22日、サクシードが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(1560円)を7%ほど上回る1671円を付け、1409円で引けた。同社は、個別指導教室の運営や家庭教師の紹介など自社運営の教育サービスと、教育・福祉に関する人材サービスを手掛ける。生徒3人対講師1人というビジネスモデルで講師の人件費を下げ、低料金を実現した。高木毅社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値が公開価格を上回ったことについての受け止めと、どのような評価からこの結果につながったと見ているか
一旦は安心したが、市場の評価としては、その後株価が下がっていく状況なので、我々のビジネスをこれから分かりやすく伝えなければならない。福祉と教育は、岸田政権が力を入れる人材の分野であるし、我々の背負う責任や役割は大きい。より頑張りたいと身の引き締まる思いで今日の朝を迎えた。
―生徒3人を1人の講師が担当すると、教育効果は定量的に見てどうか。他社と比較して変わらないのか、むしろ高まるのか
個別指導も家庭教師も両方手掛けるが、1対1と比べた時、学習効果はそれほど変わらない。1人の生徒に教える時間が終わると、その生徒が課題を解く時間がある。その間に横でペンの動きを見ることも非常に大事ではあるのだが、その時間を有効活用しようというのが、このモデルのコンセプトだ。その間に次の生徒を見て、さらに次の生徒を見る。3人に1人ぐらいが最も無駄がない。人件費コストを下げる意味では一番効率が良い。
ただ、横にずっといて、生徒のペンが止まったとか間違ったところを目にしていることも、非常に大事なので、その点では1対1のほうが、効率が若干良いと思うが、それほど大きな差はない。そうであれば、1対1の家庭教師は高いが個別で授業を受けたいというニーズを取り込むために、1対3のモデルにした。1対3の塾生が退塾する率は1対1と比べても全く遜色がないことから、コストが安いという魅力が上回ると感じている。塾なので成績が上がらないと止めてしまうので、成績が下がっていない証拠でもある。
―関連して、教える側からすると3人を見ることで準備などの労力が3倍だが、給料の面ではどのような手当があるか
我々は1対1で教えるよりも、1対3で教えるほうが給料が高い仕組みを採る。基本的にはOJTで研修するが、ある程度熟練してくれば1対3ができるようになるので、講師は1対3を担当したがる傾向にある。新人などそこまでスキルが上がっていない者に関しては、研修してこれなら大丈夫という状態になるまで、1対3は持たせない。
―事業戦略について、個別指導塾は地場の会社や競合が強いイメージだが、どのようにシェアを獲得するのか
特に個別指導業界は、塾業界の中でも人材不足が進んでいる。いわゆるICT教育やEdtechが非常に伸びたのは、元々は人材が枯渇するなかで、教える効率性を高めようとして技術が発達した側面もある。我々は人と人のコミュニケーションやフェイストゥフェイスの学習をすごく大事にしているので、人材部門を社内に持つアドバンテージは大きい。我々が狙うニュータウンは、駅から比較的遠く、街が若く大学生が少ないので、講師が集めにくいエリアとされる。そこで人材を豊富に保有しているのは競争力としては大きい。
―オンライン家庭教師は大手も取り組んでいるが、アドバンテージは
未開の市場で、よく大手のコマーシャルを見るだろうが、今後市場になるとの予測の下でコマーシャルをしているのではないか。オンライン家庭教師は教育関係とテック系に二分される。我々は元々教育を長年手掛けてきたことと、質の高い教育人材を潤沢に持つ事が、一番の強みと思う。
―少子化対応は
子供が減るのは紛れもない事実だが、「Six Pockets」という言葉があり、1人の子供にかける教育費は若干増加傾向にある。Six Pocketsの意味は、子供1人に対して両親と双方の祖父母で、子供たちにたくさん費用をかけることで、昨今、中学受験者数の伸びは少子化でも最高を更新している。オンライン家庭教師もそうだが、Edtechで比較的新しいマーケットができあがり、教育・塾業界全体のパイとしては、まだ減らないのではないか。
