12月27日、ビースタイルホールディングスが東証グロースに上場した。初値は公開価格の2070円を60.6%上回る3325円を付け、2625円で引けた。ビースタイルグループとして2002年に創業。家事・育児など家庭の都合で就業に制約がある人の総称である“しゅふ”を対象とした求人メディア「しゅふJOB」を運営する。三原邦彦社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値の受け止めは
今年(2024年)は初値割れの銘柄が多かったなかで、初値が約1.6倍で付いて正直ほっとしている。証券会社が一生懸命対応してくれたこともあり、また証券会社の先の顧客に売ってもらい、その人たちに利益がある程度あったことに本当にほっとしている。株価をどこの価格で上げるのかについては、証券会社と様々な話をしながら銘柄を見て付けたので納得もあったが、前年対比で150%程度成長した求人メディアがほぼ無かったので、その部分においてはもう少し成長率を加味してほしかったという本音はある。
―上場までを振り返っての所感は
元々コロナ禍前まで4事業が右肩上がりで成長していた状態で、上場申請を迎えるタイミングにコロナ禍になってしまった。私としては嬉しいが1割、悔しいが9割というのが所感だ。やはり4事業を揃えて、大きな時価総額で上げることが理想だったが、経営にたらればはなく、こういうことは起こり得る。そのなかにおいても様々な経営課題を一つひとつクリアしながら、成長曲線をどのように描いて、諦めずに取り組み、仲間とともに上場できて本当に嬉しい。そこに賭けてくれた社員に対して、このような形で応えられたことが一番嬉しい。
ただ、上場しても山に例えると、1合目でおにぎりを食べたレベルだと言っている。まだ全然上っていないので、これからしっかりと登り、投資家に応えられる経営を全力でやっていきたい。
―労働をしたい人と受け入れたい企業とのバランスが大事で、労働をしたい人に関してはCMなどで集客し、雇用を受け入れたいという企業を代理店や直販で開拓するだろうが、具体的な戦略とは
テレビは効率的な媒体だ。企業の担当者も求職者も観るので、両方に影響があるのが1つ。また我々の場合、直販のなかに大企業向けと中小企業向けの営業部隊があり、それから代理店を支援する部隊がある。顧客構成の取り組みに応じた組織の人員拡大で顧客の数が比例して増えていく。
代理店はありがたいことにメディアの力が強くなれば強くなるほど、能動的に売ってくれる。最近で言うと、リクルートが全てindeedに集約しており、タウンワークを含め、各社代理店がリクルートの媒体をほぼ売れなくなっている背景があり、各地域の代理店から「扱わせてください」と来る。追い風になっている。
―三原社長が元々人材のパーソルにいたが、独立して“しゅふ”に着目した理由とは
確実に予測できる若年労働人口の減少による労働人口の不足が、初めに分かった課題だ。また、当時は女性の結婚後のキャリアがなく、まだ“寿退社” があった。そのため我々はマクロ的に、代替労働力として主婦やシニア、外国人、ロボットを活用する時代が来るだろうと見た。
もう1つは、女性総合職が1995年頃から本格化し、2002年は結婚前のキャリアがだいぶ変わった時代だが、結婚後のキャリアがほぼないという実態だった。女性の結婚後のキャリアをしっかりと作り上げたいという社会的な使命感も含めたなかでスタートした。
―“しゅふ”はライフスタイルを重視するので、企業からそれに対応した求人を出してもらうのは難しいと思うが
「しゅふJOB」という求人媒体は、雇用形態としてパートでの採用がほぼ決まっているので、切り出しをするのはあまり難しくない。ただ、これから世の中を含めて、増やしてもらいたいと心から思っているのは時短正社員だ。「103万円の壁」や「178万円の壁」があるが、時短正社員の案件が世の中にもっとあれば、この壁の問題を考える必要性はないと思う。
しかし、時短で働ける正社員の案件が少ないので、非正規で働かざるを得ないというのが実態だ。「しゅふJOB」の求人ラインアップを見ても、時短正社員の案件が本当に少なく、パート案件が大半だ。徐々に柔軟性の高い働きができる時短正社員の案件が増えてくると給与的な問題も解消され、働き手の経済的なものも充実すると思う。そこを強化して、顧客に、正社員として柔軟な働き方をしても高いパフォーマンスを出せるということを証明しながら、そのような求人を作っていくソリューションをもっと強化したい。
―「しゅふJOB」を運営するうえでの課題とその解決策は
市場における認知率は競争優位性として大事だが、認知率が90%、100%になったときに、今度は支持率を上げることが重要だと見ている。例えば、ローソンとファミリーマート、セブンイレブンは間違いなく認知率100%だと思うが、どこに行くのかをユーザーは間違いなく決めているだろう。従って、indeedやタウンワークなど様々な求人媒体の認知率も非常に高く、肩を並べているところで、「さあ次はどうしようか」という話だ。そこにおける支持率をサービスにおいてどう作り上げられるか、そこに挑むことがポイントだ。
―支持率向上策の1つにシステムの改修などを行うのか
そうだ。基本的にシステムの投資は大きく2つあると見ている。1つは基盤の強化だ。企業やユーザーが増えれば増えるほど基盤をしっかりと強化しなければならない。約10年前にスタートした事業で、老朽化も進んでいるので、そのような保守的な部分の取り組みがまずある。
もう1つの新規的な取り組みは、応募を増やすことが投資のポイントになる。 例えば、AIにおけるレコメンドエンジンを昨年スタートさせたことで、応募がかなり増えている。システム投資はほぼ応募を増やす取り組みだと認識してもらえればいい。CMなどでも来るが、結局どこまで応募に結び付けられるのか、機能やUI、UXにおける取り組みの重要性と捉えてもらいたい。
―なぜスポットワーク事業を売却したのか
大きく2つある。資金を得て、より「しゅふJOB」のメディアに投資を集中するのが1つ。もう1つは、タイミーのスキマバイト事業と同じようなビジネスモデルがあるなかで、タイミーの形は、給与計算や支払代行、いわゆる顧客の直接雇用を中心としたサービス提供になる。我々のしていた「ご近所ワーク事業」は、業務委託の形であり、業務委託の場合、一つひとつ業務を定義しなければならない。市場で提供する範囲が狭いのが実態だと思う。
私の意向としては、元々タイミーと全く同じような市場とビジネスモデルということであれば売却という形にはならなかった。そうではない事業を実行者である子会社社長が選択したので、そこはすっぱりと諦めて、ほかのスポンサーがある会社に売却をしたというのが本音だ。
―中長期的にM&Aをどのように考えているか
ポートフォリオで考えていく必要性があると思う。1つは従来型の派遣紹介やBPOのように昔ながらにある事業は、どれだけ利益を創出できるのかという観点で、M&Aを推進していく。それから我々が持っている経営資産である「しゅふJOB」などを、供給力として極力活かせるような事業を買っていきたいというのがM&Aの方針としてある。
もう1つは新規性。外国人の人材事業やDX推進も行っているので、そこにおける新しいビジネスは、取り組みとしての可能性があるのではないか。従来型におけるビジネスは、どちらかというと利益を中心としたなかでのM&A方針で、新規性については成長率やそれぞれの市場における勝ち筋があるのかを見ているので、それができる会社を買収していく必要性があるだろう。
[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]
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