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上場会見:アルピコHD<297A>、流通・運輸・観光の循環@信州

2024年12月25日、アルピコホールディングスが東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の191円を5.2%上回る201円を付け、191円で引けた。筑摩鉄道として1920年に創業。流通事業では長野県でスーパーマーケットの「デリシア」を展開し、運輸事業は松本-新島々(しんしましま)間を結ぶ上高地線の鉄道やバス、タクシーを、観光事業では主にホテルを運営している。佐藤裕一社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

信州を世界に誇るリゾート地にしたいと話す佐藤社長

ー終値の受け止めは

これはマーケットの評価ではあるが、一定の高評価をもらえたと安堵している。

 

ー終値が公募価格と同額だったことについて

初日なので、妥当な価格だったと思う。

 

ー上場で得た資金の具体的な使い道は

目論見書や適時開示で出しているが、「デリシアミールズ川中島店」が既に着工済みで、そこに11億円を投下する。それからバスの車両18台に総額で8億8000万円、「ホテルブエナビスタ」の改修に2億円という予定だ。

 

ー非常に歴史がある企業で、また地域公共交通の会社の上場は珍しいと思うが、なぜ今上場するのか。上場の意義は

上場で期待していることは、人材の確保が1番にある。これは現場や経営の人材もそうだが、集約型産業であり、我々の手から顧客の手へとサービスを渡していくのがミッションなので、どうしても人手が要る。まずは就職してもらいたいという願いがある。

 

また、「山岳リゾート信州」を作るには我々の力だけでは到底できないので、様々なセクターの人と、手に手を取って進めていきたい。上場企業としての信用力は、アライアンスやコンソーシアムを組むうえでは、大変重要なファクターと見ているので、人材と信用力の2点は足元で非常に期待したい。

 

もう1点は、投資を含めた観点で、今後バランスシートを拡大しつつ資金調達の手段を多様化していきたい。以上3点が上場の意義だ。

 

ー今の率直な気持ちは。2000年代は債務超過もあり、それを踏まえての思いも

後段の質問も踏まえてだが、2007年に私的整理をし、今日に至るまでに17年という大変長い道のりだった。上場で会社が生まれ変わったというエビデンスをもらえたと思うので、安堵感があると共に、今まで17年間会社を支えて苦労した関係者の皆、特に社員の皆には厚く感謝している。

 

ー今日12月25日という日が2007年に債務超過を発表した日と同じだが、これは狙っているのか

狙って選んだそうだ。私がこの会社に来たときには、ターゲットは社内で12月25日とあったので、私は何もコメントしたことはない。ただ今日の朝、思い出話を主幹事のみずほ証券とする機会があり、お礼の挨拶をしたのは8時40分頃だった。11年前の8時40分は、まさに「今日私的整理になります」という話を私が銀行から出向するなかで、社員の皆に青天の霹靂のような形で説明をした。会場内が大変沈鬱で涙を流している人もいた。そのようななかから、丁度17年目の応当日なので、今の社員、特にあのときの状況を知っている社員にとって重要な日であることには間違いない。あのときの辛い思いが、今日は喜びというより、ようやく再建が終わって安堵に変わったのを感じる。

 

ーここまで来られた原動力とは

2007年の債務超過の後に辞めた社員もいたが、今このグループを支えてくれているコアの人たちは、その間、非常に歯を食いしばって苦しい時代を乗り切ってくれた人たちだと思うので、社員の原動力がある。あとは長野県を中心とした関係者の皆が温かい目で、我々の成長や2007年からの構造改革を中心とした取り組みを理解し、期待してくれたことだと考える。

 

ー直近の経営環境として、コロナ禍の時期は苦しく、今はインバウンドで追い風になっているということで、この数年間の経営環境を振り返ってどうしてここまで来られたのか

コロナ禍での3期連続赤字で純資産が35億円程度毀損した。その間を支えてくれたのは小売業だった。このような多角的な事業をやっていると、見えにくい点があるという指摘をもらうが、一方では今後コロナ禍のように天候不順など外的要因で外に出られないというときに、上手く裁定が働く事業ポートフォリオとなっていると見ており、売り上げの多くを占めている。

