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上場会見:サイフューズ<4892>の秋枝代表、3Dプリンタで臓器を出力

1日、サイフューズが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1620円を6.17%上回る1720円を付け、1814円で引けた。患者から採取した細胞のみを材料とし、細胞版の3Dプリンタ(バイオ3Dプリンタ)で作製した立体的な組織や臓器を患者の体内へ移植して機能を回復・再生させる「再生医療等製品」の開発を進める。バイオ3Dプリンタ「Regenova(レジェノバ)」の販売を2012年12月に始め、次世代機を開発中。秋枝静香代表が東京証券取引所で上場会見を行った。

3Dプリンタの仕組みについて、スフェロイドという団子状になった細胞を剣山のようなものに積み上げて臓器を形成すると説明する秋枝代表
3Dプリンタの仕組みについて、スフェロイドという団子状になった細胞を剣山のようなものに積み上げて臓器を形成すると説明する秋枝代表

―初値が公開価格を上回ったが、その感想は
非常に多くの人たちに期待されていると感じており、ありがたく思っている。我々はこれをスタートとして、引き続き末永く事業活動をして患者のために貢献していきたい。

―上場の狙いは
再生医療の活動をしているので、さらなる信頼を得て、患者に安全な製品を届けたいと考えているので、このタイミングでの上場を図った。

―このタイミングで上場した意味合いは。未上場時には幅広いベンチャーキャピタルからタイミングよく資金調達できたと思うが、上場後はなかなかそうもいかないのではないか。これからうまく資金が回る目算があるのか。あるいは上場後もセカンダリー的に資金調達できる見通しが立っているのか
非常に難しいタイミングかもしれないが、我々としては、今がベストであり全てのバランスを見て判断した。去年が良かったのか今年が良かったのか、来年が良かったのか分からない状況で、パイプライン開発もちょうど順調に進んでいる。この後きちんと製品として仕上げて、患者に届けるという段階で、一気に加速していこうというタイミングで、証券会社の力添えもあり上場を果たした。

今後、グローバルにも展開したいと考えているので、多くの企業とのパートナーシップ戦略によって様々な形で資金を調達していきたい。

―東証グロースへの上場だが、発祥が九州であり福証での上場は今のところ考えていないのか
もちろん我々は九州・福岡が大好きなので、そこからという思いはあったが、この先グローバルにも展開したい。まずは日本の中心である東京からスタートして、今を通過点として海外までこの先末永く企業活動を続けたい。もちろん福岡にも、さらに盛り上げてアジア方面も含めて活動していきたい。

―上場に伴う資金の調達額は大体どのぐらいか
三條真弘CFO:調達額としては20億円規模で、3本の開発品パイプラインである末梢神経や骨軟骨、血管といった再生臓器の製品販売に向けた最後の大事な臨床試験を、この後3年ほどかけて仕上げの段階に入る。2ケタ億円の研究開発費がかかってくる。今回の調達資金でそれをしっかりやり遂げる。

―末梢神経と骨軟骨、血管には、それぞれどういったニーズがあって実用化すれば既存のものと比べてどのような存在になるのか。また、承認や上市のメドについて改めて聞きたい
秋枝代表:神経については、例えば、機械の巻き込み事故や交通事故で、指の神経を切ってしまったという患者に届ける製品だ。人工神経というものもあるが、細胞の成分が入っていないことで再生が乏しい。また人工物が入っていると指が曲げられないということもある。

それに対して我々は、患者自身から細胞を提供してもらい神経を作り、移植するともう1度自分の神経が再生するという製品を開発している。いずれの製品も移植した後にきちんと自分の組織に置き換わる製品開発を行っており、そこが当社の特徴でもある。

末梢神経では、1つ目の医師主導治験がもうすぐ完了する。その後企業治験を行い、2025年の承認申請を目指している。その後続くものとして軟骨、血管と25年、26年、27年とパイプラインを出していきたい。

―末梢神経に関して申請が2025年で、26年に承認取得を見込んでいるのか
そうだ。

―ほかのパイプラインに関しては、最初の治験が終わった後に開始することを目指すのか。ほかのパイプラインの治験開始のメドは
今、臨床開発を進めている3つのパイプラインは、全て同時並行で進めている。最も進んでいるパイプラインは神経だが、血管も骨軟骨も同時に進めていく予定だ。

