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上場会見:ギックス<9219>の網野CEO、データの筋を素早く判断

30日、ギックスが東証マザーズに上場した。初値は公開価格の1070円を2.80%上回る1100円を付け、985円で引けた。同社は、人間の思考にデータも加えるアプローチであるData-Informed(DI)の発想に基づいた「DIコンサルティング」と、その判断を継続的に行うために必要なデータ活用の基盤を構築・運用する「DIプラットフォーム」を提供する。網野知博CEOが東京証券取引所で上場会見を行った

網野CEOは、分析の方法論やアルゴリズム、ツールなどを再利用できる形で保有し、プロジェクトの速度を高めていると話した
網野CEOは、分析の方法論やアルゴリズム、ツールなどを再利用できる形で保有し、プロジェクトの速度を高めていると話した

―初値が公開価格を上回り、後場にかけて下がったが感想を
このような市況もあったので、多少不安な面もあったが、初値が付いたことに関しては、正直ほっとした。ただ、終値では、投資家の期待を裏切ってる面もあると思うが、一重に中期的に当社として成長して、結果的には数年で株価に反映させていくしかない。真摯に事業に取り組んでいきたい。

―DIの発想を採用する競合は存在するのか、競合状況については
ドンピシャの競合はほとんどない。我々のサービス提供の仕方は課題解決だ。課題解決の点では、データによって業務の判断が向上か否かを解きにいくアプローチを採る。顧客になってもらう場合には、DIの思想を理解してもらって、「データで判断の高度化ができたらいいのではないか」という課題を持って相談してもらうことが多い。

一方で、同様にデータを分析する会社であっても、サイエンティストを常駐派遣する会社も存在する。やりたい事が明確でサイエンティストだけ欲しい顧客は、そのような会社に仕事を出していく。AI系のテックベンチャーでは、最初から「こういう解き筋を機械で解けます」というアルゴリズムを持つ会社がいる。そういういうベンチャーに依頼する会社は、適合するような機械学習やディープラーニングのアルゴリズムがある程度分かっていて、それを使うといいのか判断すると思う。目的と進め方が違う面もあり、普段、仕事を受注している時に大きくコンペになることは、今のところ出ていない。

―そもそも高度化できるか否かコンサルティングした段階で、できるものとできないものに分かれることが多いのか
我々は今まで400を超えるプロジェクトを経験してきたので、相談を受けたタイミングで、トライする価値がありそうかどうかは大体分かるようになっている。取引をして価値を出せそうだという段階、2週間や4週間の機動的な検証プロジェクトを実施するが、9割ぐらいで、詳細に検討して意味がありそうだという形に繋がっている。

残り1割の場合も、全く駄目というよりは、テーマ性はいいが、例えば、データはまだ一定期間しか蓄積されておらず、もう1~2年寝かせてデータを蓄積してからではないと解決できなさそう、もしくは、解決できそうだが、業務に適合させて使っていく時に、もう少し時間をかけて取り組まないといけないというタイミングもある。少し寝かせることが出てくるが、最近は、価値が出そうだというところで取り組み、実際にこのぐらいの価値が出そうだというような証明ができるようになってきている。

―類似の事業を展開して最近上場してきた会社では、その業界のトップ企業が持つレアなデータを狙っていくところがいくつかある。いろいろなデータを使っていこうという趣旨のキャッチコピーを掲げていたが、データに関する捉え方やこだわりはあるのか
DX化でデジタル化が進んでいて、デジタルは基本的にその裏側で全てデータが溜まっていく。ただ、ビッグデータは使い方を誤ると基本的にはゴミデータになってしまうものだと思う。我々が創業した2012年はちょうどビッグデータのブームが来ており、市場の期待はものすごく高かったが、使い方が難しいので、扱いを間違えるとただのゴミにしかならない。

ただ、社名のギックスは、たとえゴミのようなデータであっても価値があるものを出していこうという「Garbage In X Out」に由来しているので、そのデータをうまく処理していくかどうかにかかっている。

