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上場会見:ネットプロテクションズホールディングス<7383>の柴田社長、安全・簡単に後払い

15日、ネットプロテクションズホールディングスが東証1部に上場した。初値は公開価格(1450円)をおよそ5%下回る1378円を付け、1390円で引けた。同社は、後払い(BNPL=Buy Now Pay Later)決済サービス「NP後払い」などを運営し、2000年からBNPLサービスを手掛けている。柴田紳社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

後払いが、家事代行サービスなどにも広がっていると話す柴田社長
後払いが、家事代行サービスなどにも広がっていると話す柴田社長

―初値が公開価格を下回った
市場からの声だと考えて真摯に受け止め、事業に邁進していきたい。

―公開価格が割れたことへの感想と、目標株価や時価総額などは
渡邉一治CFO:株価自体に一喜一憂したくない。2026年に取扱高1兆6000億円を目指すというように長期的なレンジで経営を考えており、そこまでに実績を積み上げていけたら自ずと株価も付いてきてくれるだろう。今日の初値がどうのという形で株価を心配したくない。目標株価も特に置いていない。

■内外のBNPL
―BNPLという言葉が一般の人に馴染み出したのはごく最近のことだが、なぜ今注目されているのか
柴田社長:当社もBNPLと言い出したのは、この1年ぐらいで、それまで、後払いで通してきた。海外でクラーナやアフターペイ、アファームといったプレーヤーが非常に伸びてきて知名度が上がり、それが日本に輸入されたからだろう。

―PayPal HoldingsがPaidyを買収したように、外国の大手の参入への対応は。また、PayPal側から提携や買収のアクションはあったのか
クラーナやアフターペイといったプレーヤーの強みは分割払いだ。特に多いのは4回の分割払いで金利がかからないことによって、クレジットカードの分割市場をうまく刈り取っていく存在だと思う。

日本ではそもそも分割払いのニーズが非常に小さいので、彼らが刈り取るべき強みを発揮できるマーケットがあまり存在しないのではないか。そうすると、入ってきたとしても加盟店獲得をゼロからやっていかなければならず、かなりハードルが高いと見ている。あるかないかでは、あるかもしれないが、それが非常に脅威かというとそこまでではない。

PayPalから(の提案)は、親会社にアドバンテッジパートナーズ(AP)がいたので、そこではあったかもしれないが、そこは分からない。

渡邉CFO:日本で分割払いのニーズがないというのは、米国ではリボ払いが54.7%だが、日本ではまだ7.8%しかない。日本ではそういうニーズが低いだろう。

―海外とは、BNPLを求めるユーザーのニーズが違うが、日本市場では今後どう成長していくのか。例えば、クレジットカードとの関連ではどうか

柴田社長:明らかに米国や欧州、豪州と同じような成長の仕方はない。クレジットカードの分割市場を奪い取って成長するにしても、その分割市場が非常に小さいので、その形での成長はない。

一方で、当社が日本で20年間ずっと見てやってきており、日本でBNPLを進めるうえでこの戦略を取っている。BtoBやアナログなサービス領域でDX化を進め、EC領域で最先端のデジタルサービスを推し進めることだと思う。

海外のBNPLプレーヤーが金融寄りであるのに対し、当社は、日本が分割払いを全く行っていないこともあって、完全に決済に特化している。安全に簡単に取引できる価値を追求している会社で、日本ではそれが大事なのではないか。

渡邉CFO:なぜ日本で後払いが使われているかというと、カード情報の漏洩や不正利用の心配がないということと、商品を見てから支払えることが主に大きい。カードの不正利用に対する問題意識が高くなっている。カードを使いたくない顧客が一定数いる。最近はコロナ禍で、今まで実店舗しか運営していなかった会社がECをやり始めたりしている。Amazonから買うには心配がないが、今まで通販を手掛けてこなかった小さな店舗から買うのは心配だ。物を見てから払うことができ、需要が大きい。ここに敏感に反応するのは、30~50歳代の女性であり、そういったことも作用していると見ている。