―LP(求職者が登録する小規模なWEBサイト)を分散して、入り口の種類を増やし、多様な人材をプールできるとのことだが、そのなかで集まった人材に、提案によっては当初の希望と異なる配属先で活躍してもらうことになるのか
そうだ。学習塾で教えたい講師は、教えることがとても好きなので、教員や家庭教師でもいい案件があれば紹介してほしいという人がほとんどだ。学生が塾講師として大量に登録してくるが、家庭教師として紹介することもある。逆に家庭教師で登録した人を塾講師にするケースもある。部活の指導員として登録した人が、介護関連にも興味がある場合、介護施設に紹介することもできる。多岐にわたる紹介先があることは登録者に対する大きなメリットにもなり、登録者の回転率という意味では非常に良い仕組みと考える。
―複数のLPで質の高い人材を集めるというが、パイが小さいと思う。さらに広げる戦略は
大きなポータルサイトで採るのは限界がある。それで細かいLPを量産し、ロングテールの求職者を拾い上げる。そうすることで求職者の属性も把握しやすい。どのような志向で仕事を探しているか分かり、職場側とのミスマッチを防げる。
紹介したスタッフの離職率を毎回取っている。紹介したスタッフが退職すると(クライアントに)返金しなければならないが、その返金率の推移を見ると、ロングテール戦略を取り始めてから非常に下がっている。今まではミスマッチが多かったのではないか。保育士と介護士は離職率が高い職種で、それをいかに下げられるかで、クライアント側の支持も得られる。
―部活動とICT指導員の民間委託が進むと見られるが、現状で競合は
今のところ、大きな競合はない。ICT支援員が注目されたのが1年前ぐらいからだ。いわゆるギガスクール構想の前倒しから起こった。コロナ禍が関連しており、学校の授業が一斉にリモートになった時にニーズが高まった。そこまで他社が大きく参入したとは聞いていない。実際には、競合は教育関係ではなく、大手の印刷会社や什器・備品の会社、OA機器のメーカーが、学校や自治体に入り込むためにICT支援員の入札やプロポーザルに参加するのがほとんどだ。
当社は人材会社なので自社で案件を獲得することもできるし、受注した企業に人材を提供する両方の側面がある。競合するが顧客になり得る。学習塾も同様で、競合するが、それぞれの学習塾に人材を供給しており、競合であり顧客である。
―ギガスクール構想といった制度は、どの程度続くか微妙な部分もあると考えられるが、不可逆的なものか
特需的なものはあるが、全自治体に行き渡ったかというとそんなことは全くなく、まだ入り口だ。入札で見ると、募集する自治体は多くない。今後ますます広がりを持つと同時に、全部広がった後は、その大きさのまま維持していくと見る。学校の先生に全て丸投げするのは難しい。今の若い教員が大多数になった時に変わる可能性はあるが、当面はマーケットになるのではないか。
―コロナ禍でトップラインが2ケタの伸びだが、中長期的な売上高と営業利益率の目標は
トップラインの成長率をできるだけ維持したい。利益に関しては、出店との兼ね合いが大きい。今期と前期は、コロナ禍で出店を控えたので、利益率の伸長に影響があった。今後、IPOで得た資金を投じて出店攻勢をかける計画があり、営業利益率は、今年ほどではないかもしれないが、支える分母が大きくなった。昔、塾が少なかった頃は、3教室の出店を既存の3教室で支えたこともあったが、裾野が広がっている。利益率を守りながらの出店が可能で、極力バランスを取りながら出店戦略を考える。
―教育と福祉のクロスセルは
非常に親和性が高い。塾が学童を経営することはあるし、教育と福祉サービスはスタッフの流動性がある。また、学習指導員が介護士になるのはよくある話なので、2つを手掛けることが重要となる。
―他社との差別化につながるのか
教育機関を自社で運営することも、顧客の安心感につながっている。
―株主還元は
いずれは株主に還元したいが、直近は成長に対する投資や内部留保に資金を割き、ある程度安定が見えた段階で配当を検討したい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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