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上場会見:コーチ・エィ<9339>の鈴木社長、コーチングで組織を変える

22日、コーチ・エィが東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1840円を35.87%上回る2500円を付け、2300円で引けた。法人向けのコーチング事業を手掛ける。個人の能力開発だけでなく、組織や周囲との関係性を重視する「システミック・コーチング」が特徴。中国とタイ、米国にも進出している。創業は1997年で25年の歴史を持つ。鈴木義幸社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

コーチングにおける行動変容のトリガーとしての「主体化」を組織レベルで重視すると説明する鈴木社長
コーチングにおける行動変容のトリガーとしての「主体化」を組織レベルで重視すると説明する鈴木社長

―初値が付いた
初日はドキドキしながら値段が決まるところを見ていたが、公開価格を上回る初値が付き、投資家の期待を感じ、逆に言うとその期待に応えられるよう、これからも一層経営努力をしていかなければならない。

―上場の狙いは
より高い、強い社会的信頼を得ることが大きな目的だった。高いブランド力を身につけたいと思った。資金調達もある。もっと多くのコーチを我々の会社の中に持ちたい。幸い足元の需要は非常に強いので、多くのポテンシャルのある人を採用して育成することができれば、多くのバリューを多くの企業組織で提供できる。

―スタンダード市場を選んだ理由は
グロース市場は、例えば、年に2~3割と非常に大きな成長を希求する会社が属そうとする市場ではないか。我々は急に4~5割上がる会社ではない。確実に10%でも15%でも成長を毎年続けていくことによって、投資家から信頼を得てリターンを返せる。そういう会社でありたいと思っている。そういう会社は市場としてスタンダードが適していると判断した。

―サービス提供の上で、コーチングに関して定量的な成果の評価はするのか
組織開発を生業にしているので、主観的な満足だけではなく、できる限り数値化して変化を可視化したい。そのためにコーチング研究所というリサーチ部門を社内に作っている。リサーチャーが何人かそこに属している。

(コーチングを受けた人の)周囲へのアンケートを取る。例えば、エグゼクティブの人がコーチングを受ける。測定の仕方がレベル1から4まである。単純に主観的に「良かった」と思ってもらえればそれで良いというのがレベル1だ。レベル2はその人の行動の変化を、周りの人が判断することによって、変化をしっかり見る。周りの人へのアンケートやインタビューなどで、できる限り可視化していく。

レベル3は、コーチングを受けた人の行動が変わることによって、その人の周りの人がどのように変化したかを、さらにその周りの人からアンケートを取ったり、インタビューすることによって見る。これはチームや組織の変化を見ることだが、これがレベル3だ。

レベル4はKPIを顧客と設定して、その変化を見ていく。例えば、離職率がどのぐらい減ったか見たい顧客がいる。時には導入された支店とそうでない支店で、営業の新規獲得数が変わったのか、因果関係にはできないが相関として見たいというものもある。顧客と都度決めていくが、できる限り、確かに成果を得たと実感を持ってもらえるように可視化するよう努めている。

―そうするとシステミックコーチングの真髄はレベル4か
顧客によって違う。本当にそれを目指す顧客もいれば、極端に言うとレベル2でも良いというケースもある。顧客との話し合いによって決めている。

―競合の認識について
日本に我々以外にも、コーチングの会社がある。我々の認識だが、多くのコーチングの会社はコーチング先の個人のスキルや能力を高めようとコーチをしているように見える。

我々はシステミックコーチングと銘打っているが、組織全体を変化させたいと考えて常に取り組んでいる。例えば、組織のなかにどういう行動が生まれると良いのか、組織の構成員のマインドセットがどうなると良いのか。どういう関係性が構築されることによってこの組織はもっと良くなるのか、未来に前進するのか。コーチングを通して組織開発を行っているというのは我々の知る限り非常にユニークな形態だ。日本でもグローバルでもこのような形態で、コーチングで組織開発を手がけている会社はあまりない。

