいるものはない。ただ、既存事業の成長と合わせて、キャッシュも生まれていくので、その有力な振り向け先としてのM&Aや新規事業、海外展開は十分にあり得る。
―2024年9月期に黒字となったが、今後は安定して黒字を達成していくのか、場合によっては成長投資で黒字よりも売上成長を目指すのか
中西CFO:基本的には正のキャッシュフロー、黒字の範囲内で投資を行うことを旨とするで方針を立てている。かつ、損益分岐点を超えると、それ以降は限界利益率が高まって利益が出やすい体質にある状況で、その範囲内で適切な投資を行う。ただし、勝負の時には一定のコーポレートアクションをすることも当然放棄するものではない。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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