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上場会見:トライト<9164>の笹井社長、医療の転職に一日の長

24日、トライトが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1200円を5.58%下回る1133円を付け、876円で引けた。医療福祉分野の人材紹介・派遣を手掛ける。約170万人の登録求職者のデータベースを持ち、7万件程度の施設と契約している。建設業界向け人材紹介・派遣サービスも展開。大株主のLIFE SCIENCE & DIGITAL HEALTHが4割ほどを売り出した。笹井英孝社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

全国にいる約1500人のキャリアアドバイザーの一気通貫のコンサルテーションで、初回の登録者コンタクトから平均約19日で内定につなげていると話す笹井社長
全国にいる約1500人のキャリアアドバイザーの一気通貫のコンサルテーションで、初回の登録者コンタクトから平均約19日で内定につなげていると話す笹井社長

―初値の評価は
真摯に受けとめるべきだろう。ただ、これから長いジャーニーがスタートしたところであり、1日の株価で一喜一憂するようなものでもないので、丁寧に時間をかけてちゃんと事業をやっていくことが我々に課されたミッションなので、そういう捉え方をしている。

―2004年に創業して、具体的に上場を意識したのはいつか
私は2019年10月の入社だが、その辺りで株主が変わり議論を進めてきた。

―2019年に来て状況を見て上場という方法がベストの道だったのか
そうだ。

―株主の話のなかでそのチョイスがベストだった
そうだ。

―上場までに平均3~5年かかるところ、かなり早いペースで上場したのは、以前に経験などがあったのか。
2004年に創業した会社で、2019年の段階で強みと弱みがあるわけだが、ある部分はすごく良い会社で、例えば、成長力という観点からは特に疑いの余地のない会社だった。一方で、準備しなければいけないものがあったが、スタートアップではないので、時間は短縮できるだろう考えた。

急いだわけではないが、認知度が上がるなど上場のメリットから、なるべく早く上場したほうが良いと考えた。こういう市場環境なので、理想的に最速ではないが、なるべく早くやろうということで、いい時間軸で上場できたと思う。

―グロース市場では、主幹事側、審査側のいずれでも、成長性の評価がポイントだが、そのなかでよく指摘されるのが管理体制の不備だ。2004年から会社としてはきちんとやってきたので、その部分はあまり心配がなかったのか
成長性か内部の管理かと大きく2つに分けると、成長性が先行した会社だ。内部の管理は多少遅れていた会社なので、横にいる井上卓暁CFOが中心となって、内部管理体制をきちんと整えてきたと理解してもらいたい。

―株式の売り出しだけだったのはなぜか
公募をしなかったことに関しては、さっきも話があったようにフリー・キャッシュフローが割と潤沢な会社なので、必要な投資はそれで賄えばいいとして、あえて新規のお金を調達しない判断をした。

―コロナ禍の影響と、アフターコロナに入った今の戦略は
コロナは我々のみならず多くの人材業界とって非常に厳しいものだった。特に2020年5月の最初の緊急事態宣言が出た頃は、病院や介護施設が完全に採用を止めたこともあり、影響はあった。より長く影響が出たのは、求職者のマインドセットのようなところだった。

介護業界は有資格ではない人もけっこう働いていて、例えば、飲食や運輸などの業界から入る人も多い。そのなかでコロナのリスクが高いと躊躇した人も多かったのではないか。我々の見方でいうと、少しアクティブではなくなった。

いわゆる2類から5類になったところからずいぶん変わってきたという印象を持っている。人の動きも少しアクティブになってきたような気がする。介護業界から逆に飲食業界に移る人が増えてきた半面、逆も増えてきて、少しアクティブになってきた。

医療の業界は割と早く正常化したので、5類への移行前に、例えば、看護師の転職は早く正常化した。

―全体的に各業界で人材が不足するなか、高品質な人材確保のノウハウは
人材といっても、ほとんどの人が介護を除けば、国家資格保有者が看護師や介護士、保育士である人が多いので、一般の企業とは違う面がある。我々は求職者と接点を持ち、キャリアアドバイザーが会話し、最適な転職先を探すのが最も大事だ。例えばマーケティングのやり方も、今でいうと当たり前のようにAIを使って効果的な案内ができるとか、プロモーションができることを常に模索しており、そういった部分ではおそらくほかの企業に比べて一日の長があるのではないか。

