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上場会見:YCPホールディングス<9257>の石田CEO、東南アジアのニーズを確実に

21日、YCPホールディングスが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(830円)を7.23%下回る770円を付け、650円で引けた。同社は、「マネジメントサービス事業」で越境型のM&AやDX(デジタルトランスフォーメーション)支援などを行い、自己勘定による「プリンシパル投資事業」(パーソナルケア、ペットケア、戦略投資領域)も手掛ける。海外と日本に17の拠点を持ち、シンガポールに本社を構える。石田裕樹CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

将来的には連結子会社化した出資先の上場なども目指すと話す石田CEO
将来的には連結子会社化した出資先の上場なども目指すと話す石田CEO

―本社がシンガポールだが、あえて日本市場に上場した理由は
当時は香港本社だったので、香港市場も検討したが、香港やシンガポールの市場は、どうしても取引高が大きくない。我々のようなマーケットキャップが1000億円を下回る会社にとっては、取引量が望めない市場であることが実態で、大きな会社でないと評価されることが難しい。

これまで、アジアの会社はNASDAQやロンドンのAIMに向かうことが多かったが、同じタイムゾーンでIRをやりたいし、シンガポールからニューヨークに毎回飛ぶのも非常に苦労する。今般東証がJDR(有価証券信託受益証券)という制度を整えたことには感謝している。今後アジアの会社がこの枠組みを使って東証に上場するケースは、パイプラインが相当増えていると聞いている。来年以降急速に広がっていくと、我々にとっても追い風になると非常に期待している。

―香港に拠点を持った理由は
重複するが日本でヤマトキャピタルパートナーズという名前で運営していたが、当初、yamato.comと調べると、中国語のサイトで尖閣諸島は中国のものだというサイトにつながることがあり、さすがにヤマトといってその子会社を中国でやるというのは辛いのではないかと。創業した時にそのようなことは想定していなかったので、「よく考えるとこの会社じゃアジアに行けないよね」ということで社名を改めた。会社のビジョンも当初は「日本が胸を張れる日本へ」と言っていたが、「日本のために張る胸はありません」と外国人に言われ始めたのが2012~2013年のことだった。

日本人で、日本に本社があって、中国やシンガポールでは子会社であることにすると、本当にアジアを牽引するファームはできないのではないかと思い、より国際色の豊かな香港やシンガポールに本社を置いた。そこから日本と中国、東南アジア、インドが兄弟分になるような資本やマネジメント構成を取った。強みはアジア・フォーカスということだ。EYコンサルやデロイト、日本ではローランドベルガーやATカーニーと競合する機会が増えている。もっと言えば、我々はマッキンゼーやベイン、ボストンコンサルティンググループの下のレイヤーにおり、東南アジアや中国では、我々にまだそこまでの実力はないなかで、いわゆる会計系の4大ファームと呼ばれるEYやPwC、KPMG、デロイトのコンサルティングチームと競合することが多くある。彼らは欧米フォーカスで売り上げが欧米向けで7割を占めるファームだ。

(YCPHDの場合)、例えば、フィリピンで今台風の被害があるが、我々の社員も影響を受けているなか、フィリピンのメンバーに「大丈夫?」と私が声を掛けられる、または、ミャンマーでクーデターが起こった時には、電話をして、「タイで皆の分のビザを取るからいったんタイにおいでよ」ということを非常にローカライズした形で支援できる。そうしたことが、アジアフォーカスのファームとして働いているプロフェッショナルに歓迎されていると思う。

私の年齢のような者が会社のトップであるため、風通しは隙間風だらけというぐらいに良いと思う。コロナ禍で今まで通りにはいかないが、従前は年に2回全てのオフィスを回って皆と飲み会をしながらどんなファームを作るのか議論してきた。上が若いと自分も、新卒で入り、30歳になる前にパートナー職になれるというのが、ほかのファームではエスカレーター式に15年ほどかかるがそこまでの期間が非常に短いことも魅力に感じている人も多い。

