23日、ARアドバンストテクノロジが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の1260円の2.3倍である2898円の買い気配で引けた。DX化のためのデジタルシフトやクラウドシフトなどを上流から下流まで一貫して提供。開発に際し、5つの専門領域を持つ人材でチームを編成するBTCアプローチを採る。複数の自社開発プロダクトを手掛け、新たに「cnaris(クナリス)」、「dataris(デタリス)」という領域特化型のサービスブランドで認知度向上を目指す。武内寿憲社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

―初値が付かなかった
投資家から非常に高い期待があり、身が引き締まる。兜の緒を締めながら、投資家の信頼に応えるサービスを展開していきたい。
―cnarisとdatarisなどパッケージの導入イメージはどのようなものか。また、クライアントのカスタマイズ要求との関係を知りたい
cnarisとdatarisは、当社のクラウドまたはデータ・AI活用のインテグレーションから、コンサルティングのノウハウを標準化・自動化したテンプレートになっている。技術領域にあまり明るくない顧客がターゲットになり、IT化やデジタル化はこれからというエンドユーザーに対して、導入しやすい形で提案する。
顧客からすると、いわゆるオーダーメイド型でゼロから進める受託開発のような重い感じの提案にはならない。気軽に安価に「まず導入してみよう」となる。当社からすれば、標準化・自動化がある程度進んでおり、そこまで工数をかけずにサービスが成立する。
導入時には標準化された状態だが、顧客の要望が、いわゆるオーダーメイド開発になることは多々ある。そこは一番の主戦場なので、cnarisとdatarisを入口にして、受託開発やオーダーメイド開発につなげていくことも営業戦略に入っている。
―BTCアプローチは、パッケージ製品とはあまり関係なく、業務全般に関わってくる仕組みなのか
cnarisやdatarisと並列、もしくは、BTCアプローチのなかにそれらがあると考えてもらっても良い。顧客のDXに必要な要求に対して、組織を越えて人材を柔軟に組み合わせることができるのがBTCアプローチだ。
cnarisやdatarisに関わるサービスの範疇の要求に関しては、BTCアプローチで編成したメンバーが顧客にサービスを提供するが、テンプレート化されたものをそのまま標準型で導入する時には、いろいろな部署から人が来ることはない。ただ、オーダーメイド開発の際に生じる大きなニーズを拾っていく場合には、プロジェクトを柔軟に編成する必要があるので、BTCアプローチが効いてくる。
―BTCアプローチは、投資家の視点では差別化要素か否か見方が分かれた
確かに、コンサルタントとデザイナーがいて、データサイエンティストやクラウドのエンジニア、セキュリティエンジニアといった人材を揃えればできるという意見もある。
地味な部分ではあるが、職制の違う専門職を1つの人事制度に組み込むのは、難易度が相当に高い。当社の人事制度には柔軟性があり、他社もやりたいと思っている。アクセンチュアをはじめ、いろいろな大手が取り組んでいるが、当社と同じぐらいの大きさの会社では、この制度を仕組化できるところは多くない。やはり、人数が多いエンジニア群で占められていく。
職制が違うとコミュニケーションが変わってくる。例えば、デザイナーを組織化する文化や、サイバーセキュリティのエンジニアをしっかり把握する文化の醸成は、乗り越えられるかどうかはどちらかといえば人事制度の壁のような部分がある。差別化かどうかというと、組織戦略の部分になってくる。
―成長戦略の詳細を改めて聞きたい
成長戦略では、既にサービスを開始できたcnarisとdatarisといった高付加価値商材の拡販を継続しながら、第3・第4のサービスを自社で開発していくことが必要だろう。
当社のハイブリッドアプローチの観点で、標準化と自動化、プロダクト化のサイクルが仕組化できているので、インテグレーションの経験やノウハウを、より集約しながら、その次のプロダクトやソリューション開発に投資していきたい。それを通して、新たなサービスパッケージの拡販を経て、エンドユーザー向けのストックビジネスの積み上げと拡大を図っていく。収益の安定性と成長性を担保していきたい。
―具体的な領域は
単なるシステム開発のニーズの減少を、ひしひしと感じている。ただ、当社が主戦場としているデータやAI活用の部分を含んだクラウドインテグレーションは、非常にニーズが高くなっている。
クラウドインテグレーションは、ITのインフラを構築していくようなイメージがつきまとう。クラウドネイティブという言葉には、上流のコンサルからアプリケーション開発を一気通貫でできることが含まれている。このクラウドネイティブなクラウドインテグレーションをどれだけ展開できるかに、今後のマーケットのニーズとして拡大の余地があると想定している。
それだけではなく、システムを作った後のデータやAIの活用を一気通貫でコンサルテーションから提供できる会社がまだ世のなかにはない。そういった領域を差別化しながら、当社の成長としてはそこに注力していく。
―一気通貫というのは、パッケージ製品なのかビジネスモデルの話なのか
ビジネスモデル的な部分が強い。cnarisとdatarisのようなブランドに、データ活用の新しいプロダクトやサービス、ソリューションがこれから続々と出てくるイメージだ。
―調達資金で人材を獲得するそうだが、いつまでにどのぐらいの規模になりたいのか
来期の人員の計画については、少なくとも現人員の10~20%を伸長させていく。上場で得られる当社に対する市場の反響で、当社を目指してくれる人がより増えていくと期待している。そうなった時には10~20%以上の増員もあり得る。PRや人事の広報活動に投資することで、実現できるのではないか。
―デジタル人材が不足しているなかでの人材戦略について聞きたい。エンジニア・ファーストの方針を取っているそうだが、それも含めてどのようなものか
当社はエンジニア・ファーストの文化醸成に強みを持っている。エンジニアに必要なものは、報酬だけではなく働く環境、自分が実現したいプロジェクトやスキルアップの場がしっかり整っているかどうかだ。
一見コストがかかるようだが、それが一番のリターンになる。当社はそれを仕組化しており、エンジニアの心理的安全性の確保から、会社と社員、エンジニアの信頼関係やモチベーション、専門能力の向上、メンタル不調のケアなどに力を注ぎながら、エンジニアが離脱しない組織を作っている。
成果については、新卒を中心に高い定着力がある。入社3年以内の定着率が93%で、離職率は7%にとどまっている。入社5~6年目の新卒社員も75%が定着している。同じサイズの同業他社と比較すると、かなり高い水準となっている。文化の醸成が功を奏しているからだ。
―今後5年でどの程度の水準の経常利益を目指すのか
具体的な数字は控えるが、今期は前期比で伸長率19.2%の計画になっている。元々の計画では、非上場であってもトップラインは最低でも10~20%の間で成長していく。これを目標に掲げながら、その範囲内で成長していきたい。上場したことで顧客の期待がより高くなってくること、それに基づく受注や人材の獲得が加速したうえで、10~20%の成長率を超えていくのは、十分考えられるのではないか。
経常利益については、いろいろな商材開発や人材投資をしており、販管費が増加し、比率が高いが、投資は今期にピークを迎えている。さらに先は投資が緩やかになっていく。投資回収の過程で、トップラインと経常利益が上がっていく計画で進めたい。
―株主還元の方向性は
配当は予定していない。成長過程にあり、一定の内部留保を確保する。将来的には配当も前向きに検討している。上場して1回目の決算を迎えるため、今後どのように投資家の期待に沿うのか研究しながら、答えを出していきたい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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