Synspectiveが2024年12月19日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の480円を53.33%上回る736円を付け、635円で引けた。マイクロ波を用い、天候に左右されずに地表の画像を撮影する小型SAR(Synthetic Aperture Radar=合成開口レーダー)衛星と関連システムを開発・製造する。複数の人工衛星を連携させて一体的に運用する「衛星コンステレーション」の構築と、解析技術を用いた衛星データの販売、それらに基づくソリューション提供を手掛ける。新井元行CEOと志藤篤CFOへのインタビューを今月19日に行い、上場や事業の現状、今後について聞いた。

■サステナビリティに衛星データ
―上場から2ヵ月が経過したが、株価の推移を含め、上場についてどのような感想を持っているのか
新井CEO:幹事証券会社や上場前後の投資家とのコミュニケーションを通じて、上場直後の株価の推移は、そう大きくばらつくこともなく良い感じで立ち上がったと思っている。
IR情報をいくつか適時に開示してきたが、マーケットはそういうものに対して非常に敏感に反応する。誤解がないように説明していかなければならないと感じている。
―上場に期待する効果について
2つある。1つ目はファイナンスの自由度の向上が狙いとしてあった。ハードウェアを使う宇宙産業は非常にお金がかかるので、ファイナンスの自由度をきちんと持っていく。需要が非常に大きいので、それに対してきちんと成果を出して応えるため、エクイティだけでなくデットも組み合わせたファイナンスなど、選択肢を持てることに期待している。
2つ目は、衛星のデータは今、安全保障の面でも注目されており、データが非常に機微な内容になってくる。得体の知れない会社がそういうものを扱っていると皆が心配する。ガバナンスをきっちりしている会社が、そういった情報を提供していることを見せることができるという効果も上場にはある。
「衛星のデータが使えるんだよ」ということをより広く知ってもらう。ガバナンスのほうはやらなければならないことだが、当社が取り組んでいるサステナビリティの面でも衛星データが貢献できる、持続可能な世の中を作るときに使えるといった点をより広く伝えていきたい。

志藤CFOは、宇宙産業では、足元の売上利益に確実なものがなく、ほかの事業に比べるとKPIや単価、顧客数がいくらという説明の仕方はなかなか難しいと思っている一方で、産業自体が物凄く伸びていて参入できるプレーヤーも限られている。この今の苦しいタイミングを抜けると、収益化もかなり強く見えてくるところではあると思う。投資家に理解してもらうことが非常に難しいが、この業務をやっている楽しさでもある、と話した。
■開発の進捗と投資家の関心
―IPOディールについて聞きたい。ローンチのタイミングと、売り出しを伴わない公募増資でのグローバルオファリングを選択した背景について
志藤CFO:事業の進捗が上場企業に相応しい段階まで来たとのでこのタイミングになった。具体的には、SAR衛星の基盤となる部分の開発が完了した。
収入面では、宇宙戦略基金という宇宙事業を政府がサポートする補助金が2024年度に始まり、採択されたことで、今後の開発、特に製造面の資金的なサポートが得られる。サービス開始は2026年からだが、防衛省から概算要求が提出されたことで、将来の収益見通しが立った。事業進捗が上場企業に相応しいものになっていた。
公募増資のみとしたのは、絶対的に資金調達額を確保したかったためだ。また、オファリングサイズを上げていくためには、北米の投資家にも入ってもらう必要があり、北米の投資家のほうが宇宙産業への理解が深く、上場後に時価総額を上げていくなかで、しっかりアピールして知ってもらうことが必要だと考えた。これらがグローバルオファリングとした背景だ。
―ロードショーやプライシングについて聞きたい。投資家の反応として、成長に関する高い蓋然性や、画像販売ビジネスに対する期待がかなり強かったが、インフォメーションミーティング(IM)でも同様の反応だったのか
新井CEO:蓋然性という点では、政府からの公表情報というパブリックの証跡のようなものが大きく影響していると思う。IMとロードショーでは、微妙なタイミングの違いがあり、IMの時はそこまでの反応ではなかった。
というのは、その前の年、防衛白書が出たぐらいのタイミングから、宇宙は注目されているというトレンドが投資家のなかであり、防衛と宇宙関連の動きは「何かしらあるだろうな」というのはIMの時でも理解を得られたと思う。それが具体的にどういう形で売り上げとして立っていくかという理解にまでは、なかなか行っていなかった。
