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上場会見:笑美面<9237>の榎並社長、インパクトと利益成長を両立

26日、笑美面(えみめん)が東証グロースに上場した。初値は公開価格の1240円を45.24%上回る1801円を付け、1502円で引けた。高齢者などにシニアホームを紹介する「シニアライフサポート事業」と、ホーム運営に必要な情報提供などのコンサルティングをプラットフォームを通じて行う「ケアプライム事業」を手掛ける。社会的なインパクトと財務的成長を両立する趣旨で「インパクトIPO」であることを掲げる。榎並将志社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

シニアホームに関しては、入居待ちで入りにくい、あるいは料金が高いという2つの誤解があると話し、介護保険制度が始まった2000年以降の、状況の変化を説明する榎並社長
シニアホームに関しては、入居待ちで入りにくい、あるいは料金が高いという2つの誤解があると話し、介護保険制度が始まった2000年以降の、状況の変化を説明する榎並社長

26日、笑美面(えみめん)が東証グロースに上場した。初値は公開価格の1240円を45.24%上回る1801円を付け、1502円で引けた。高齢者などにシニアホームを紹介する「シニアライフサポート事業」と、ホーム運営に必要な情報提供などのコンサルティングをプラットフォームを通じて行う「ケアプライム事業」を手掛ける。社会的なインパクトと財務的成長を両立する趣旨で「インパクトIPO」であることを掲げる。榎並将志社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

―初値が公開価格を45%ほど上回っている
この数日、マーケットの地合いが悪いと聞き、今日も特に悪い。そのなかで初値が伸びたのは、評価され新しいサービスとして期待されている証左ではないか。大変ありがたい。

―この事業を手掛けるに至った原体験は
27歳までは介護という畑には全く触れていなかった。ある時、介護事業に進出しようとして介護の実習に行くと、私のイメージと全く違った。生活の全てがシニアホームに入っていて、責任が重く、より重要だと考えた。実習に行ったことで、介護にいきなり進出するのを一旦断念した。

しかし、本当に人に頼ってもらえる、感謝される経験をして、仕事でこんなに人の役に立てて感謝されることがあるのかと感動した。1ヵ月半の実習で、凄く嬉しかったし楽しかったので、終わった頃には、介護に一生携わっていくという思いが強くなった。何ができ、何をするべきか考えた時に、不動産にはいくらでもプロがいるが、シニアホーム探しはプロがいないことに気付いた。絶対にプロが必要だと思い、このサービスを開始した。

―インパクトIPOを標榜しているが、その定義は。インパクトを今後出し続ける点でKPIとして定めているものや、開示を予定するものは
インパクトKPIとして開示しているものがある。病院の退院支援室で働くメディカル・ソーシャルワーカーからの紹介数と、“家族会議実施数”(笑美面のコーディネーターが介護家族や被介護者と今後の方針を定める会議を開いた件数)、“スマイル数”(シニアホーム入居に至った入居対象者数(成約数))、プラットフォームであるケアプライムコミュニティサイトに登録するシニアホーム数の4つで、短期で目指すものだ。

インパクト企業としての定義は難しく、ベンチャー企業の定義のようなものだ。世のなかで議論されている状態だ。こうあればインパクト企業であると認定している機関もなく、定義が定まっているわけではない。ただ、インパクト企業としての手法を用いて2019年から運営してきた背景があり、他社からもそのように評価されている。

主要KPIは、翌年度や翌々年度のものも開示しており、継続的に示していく。新しいKPIが生まれる可能性もある。こういう社会的インパクトのためにはこういったKPIが必要というように、新しい指標が生まれることもあるだろう。

「インパクトメジャメント&マネジメント」を2019年に開始したが、やっていることは変わっていない。ほかにも、ベンチャー企業で社会的なインパクトを出し続けている企業はたくさんあると思う。そこで違う点、一歩踏み込んだ点は、測るという部分とマネジメントするという部分だ。社会的インパクトがどれだけあったかを計測する。当社であればSDGsの観点でも計測している。

マネジメントするとは、経営の意思決定に使うということだ。ビジョンを達成するためにどの事業を行うかから議論に入る。ビジョンが事業として成り立つかどうかはその後に来る。ビジョン達成のために事業をやっていることを明確に定義していることが当社の特徴だ。

―社会インパクトを重視しているが、利益成長とのバランスで工夫している点は
社会的インパクトと財務的な成長、どちらかを取るのではなく、両立させるつもりだ。社会的インパクトがあるからこそ、例えば、働くメンバーのモチベーション向上や、誇りになることで事業が伸びていくという観点もある。

介護業界は、志があって仕事をしている人もたくさんいる。当社の社会的な活動は、それが評価される部分もあるので、そういった部分で財務的な成長にも寄与している。これは相乗効果であり、どちらも伸ばしていく。

