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上場会見:BCC<7376>の伊藤社長、IT営業とヘルスケアのクロス

6日、BCCが東証マザーズに上場した。初値は付かず、公開価格(1300円)の2.3倍となる2990円の買い気配で引けた。同社はIT人材の派遣や中小企業向けのIT営業アウトソーシングのほか、高齢者向けの介護レクリエーションの素材を無償提供するWEBサイト「介護レク広場」の運営などヘルスケアビジネスを手掛ける。伊藤一彦社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

IT業界全体で営業人員が不足し中途採用でもまかない切れない状況が続くと見ていると話す伊藤社長
IT業界全体で営業人員が不足し中途採用でもまかない切れない状況が続くと見ていると話す伊藤社長

―初値が付かなかった
しっかり受け止めたい。初値が付かないことに関しては、市場の多くの人から評価されたからこその結果だと思っている。その期待に応える結果を出していくことが大事だ。評価に応えられるようにしっかりと業績を上げ、期待に応えていきたい。

―この時期に上場した目的や狙いは
創業時からいつか上場したいと思い事業を進めてきた。IT営業アウトソーシング事業のキーは採用だ。多くの優秀な人たちに集まってもらうことで事業が伸びる。コロナ禍の影響を受けて、オンライン化への対応でIT業界の業績が上がっている。業績が上がるということは営業が足りなくなるタイミングだ。IT業界はまだ営業人員が足りない。このタイミングで上場し、信用力や知名度を上げることで採用につなげたい。

―IT営業人員は難しいスキルが要求され、それを強みである採用力や育成力でカバーできているのか
今から20年ほど前にNECで勤めていたが、ITの営業は大変だ。顧客よりも速くITの知識を得て見込み客とコミュニケーションを取り、受注するとプロジェクトをマネジメントする高いスキルが求められる。ITの営業に特化した教育や、教育をするための学校といったものを各社は作っていない。

SEやプログラマーなどエンジニアの専門学校や派遣会社はたくさんあり、教育の仕方がある程度確立している。だが、ITの営業を育成するカリキュラムは、これまできちんと確立されていなかった。我々はそこに注目して、営業人員をいかに短期間で育成するかというカリキュラムを一生懸命作ってきた。それが業界全体の課題であり、何とか解決していきたい。

―中長期的にはIT営業アウトソーシングとヘルスケアビジネスを組み合わせた「ヘルスケアDX事業」が成長ドライバーになるのか
今後は、IT営業アウトソーシングとヘルスケアビジネス事業を合わせてクロスさせた分野が成長ドライバーになる。我々と付き合いのある大手企業は介護分野のネットワークを持たない企業が多く、「介護現場ではどのようなロボットならば使えるのか」であるとか、「ヘルスケアIoTデバイスはどうやったら売れるのか」といった相談をよく受ける。

一方で、介護分野では8万人を超える人たちとのネットワークを持つ。介護分野と大手IT企業とのネットワークを持ち合わせる会社は日本のなかではあまりないので、この分野を伸ばし、より多くの売り上げ・利益を獲得していけるのではないか。

―ヘルスケアDXには、大手IT企業と連携して参入するとのことだが、代理店に特化するのか。将来的にはM&Aでメーカーを取り込んでいくのか
目下、代理店や派遣のような形で大手IT企業の商品・サービスの開発支援や、完成した商品のプロモーション支援を中心に取り組みたい。その先は、ハードウェアかソフトウェアかはこれからだが、自社コンテンツを開発したい。

―競合の参入が予想されるが、3~5年のなかでどのような優位性を持って事業を進めるのか
当社に多くの企業が相談する最大の理由は、(情報源として重要であるため)介護現場で働く人たちをいかに囲い込むかにある。介護ロボットの導入支援をいくつか行っている。例えば、ユカイ工学というコミュニケーションロボットの会社が当社に依頼したのは、介護現場で働いている人に直接話を聞きたいからだった。