ロードショーのタイミングまでは4ヵ月ぐらいあったが、その間に、防衛省の概算要求があり、宇宙戦略基金の話が順次オープンになっていった。そうなると日本政府をアンカーカスタマーとしたビジネスとして成立するし、補助金もかなり大きな額を期待できることが、投資家からも公開情報で分かるようになってきた。そこからは明確に反応が違った。
―投資家は、PSRやEV/SALES、今後予想されるPERなどいろいろな手法を使って公開価格を算定したが、発行体として振り返るとどのような指標での算定が妥当だったと考えるのか
志藤CFO:利益が出るタイミングが少し先になるので、PSRで見てほしいと投資家に訴えた。かつ、直近の売上高は、時価総額に見合うほどまだ大きくはないという認識なので、2026年や2027年辺りまでの売り上げの成長で評価してほしいと説明した。
―りそなアセットマネジメントが関心表明を出したが、投資家に対するアナウンス効果のようなものをどのように評価したのか
この金額だということを1社に表明してもらったことで、それに付いてきてくれた投資家は多くいたと思うので、そういった意味で効果は非常に大きかった。
■データドリブンな課題解決
―宇宙業界にはいろいろなタイプの産業があるが、なぜSAR衛星事業を選択したのか。共同創業者の白坂成功氏に招かれたというエピソードもあり、マネタイズや事業の継続性などいろいろな観点から吟味したと考えられるがどうか
新井CEO:個人的な創業の話とセットにはなるが、あまり衛星や宇宙産業に対してのこだわりはなかった。業界の括りとしては宇宙となっていて、今のAIとも近いかもしれないが、その技術を「何に適用するんだ」というところで、課題意識を持っている。
先程から何度か出てきているサステナビリティの実現という点で、世界の今のSDGsの進捗状況はひどいが、昨年の国連のレポートでも多分15%強しか達成できていない。あと5年しかないが本当は66%に到達していなければならない。そのなかで1番致命的なのが、データドリブンで、自発的にきちんとゴールを設定し、それを客観的なデータに基づいて追っていない。これが深刻な問題だと思っている。
それをある程度実現できる技術であれば、「何でも良かったかな」というのが7年前にイメージとしてはあった。そのなかでも衛星のコンステレーションで、しかも技術的に日本が優れていたのはSAR衛星だった。内閣府でこれを作っていくことになり、加えてプログラム自体が明確に災害対応という分かりやすい目的を持っていた。これが日本の深刻な課題として紐づいていて、絶対にやらなくてはならない、導入しなければならない技術だということが見えていた。
コマーシャライズの面でも、実現性が見えていて、しかも政府のサポートが非常に強かったので、この技術であればデータドリブンでのサステナビリティ実現という長期的な目標も達成でき、なおかつそのマーケットも存在する。
災害対策は世界的な問題であり、加えて森林のモニタリングなど、SAR衛星はほかにもいろいろ使える。最初にラフに市場調査した結果、最初の立ち上がりが非常にスムーズにいくだろうという点と、その後の拡張性を両方とも持っている技術として結論付けることができた。
■車の型まで分かる
―事業の強みについて。前提として、衛星の撮像能力に関し、「アジマス分解能25cmグラウンドレンジ分解能46cm」で国内最高水準の性能を持つとのことだが、この数値のすごさを分かりやすく説明してほしい
「広域性」というどの程度広く見えるかというものもあるが、解像度の仕組みから話す。この「何センチ」というものの3倍ぐらいの大きさのオブジェクトが何かということが分かる。例えば、1メートルの解像度では車のようなものが存在していることまでは分かるが、具体的にはその車が何かは分からない。
一方で、解像度25cmとなると、その車がどのような型かというところまで分かる。この辺りが、安全保障や災害といった最初にマーケットとして立ち上がる強い需要につながる。当社を含め世界で5社がSAR衛星を扱うが、皆まずは解像度のほうに注力している。
これが分かると例えば、どこかの軍港や基地などに配備されている戦闘機や戦車の種類までが分かる。災害の時にも、家屋がどういう壊れ方をしているのか、インフラがどう倒壊しているのかまで全部分かる。使い勝手としては十分で、これは多分、次の数年間はデファクトの基準になってくるのではないか。
