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上場会見:マーソ<5619>の西野社長、健康寿命を延伸

21日、マーソが東証グロースに上場した。初値は公開価格の2260円を8.01%下回る2079円を付け、2039円で引けた。人間ドックや健康診断の予約サイト「MRSO.jp」の運営や、医療施設や自治体向けのウェブ予約管理システムなどHCPFやDXサービスを手掛ける。国や都道府県が設置する大規模会場での新型コロナウイルスワクチン接種の予約システムも受託し、2022年12月期の売上高の3割強を占めた。ゴルフ場向け基幹システムを提供する三和システムの医療事業を譲り受け、2015年2月に設立した。西野恒五郎社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

デジタル化で、予防医療の潜在的な価値を最大化する支援をすると話す西野社長
デジタル化で、予防医療の潜在的な価値を最大化する支援をすると話す西野社長

―初値が公開価格を8%下回ったことの受け止めは
IPOで期待しているものの1つとして、市場からどのような価値を評価されるかを重要視している。今日の価格を厳粛に受け止めて、株価対策といったところも、これから実施できるとスタートラインに立ったと思っている。前向きに進めていきたい。

―株式市場での評価を高めていくためどんなことをするのか
検討段階で具体的に言えないが、予防医療を支援して、皆の健康寿命を延ばすことを目的に経営している。日本中が皆元気になるような人間ドックを受けやすく、あるいは健康でいられる生活習慣になりやすくなることを目指して、1つは会社の株主に対するサービスの拡充を考えたい。また、しかるべきタイミングに配当なども検討したい。

―しかるべきタイミングについてのメドは
現段階で、そのような発表をしていないので、開示できない。

―主幹事のSBI証券は株価操作で勧告されている状況で、今日の株価に対して影響があったとの認識か
それは分からない。株価に関しては専門ではないので、これから株価に対して何がどういう影響があるかを研究しながら実質的な株価対策を進めていく。SBI証券のニュースに関しては、影響があったかなかったかというのは逆に教えていただきたい。株価というのはそういういろいろな複合的な事情であると考えている。

―関連して、その件に関してSBI証券から説明はあったのか
ほぼ報道通りの内容・情報の説明を随時受けている。

―報道道通りの内容があったと聞いているということか
SBI証券が世の中に発表した内容と同等の情報を受けており、一部報道に対して否定したり、肯定しているということが起きていると思うが、それに対しては、それと同じ情報を説明されている。

―そういった説明を受けて、IPOを延期するといった検討をしたのか
それを我々が決めるというよりは、外部でそういった処分の影響でそういう風に至ることがあるのかないのかという心配は一瞬した。我々が何か取り下げる理由にはならないという判断した。SBI証券からの説明で、現時点でも結論が出ていない件がたくさんあると考えており、それに関して我々はSBI証券との信頼関係は継続しているという前提のもと今日に至っているので、それ以上の対応策が必要とは判断していない。

―実際に勧告があったわけだが、それによって、マーソとSBI証券の関係には特に影響がないというような判断をしたということで良いか
そうだ。

―上場の目的について
幅広い認知と、またもっと大きくするために先日発表したような資本・業務提携などをよりアグレッシブにするためだ。そういう意味では早速、SHIFTや東急グループのイーウェルと魅力的な協業の話と、資本提携しているので、今後もどんどん広げていきたい。

―三和システムから分社化し、西野社長が現在も半数以上の株式を保有している。なぜわざわざ分社化してマーソをIPOしたのか。2社をそのように展開する意図は
私は三和システムとマーソの大株主であり、株主が共通の兄弟的な会社だ。三和システムはマーソの株式を一部保有しているが、今日の時点でだいぶ減らしているので、三和システムからの直接的な関係性は薄くなっている。

他方で、私自身はマーソにフルコミットしており、株主ではあるものの、三和システムとは経営的なものでは一切関与していない。こういう座組になったかは、行きがかり上としか言いようがない。

三和システムを2015年に分社する時の発想は、ゴルフのDX事業としてのIPOを考えておらず、満足して顧客にサービスして成長していくとして、三和システムの代表取締役を務めていた。一方で、三和システム内で誕生した医療DX事業、予防医療の医師と、車では車検が義務付けられているのに、人間の体は自由にやってもやらなくてもいい健診があると話した。健康診断は法定で義務付けられている部分も一部あるが、健康診断ではがんは見つけられない、人間ドックが重要である。自覚症状があった時では遅いことが多々あるという話をした。

三和システムというプライベートの事業で人間ドックを広げていくよりも、新たな応援者を募ったパブリックな会社にして大きくする必要がある。それをある種使命感と感じ、その時に私は、十数年来三和システムに従事して、代表取締役でもあった。新たな経営者候補を任命して、マーソを託すという判断を2015年にした。