資本構成上、兄弟分であることは大事だが、私を含め日本人がマネジメント層に多いことも、アジア全域で評価されている。グローバルにダイバーシファイされたリーダーシップであることが絶対条件で、全ての社内コミュニケーションは英語で取っているが、アジア全域の人間が、YCPが自分のマイホームと思ってくれるようなカルチャーづくりが重要だと思う。アジアのなかで日本人は非常にリスペクトされていると日々生活して実感するので、アジアファームであって、マネジメントが日本から来て、シンガポールや香港に住み、香港や東南アジアがすごく好きなメンバーがトップマネジメントをしている。この辺りもファームにとっての強みとなっている。

―売り上げの構造上、事業会社なのか、それとも投資会社なのか。あるいはひと頃のドリームインキュベータのように、投資とコンサルティングと、実質的に事業子会社を持つようなイメージなのか。既上場企業のなかでどのようなものを思い浮かべればよいのか
端的に言えば事業会社であって、マネジメントサービス(コンサルティング)を提供するBtoBのサービス会社が本業だ。そのなかでは、PMO(Project Management Office)やインプリと呼ばれている現場に常駐して企業変革の実行を支援する会社という意味では、上場している会社では、マネジメントソリューションズや、より大きな規模ではベイカレント・コンサルティング(に近い)。ベイカレントはDXに寄った文脈で現場常駐で実行支援をする。我々はM&AやDX、クロスボーダー領域であり、顧客に常駐しながら企業変革の実行支援をするという点では、ドリームインキュベータはよりデューデリジェンスや戦略に特化しており、提供価値が少し違う。

一方で、投資もしているところは指摘の通りだが、ドリームインキュベータが得意とするのはベンチャーキャピタル投資をしており、多くの投資先がマイノリティの投資先と理解している。我々は基本的にはマジョリティを取り、連結子会社として事業を大きくする事業投資を行っており、投資テーマもだいぶ違う。我々は各事業が連結しているが、そういったものが大きくなって事業として羽ばたいていく時には、場合によって、IPOやトレードセールをしながらグループの外に出していく。

本業はあくまでもマネジメントサービスという企業変革を、プロ集団として顧客に提供していく。ただ、こればかりでなく、コンサルティング業界は離職率が非常に高い業界であるので、当社のメンバーがグループのなかで新しいチャレンジができるようにプリンシパル投資や自分たちで事業を作る機会を提供して、それが大きくキャピタルゲインになればいいと思う。そのような場で経験を積んだプロフェッショナルがマネジメントサービスに帰ってきて、顧客向けに高いレベルのサービスを提供するという人の循環をしていくための、グループ内のアクセラレーターとしての位置付けとしてプリンシパル投資に取り組んでいる。

―プリンシパル投資事業に関して、さまざまなビジネスの原型がプールされているとのことだが、アイデアとして出た当初からIRR30%の基準を満たすものはどのぐらいあるのか
リクルートに「New RING」という新規事業提案制度があるが、そういったものを勉強して「NewBiz」という形で年に2回取り組んでいる。半期に1回、毎回大体30個ぐらいのアイデアが集まってきて、それを10個ぐらいに絞って、検討チームを組成して半年~1年ぐらい検討する。10のなかで形になるのは1ぐらいで投資をする。3年ほどの投資期間のなかで、売上高100億円ほどの事業になるところを重点領域として取り上げていく。結果的に、今は2社が重点領域になっている。

戦略投資領域では、有望な6社に投資しており、そのなかの1つ2つが重点領域としてさらに大きくなっていけばと思う。年に10個ずつぐらい検討しているものが、年に1~2個が毎年戦略投資領域になって、1つひとつが大きくなっている。

―そうすると、展開によっては投資先の会社同士でシナジーがもたらされることがあれば、そのようなことにも積極的に取り組むのか
その通りだ。1番は本業のマネジメントサービスで、アジア全域に250人が在籍しているのが最大の資産だと思っている。例えば、「ALOBABY」という国産のベビースキンケアは、ベビーブームが来ている中国での展開を進めているが、そのコンサルティング部隊の中国チームがSOLIAという日本の会社を経営支援しながら、ALOBABYの中国向けの越境ECのビジネスを拡大したり、先月11日の「独身の日」のデジタルマーケティングを当社のコンサルティングチームが行ったりしている。そういったところでグループシナジーを活かしていきたい。

