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上場会見:全保連<5845>の迫社長、家賃保証の先へ

25日、全保連が東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の600円を3.33%下回る580円を付け、555円で引けた。不動産の管理・仲介会社など協定会社を介して家賃債務保証事業を営む。国内に19の拠点を持ち、協定会社数は4万1078社(2023年5月8日時点)、協定会社の拠点数は4万9469拠点で業界ナンバーワン。迫幸治社長と茨木英彦副社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

迫社長は質疑のなかで、DX化の効果や新しい事業の広がりの可能性などについて話した
迫社長は質疑のなかで、DX化の効果や新しい事業の広がりの可能性などについて話した

―初値が公開価格の600円を3%下回る580円だった。率直な感想を聞きたい
上場したので、これから尽力し、会社全体で会社の価値を上げながら伸ばしていきたい。

―2001年の創業で20年以上が経ち、東証スタンダードに上場した気持ちを迫社長に聞きたい
沖縄に45年住んでいる。沖縄支社は多いが、沖縄を本社にして県外に展開する企業が凄く少なかった。いずれそういう風に沖縄に本社を置いて県外に進出したいという思いがあった。

沖縄に本社を置いて、今の家賃債務保証業を展開できた。現在、沖縄の売り上げは(全体の)5%を切っているが、今までいろいろな人に、特に地元の出足の時は、助けられた。上場を目指した4年前から証券会社の人たちや、いろいろな人に手助け、指導してもらいながら、ここにたどり着いたなと鐘を鳴らした時に実感できた。これから皆の期待に応えられるように、また期待を裏切らないように頑張っていかなければならないとつくづく感じた。

鐘を打つと泣き崩れる人もいると聞いていた。そこまではなかったが、気持ち的にかなり昂っていた。

―家賃債務保証ビジネス業界は一定以上成熟してきたが、まだ業法もできていない。何かしらの業界課題はあるのではないか。それをどう考えているのか。リーディングカンパニーとしてどう対応していくのか
一時期、業法ができかけたことがあるが、それがなくなって登録制になった。日本賃貸住宅管理協会には協議会があるが、我々の業界の協会がなく、業者が一致していろいろと話をする機会が少ないのが凄く問題ではある。

1つの課題として、追い出し屋が多いということで業法ができかけた流れがある。現在も、我々は訴訟をして、手続きをして、明け渡しをしてもらう流れが通常だ。本当は裁判をしないといけないのを、自力で明け渡しをする業者もまだたくさんある。

まだコンプライアンスを守っていないところもたくさんある。協会として受け皿を作って、業界のモラルを守ることができるように、そういったところの見本になっていきたい。我々のシェアはナンバーワンだと思っている。(保証会社の利用が)80%にとどまっているが、我々が襟を正すことによって、管理会社や仲介業者にも浸透して業界が良くなれば、事業用であるとかいろいろな形での市場が大きくなっていく。我々のためにも良い業界になるように努力して、引っ張っていきたい。

―業界動向について。そのなかでの位置付けや、意識する競合があれば
茨木英彦副社長:我々の上場によって、上場は6社となる。そのなかでも規模は、当社の頭が抜けていると見ている。今後は業界の認知度がより高くなる。あるいは透明性やガバナンス、コンプライアンスを保っていける体制を、我々がまず作っていく。

いろいろな業界のなかで動きがあるだろうし、M&Aなどの質問も受ける。だが、特に今は具体的な案件はなく、考えていない。業界の再編があるのであれば、柔軟に対応していきたい。まずは体力をしっかりつけていく。

―株主構成で、いわゆるベンチャーキャピタルがかなりの比率を占めている。設立して20年以上が経ち、技術系ではないがどういう経緯があったのか
売上高や利益が2021年3月期に大きく落ちている。その前の期から上場を視野に入れてきたが、ここで、決算計上基準を大きく変更した。簡単に言うと、保証料の売り上げの期間按分を行った。それに伴い、売り上げが相当減った。一方で、コストは同じだけかかっており、大きな赤字が出た。

この赤字を埋める、自己資本をしっかりと維持する意味で、外部の資金を投入するのが一番いいだろうと考えた。議論しながらAZ-Star3号投資事業有限責任組合、これは銀行系のPEファンドなので、しっかりと応えてもらえた。今後、AZ-Starもエグジットを考えていると思う。そこは筆頭株主でもあるし、我々もしっかりと対話をして、お互いに良い方向を考えていきたい。非常に良好な関係にある。

―自己資本の充実以外に、上場に向かってのノウハウ獲得に対する期待はあったのか
金融機関出身のファンドで、ここにいる3人も銀行出身者であり、同じレベルの会話というか、“言葉”も通じるので、議論しながら企業価値をどうやって上げていくのか、この3年間一緒に取り組んできた。