前社長が2年間経営したものの、なかなかうまくいかなかった。私は株主として社外取締役としての関与で歯がゆい状態で、2016年末に業績の悪化を受け、外部株主からも相談を受けて、経営者交代、経営陣一新に至った。2017年に私はマーソの代表取締役に着任した。

スタートラインに戻って、社会の公器としてのヘルスケア・DXカンパニーを成長させたいという座組が、三和システムとマーソの関係になった。

―三和システムとマーソは、投資家としては統合する可能性を考えるのではないか。三和システムの代表者が西野社長と同じ名字なので、そのあたりの関係はどうなのか。マーソ設立の趣旨は公共性の高いものなので、三和システムの1つの大きな事業部門として新たな成長の柱として展開するのは通常考えられるパターンだと思った。今後を見据えても全く別の道を歩くのか
今考えているのは、全く別の道を歩んで、そこに対するこだわりは一切なく、ただ当初の目的通り日本中あるいは世界中の皆の健康に貢献するような会社にしたい。

偶然資本関係が存在するものの、三和システムとくっついてメリットがあるいうことはあまりない状態で切り分ける。マーソは専業として成長させたい。

―世界中にとのことだが、医療ツーリズムという言葉も定着している。海外から、高所得者の健診や人間ドックといったビジネスも既に医療法人で展開しているが、海外展開は
コロナ禍前、医療ツーリズムやインバウンドの人間ドック手配は日本のなかでも主軸で提供した時期があったが、コロナ禍後に断念した。

今後は状況を見て再開する可能性は十分にある。インバウンドで受け入れるだけではなく、我々は日本の予防医療のレベルが高い、ポテンシャルがあると感じていて、高齢者先進国である日本の次なる魅力的な市場だ。

そこで健康寿命の延伸の成功モデルを作り出すことで、諸外国が10~20年後を迎えるであろう高齢化に向けたロールモデルにすることができたならば、そういったものを世界に持っていくこともあり得る。中長期的なロマンの部分もあるが、それを見据える。

アナログでやっていると、非効率でもったいない。本当は資産として活用できるものが見えないまま放置されているのが、今の予防医療のアナログの現場で起きていることだ。しっかりとデジタル化することで、ビッグデータがたまっていき、活用できるようにしたい。

―人間ドック予約のデジタル化が進んでいない理由と、どう訴求していくのか
いろいろ要因があるが、経営的に安定していると変革が起きにくい。また、オペレーションがそのあり方で継続しているものに対して、変えることの抵抗感がある。また、デジタルの脆弱性に対する不信感などいろいろなものが相まって、慎重になってなかなか進まない。

ただ、クリティカルなデータと、利便性を向上するだけのインターネット予約の表面的な部分など、いろいろなデジタル化がある。これらを一緒くたにしてデジタル化をリスクと慎重論を唱えて進めないということではない。丁寧に成功体験を積んで広げることで、他業界と同等のデジタル化、まずはインターネット予約の比率が高まっていくと想定している。

インターネット予約が、安心・安全で安定的に業務効率化に資することを確認し、必要とされている機関では、インターネットからの予約者が中心になってくるとワンストップで一元管理でき、合理化できるオペレーションシステムが必要であるというのが、展開シナリオとして描いているストーリーだ。我々を積極的に活用している医療施設で成功モデルが増えている。それを数多くのスタートラインに立っている医療施設に浸透させていくことが、デジタル化のアロケーションを増やしていくことにつながっていく。

―新型コロナワクチンの予約システムの話が一巡して、今期予想が減収減益だが、今後のトップラインと営業利益の見通しは
大規模接種と職域接種の新型コロナワクチンの特殊要因と、市町村で提供しているワクチン接種の部分(「通常ベース」と呼ぶHCPFサービスとDXサービスに含まれる)がある。大規模接種は今年の3月で役目を終えて終了している。

(売上の)再現性が低いと見て来期以降は織り込んでいない。再現性が高い事業に仕分けているものが通常ベースだ。2020年をきっかけに、HCPF事業・DX事業ともに大幅に成長しており、全体では2018年から2022年の5ヵ年で、CAGRが26.5%、2023年の通期予想では利益率が31.9%となっている。大規模接種などの特殊要因が除かれた第3四半期単体でも30%強の利益率が計上されている。今後、通常ベース事業を広げていくことで、この成長率と利益率を目線に、継続的に成長させたい。