 

今インバウンドの人が増えている通り、アウトドアのレジャーが良くなると観光と運輸が活況を呈するセクターだ。コロナ禍でもっと沈む要因はあったと思うが、小売り事業には助けてもらった。

 

ー流通で様々な事業者がいるが、強みや競争力のポイントとは

1つは外部要因ではあるが、長野県の元来のポテンシャルに加えて、インバウンドの顧客を中心に滞在人口が順調に推移している。一過性のものではなく構造的なもの、持続可能なものだと捉えているので、この超過需要を我々の経営資源を使って確保していけるだろう。

 

内部事情で言うと、小売りが1番大きなセクターであり、キャッシュを創出する力が非常に大きい。ここで得られたキャッシュを、成長分野である外部要因を中心とした運輸や観光に振り向けて、投資や経営資源の確保が十分にできるだろう。資金の適切な循環が事業間でできているということが2点目だ。

 

もう1つは金融機関の多大な支援があったたまものではあるが、2007年に私的整備により、バランスシートの調整で、現在非常にいい状況だ。これからバランスシートを拡大していける余地が、ファイナンスをする力も含めて十分あると思うので、その辺りが強みだ。

 

ー運輸事業について、全国的に運転手不足が問題になっているが、人材確保はどのようにしているか

東京と大阪にも営業所があり、東京-大阪間で高速バスを運行している。東京と大阪での運転手の確保が、かなり順調にできてきており、長野県に来たいというドライバーがいるので、現状はさほど苦労していない。

 

ー今後の成長分野や力を入れていきたいところは

第2の創業とも名付けたいと思っているが、世界に誇る「山岳リゾート信州」の構築や貢献を考えている。長野県はまだ開発の余地があると見込んでおり、ポテンシャルが高い地域だ。資本をそこに投入して、成長戦略を描いていきたい。

 

ー事業が多岐にわたるなかで重視している経営指標、あるいは投資家が見ておくべき経営指標として、KPIのような何か設定はあるか

全体の経営指標は今後議論をしたいと思うが、一般的には例えば、PBRやPER、ROEなど、社内の経営管理上は無数のKPIを持って経営している。各事業セクターによって、それこそ100程度あるのではないか。KPIを見て管理しているので、そのような経営手法をとっている。

 

ー松本をはじめ長野県民の足や観光を支える企業として上場したことで、サービス向上など長野県民の期待がさらに高まると思うが、信州の人に対して今後の意気込みは

今まで通りインフラ産業として、地域により質の良い低価格なサービスを提供していきたい。加えて、今回の上場を機に、信州を世界に誇るリゾート地にしたいと決意しており、様々な地域の事業者とともに、信州の付加価値を高めていきたいと考えている。そのため、今まで通り信州に来る人を増やす活動、信州のポテンシャルを高めて、さらに得られる価値や利益を地域のなかで分かち合って、再投資をしていきたい。

 

ー長野県や長野県の人たちにとって、どのような会社でありたいか

一言で言えば、社是でもあるが、生活そのものも豊かに、よく食事と足などと言うが、そのなかでも楽しさとときめきを提供する会社でありたい。そのため今まで以上に良質なサービスを、上場企業としてふさわしいサービスを提供していきたい。長野県の人たち、長野県以外の人たちからも顧客として様々な意見をもらい、真摯に対応しながら地域の期待には十分応えたいと考えている。

 

ー将来的に流通事業は長野県外への進出を考えているか

排除はしていないという答えになる。

 

ー具体的に今の段階ではないのか

そうだ。

 

ー多角的な事業をしているが、今後5年、10年と長期的に見て新たに事業を始める予定はあるか

検討中だ。ここ1年間で取り組んだ新規事業は、ビール醸造やドローン、キャンプ場といったところだ。

 

[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]

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