現場で働いている人は忙しく、ロボットを使ってもらい感想を聞くのは非常に難しい。当社の「介護レク広場」は全国で5万人が使っている。さらにレクリエーション介護士という資格の発行団体であり、リアルの介護士3万人を抱えている。このネットワークを使って、何とか現場で働いている人の声を聞きたいという希望を実現した。

介護ロボットは、高齢者のことだけを考えて作っても広がらない。現場で使う人たちの声を聞いて作ることが非常に大事だ。現場とのネットワークを持っていることが強みであり、今後の優位性になる。

―ヘルスケアDXのTAM(Total Accessible Market)をどう考えるか
現時点でマーケット感を明確に打ち出しているわけではないが、ヘルスケア分野全体では33兆円あり、10年後には40兆円を超えると言われている。介護ロボットだけにフォーカスするとより小さな市場になるが、ヘルスケアIoTデバイスなどに広がっていくと考えているため、このマーケットのなかでしっかりとしたシェアを取っていきたい。

―そのような新規産業に参入する場合、ハードル・レートの考え方は
ヘルスケアDXは、まだこれからの事業であり、今期や来期は現在のIT営業アウトソーシングとヘルスケアビジネス事業を伸ばしたい。3~5年後にヘルスケアDX分野でも売り上げと利益を出したい。その計画はこれから練って具体的にしていく。

―介護ロボットやヘルスケアIoTデバイスを、高齢者関連のみならず保育園や幼稚園向けに展開する可能性はあるか
十分に考えられる。我々の「介護レク広場」は介護現場以外にも保育園や幼稚園で保育士・教諭たちに活用されている。必ずしも高齢者向けのものがそのまま子供向けになるものではないが、関連性はあり連携できると見ている。

例えば、介護現場と保育園・幼稚園をオンラインでつないで一緒に何らかの取り組みが行われている。そうすることで、子供にとっては良い勉強になるし、高齢者からすると子供たちの笑顔をもらえて双方が元気になる。保育園や幼稚園に関わる人たちにも我々の事業を展開して連携してもらえるのではないか。

―レクリエーションに関連したコミュニケーションロボットだけでなく、ペット型のものや薬を出すものなどにも対応するのか
現在はレクリエーションに関連したコミュニケーションロボットの分野が多いが、今後は介護分野で使えるような移乗のためのロボットなどを含めて取り扱いたい。

―介護ロボットは日本が先行していると思うが、レッドオーシャンではないか
介護ロボットはまだ介護分野に浸透していない。費用がかかるからで、これからの分野だと考えている。より多くの介護ロボットが介護分野に参入することで価格競争が起きる。より安価かつ現場で本当に使えるロボットやIoTデバイスが増えることが、今後の高齢化を支えるために大事だ。より多くのITやロボットがヘルスケア分野に入ることを期待して事業を進めたい。

―営業利益率が前期の3.7%から今期予想では10.1%に跳ね上がっているが、販管費がカギだったのか
岡林靖朗常務:IT営業アウトソーシング事業で派遣を伸ばすために、かなり積極的に採用していたが、前期はコロナ禍の影響を受けた。特に3~5月に各企業が派遣の追加をストップした。会計処理上、販管費の人件費で計上しており、その分がかさんだことで大きく費用を計上した。今期は計画的に採用してきたので、そこまで大きく人件費が膨れ上がることはなかった。

―営業利益率は巡航で、10%程度で推移するのか
伊藤社長:来期以降もそれほど大きな変化をすることなく、今後も適正な営業利益率を保っていきたい。現状の営業利益率よりも若干上がっていく傾向にはしているが、そのような水準だ。

―調達資金の使途は
現在の主力であるIT営業アウトソーシング事業の採用や人件費に活用したい。向こう2~3年は、IT営業アウトソーシングとヘルスケアビジネスをしっかり伸ばすことが直近の戦略で、そこに向けて投資する。

―株主還元の方針は
岡林常務:配当に関しては、直近は内部留保をしっかり蓄えて事業に専念する。ただ、ずっとそのようにすることを考えているわけではなく、利益が出ていけば還元する方針だ。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]