7日、IACEトラベルが東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1000円を13.60%下回る864円を付け、850円で引けた。企業向けに国内外の出張手続きをサポートする「ビジネストラベルマネジメント(BTM)」サービスを手掛ける。また、在日米軍基地内の指定代理店で米軍関係者に旅行の手配を行うほか、カナダとメキシコの子会社が現地の日系企業や日本人に、出張や旅行を手配する。西澤重治社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

―日経平均株価もだいぶ下がって厳しい船出となったが、初値の感想は
初値が864円で、これは逆に、このような状況で、この値を付けてもらえた投資家には感謝している。今後しっかり報いていきたい。
―初値が公開価格を下回ったのは、海外など外的な要因が多いのか
初値については何とも言えないが、我々のビジネスでは、出張は欧米のみならずアジア方面が主であり、様々な職種でリスクヘッジもしている。この状況で当社に投資している株主がいることに感謝の意をもって、今後しっかりやっていかなければならない。
こういう時は本当にチャンスで、これまでもコロナ禍の時などには、事業を大きく変化させて、常に成長できている。「ピンチはチャンス」は合言葉で、当社らしい門出と思っている。
―出張手配を主に手掛けているが、どのような社会課題を解決し、どんな会社にしたいのか
これまでいろいろな顧客と直接話してきたが、そのなかには、BTMサービスに対して「コストがかかる」、「やりたくてもやれない」という人たちがいた。そのような企業にもきっちり使ってもらえるサービスを目指している。それをどんどん増やして、最終的には日本企業のグローバル化に役立ちたい。
―月額基本利用料なしで、7700円、3300円と廉価にサービスを提供できる背景に業務の効率化があるが、なぜそのような価格体系を実現できているのか
BTM市場は古いマーケットというか、あまり表に出ておらず労働集約型で、コロナ禍前は当社もそうだった。参入障壁が多く、細かい作業や後からの手配も多いので、価格が高止まりしていた。
我々は、クラウド出張手配システム「SmartBTM」の開発はもちろん、それと並行して、コロナ禍でバックヤード業務を徹底的に見直した。システムができることは全てシステムに、人にしかできないことは人でやっていく。その余地はまだあり、今回上場を急いだのは、その部分にもっと投資したい考えからだった。
そこが他社との料金の違いで、それでも商売になっているが、もう少し上げる余地はあるかもしれない。ただ、今はいかにSmartBTMを利用してもらえるかという時期だと見ている。一度使ってもらえば良さが分かって離脱率も低い。意図的にそうした価格設定にしている。
―そうすると、単価向上施策はもう少し先の話で、顧客が集まってからか
今この場で言うことが妥当かというのはあるが、その余地はあるという感じだろう。
―顧客企業の基幹システムとの連携はどうか
SmartBTMに加えて、「Travel Manager」というシステムもあり、出張案件に関しては連携できている。
灰田俊也取締役:例えば、会計や人事系のシステムなどとの連携の考えがあるかという質問と受け止めた。現状では、他社とのいわゆるAPI連携は、開発に着手していないが、顧客企業の業務効率化に資する意味合いがあるので接続していきたい。
現状は、企業によってフォーマットが違うが、最初に要望を聞いたうえで、月に1度程度CSV形式などのトラベルデータとして提供し、それを各企業側で取り込んで処理するケースが多い。
―BTMサービスの主要KPIである手配件数がコロナ禍前の水準に戻っていない背景は。また、いつ頃に戻る見込みか
西澤社長:国内はコロナ禍前の水準にほぼ戻ってきた。海外に関しては、戻りがまだ7割強だ。この2~3年に関してはまだ大きく(は戻っていない)。理由は、航空券などが高いため、1つの企業の予算で例えば、これまで10人が出張していたが7~8人になる。出張を行わない企業はないが、そのような状況はもう少し続くと見ている。
SmartBTMをリリースした2021年10月から新規企業の獲得が非常に増えた。他社から移ってくる場合も多いが、それ以外でも、今までBTMサービスを使っていなかった企業が3割程度存在する。他社との取り合いではなく完全な新規顧客となっている。
それを踏まえて、1~2年ぐらいは戻らないかもしれないが、新規の契約をどれだけ取っていけるかには自信がある。そこでカバーしたい。
―新規の属性や傾向は
前はもう少し多かったが、当社の顧客の約半数は製造業となっている。新規は、製造業以外、例えば、飲食業やIT産業が多い。
―投資家からは、WEB面談やオンライン会議が、現実の移動を伴う出張を代替してしまうのではないかとの懸念が寄せられた
コロナ禍の最中にも、それなりの出張件数はあり、コロナ禍後は、通常の旅行よりも出張需要の戻りが一気に早まった。製造業では出張に行かなくてはならないので、一気に復調した側面もあった。コロナ禍が終わって、対面でのコミュニケーションの重要性について多く聞くようになり、基本的に出張がなくなることはないと確信した。
―米国の最近の関税施策が経済にどのような影響を与えるか。いろいろな見方があるだろうが、それと出張需要の関連性をどう見るか
先週から大きな混乱が出ているが、マクロの視点では世界的に影響があって、状況を注視しなくてはならない。逆にミクロで見れば、企業出張で当社サービスを利用することによるコストパフォーマンスの良さは、SmartBTM導入拡大のチャンスと見ている。
例えば、今日のように株価が落ちるなど何らかの要因で企業が厳しくなった時は、出張は最初にコスト削減の対象となる。当社が声をかけていた顧客が、その総務部などによる出張の見直しをきっかけに、当社に連絡してくるケースがとても多かったので、注視しなければならない。チャンスと捉えて、どれだけ動けるかではないか。
―BTMから広げて周辺領域のサービスとして提供できたら面白いものはあるか
我々は何千という顧客と取引していて、各社から我々に「こんなことはできないか、あんなことできないか」という依頼が寄せられる。そういった部分では我々のファンのような顧客が既にいる。
コロナ禍の時もそうだったが、BPOなどもあり、追加してできることは、今後多く出てくると想定している。マネタイズできるかどうか社内でじっくり検討しなければならないが、優良顧客の存在を背景に、いろいろなことができるのではないか。
また、SmartBTMを使ってできることもある。今は日本発の出張に関するサービスが中心だが、例えば、海外発の領域について、日系企業の海外子会社が行う出張も全てシステムで対応する構想もある。新商材、出張用のパッケージツアーを作るなど、やれることはたくさんある。顧客がいることがとても強みなので、そこからやれることはまだあるのではないか。
―東証スタンダード市場への上場で、安定した成長と配当が求められるだろうが、株主還元の方針について
配当性向25~30%で投資家に還元していきたい。我々がスタンダード市場へ上場した目的は、しっかりした企業であるということを、今後の成長に向けて投資をするのは当たり前の話だが、顧客に対してしっかりした企業であることを分かってもらえればと考えている。株主にしっかりと報いたい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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