使える可能性があるデータはトライしていく。ただ、顧客が無駄な時間や資金を使うと良くないので、事前に、ある程度勝ち筋は見せながらもデータを提供してもらう。バラバラな仕組みに入っていることも多いので、それをうまく整え、つなげて、早期に可視化・構造化して、機械学習の予測モデルを作ることなどで使い筋を発見し、業務に使えるか否かを素早く判断していく。

データをとにかく開いてみないと、どこまで使えるのか分からない部分もあるので、だからこそ失敗コストをもっと安くしてトライしてもらう。失敗しても取り戻せる程度の2~4週間でトライしてもらうことに主眼を置いている。まず試してもらうことを重要視している。

―JR西日本など3社で売り上げの7割ぐらいを占めているが、成長戦略として今後、既存のクライアントを深堀りしていくのか、新規に顧客を獲得していくのか、獲得する場合にはどういうジャンルや規模の企業を狙っているのか
限られたクライアントのなかで、まず広げていくのが当面の作戦になる。指摘の通り、当社の取引先は、基本的に業界最大手の大企業が多く、1つの部署や1 つのテーマで、コンサルティングとプラットフォームの構築を行い、勝ち筋のテーマができると、別の部署やテーマで相談してもらえる構図になっている。

1社に入って縦に深堀りして成果を出し、横に広げていく、その縦横が積み重なっている。例えば、JR西日本やアサヒビールという1社で表しているが、その中身を紐解くといろいろな部署、アサヒビールでは、ビールも飲料もホールディングスもとなる。それぞれのテーマや部署が積み重なって今の取引額になっているので、今後も、重点顧客としている7社のなかで縦横をしっかり広げ、年間の取引額を積み上げて増やしたい。

新規に関しては、鉄道業界では、最近知名度も少しずつ上がってきており、決済や決済データの分野では、古くからクレジットカードのビューカード(の業務)をしていた。その関係もあり、決済データも非常に強いという印象を持たれているので、得意な業界に関しては業界内で横展開する。

データを使ったテーマだが、コンディション・ベースド・メンテナンス(CBM)と言われるものだ。機械は整備しないと壊れてしまうので、定期的に整備する。今まではタイム・ベースド・メンテナンスといい、決められた期間で整備する考え方だった。それでは無駄が出るので、コンディションに応じて対応する。要は壊れる前に整備するのが一番効率いいという考え方だ。そのCBMのような分野は、鉄道でも多く取り組んでいる。また、製造業でも、工場の業務を受注しており、CBM領域ではほかの業界にも飛んでいける。

―同じ会社のなかで縦に広げていく場合、今後の可能性として、業務判断領域のみならず経営判断領域に進出することもあり得るのか
そうだ。

―経営判断領域に進出する際の課題は
我々としては、依頼を受ければ支援する。経営判断系の「Big Decision(重大な判断)」は 1 回で終わることが多いので、データを用いた純粋なコンサルティングとしての支援になる。日常業務の判断では、日々使う必要があるため、その後のプラットフォームの構築で多くの社員に使ってもらう分野に入っていくが、Big Decision系は都度という形になるので、年1回といった取引となる。

―データサイエンティストは奪い合いだと思うが、人材確保や教育・育成の特長は
サイエンティストは、今とても採用が大変と言われているが、我々はサイエンティストの未経験者を採用して、そこから育成している。大学の時に理系で数学・算数が得意な人間であることが前提になるが、入社3〜5年目ぐらいの人材を採用して、ギックスの方法論でトレーニングし、使えるようにしてプロジェクトに入れていく。サイエンティストを市場から採用する時に競合するよりは、優秀な人材のなかでの取り合いで採用して鍛えていく。

―ROEの考え方は
巨大な装置を自社で抱える必要がない面もあるので、アセットやエクイティに対してのリターンはそこまで重要視してる指標ではないが、当然ながら売り上げや利益成長の点では、一定の目標値を持っており、追っている各種KPIもある。それを意識して経営を進めている。

―配当や株主還元に対する考え方は
当面、配当の予定はなく、成長への再投資を予定している。株価をしっかり上げていくことが既存の株主への1番の還元と考えている。ただ、この先10年以上にわたって変わらず40%以上の成長を目標に立てているので、仮に、成長が難しくなったタイミングになれば、おそらく配当を含めて対応策を考えていくことになる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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