―BNPLは、海外では若い人が使っているイメージが強い。発行体はユーザー層が幅広いが、20年の実績による特徴か、それとも日本だと幅広いのか
柴田社長:海外はクレジットカードの分割払いのニーズを奪い取っているのと、もう1つ大きな理由がある。例えば、米国などでは、20歳代の人がクレジットカードを申し込むと半分以上落ちる。なかなかカードを発行できないという話を聞いている。そもそもマーケットがかなり空いていたのではないか。

日本については、安全性を求めて女性が使うこともある。2000年からECが勃興しているが、その前はカタログ通販が非常に盛んだった。ニッセンやセシール、千寿会といった通販企業は、自社で後払いをやっていた。荷物に請求書が入っていて、それをコンビニなどで払うというシェアが6割ほどだった。カタログ通販を利用していた女性にとっては、通販と言えば後払いが当たり前という感覚や印象があったのではないか。ECでも同様に後払いが好まれているかもしれない。

―国内ではLINEやメルカリが競合か
メルペイのスマート払いなどが近しいと思うが、営業の現場ではほとんどぶつかっていない。メルカリのなかで使う分にはいいが、プラットフォーマーの色が付いていることによって、ヤフーや楽天などほかのプラットフォーマーで使われることはほぼないと見る。限定的にはぶつかり得るサービスではないか。

■集金をデジタル化
―BtoB、BtoCでともにデジタル化が進むが、デジタル領域でどのような形で強みを発揮できるのか。特に「atone(アトネ)」(BtoCの会員制決済サービス)の領域では
成長戦略に関して2way的な考え方を持っている。BtoBやBtoCでも家事代行などのサービス領域ではアナログな集金や回収がなされていることが多いので、当社のサービスで代替していく部分は長期的にずっと伸びるのではないか。いわゆるDX化のような世界だ。ここは着実にしっかりやっていきたい。

もう1つは、特にBtoCでデジタルの最先端のサービスがatoneだと考えている。今、加盟店が増えつつあることと、当社の最強の資産の1つであるNP後払いの7万6000の加盟店網とatoneを一緒に使ってもらえるように、統合インターフェイスを作っている。来年春にリリース予定だ。インターフェイスで加盟店と接続すると、NP後払いとatoneを同時に利用できる。これが戦略の柱になる。

■与信審査の特徴
―個人情報を取らずに約97%の与信通過率と0.6%未満の未払率を実現している背景は
理由は大きく3つある。これまで20年取り組んできて、データも3億件を超えている。長い歴史で膨大なデータの量が強みになっている。2つ目は、当社の取引の8~9割はリピーターで、過去の支払履歴があれば、与信は通りやすく、支払いもされやすい。3つ目は、20年間、システムで可否を判断するだけでなく、最後に目視審査をするチームを置いている。精度を上げるべくしっかりウォッチしており、ここで発見したいろいろな気付きは、システム開発にフィードバックしている。一見無駄に思えるこのサイクルを回し続けているのはおそらく当社だけだ。

