株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイト

上場会見:住信SBIネット銀行<7163>の円山社長、テック企業へ

29日、住信SBIネット銀行が東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1200円を1.83%上回る1222円を付け、1205円で引けた。住友信託銀行(現三井住友信託銀行)の子会社として1986年6月に設立。2006年4月にSBIグループが資本参加した。モバイルアプリやインターネット経由で個人・法人にフルバンキングサービスを提供する「デジタルバンク事業」と、提携先企業に銀行機能を提供する「BaaS(Banking as a Service)事業」を手掛ける。2022年2月に東証1部の上場承認を受けたが、市場動向を理由に中止していた。円山法昭社長が東京都内で上場会見を行った。

旧来の銀行の枠を超えて、その機能をパートナー企業に提供し、将来的には1to1マーケティングの実現も目指すと話す円山社長
旧来の銀行の枠を超えて、その機能をパートナー企業に提供し、将来的には1to1マーケティングの実現も目指すと話す円山社長

―初値の受け止めは
投資家からの評価なので、高いか低いかについてのコメントは差し控える。1つだけ言えるのは、この数週間から1ヵ月近くの間で米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻や、クレディ・スイスの経営問題など様々な金融不安があるなかで、上場できたことは大変良かったというか、よくできたと受け止めている。それに我々を応援してもらえた投資家には感謝したい。

今後、我々が着実に成長し、利益で株主に貢献できることが使命。株主の期待をしっかり受け止めて、これから努力していきたい。

―上場の詳細を発表したのが2月の末頃だったが、この1ヵ月どのような心境で過ごしてきたのか。SVBやCスイスの件で不安や懸念はいろいろあっただろうが、どのような胸の内を抱えていたのか
毎日のように状況が目まぐるしく変わり、想像しないようなイベントが発生したので、心休まる暇は全くなかった。昨年も同じようにロードショーの途中でウクライナ侵攻があったので、あの時も同じように非常に苦しい悔しい思いをした。

今回も、一瞬1年前のことがよぎった。2回目のチャレンジでもあったので、さすがに3回目はないだろうと。何としても今回はやり遂げるという、私もそうだがスタッフ一同ここは全力で、主幹事証券も含めて多くの人に協力してもらいながら、何とか非常に細いナローパスを通した。

いろいろな見方があるが、私個人としては、この環境で、多くの人たちや投資家に支えてもらいこの日を迎えたことは本当に嬉しい。ほっとしたという一言に尽きる。

―新株を発行せず資金調達が目的ではないと見るが、上場の主目的は
今回は公募をしていない。1月に特別配当を実施したこともあり、資本的には十分余力があったので、調達をする必要がないと判断した。つい先日も発表したが、新卒の給与を月30万円にアップし、それ以外の社員についてもベースアップを行う。

特にテック企業との間で人材獲得競争が非常に厳しくなっている。より優秀な人材を確保するためには知名度アップ、そして、確保のためのインセンティブ制度の導入などに、株式公開は必要なステップだった。

―前回ローンチした際には、資金調達も企図していたが、売り出しに絞った理由は
銀行でバーゼルの規制、自己資本比率規制があり、バーゼル3という新しい規制が適用されるが、今回、早期に適用することが決まった。結果として我々にとって好ましい規制の変更でもあり、それによって、必要な自己資本が少なくて済み、自己資本に余剰が生まれた。資本余剰がある状態で、1月に特別配当を実施したため、逆に公募をする理由がなくなった。

―なぜスタンダード市場に上場したのか。今後については
ウクライナ侵攻があり、足元の金融環境も含めてマーケット環境を見ながら証券会社と相談し、今はスタンダード市場で行くのがベストだという判断だった。元々はもちろんプライム市場(旧東証1部)に出していたので、将来的には環境が整ったらそういうこともあるかもしれないが、現時点では考えていない。全ては今後の我々の成長によるところが大きいので、まずは足元の業績をしっかり作っていきたい。

―テック企業という点を強調しているが、海外のフィンテック企業には、現在の予想PER9.3倍よりもさらに高い企業もある。今9.3倍と評価されていることについて
昨年や一昨年からテック企業、特にSaaS企業のマーケットが、株価が非常に下がっているのを知っているだろうが、テクノロジー業界、特にフィンテック業界の評価が多きく下がった。世界の上場しているデジタルバンクも同じように株価を下げているなかで、現在は残念ながら我々は銀行としてしか評価されない。

テックの評価が全く入ってないのが今のバリエーションと見ている。今の株価が適正かどうか聞かれると、答えられないと言ったのはそういうことで、我々が求めていた株価ではないが現在のマーケットであればやむを得ない。

ただ、マーケットが適正になり、我々のテックの本当の力を多くの投資家に理解してもらえれば、しかるべき評価がついてくるだろう。これは、上場後、実績と同時にしっかり情報発信をして、多くの投資家に理解してもらえるコミュニケーションが必要なので、しっかりやっていきたい。