―人材の育成方針に特長がある一方、業界内での人材流動性が高いことも併せて、育成後、リテンションについてはどのような取り組みをしているのか
人材の再現性を大変重要視している。マーケットはまだ伸びていく。そして、当社のポジションも良いので、コーディネーターの(育成を)再現することが、社会的インパクトとしても、当社の事業の伸びの観点でもポイントだろう。どんどん育っていくメンバーであり、そのメンバーが流出しないことは事業のキーポイントだ。

当社は、過去にはエンゲージメントサーベイを利用してメンバーの満足度などを測っていた。今はもっと本質的に、メンバーの人生をもっと深く捉えるために、ウェルビーイングサーベイを取ってメンバーの状態をチェックし、何に悩んでいるかフォローしている。

人事部が、科学的に分析されたデータ結果から、誰がフォローに入るかしっかり1on1で取り組んでいる。メンバーにも、当社はリテンションに取り組むということを宣言しており、その施策の一環で取り組んでいる。これは直属の上司だけではなく、“斜め”の上司、営業の責任者などが相談に乗る体制を敷いている。

また、メンバーの成長に関しても、成長できる仕組み、成果が出ることも、退職防止やリテンションには大事なので、300以上の社内動画を使って、随時予習・復習できる体制を整えている。その動画コンテンツと、視聴による成果の相関関係を科学的に分析して、どの動画をどのタイミングで何回ぐらい見れば成果が出るか分かる。これらをオペレーショナル・エクセレンスの浸透として行っており、人材成長のPDCAを回している。

―創業時に既に、事業を海外に展開する構想があったようだ。その発想の原点について聞きたい。また、介護はその国の制度とかなり密接に関連しているだろうが、事業とどう適合させていきたいのか
紹介サービスなどをそのまま持っていくイメージではない。当社のビジョンは「高齢者が笑顔でいる未来を堅守する」というものだ。ベンチャーでは珍しい「守る」という言葉が入っている。「堅守する」のなかには、日本の社会保障制度を守っていきたい、その理念を守っていきたいという考えがある。

日本の制度は世界に冠たる理念を持っていて、どんな人も取り残さない。お金がなくても医療・介護を受けられ、餓死する人はほとんどいない。全ての人を救うという日本の社会保障制度の理念を守っていきたい。だが、人口動態を含めて日本の経済の競争力はどんどん下がっている。

そのなかで、海外に通用する可能性が特に大きい領域は、ヘルスケア領域だろう。日本が最大の少子高齢化社会だからだ。これは課題でもありチャンスでもあると見ている。新しいプロダクト、より先進的で効果的なプロダクトが生まれる土壌があるのが日本だろう。そういったプロダクトを輸出する。介護保険制度は各国の制度によって違うが、高齢者の介護では、人間なのでほぼ同じ課題が出てくる。

そういったプロダクトの販促を支援する。日本の介護を産業化し、社会保障制度を守っていく。そして、海外に介護のプロダクトをどんどん輸出していく。輸出するためには日本でも売れなければ駄目だ。売れて、もっと研究開発への投資が進む。そういう循環、エコシステムが必要なので、日本向けの介護プロダクトをどんどん売っていく。これは、当社が今後特に注力しようとしているコンサルティング事業としてのプラットフォーム事業だ。

当社は、シニアホーム紹介サービスでかなりのネットワークを築いている。そこに、こういうプロダクトを入れると集客でき、利用者の安全を守れ、働く人の満足度も向上するというものを提供していく。それによって、プロダクトが海外にも通用するような製品・サービスに進化していくことを想定している。

―「プロダクトを入れる」とは、集客に向けた情報や広告などを含めた全てをプラットフォーム上で提供・表示するということか
今は情報を提供していて、本丸は介護テックプロダクトだと考えている。劇的に生産性を改善でき、高齢者の安全や尊厳を守る介護プロダクトが本格化していくだろう。そのためには、(プロダクトが)売れなければならない。利益として成り立たなければならないので、そこを支援したい。

―今期予想の利益は前期と比較してかなり伸びるが、その背景と、今後はどのように伸ばしていくのか
今期の着地の見込みは、前期、前々期、それ以前の投資の成果と見ている。主に投資してきたのは、内部体制の強化と人材の育成だ。その成果が実って、今期の着地と見ている。具体的には1人当たりの成約数と、単価向上で利益体質になり、利益率も上がっている。

今後も、シニアホーム紹介サービスでは既存エリアを深耕する。たくさんの紹介パートナーとの信頼構築やコーディネーターを育成し、1人当たりの生産性をさらに上げていくことが成長戦略だ。コンサルティングサービスではプラットフォームを用いた成長戦略を検討している。これは非連続な成長を目指す。シニアホーム紹介サービスでは連続的な成長を狙っていく。事業自体はかなり連動しているものの、完全に分ける。

―資金使途は
主に人材の採用・育成体制をより強化する。一部をプラットフォームシステムのシステム改修や、広告費に充てる。当社のサービス認知を広げていくブランディングも含めた広告費を使途として考えている。

―株主還元の見通しは
優待より配当が事業モデルに合致している。必要に応じて、成長投資と配当のバランスを見て検討したい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]