―撮像データの提供のみならず、解析を内製化し、それに基づくソリューションを提供している。今後の画像データの供給増に伴う値崩れに対応するための高付加価値化の施策の一環だというが、それは今後の事業成長の面でどの程度のアドバンテージになり得るのか
リスクヘッジという意味では、それが今のポイントだが、長期的に見たときには、期待効果としては3つある。
1つ目は、民間のセクターが長期的には主流になっていくと見ている。今は政府をアンカーカスタマーとして、海外の政府等へ展開していく。政府は分析官を採用しているので、安全保障分野の人たちは(データを)ある程度読み取れる。ただ、民間セクターにはそんな人はいない。データをより広く普及させていくためには、ソリューションというサービス形態を取らないとそもそも開拓もできない。政府に数十億円ずつサービスを提供していくよりも、民間セクターで数千社を対象とすると、マーケットとしては大きくなる。そちらに行こうとするとソリューションが必要になる。
2つ目は、今の政府系に向けた事業はそれでいけるのかというと、値崩れのリスクもあるが、もっと言うと、コンステレーションになって衛星の数が増えるに伴って大量のデータが出回ることになる。分析官も今は手作業で分析しているが、手に負えなくなってくる。そうすると自動解析ツールを組み込んだ「ソリューションという形でサービス提供してくれ」というニーズが出始めている。
例えば、米国のNGA(National Geospatial-Intelligence Agency=国家地理空間情報局)という、衛星だけでなく地理空間情報を一手にマーケットから調達するミッションを持つ政府組織が行っている「国プロ」では、データ購入でなくサービス購入という形にシフトし始めている。これも世界的に普及していくだろうと考えていて、データの値崩れ以前に、もしかすると「解析した結果をサービスとして納めてくれ」ということが主になるかもしれず、それを先取りする。
3つ目はコンステレーションでどんどんデータの数が増えていき、データ生成・提供能力が高くなっていくと、単一の需要を持っている顧客や安全保障を扱う政府といった顧客の組み合わせだけだと、衛星コンステレーションの全部のキャパシティを使い切れない。
安全保障では、ホットスポットが大体決まっているわけで、皆そこには興味があるが、それ以外のキャパシティが無駄になってしまう。このため、全く違うニーズを持っている民間セクターを提供先にうまく組み込んでいかないと、データ利用の最大化、高収益化に繋がらない。
まずは安定的に各国政府の需要をカバーしていくところでもソリューションとして使えるし、その後民間のほうでぐっと伸ばしていく。しかもキャパシティを有効利用することで、長期的にはなくてはならないものにしていく。
■レーダーとSAR
―関連して、グローバルサウスにおける鉱山施設の観測で協業する話(2023年度補正「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」に係る間接補助事業者に決定)が出ている。海外の画像解析をする会社との提携にも触れているが、そうなると、解析のソリューションはSynspective内で完結せず、外部との協業で進めるものになるのか
顧客のタイプによるが、鉱山の事例では、鉱山のオペレーターは少し変わっていて、レーダーデータに慣れている。元々、地上設置型のレーダーを使って地質を把握し、露天掘りを行ってきた歴史があるので、レーダーエンジニアを抱えているのだが、「衛星のデータは全く分かりません」という側面がある。Insight Terraは、そういった顧客のオペレーションサイドのシステム導入支援をずっと行ってきた。いろいろな鉱山のオペレーターを既に顧客として持っているシステムインテグレーター(SI)だった。
SARデータを解析して例えば、テーリングダム(採掘した鉱石を分別する工程や製錬で発生した不用な鉱物を無害化処理した後に一旦貯留させ水分と固形分に分離し、固形分を堆積させる施設)のモニタリングを行うが、テーリングダムの歪みを検出するほどのレーダー解析能力は持っていない。そこまではSynspectiveがカバーして、そこから先、最後にマイニングオペレーターの人たちが実際の業務で使っているシステムの1機能ぐらいとして使ってもらえる形にカスタマイズする。
鉱山オペレーターの場合は、そのような形になるし、例えば森林のモニタリングでは、そもそもそういうプレーヤーがいない。コンサルティング会社もSIもいないので、そういう時は僕らが全部ある程度作る。サービスとしてのインターフェースがどこで切れるかという点では試行錯誤もあるのだが、鉱山や同じ文脈でのインフラのメンテナンスは、既に定着しているコンサルティング会社やSIと組んでいくと、今のようなプロジェクトになる。