―管理やコンプライアンス体制は専門の人が社内にいて自前で作ったのか
株主に相談しながら、体制が良いのか悪いのか常にコンタクトしながらやってきた。社内体制は整っており、法務部長も企業内弁護士で、そういう面では非常に充実した体制を取っている。

―信託口座を用いて、大手金融機関の収納代行会社が賃借料の支払日に立替払いをし、賃貸人の賃借料滞納リスクを解消する「概算払方式」について。競合にはなかなかできないスキームを組むことができた背景や理由は何か
三菱UFJ銀行と三井住友銀行と非常に強固なリレーションがある。しっかりと取引しており、こういったリレーションや我々の信用力が源泉になっている。議論しながらこのスキームを構築してきた。導入以来、これが大きな成長ドライバーになってきた。

―リレーションや信用がない限りは似たようなことはできないのか
非常に難しいと考えている。排他的に我々だけということではないので、可能性としてはゼロではない。だが、ハードルは非常に高いのではないか。

―シェア拡大も非常に重要だろうが、協定会社に選ばれるための差別化ポイントは概算払いのほかに何があるのか
シェアを拡大するにあたっての強みは、概算払いがある。それとDXが非常に大きなポイントだ。我々はこの3年で五十数億円の投資を行っている。それだけの投資ができる体力があるということだろう。全体では100人強の自然減となっているが、DX部門については10人以上増強してきた。利便性の高い商品の提供もポイントだ。

他業態とのアライアンス、いわゆる付帯商品を今後も積極的に展開していきたい。少額短期あるいは自殺・孤独死保険は、当然のごとく業界では始まっている。それに加えて新たなものをしっかりと開発したい。外部の協力を得るネットワークをしっかり持っているので、ここをやっていきたい。

迫社長からも地方についての話が多少あったが、まだ開示できるタイミングではないものの、各地域に非常に強い、マーケットシェアの高いところを押さえている業界がいくつかある。我々と全く違う業態とのアライアンスも視野に入れて、我々の販売チャネルを補強・補完していきたい。

―DXにかなり積極的に取り組んでいるが、情報の改竄防止にブロックチェーンを使うなど新しい技術に関する姿勢や取り組みは
ブロックチェーンなどについては、今後考えていかなければならない。現在、我々はサーバーを利用してデータを蓄積している。そこがどう変わっていくかは今後の課題だろう。

また、AIによる審査については既に今年の6月に実装した。今後は、AIの審査を使うことで審査精度やスピードの向上に非常に大きく寄与していくものだと見ている。このAIの審査モデルは、当社の独自開発で、現在特許の申請中だ。

―DXは、調達資金のシステム投資でどんなものができるのか。業績にどう寄与するのか
具体的に差し控えたいところだが、AIの審査モデルがある。また、電子申込・契約の管理ソフトを出している会社はたくさんある。それらとのAPI連携やアプリケーション開発・保守・メンテナンスもある。4年前には基幹システムの入れ替えを行ったので、そのバージョンアップも考えたい。保守・メンテナンスにもそれなりのコストがかかっている。

現状をしっかりと守る投資と、将来に向けてのAIやブロックチェーンを使った技術を視野に入れながら成長につなげていくところに資金を使いたい。

―保証事業で非常に重要なのは債権回収で、経営の安定に資する。前々事業年度であれば、貸倒れの引当金繰入額が16億円で、前事業年度は24億円。原価における貸倒引当金の割合が上がっている状況も見えた。債権回収を、経営が安定するために、どううまくやっていくのか
前期末の決算では多少増加傾向にある。ただ、各社の有価証券報告書を見ると、引当金の引当率の基準がバラバラだ。一方で、売上高に対して求償債権がどれだけあるかが1つのポイントだと思う。これを見ると、おそらく我々が上場他社比で最も低い水準だ。我々はしっかりと引当を積んで、処理も行って回収もしっかりコントロールできているという証と考えている。

このところ、コロナ禍の最終段階に入ってきた案件が、物価高や生活圧迫があって延滞が多少増えているのは事実だった。それも我々のデータでは、夏前にピークを過ぎ、今後は代弁済の発生率も落ちていくだろう。それに伴って回収率も上がっていく。

昨年の5月から日本信用情報機構(JICC)のデータを活用し、本格的にJICC審査を行うのは我々が先陣を切っていると考えているが、審査の精度を上げていく。AI審査モデルでは、既に三百数十万件のデータがあり、JICCのデータも活用しながら精度を上げたモデルを作り上げる。現在ほぼできあがって稼働しているので、信用コストをコントロールしていくということが十分に可能だ。今後信用コストが増えていくかについてはそれほど不安視していない。逆にピークをほぼ超えてきたと見ている。