―投資家はエス・エム・エス<2175>を競合と見ているようだ。同社には介護ソフト・介護システムの「カイポケ」があるが、トライトにはそのようなものがないという意見がある。ICT関連の戦略をもう少し詳しく聞きたい。
エス・エム・エスは、医療福祉系の人材紹介業では我々と1、2位を争っている会社で、歴史も彼らのほうが長いので、非常に素晴らしい会社だと思っている。エス・エム・エスがカイポケという形で、10年以上前から新しい事業に取り組んでいることが、おそらく市場では高く評価されていると見ている。

我々は、遅れてのスタートだが、ICTは1つのツールでしかないが、それによって人材不足を解消する、あるいは生産性向上を推進する。そういった事業を始めており、コロナ禍において介護や医療業界では、今までになかったぐらい、ITやICTに対する取り組みが前向きになった。そういったタイミングも含めて、我々も非常に伸びしろの大きい会社なのではないか。

必ずしもその分野においてはエス・エム・エスと競合することではないだろうが、同じ業界にいる素晴らしい会社だと認識している。我々もそれに伍していける、あるいはそれ以上の企業になるものを持っている。

―EBITDA有利子負債率を5倍から2倍程度に下げていくとのことだが、その辺りは普通通り運営していけば特に問題なくクリアできるものか。何か重視するポイントや施策はあるか
井上卓暁CFO:先程話した通り、我々はフリー・キャッシュフローの創出力が非常に強い会社だ。創出されるフリー・キャッシュフローによって純有利子負債は縮小していくと想定しており、今後の事業の成長によりEBITDAも増加していく。我々としては、今回掲げている3倍未満の倍率に向けて事業を運営しいく。

―建設技術者派遣の今後の位置付けは。医療系の事業が膨らんでくると、例えば、カーブアウトする可能性があるのか。具体的なものでなくとも方向性を聞きたい。
笹井社長:創業でもあり、順調に成長してきた企業の事業でもある。一方、医療福祉とは状況が多少違うが、建設業界での人不足も相当なものなので、そういう環境で、建設業界の顧客から期待されるところも非常に大きくなっている。確かに医療福祉にフォーカスをする方向性ではあるが、そこも我々にとって非常に大事な事業であるため、大切に成長させていきたい。

―医療系と建設系のシナジーはあるのか
大きなシナジーというかびっくりするようなシナジーは特には見られない。例えば、建設業界の人が介護施設や病院を作ること多いので、そういうところでということはなくはない。ただ、大きく見るとそこまで大きなものではない。

―大株主は現時点で何%保有していて、今後の関係性はどうなるのか
井上CFO:今回で46%放出しており、現時点で54%保有している。

―今後、持株比率をどのように下げていくのか。
笹井社長:一般論に近くなるが、ファンドなのでどこかでエグジットしなければならない。数年かけてエグジットしていくのが割と一般的なストーリーなのではないか。

―マーケットで売っていく感じか。ブロックトレードでということもあり得るのか
この辺りちょっと我々には分からないので、コメントできない。

―事業上、大株主と取り引きは。
ない。

―株主のコタエル信託だが、いろいろと(国税庁との)認識の違いというか何というか。これについて会社側として対処することは
井上CFO:コタエル信託の今回の話は、我々にとっては財務影響がない状態なので、会社としては想定外の事象は発生していない状態だ。

―会社側が、税金が増える分を負担するとか、あるいはコタエル信託に対して、話が違うということで何らかの賠償を求めることをあり得るのか
現時点で決まってはいないが、先ほど言った通り会社側の財務影響が出ていない状態なので、そういったアクションにはならないのではないか。

―過去に遡って手数料は払っているのか。それは軽微なものか
当初聞いた話と違うという意味か。

―コタエル信託に、何か手数料的なものを払っているのは会社なのか、従業員なのか。現時点では一切発生していないのか
私もすぐにぱっと出てこなくて申し訳ないが、いずれにせよ大きな影響は出ていない状態だ。

―プライム上場の見通しは
笹井社長:まだグロースに上場したばかりの今日が初日なので、それを語るには少し早い。これだけの規模で、いろいろな選択肢が増えるので、決して考えないというわけではない。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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