―適材適所でいろいろなところと組んで、ソリューションを作りながら領域を開拓していくことになるのか
そうだ。けっこうな部分までSARの専門性を持っている会社がカバーしていかないと、マーケットへの普及はまだ進んでいかないのが今の状況だ。
■量産と収益化
―少し前に上場したQPS研究所<5595>がSynspectiveと国の補助金を分け合う関係にあると言われているが、そういった点や海外も含めて競合の認識について聞きたい
日本ではQPS研究所とSynspectiveだが、米国ではCapella SpaceとUmbra Lab、フィンランドにICEYEがある。データプロダクトの品質やサービス内容を見るとそれほど大差はない。技術的には違うアプローチをそれぞれ取っていて、SAR衛星とはいっても違う技術体系で作り上げているところがあるが、アウトプットとしてはそれほど変わらない。
そうなってくると、結局初期のコンステレーション形成をどれだけ無理なくできるか、要はファイナンスの問題をどうできるかという点と、量産技術の確立、その期間中に収益化できるかが課題となる。ビジネス化やコマーシャライズが勝負になるが、先ほど話したように防衛セクターと宇宙産業は非常に強く結びついているので、ここで地政学的なところを踏まえたアンカーカスタマーの存在が重要になってくる。
日本の場合は、日本のローカルの企業を扱っていきたい。特に安全保障関係で政府の思惑としてもあるだろうし、米国もそこは一緒だ。なるべくローカルの企業を使っていきたいだろうし、欧州はもう少し複雑で、NATOに行っていれば全部済むわけではないので、各国に対してアプローチしなければならない。
日米に関してはアンカーカスタマーが非常に明確であり、そこでローカルプレーヤーもあり、もっと言うと日本の政府は、米国の政府よりもかなり積極的にサポートをしていきたいというふうに舵を切っている。ここはSynspective とQPS研究所にとって事業環境としては、かなり恵まれた状況だ。
グローバルで見るとそのような構図になっていて、日本国内でQPS研究所とどう違うのかというと、アウトプットとしてはそう大差ないのかもしれないが、やはり量産体制の強化だ。工場を本格稼働していて、来年末までには12機体制ぐらいまでには持っていこうとしている。そういった進捗や、設備的なものだけでなく、きちんと採用してスキルトランスファーを行う。
量産を検討するために別産業のエンジニアも採用しており、そういった人たちのなかで衛星のエンジニアからのスキル移転や共通認識の構築を進めている。そこはかなり力を入れている。結果として安定稼働や衛星そのものの開発・製造といった今のプロセスと、運用面での安定性は中長期的には非常に効いてくる。ここは当社の差別化要因になるように力を入れていきたい。マーケットや事業環境はある程度共通化しており、そのなかで両社が伸びていくのだろうと思っている。
■いずれは半オープンに
―今後の業績の見通しについて。投資家は、業績やキャッシュフロー成長の蓋然性については、ほかの宇宙銘柄と比べてポジティブに見ていることが多かったが、Synspective側から訴求可能な点は何か
志藤CFO:需要側については、特に防衛省の予算が明確化してきたところで、その需要を確実に獲りに行ければ黒字化は見えてくると思うので、そうした点で、ほかの会社と違って確実性があると見られていると思うし、我々としてもそう考えている。
―今後の事業展開とそれに伴う資金計画や、事業や会社の将来像、希望や展望について。まず概観について聞きたい
新井CEO:短期・中期・長期で分けて話す。目先3年前後の短期的な視点では、安定した収益基盤の構築がある。コンステレーションと量産体制の構築をセットで、技術的に安定した品質のデータを提供できるところに持っていき、しかも需要があるので、そこにミートさせていくことが必要だ。基盤をきちんと作っていくことが短期的な目標になる。
その先、中期的な5年先ぐらいの目標では、日本政府だけでなくローカルパートナーと組んで海外政府に案件を広げていく。米国法人を作って米国で本格的に展開することも含めて。三菱電機とはアジアの安全保障という文脈でパートナーシップを組んでいるし、こういったところをうまく広げていきながら、30機以上のコンステレーション体制を目指していく。多分、十数機以上になってくると黒字化が視野に入ってくる。
