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上場会見:メンタルヘルスケアテクノロジー<9218>の刀禰社長、信頼できる産業医とテックで効率化

28日、メンタルヘルステクノロジーズが東証マザーズに上場した。初値は公開価格の630円を39.68%上回る880円を付け、897円で引けた。同社は、従業員の精神疾患の発症や再発を防止するメンタルヘルスケアサービスが中核事業で、売上高の77.9%を占める(2020年12月期)。産業医や保健師による健康管理指導と心身の健康をチェックするクラウド型サービス「産業医クラウド」を月額課金制(平均5万5000円)で提供し、医師の紹介サービスなども手掛ける。刀禰真之介社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

サービスについて、コストリーダーシップと差別化戦略が両立すると話す刀禰社長
サービスについて、コストリーダーシップと差別化戦略が両立すると話す刀禰社長

―初値が公開価格は上回ったが、感想は
現時点の当社の評価と捉えているので、それ以上でも以下でもない。

―法令順守に向けた必要最低限の「形式運用」ではなく、メンタルヘルスケアや健康問題の積極的な解決を図る「課題解決型運用」のサービス提供は、競合にとっては取り組みにくいとのことだが、核心的な違いや勘所は何か
そもそもメンタルヘルスをケアするための考え方から説明しないとなかなか理解が難しいが、厚生労働省が推奨するメンタルヘルスケアの4つの考え方がある。「セルフケア」や「(職場の上長など)ラインによるケア」はストレスマネジメントに関することになる。自分自身がどう思うか、部下の変化にどう気付くかというノウハウと、環境整備といった形で、「産業医や産業保健師によるケア」がある。

また、人事を通じて産業医に相談したくない社員が一定数存在するので、「事業外部資源によるケア」という人事を通さずとも相談できる環境を作る。これら4つを有機的にしっかり機能させることが基本的な考え方になる。これを運用にどう乗せるかがなかなか難しいかもしれない。

我々はトータルで導入できる。1個1個に関しては他社でもある。我々のクラウドサービスのほかにいくつもあると思うが、我々はそれをトータルで、かつ安く提供できることがポイントなので、その4つの機能をしっかり機能させることができるのが、サービスの特徴だと思う。

―テクノロジーを使ったこれまでと少し違うメンタルヘルスケアをクライアント企業に根付かせていくために最も重要な要素は何か
テクノロジーを浸透させるためには、アナログ的なアプローチが案外重要だ。いわゆる組織の心理的安全性が最近の言葉であるが、(提供)できる1つの要素としては、従業員や人事担当者のいずれもが信頼感を持てる産業医の力が必要で、それが軸になる。それがないと、社員も正直な事を話してくれない。その上で、テクノロジーでどう効率化するかが命題になる。

―クラウドを使うことでいろいろなデータが集まってくると思うが、例えばタレントマネジメントシステムやHR(Human Resource)系のシステムと繋ぎ込んで活用する可能性はあるのか
ほかのSaaS系のサービス会社とのAPI連携の可能性は今後あると見ている。一方で、ストレスチェックや健康診断のデータはセンシティブな情報でもあるので、そのようなことをよく考えて連携していくのが基本的な考え方だが、勤怠情報はより連携していければと考えている。

―「ウェルビーイング」という大きな括りの話をしていたが、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授の「幸福学」との関連で、事業のコアである医療から離れて、従業員の働きやすさなどに着目して業域を広げる可能性はあるのか
可能性としては否定しないが、既存のサービスだけで話すと、我々のサービスは、1を10にしてモチベーションを上げて成果を出すサービスではなく、1をマイナス1にしないためのものと捉えてもらって差し支えない。

モチベーションなどを担っていくには、違うアプローチのサービス開発か、他者と連携する必要がある。現時点ではマイナスにしないためのサービスだと思ってもらいたい。

―エンタープライズ(大規模顧客)企業の、契約者数の目標はあるか
まずは500グループ。昨年末で96だ。

―3年ほどでの目標か
経済によるので何とも言えない。2020年の4月から新型コロナウイルスの感染症があったが、あの時我々はもう少しエンタープライズの受注ができると見込んでいたが、コロナ禍が始まってから企業活動が鈍ったとことが現実的にあり、そこからスローペースになってきたかと思う。経済活動が一定数、流動性が回復すればキャッチアップは早くなると思うが、3年でできるか自信はない。

―5年程度か
現時点ではコメントしにくい。それよりは、エンタープライズの1社当たりの売り上げ拡大を最も重要視している。

―ベンチャーキャピタル(VC)や外部投資家がたくさん入って、成長への期待が大きいと思うが、このVCに入ってもらって成果が出たものはあるか
リードインベスターであったファストトラックイニシアティブ2号投資事業有限責任組合は、東大系のヘルスケア系ファンドで、専門性を持って我々にアプローチしてくれた。戦略を決めるうえでも、テクノロジーをどう効果的に運用していくかヒントを得るうえでも、ディスカッションを重ねてきた。常にリードとして参加してもらったので、非常に感謝している。

―最初の投資は
最初はサムライインキュベートで、途中でエグジットしているので、今はないがWEBを検索すると出てくる。創業のきっかけとしては、榊原健太郎代表取締役から「会社をやらないか」と声を掛けられたのがスタートだったので、榊原代表にも感謝している。

–公募株数が5万株だが、その背景や狙いは
今回のファイナンスだと5~10%程度放出しても数億円程度であれば、デットでも調達できると考えているので、しっかり力を溜めて起業価値を向上した上でファイナンスをしていこうという意向から、最小限にとどめた。機関投資家とも話したが、新しい資金調達をしなくても、年間1億円程度の広告費を、例えば 2~3億円にしなくても基本的な成長路線を保てると想定しているので、マザーズの規定にある5万株でファイナンスした。

―ROEの考え方は
基本的に、現時点でROEをそこまで重要視するフェーズではない。ROEを高めていくためにはエクイティファイナンスをするよりも、どちらかといえば、デットファイナンスをどう上手く活用するかが1番のポイントになってくるので、株主価値・企業価値を最重視しながら考えたい。

―株主還元に関して、配当性向などは
現時点では想定していないが、利益がある程度しっかり出るような体制になれば配当できる。10年先だとは思っていない。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]