―海外のプロフェッショナルファームのM&Aも視野に入るというが、インドのどの点が魅力なのか、またプレゼンスを高める上で強みとなる点は何か
マネジメントサービスはYCPソリディアンスというブランドで提供している。ソリディアンスというのは、ソリディアンス・アジアパシフィックというシンガポールの100人ほどのファームを3年前に買収して、そのタイミングで、「YCPマネジメント」と呼んでいたマネジメントサービスのブランドをYCPソリディアンスに改めた。一緒に統合作業をして、ともにビジネスを展開し、東南アジアや中国での売り上げが、2017から2019年にかけて、飛躍的に大きくなった。

1つの成功体験であるので、同様に我々と同じような付加価値の高いアドバイザリーサービスや現場常駐型のマネジメントサービスを得意としているファームを今まさにリストアップしている。我々がソリディアンスを買収したことが、東南アジアやインドでも有名になっているので、先方から声を掛けてもらいYCPグループに入りたい、場合によっては彼らのチームをまとめて買い取ってくれないかという話し合いを受けることになっている。上場以降、そのようなものをしっかり活かして、ビジネス拡大に努めたい。

特にインドは、年率40~50%でコンサルティングビジネスが急速に立ち上がっている。同様に中国でも市場は大きいが、インドは日本企業のプレゼンスが非常に高い。野村総合研究所も積極的に投資している。

我々は日本においてもプレゼンスが相当にあると自負しているので、インドのコンサルティング業界で、YCPグループとして、マザーズに上場している日系フレーバーのファームとして、プレゼンスの高い日系企業の支援ニーズを拾っていきたい。

―今期見通しの売り上げのうち、マネジメントサービスとプリンシパル投資をざっくり分けるとどうなるのか
基本的にはマネジメントサービスのほうが大きい。直近でプリンシパル投資の投資先の事業が急速に拡大したので、今は半々ぐらいになりつつある。2020年12月期に3240万ドル、2021年12月期に3760万ドルがマネジメントサービスの業績だ。創業のビジネスであり、2011年の年間売り上げは800万円程度だったが、40億円ぐらいまで積み重なり、営業利益率25%で続いているのが本丸の本命だ。

一方で、プリンシパル投資も大きくなっているので、売り上げがぼやけて見えるというか、投資先の貢献も大きくなっている。

―マネジメントサービスで売上高40億円から100億円にするにはどのぐらいかかるのか。アジアで占める位置や競合状況と絡めて知りたい
マネジメントサービスはオーガニックに年間20%ほどで成長している。一方で我々がいま議論しているファームのサイズでは、10~20億円の売り上げがあるところがグループに入りたいと話している。我々としても1~2億円のファームの統合では、コストの方が大変なので、一定の規模のあるファームを仲間に招くことで、20%の自助努力の成長に加えて、10~20億円程度の非連続な成長を実現し、数年の範囲で100億円に至りたい。

コンサルティング市場は、アジアのなかで日本が最も成熟していることは変わらないと思う。日本での成長は大体10%にキャップされつつある状況のなかで、アジア、特に東南アジアやインドでは国によって若干の濃淡があるものの、ビジネスが40~50%程度成長している。インドネシアやベトナム、タイ、インドでは市場が非常に伸びており、取り組んでいきたい。パートナー職員の6割ほどが外国人だ。シンガポール人やインドネシア人、タイ人、ベトナム人がいる。彼らがローカルの会社を顧客とするよりも欧米の会社を担当し、日本人が日本企業にアジアのコンサルティングを販売することが市場として急速に拡大している。

マネジメントの顔ぶれをみてもらうと、アメリカ人やフランス人、ドイツ人、日本人がいて、そのようなリーダーシップが協力しながら、東南アジアで急速に伸びている欧米や日本企業のコンサルティングニーズを確実に拾っていきたい。

―調達資金は2事業のどちらに投じるのか
開示上はプリンシパル投資のほうが資金ニーズが分かりやすいため、そちらのほうで資金使途を組み立てているが、現状、投資先では自分たちで一定の利益を出すことができている。その利益を再投資しながらビジネスを拡大するという意味では、調達資金は相応の柔軟性を持って活用できる。本業のマネジメントサービスをいち早く売上高100億円、営業利益率25%を達成するために、例えば、インドや中国でのプロフェッショナルファームの買収にも取り組んでいきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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