そうすると、短期的には政府がアンカーカスタマーでもあり補助金の提供者、日本政府の資金でぐっと伸びていくこともあるのが、30機に到達する途中で自己投資が成立する。黒字化以降に自己投資が成立するようになると、安定した事業が確立されていく。基盤作りが短期で、中期的にはその拡大を達成する。
そこから先、長期的にはソリューションの出番となる。30機以上になってくるとデータキャパシティが非常に大きくなり、民間セクターに対しても安いデータに高付加価値を乗せてソリューションとして提供することが成立し始めてくる。ガーッと横展開していくというよりは、高収益化を目指していく。民間セクターでうまく広げて高収益化を目指すフェーズに入っていく。
そこまでいくと多分、世界の観測衛星のプレーヤーのなかでもかなり先行する立場になると見ている。M&Aなども視野に入っていくが、そのなかで事業拡張が次のステージに入っていく。そこまでは2030年から2035年の間というイメージだが、先程のサステナビリティや災害対応でのレジリエンスな社会インフラをどう作っていくかということにもなっていくと思う。
そこで必須の企業に、次の世代のための社会インフラのシステムの一部に当社がなっていくので、衛星のコンステレーションやソリューションの裏で回っている解析ツールのプラットフォームとの組み合わせで、それがだんだん国際機関やアカデミアでも使われていくようなデータもかなり溜まってくると思うので、徐々に半オープンになる形で貢献できるだろうし、重要な社会インフラの一角を担うことを将来像として考えている。
―データの供給増とソリューションの本格展開の辺りからが「長期」という目線か
パイロット的にソリューションの売り上げが立っていくと思うが、安全保障があまりにも大きいので、その売り上げと比べると、まだ成長途上というステージだと思う。本格的にソリューションが売り上げのメインストリームになってくるのは、長期的なものとなってくる。
■物流施設を工場に
―衛星の耐用年数は5年ほどとして、30機体制になっていくと、更新費用も無視できない。資金計画との関係ではどうか。黒字化すると自己投資で回していけるのか
中期以降になってくると、リプレース分の衛星や打ち上げロケットのコストもだいぶ下がっていくと思う。100%自己投資で賄えるかというと、マーケットの拡大の側面もあるが、ちょっとまだ分からない。そこは継続的に必要に応じてファイナンスを行う。
今、日本政府だけでなく海外政府からもいろいろな引き合いがあり、見込めるので、基本的には自己投資で成立するように、あとはアクセルを踏むためにリプレースだけでなく拡張もしていく形になる。
―少し前のプレスリリースで物流拠点を工場にすると発表していたが、既存の大型物流施設を活用する発想は、今後、恒常的に取り得るものなのか
定常的に1つの標準として見込めるだろう。今までの宇宙産業のなかだと「あり得ない」で片付けられてきた。高レベルのクリーンルームが必要とされてきたが、量産の専門家からすると、そこまでの水準は必要がなかった。あるいは最新設備を使ってガチガチのクリーンルームを組まなくても良い。
具体的な例では、埃がプロダクトに付着しなければ、部屋の全部を覆う必要はなく、空間除電というシステムがある。静電気で埃が付着することを防ぐことができれば、埃は付かずにパラパラと全部落ちる。あとはそれをきちんと処理しておけば部屋のなかは一定程度クリーンになる。クリーンルームでも結局一定の埃は入ってきてしまい。静電気があるのでむしろ付着してしまう。静電気を全部なくしたほうがそのリスクは減るという、割と目からウロコ的なものではある。量産で検討されている技術を産業セクターに持ち込んでくると、いろんな新しい標準ができていく。
逆に、物流拠点を使ったことによって、いくつもの製造拠点、例えば、セーレンや東京計器とパートナーでいろいろやるが、その物流はやりやすい。災害時にも生産を止めるわけにはいかないし、地震などで衛星が倒れてしまうことは問題だが、物流拠点はその点に関しては物凄く強靭にできているのでその心配はない。必要な技術要件を押さえていくと、そのような場所は選択肢として入ってくる。僕にとってもけっこう学びとして大きかった。
■商機と仲間
―米国法人の設立について、「こういったことを一番実現していきたい」ということは
数年前から検討を進めていたが、ここはステップ論として、まず売り上げがきちんと立つかどうか見通しができることが1つ目の条件だった。2つ目はローカルできちんと信頼できる仲間が見つかるかどうかだった。今回それは両方とも堅いだろうということで、設立に踏み切った。