―新型コロナワクチンの大規模接種サービスが終わり、無くなった収益に代わる事業は
コロナの事業ありきで発足した会社ではなく、DX・HCPF事業を中心に展開する文脈で、取引先の市町村をスタートとして、迅速なワクチン接種体制の確立というニーズを捉えて、新型コロナのワクチン接種のサービスを支援した。引き続きHCPFとDXをしっかりと伸ばしていくことでそれを取り戻し、上回る事業に育てたい。

―新領域への進出は
既存事業でやれること、やるべきことがあろうかと思う。資本・業務提携したイーウェルでも、大手企業の従業員の健診をよりスマートな形にデジタル化していけることを確認している。そういったことを積み上げていくことで継続性とストック性の高い売上形成を目指している。

―ヘルスケア領域への依存度が高いリスクについてどう考え、どう対処するのか
まさにそれをターゲットとしており、ヘルスケア領域のマーケットが、依存して十分足り得るマーケットとして、逆にビジネスチャンスとして発足している事業だ。特に、医療の全体のなかでの予防医療は、これからポテンシャルを発揮していくべき分野と見ている。健康長寿は実現可能と信じて事業を推進している。集中することをリスクと捉えることはあり得るかもしれないが、我々は専門領域の競争力をより高めて、高成長・高利益率を目指したい。

―高成長・高利益率を目指すために、具体的に今後どうするのか
これまでも足踏みをする年や、大幅に成長する年があり、ワクチンの大規模接種・職域接種を除く通常ベースで、5年間のCAGRが26.5%になっているので、既存事業を積み上げていく過程で、成長余地は十分にあり得る。大きな転換をする必要がなく成長していける。

―現状の事業をさらにアップデートしていくのか
そうだ。

―競合環境の認識について
HCPF事業に関しては、先日くすりの窓口<5592>にM&AがあったEPARK人間ドックが唯一類似するサービスと思っている。独占を目指すものではなく、健全な競争環境によって、より人間ドックの受診機会が広がり、日本人の全体的な健康寿命に資する予防医療が身近になることを目指しているので、そこは切磋琢磨したい。

―2024年12月期の投資計画は
そんなに大きな調達をするIPOになっていないので、地に足をつけてこれまでの体制から少しずつ質にこだわりながら、人員を強化し、システム開発をよりバージョンアップしていく。それを継続して成長につなげていきたいと考えているのが投資だ。

―エンジニアが少数精鋭だが補強は
少数なので、数名増やしただけで何十%成長というレバレッジが効く状態で、こだわって少数精鋭で実現できる。そういった意味で利益が出やすく、トップラインが上がると利益に影響しやすいような体制を進めて、成功している。

だが、もう少し体制が大きくなっていれば、もっと大きなビジネスが展開できるというビジネスチャンスに出くわしたことがある。IPOして東証グロースの末席を担うというところで、さらなる成長へ向けた組織の強化に積極的に取り組んでいきたい。

―業務提携やM&Aに関して、どういったところで力を借りたいのか
既にかなりの多くの保険会社に興味を持ってもらい業務提携をしている。保険の加入者に人間ドックを受けやすくする導線などと、リワードの確立などを推進してもらっている。

医療機関、特に予防医療機関に水平展開したプラットフォーム作りの先には、そういった多くの会員を有する機関に、ヘルスケアコンテンツとして活用してもらう。あるいは、健康データや未病データが溜まっていき、その人に本当に必要なEコマースでのレコメンド的なものに活用してもらう可能性を探っていきたい。IPOを機に業務提携も広げていきたい。

―ジャフコSV4共有投資事業有限責任組合はAflac Venturesはなくても良かったのだろうが、出資を受けた理由や効果は。また、森トラストやウエスト・プランニングは
それぞれの株主の経緯はバラバラだった。今日に至るまでどの株主からもいろいろな支援を得て、応援してもらっている。私が2017年の代表取締役就任なので、その前の資金調達に関しては前社長体制で受け入れを実施した。結果としてこの株主構成になっている。ジャフコが設立当初に投資したのは、IPOに前進していくのを動機付ける存在になったのは事実だ。

ジャフコが株主に入っていなければ、紆余曲折の末、IPOでなくても良いのではという意見が出て、私は三和システムの代表のままでいたかもしれない。各株主がそのタイミングで、存在感があって今日に至っている。Aflacは代表を交代したタイミングで、前体制でかなりキャッシュアウトが激しく、資金調達ニーズがあり、その際に参画してもらい感謝している。

森トラストに関しては、長らく神谷町(東京・港区)にある城山トラストタワーに入っており、テナントとしての付き合いをしていた。同社の投資戦略に合致して、テナントであるマーソに投資してもらった。いろいろな縁があって期待に報いて、今日に至った。恩と意義があったと考えている。ウエスト・プランニングは前社長体制の時に関わり、ストックオプションを持っている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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