10日、フレクトが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(2550円)の2.27倍である5810円を13時59分に付け、6810円で引けた。同社は、企業の「攻めのDX(デジタルトランスフォーメーション)」を、企画から開発、運用まで一気通貫で行う「クラウドインテグレーション(CI)サービス」を手掛ける。黒川幸治CEOが13時30分に東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値が付いておらず高い期待があるが、感想は
高い期待の表れと思っている。厳粛に受け止めて、期待に応えられるよう事業に邁進していきたい。
―「本質的なDX」や「攻めのDX(新しい顧客体験や価値の創出で、収益や顧客エンゲージメントを向上させるDX)」を訴求する企業が、最近多く上場しているが、意識している競合はあるのか
競合先は、DXの品目によって変わる。例えば、IoTを作る時にはオプティムと、AIサービスを作る時にはプレインパッドと競合する。複合的にカバーする会社が少ない故にユニークさをPRしている。
アクセンチュアやデロイト トーマツ コンサルティングのような大手コンサルティングファームは複合的な領域を手掛けている。ただ、彼らはコンサルテーションがビジネスのメイン領域で、エンジニアリングやものづくりのリソースはカバーしていないので、当社は競合でもあり技術面のパートナーとして協働関係にもある。
「攻めのDX」のマーケットにどういう会社が入ってきて脅威となり得るかという話では、これまで品質の高い基幹システムを手掛け、「守りのDX」(既存業務の効率化)を 回していた会社が、AIやテクノロジーを使って新しい顧客体験を設計することは難しい。求められるスキル要素が違い、壁が高い。
ただ、BtoC系を手掛けていた会社がBtoBに入ってくる、中小企業の攻めのDXを担っていた会社が大手向けに入ってくる脅威は高いと見ている。例えば、Sun Asteriskは、今は中小が8割で大手が2割だが、今後リソースを拡大するなかで大手の比率が増えてくるようなことは当然ある。また、いわゆるUI/UXといった画面のデザインにとどまっているグッドパッチのような会社がエンジニアリングの会社を買収していくと、当社と領域が被ってくることもあり得る。
―新規事業の「Cariot(キャリオット)サービス」は、車両の位置情報などを取得するが、現状ではあくまでも動態管理なのか。それとも道路の混雑状況など周辺環境の情報を取り込むことが可能なのか。また、今後そのようなことをプロダクトに取り入れる可能性があるのか
現状は、いわゆるアナログな車に対して、車載デバイスやドライバーのスマートフォンアプリの操作によって車の動態管理ができるにとどまっている。それ以外のシステムとのデータ連携は現時点ではできていない。
ただ、Cariot はクラウドベースで作っているため、API(Application Programming Interface)というWEBやクラウドサービスをつなげる入口を用意している。ほかのシステムやサービスとの連携、例えば、緊急の天災などの情報を伝えるJアラートというシステムなどとつなげて広げていく可能性はある。
―KPIは月次契約顧客数と月次平均売上高(ARPA)だが、当面の目標は
2023年3月期以降は、3ヵ年で売上高CAGR(年平均成長率)を30%にしたい。そのなかで、契約顧客数の増加は15%で年間5~6社ほど、ARPA(1アカウントあたりの平均売上高)も15%増で、合計30%を目指していく。
― CIとCariotの売り上げ比率が9対1だが、上場後も同様の比率がしばらく続くのか
Cariotがインキュベーションのフェーズにあるので、高い成長の目標を据えかねているのが実態だ。3ヵ年で売上高CAGR30%増だが、3ヵ年のなかでは、両事業の比率は、そのまま9対1を維持していく見立てだ。
―成長戦略について、既存サービスに次ぐものを研究開発によって生み出すのか
研究開発のサイクルで付加価値を生み出すなかで、Cariotもそこから派生した新規事業だ。CIは、顧客ごとにカスタムするビジネスだが、これを共通する課題に対してはパッケージとして提供したほうが良いとなった場合には、第2、第3の新規事業としてチャレンジしていきたい。
―研究開発を進めるなかでニーズが高いものをパッケージ化していくが、どのぐらいのフェーズになったら事業化するのか
Cariotへの投資が続いており、年間でおよそ1億5000万~2億円ほどの赤字を出している。今期はそれも含めて売り上げがカバーして利益を出している。今後も投資は継続し、それに加えてということになると、Cariotの成長の具合を見ながら判断したい。時期は未定だが、早くて2~3年先のタイミングだ。
―調達した資金を人材獲得や教育に充てるが、IT人材不足のなかで、優秀な人材をどう確保するのか
当社は、ほとんどエンジニアを中心とした職種となっており、エンジニアが10年後のマーケットで活躍できるキャリアアップの機会提供を魅力としている。具体的には、クラウドの経験がつくという面では、Salesforceしか扱っていない会社では、キャリアとしてはそれしか身につかない。当社はマルチクラウドなので、Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureも経験できる。こうした形でキャリアが広がる。
また、IoTやAIといった先端テクノロジーの大手企業の実践の場があるので、そこでのキャリアアップがある。それ以外にも、当社は開発だけではなく、サービスの企画や立案、要件定義といわれる顧客との折衝も、エンジニアが対応する。上流から下流までワンストップで提供することでのキャリアアップの提供を、エンジニアに魅力付けして労働市場に訴求している。
―手取金でどう強化するのか
採用、エージェントに対する費用に投資し、獲得した人材の人件費に充てる。
―現在の自己資本比率が23.1%とのことだが、今後どの程度まで引き上げていくのか
今回の資金調達で40%台後半の数字になる。その割合が安定ラインと考えていて、そこからさらに高めることは、今のところ考えていない。
―M&Aやアライアンスの方向性は
M&Aに関しては、CIの需要は旺盛だが供給面は、経営の重要なテーマと考えている。採用・教育に非常に力を入れていくなかで、M&Aも1つの下地として、具体的なものはないが、来期のなかではプランニングは、しっかりしていきたい。前向きに考えている。
アライアンス先は、主にグローバルで活躍するクラウドプラットフォーマーになる。Salesforceがいろいろなクラウドを吸収しており、最近ではSlackというコミュニティーのツールが入った。Salesforceのビジネス動向には追従していきたい。
また、IDaaS(ID as a Services)というIDの統合認証基盤のニーズは今後高くなると見ているため、海外のクラウドプラットフォーマーのAuth0という会社とパートナーシップを含めた実績を深めている。
―ベンチャーキャピタルが入ったことで成長の追い風になったことは
Salesforce Venturesから出資を受けたのは2015年で、彼らはコーポレート・ベンチャーキャピタルとして、出資先とビジネスと投資の関係を一致させることはなく、便宜を図ることは一切ない。資金が入ったからといってプラスがあったわけではない。彼らは先進的なクラウドやSaaSビジネスの情報ネットークを豊富に持っているので、そうした知見をフィードバックしてもらえるのは非常に有意義だった。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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