―それはPaidyに対しても強みと言えるのか
先方のやり方は分からないが、同じ手法を取るのは難しく、異なる強みと思う。

―未払率の内訳は貸し倒れたものか
18ヵ月後の未回収率で、そのタイミングで貸し倒れ損失に計上しているので、損失額だ。

―そうするとそれまでに払ってもらえる場合には、遅延損害金のようなものは収受するのか
一部取っているが、ほとんど取っていない。

渡邉CFO:遅延損害金ではなく遅延事務手数料を受け取る形になっている。

柴田社長:延滞事務手数料をatoneの場合には一部もらっているが、NP後払いと掛け払いではもらっていない。

―事務手数料がPLに与えるインパクトはそれほどないということか
柴田社長:今はない。

渡邉CFO:ちなみに、海外のBNPL企業では、遅延の部分に非常に大きい金利をかけて、そちらで儲けてるのではないかという非難を受けているところもあるようだ。

■投資の方向性
―20年の歴史で、右肩上がりで成長を続け、生き残れた要因となる強みは
柴田社長:最近のスタートアップがお金をドーンと調達して、ドーンと燃やしてというやり方を全く取れなかったので、知恵を使ってお金を使わずとも伸ばしていける方法を探ってきて実行してきた。例えば、これまでの後払いでは、お金をかけずとも何らかのルートでショップと接触して、後払いを導入してもらえれば、そこでユーザーとしても増える。お金を掛けずとも進めることができていたので、それでどうにかここまではたどり着けた。一方で、今後、BtoBやatoneをさらに伸ばしていくことは、お金を使えればさらに加速できると思っているので、投資をしていきたい。

―最近のフィンテック企業のように、マーケティング費用をドーンと使ってユーザーを獲得することはやってこなかったのか
全くやってきていない。コンシューマー向けマーケティングをしたことは、ほぼゼロだ。世界中のBNPLプレーヤーでもうちだけかもしれない。

■実店舗での戦略
―今後の実店舗での成長は
atoneでアプリにQRコードを表示して実店舗でも使えるようになってきている。加盟店も増えており、ユーザーも増えつつあるが、なぜPayPayなどほかのアプリではなくatoneを使うのか、明確な理由は完全に分かっていない。ただ、事前のチャージもなく、ECで使っている人が簡単にリアルでも使ってもらえていると想像している。

―店舗にとってのメリットは何か。キャッシュレス決済では端末を導入し、手数料がかかるが、ほかの決済との違いは
加盟店から見ると現時点ではほかのQR系の決済と差はないかもしれない。多少手数料が安いQR決済という見方になるかもしれない。

―小売店のハウスアプリで、ファミリマートが自社アプリに後払いの機能を付けていたりするが、リテールのハウスアプリにホワイトラベルのような形で後払いサービスを提供する計画はあるのか
いくつか話が来ているので、その可能性は非常に大きい。atoneは、ブランドを含めて、必ず前面から出なければならないサービスではないので、前面にも出るし、後ろに入ってサービス提供することもある。

―スマホで決済する若い人が増えている状況で、20~30歳代の人向けの具体的なアプローチはあるのか
当社の決済が一番分かりやすいのは、どこかのショップで使えるようになると、そのユーザーが一部で使ってくれるようになる。若い人が使うサイトへの導入を進める。そこが最重要戦略となる。そういった案件が増えており、加速させたい。

―BtoBで、アナログ的な領域をDXのような形で変えると、利益や市場が取れるのではないかということだが、どの程度の売り上げ比率に変えていきたいのか
中期経営計画でBtoBとBtoCを分けて表示したが、2026年で25~30%の間で構成比が上がっていくと期待している。

―海外の事例では後払いの決済を使い過ぎることがあるが、現状では利用者の8割がリピーターということで、新規加入する利用者が増えるが、対策は
払えなくなると当社は金銭的なダメージを受けるので、使い過ぎないようにし、きちんと払ってもらえるようにするのはお互いにメリットがある。若い人では、より上の年齢の人よりも未払率が高く出やすい。今でも一部で始めているが、例えば、初回から数回の利用時には上限金額を絞る。ビジネス的にも倫理的にもそのような取り組みが必要だろう。

■業績の見通し
―業績がマクロの経済環境の影響を受けるとしつつ、現状で経済環境は回復しているとのことだが、今後の定量的な業績目標は
これまではマクロにはそれほど影響を受けなかったが、今回のコロナ禍では、社会全体に影響が及んでいるので、影響は一部で受けた。