―DXは、商品性を高めることにも活用していく話だろうが、審査をAIで自動化すると、審査部に割いていた人員を債権回収や営業に移すというリソースの割り当て比率も変わってくる可能性もあるのか
現実に、この3~4年で、自然減で社員数が100人以上減っている。人員整理などは一切していない。今の人員でも十分に業容を保てるので、一層DX化が進んでいくと、審査の入力部門やオペレーション部門の人員を回収や営業にシフトすることは視野に入れている。それが効率化だ。

―人口動態との関係で成長するにしても競争が激しいだろうが、成長戦略の1つである専門学校の学費の保証など「その他保証領域」について具体的に(教えてほしい)
専門学校の学費は、学年の初めに出される100~150万円というイメージだ。我々は沖縄本社で、近隣の保護者や専門学校の人たちと話していると、一括でお金を揃えるのが大変だという。分割で払うとなっても、奨学金が月ズレで入ってきたり、資金繰りが大変だという声をたくさん聞いている。そこで、我々が保証をすることで、親がほかに別世帯の保証人を探す手間もない。期待をしているというか、修学意欲の高い人のサポートもできる。

マーケットについては非常に厳しい。競合もたくさん存在し、保証の利用率も8割になっている。飛躍的に伸びるものではないだろうが、淘汰されていくだろう。我々はしっかりとしたガバナンス・コンプライアンス体制を敷いてきたので、我々が業界のリーダーのような立場でしっかり牽引していきたい。そのなかで我々もシェアを拡大していきたい。まだ我々が手をつけていない地域もあるので、足を伸ばしていきたい。

迫社長:当初、今の営業体制になるまでに、業界でいち早く、沖縄から北海道まで主要都市を網羅して、沖縄から全国展開できた。その流れで、家賃保証の業界自体が爆発的に伸びたのではないか。今までに380万件の保証を手がけている。退去もあるので、現在残っている口座数が180万件を超えている。そのなかを、今からいろいろと分析しながら拡大できれば良い。

―人口動態の観点で競争が厳しい。M&Aの話もしたが、迫社長の言葉で、個人用のその他保障領域への進出が、ビジネス上どのような見通しについて聞きたい
まず家賃保証の業界もとても重要だ。これから新しい分野として、専門学校の学費の保証を今進めている。今年から少しずつ全国で始めたが、来年の3~4月に入学する生徒たちを対象に本格的に進めていく予定だ。かなりいい手応えもあり、100~150万円の一括払いが難しい生徒も多いと聞いている。そこを私たちのほうで分割払いとする。

学校側が事務的な手続きや、遅れの場合は督促をすることがすごく手間なので、分割払いをなかなか受けることができなかった。そのような要望に応えた。我々が保証することで、学生にも我々にも学校側にも良いと、とても良い感触で進めている。

―沖縄出身の企業ということで聞くが、沖縄県の年収が日本で一番低いとされていることもあって、沖縄の企業としてそういうニーズに応えていこうという思いがあったのではないか
沖縄だからということではない。だが、沖縄の専門学校と相談しながら最初に始めて、いろいろな都道府県の専門学校を紹介された。相談した結果、全国でも同じ要望があるため、商品を発売した。

―賃貸住宅を契約する人の8割が既に家賃債務保証を使うなかで、M&Aという言葉も出てきた。上場して信用力も高まっている。迫社長の言葉で、M&Aやシェア拡大など今後ここからのビジネスをどう展開していくのか
M&Aは、現在案件が出ているわけではないので、それ(への言及)は控えたい。

今、太平洋側に支店網がある。日本海側は今までは攻めていなかった場所だ。当初は各都道府県全てに支店が必要と見ていたが、太平洋側をやっているうちにDXもかなり進んできた。店舗なしで、今まで支店がなかった地点にも進出している。九州も福岡しかなく、他の都道府県でも南側に進出していなかったが、そこに重点的に力を入れていく。未開拓地域への進出もある。

また、独自の強みである概算払いや、電子申込・契約について、業者も効率が良くなるものを提案する。保証会社の利用率を100%にするのは無理だろうが、現在不便を感じている不動産会社も多数あると思う。システムを売り込むことで、不動産会社は自社で投資をせずに、我々のシステムを利用して今よりももっとDX化に向かうことができるのではないか。現在のシェアは11%前後だと思うが、それを上げていくことはまだまだ可能だ。

―空白地点だった北陸を含めた日本海側と南九州に拠点を持っていくのか
効率が悪いので拠点は出さない。拠点は出さずに対応できるので、今の体制のままで営業エリアを拡大していく。

―そこに重点的に営業をかけていくわけか
そうだ。

―M&A案件がないことは分かったが、営業以外に大きく飛躍するための一手は
今、業界に250社あるが、国土交通省に登録している業者は100社ほどだ。登録していない150社は、自分の管理している案件のみを保証する業者や、地域限定でやっている業者がけっこうある。そういったところも今からは淘汰されていくのではないか。その相談も受けていきたい。

―そういうところから業務を譲り受ける。または委託してもらうのか
そういうこともあると思う。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]