売り上げの見通しについては、海外の政府に話を展開していくことを考えると、日米は非常に相性が良い。先方の政府とNGAが今進めているルノープロジェクトや、いくつかの調達プロジェクトで当社のデータを販売していく。当社側のキャパシティが増えてきて、そうしたコミュニケーションを取ってアプローチしていけば契約できそうだという見通しがあった。あとはNASAやそのほかの国の組織や団体とコミュニケーションをとったところ、そろそろ売り上げが立つだろうとなった。
また、米国のマーケットの場合、民間セクターを見るとインフラの老朽化という日本と共通の社会課題がある。ローカルパートナーも当然かなり充実している。そこまでの展開を見据えて事業を作っていける見込みがあったので、世界最大の市場でもあるし、ここはぜひやろうと見ていた。
2つ目の条件である信頼できる仲間については、米国のカンファレンスに出て、いろいろなパートナー企業とコミュニケーションを取るなかで、(Synspective USAの)Kumar Navulur CEOはサステナビリティに対しての課題意識が非常に近く、いつも「いつか一緒に仕事ができたらいいよね」という話をしていた経緯もあり、偶然彼がキャリアチェンジのポイントを迎えたので、そこで改めて一緒に行こうとなって条件が満たされ、米国法人を設立した。
―イーロン・マスク氏の動きと関連してNASAの職員たちが辞めているが、そういったことは人材獲得の関係で、Synspectiveへの影響はあり得るか
あり得る。今、米国法人の責任者であるKumar CEOのほかにも、現地で話しているアドバイザーたちも当然NASAの人たちとつながっているはずなので、声をかけてみようかと思う。
■強まるニーズ
―埼玉県越谷市の道路陥没や、ギリシャのサントリーニ島付近の海域での群発地震など、いろいろなところでSynspectiveの活躍の場所があると思う。また、例えば、地下水のシミュレーションや、地面や地中の動きなどいろいろな領域の変動を察知する機能を連動させて1つのソリューションとして扱うことは可能なのか
いきなり大風呂敷となってしまうので、ミニマムのアプリケーションから順次やっていくことになると思う。今の話に出たような件では、先程のインターフェースを使っての話などのように、既にパートナー企業と一緒に進めている。
SARデータの解析はできるが、実際にそれを災害対応でどう使っていくのか、陥没事故の予防や対策も含めて、どういうふうに展開していくのかは、業務をよく分かっている人たちや、実際の施工ができる人たちと議論していかなければ、ソリューションとしては成立しない。
その辺りは今までもポツポツやってきたが、最近では本当にニーズが強くなってきている。パートナー企業もかなり積極的にソリューションを作りにいこうと本腰が入っている。近いうちに有意なソリューションをきちんと市場に導入していきたい。準備や開発はずっとしていた。具体的に事件や事故が起きてしまうと注目されて必要とされるという部分もあるので、なるべく早く導入したい。いわゆるリーンスタートみたいな形態でゆくゆくはつながっていくと良い。
―衛星画像の用途として、投資用のオルタナティブデータがあったが、投資用のみならずマーケティング向けのデータ活用といった方向性はあり得るか
それもあると思う。有名なのが石油のストレージで、コモディティとは結びついているケースが分かりやすいと思う。そういう利用の仕方がこれからも増えていくと思う。あれは明確に投資家側で何を見たいのかとことに対し、説明ができるアプリケーションとして成立するので、コツコツと増やしていくことになる。
ただ、そういう意味だと、多分いくつかの衛星のデータを組み合わせていったほうが、説明能力は上がると思うし、そうでないと投資判断に使われるには、もう少し時間がかかると思う。
僕らも注目していろいろと研究開発レベルではやってはいるのだが、実際にそれが導入されて、トレーダーがガンガン使っていくまでには時間がかかると見ている。目的が明確であれば対処できるので、もしアイデアがある人がいれば声を掛けてもらいたい。
―今後の株主還元策について
志藤CFO:株主還元も重要な経営課題と捉えているのは当然だが、現状は損失計上しており、資金については投資に配分したいので、一定期間は株主にも理解してもらいたい。利益を計上して配当原資が確保できれば配当も考えていきたい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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