渡邉CFO:2022年3月期の営業収益は193億円、営業利益は7億3800万円という形で出している。調整後EBITDAという指標は29億6400万円。調整後というのは、通常のEBITDAのほかに、プロモーションの費用を足し返したものになっている。営業収益は昨年に比べて6.7%の成長で、調整後EBITDAは7.1%伸びている。

―今後の成長については、現時点での開示は難しいのか
中期計画をプレスで出しており、2026年3月期で取扱高を1兆2000~6000億円まで増すことを目標にしている(2021年3月期は全社で4000億円)。

BtoBのほうが伸び率が高いと想定する。年平均成長率が33~42%で、BtoCが20~25%となる。調整後EBITDAマージンは20~25%を計画としている。

■ボトムアップ型組織
―ティール型組織を採用するメリットは
柴田社長:通常の組織とだいぶ異なる。まず役職がない。社内で誰が偉いというのがなく、上司・部下という言葉も存在しない。私や会社にあまり人事権がなく、配属や部署異動もメンバーが全て決めていい。個々人が自分のオーナーとしてやりたいことをやる一方で、一生懸命頑張ってくれる。メリットとしては、モチベーションが本質的に高い若手がたくさんいる。台湾進出やNP後払いサービス領域への進出も、若手が推進してきたので、ビジネスがボトムアップで生まれてきている。若手が幸福そうなので、その意味ではこの組織である価値はすごく大きい。例えば、毎年新卒で30人程度が入社してくれるが、3年経って退職している人は1~2人なので定着率は抜群に高い。

―いつ頃から導入したのか
一生懸命いい組織を作ろうと思ってやってきたら、ティール組織という言葉が出てきて、その本を読んでみたら、在り方が非常に似ていたので、その名前を借りている。前から良い組織にしたいと思っていたが、2012~2013年に1年かけて全員で議論して会社をより良くしようとスタートしたので、その後に仕組みができあがった。

渡邉CFO:若手にどんどん任せているので、成長機会が与えられており、成長スピードは速い。そうするとそういう組織に惹かれて自己実現したい優秀な若者が集まってきてくれるので良い状態になっている。

■海外戦略
―台湾へ進出した理由は。中国本土に対して今後アクションを起こす可能性はあるのか
柴田社長:台湾は足元で順調に伸びていて、非常にうまくいきそうだと思っている。地理的には近く、親日というか日本人としては進出しやすいところもある。経済の成熟度も高く、ECもかなり育っている。その意味でも入りやすく、一歩目として台湾を選んだ。

中国本土に関しては、商習慣がさらに異なってくるし、法的な部分を含めると、特に決済の部分はハードルがかなり高そうだと思っており、慎重に見ていくことになる。

―そうすると、むしろ東南アジアのほうが入りやすいのか
東南アジアは今後伸びが大きく、既にBNPLで支配的なプレーヤーがいるわけでもない。入っていきやすいというか、入っていきたいところになってくる。

■株主の関わり方
―株主にAPがいたことでどのようなメリットがあったのか、今後の保有は
2016年の夏に当社が買収され、それ以降営業上の協力や、当社のトップティアの加盟店はアドバンテッジから紹介があったので、非常にありがたかった。

あとは人材の採用だ。スクウェア・エニックス・ホールディングスのCFOだった渡邉CFOが加わってくれたが、AP経由の紹介だった。営業の協力や人材の紹介、金融機関との交渉などで非常に助けてもらった。

渡邉CFO:上場時に売り出し、約20%を継続保有している。360日のロックアップで1年間売らない。この会社はまだまだ伸びる、そこまで持ってエグジットを考える。スポンサーとして、この会社は良い会社であると宣言してもらったのと同じだ。ファンドの性格はPEファンドであり、いつかはエグジットすると理解している。

―株主還元は
柴田社長:いずれ還元をしっかり検討していきたいが、今は成長余地が非常に大きいので、投資に回して企業価値を上げていき、それによって貢献する。現段階ではそのように進めていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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