そういった意味では、日常的にここが競合で、勝とうと認識してる会社がないのが正直なところだ。

―先日上場したコーチングの会社というよりは、識学がコンセプトとしては近いのか
識学についてそれほど詳しく知っているものではないが、研修を中心に行っていると思う。我々は顧客との付き合いが非常に長期にわたる。長いと7~8年付き合ったり、トップから一般社員まで非常に広く、継続的に関わることで、組織の文化が変わるように支援する。

そういう意味では、コンサルティングファームがコンサルティングという手法を使って組織の変革をするが、そのコーチングバージョンっていう認識が強い。

―長くビジネスをしてきて、人的資本経営など組織の在り方を変えなければならない時代になっていると思うが、その文脈で法人需要をどう捉えるか
我々が持つデータで、日本の企業が人材開発に投資している金額が大体5000億円で、GDP比で0.1%だ。米国ではGDP比2.1%ぐらいが企業の人材開発に使われている。1ドル140円で換算すると14兆円ぐらいが使われている。そのうちコーチングに投資されている金額が、あるリサーチでは1兆7000億円程度と言われている。

日本とは非常に大きな開きがあるなかで、人的資本への投資の開示が盛んに言われている。経営者にとって非常に健全なプレッシャーになって、「人に投資しよう、組織開発に投資しよう」というムーブメントが、この先起こるのではないか、追い風ではないかと今の段階では思っている。

―コーチングの受注の伸びのペースについて、どのようなペースで成長戦略を描いているのか。具体的な目標の数は
堅実に伸ばしていきたい。例えば、エグゼクティブコーチングにしても管理職に対してのコーチングでも、足元のデマンドは非常に強くて、コーチの数が少し足りない感覚を持っている。

採用の市場も、コンサルティングファームから人を採るのが最近難しくなっていると聞き、人の取り合いのようなところもある。我々はどういう会社から中途で採用しているかと言うと、半数ぐらいがいわゆる大企業出身者だ。

我々の顧客に大企業が多いということもあり、スクリーニングの上では割とプライオリティ高く大企業出身者を採用している。あとはコンサルティングファーム出身者も多い。コンサルティングファームはシステムの導入に非常に多く関わっていて、もっと本当に人と対峙するような組織変革に携わりたい人も多い。

獲得競争に負けずにしっかり採用して、コーチとしていち早く開発できるかが、未来の成長を起こしていけるかに関わってくる。

―コーチになる人の年齢層やキャリアの構成は
当社でエグゼクティブを対象にエグゼクティブコーチングをするコーチたちと、管理職を中心にコーチをしているコーチたちがいる。エグゼクティブに向けたコーチングをしてる人の平均年齢が45歳前後と思う。私は55歳で、50歳代もいるが、平均年齢は45歳前後だ。

管理職層に対するコーチは多分平均で35歳前後だ。これまでのキャリアとしては、大企業やコンサルティングファーム出身者、会計士など専門領域の人間もいるが、大企業出身者かコンサルティングファーム出身者が多く在籍している。

―いろいろなところから人が来るが、育成のメソッドは
我々が外部の顧客に対して提供している国際的な資格を取る要件を満たすというプログラムがある。入社したら、コーチングの基礎を学んでもらう。

それから、例えば、エグゼクティブコーチになってもらうために、どういうことを身に付けると、いち早くエグゼクティブコーチになれるのかというプロトコールがだいぶ整理されてきている。それを社内でマイスター制、徒弟制度のような形で、先輩エグゼクティブコーチが入社したばかりの人に対して1対1に付いて、できるように毎日様々なやり取りをしながら伴走していく。

もう1つは、米国はコーチングの領域でいくつか非常に先進的な取り組みを行っている会社やコーチが存在する。そういう人たちから、定期的に我々のコーチたちがトレーニングを受けられるように、ワークショップや勉強会をやってもらったりということがある。欧米の最先端の技術を取り入れることも行っている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]