―目標時期は決まっていないのか
パイプライン開発は、2026~27年に3本が集中してくる。

―3つのパイプラインで使う自家の細胞は、どの細胞を使うのか
神経と血管は、患者から皮膚を5ミリ程度提供してもらい、そのなかにある繊維芽細胞を使っている。軟骨については、脂肪由来のMAC幹細胞(間葉系幹細胞)を使用している。

―(他人の細胞を使う)他家の再生医療等製品については、もう研究を始めているのか。それとも今後始める予定なのか
既にいくつかのパイプライン開発で他家の研究開発を進めている。AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)からも支援を受けながら進めている。まだ非臨床段階だが、今進めているものに次いで開発を進めていく。

―臓器を作るためにかかるおよその時間と高速化の余地はどの程度あるのか
現状、進めているパイプライン開発は、全て患者自身から細胞をもらってスタートしている。患者の細胞がどれぐらい早く増えるかという点に依存するが、およそ1.5~2ヵ月のうちには移植まで到達している。(バイオ3Dプリンタの次世代機である)商業生産機が完成してくればもう少し早く製造が可能になることと、他人(他家)の細胞、細胞バンクのようなものを利用できればもう少し短縮できる見込みがある。

―商業用の製造機はどのようなものか
現在使っているバイオ3Dプリンタは、細胞(の集まり)を1個ずつ針に刺すという動作を繰り返すが、その効率化を図る装置になっている。

―新薬開発(創薬支援)に使う肝臓に関しては、販売しているのか
企業に声を掛けてもらってオーダーメイドで出しているが、製薬会社や食品会社などに販売している。

―培養細胞ではなく3Dプリンタで打ち出す立体的な肝臓を提供するのか
そうだ。肝臓の細胞をシャーレで培養してしまうと、どうしても長くは培養できない。そこで立体構築すると生体の肝臓により近い機能を発揮することが分かってきたので、プリンターで積んで小さな3Dの肝臓を作って販売している。

―3Dプリンタと肝臓のモデルを、それぞれ何社ぐらいが使っているのか
具体的にはコンフィデンシャルなところだが、数社~数十社で、数百ではないというところだ。

―開発や評価の受託事業の売上高の割合は、今後どのようになる見込みか
現状、売り上げは3つの段階がある。まず、プリンタの販売、細胞製品の開発や受託が積み上げっている。最終的に再生医療等製品の承認を取得した後は、当然その製品の売り上げで事業活動を行っていきたい。割合としては、メインは再生医療の製品でと考えているが、付随するノウハウや様々なコンサルテーションがあるので、受託も含めて一定程度の活動は続けていきたい。

―これまでの話を聞いて(SF作品の)攻殻機動隊のような世界観、即ち神経の再生や細胞のみで臓器を造ることから敷衍して、例えば、アンドロイドやサイボーグの類、サイバネティクス領域との連続性があるように見える。将来的な広がりとしては、どのような世界を描いているのか
創業来、患者のために少しでも貢献したいという思いで活動しているので、まずはそのようなバーチャルな方向というよりは、目先はしっかりと患者に新しい医療であり再生等医療製品を届けたい。遠い将来ということであればそのような世界もあるかもしれないが、ここ10年というところでは、しっかりと医療と新しい社会を創出していきたい。

―あくまでも仮定の話で、コストとの兼ね合いや様々な側面もあるが、例えば、食料分野への応用可能性や関心は
バイオ3Dプリンタという装置があるので、それを使って培養肉や食品系のところから、「作りたい」と声をかけてもらうことは結構ある。我々は、まずは医療というところをしっかりと地に足を付けて活動していきたい。声を掛けてもらうことがあれば、今はイベント的なところや展示会では一緒に参加している。将来的には、食品の分野で展開できるのであれば、活動していきたいが、優先順位はまだ低い。

―事業モデルや経営スタンスを含めて業界内外を問わず、ベンチマークとする企業や意識するところはあるか
再生医療自体が新しいモダリティであり、市場を一緒になって作っている状況なので、競合の会社は特になく、様々な会社とともに新しい社会を作りたい。とはいえ、国内ではジャパン・ティッシュエンジニアリング<7774>など、再生医療で活躍している諸先輩方の企業があるので、しっかりとその姿も見ながら、我々は我々で独自の開発をしていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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