―テクノロジー投資を積極的に進めてきて、今後も戦略の柱として変わりはないのか。投資を進めていくのであれば、今後どういう分野に投資していきたいのか
引き続きテクノロジーに対する投資を徹底していく。今までは、APIやクラウド、モバイル、AI、ビッグデータ、そして生体認証。日本で初めて我々が生体認証というセキュリティを導入した。常に日本初で導入してきた。

今後は、今言ったようなテクノロジーに対する投資を続けながら、新たなテクノロジーという意味でブロックチェーンについては、これからサービスとして発表できるものが多分出てくる。ブロックチェーンはWeb3.0と言われる世界だ。メタバースと言う人たちもいるが、ブロックチェーンやWeb3.0という世界で先進性を発揮していきたい。

いくつかの分野で、日本初というだけでなく世界初のサービスを、複数準備しているものもあるので、そういったものも発表していく。とにかくテクノロジーによるイノベーションを実現していきたい。テクノロジーそのものは重要だが、重要なのはそれを使って、どんな新たなイノベーションを起こせるか、いかに社会を変革できるのかだ。

創造と変革以外は仕事ではないというモットーを全社員に常に言い続けている。何か世のなかに全くないものを生み出すか、今あるものを思い切り変えて世のなかを変えることを考える。「これが我々の仕事だ」と、それができないのであれば、我々のような銀行が存在する必要はないと言い続けている。

常にイノベーションを起こし続ける銀行でありたい。そのためにテクノロジーへの投資はあらゆる分野でやり続ける。今気づいていない分野があるかもしれないが、もしそういったチャンスあれば、気づいてないものについても、投資を積極的にしていきたい。

―BaaSは住信SBIネット銀が切り拓いてきた市場とはいえ、ほかのネット銀行やメガバンクなどが後発で来ている。こういった企業との競争について今後どのように受け止めているか。発揮できる強みは
BaaSについては我々が切り拓いたマーケットではあるが、もちろんほかの銀行も同じことが当然できる。我々がやるべきことはたった1つで、我々が勧めたバンキングサービスを相手企業が受け入れててくれるかどうかだ。

今回、15社と提携したと言ったが、このほとんど全てはコンペで選ばれている。それは我々の顧客満足度が常にナンバーワンであるといったような顧客からの高い支持がある。商品提案やサービスが優れている。これはもう絶対に必要なものだ。

我々の基本的なデジタルバンクが、常に顧客から高い評価を得られるように努力し続けることが重要だ。また、テクノロジーの先進性も非常に重要で、いかに相手企業に負担がなく、そのサービスやビジネスに溶け込ませるような、組込型で導入できるか、そのシステムの柔軟性や先進性、スピード、コストというあらゆる面で他社・他行よりも優れていることが重要で、それに対する投資はやめられない。

投資を続けることで常にテクノロジーで最先端で、常にコスト競争力があり続けること(が必要)。相手企業の理解を深め、コンサルティング能力を高める。全く油断はできないが、これをやり続けて、常にトップランナーでいる、そのための努力を継続したい。

―グループのなかにSBI新生銀行というリアルを中心した銀行がある。SBIグループでは、両方の合算で預金量や規模を表示することもあるが、もう1つの銀行との棲み分けや連携、共創、協調はどのようなものか
従来からも同じ銀行同士という意味では競合関係にあった。棲み分けはないし、独立した会社として成長を目指すためにも上場が必要だ。そこで変に忖度を働かせて棲み分けをするようなことはしない。そうしなければ株主の期待に応えられない。一般の株主にも、当然それを最優先にしなければならない。棲み分けをするつもりは全くないし、結果として切磋琢磨してそれぞれの銀行が成長し、両方で、銀行業界のなかでシェアが大きくなれば良いのではないか。

―連携は特にないのか
銀行同士の連携というのはあまり(ない)。もちろん是々非々で判断することはある。現在では地方銀行とは、住宅ローンの代理店契約なども行っているので、同じようなこともあるかもしれないので、全く否定するつもりはない。

―スタートアップや起業家に対する支援や姿勢、強みなどは
法人ビジネスについてはそこまで力を入れているわけではない。法人融資については、トランザクション稟議について、AIを使った融資は行っているが、これはあくまでも少額の、データに基づいたクイックファイナンスのビジネスであって、ベンチャー企業に大きなファイナンスをするエンティティは持っていない。ベンチャーキャピタル(VC)を持っているわけではない。

我々が今できるのは、アプリで、1日で口座開設ができるような便利な銀行機能を提供し、できたばかりのベンチャー企業でも簡単に銀行取引ができるようにすることだ。我々の新規の法人口座の獲得の5割以上が創業1年未満の法人ばかりなので、非常に多くのベンチャー企業を含めた新規法人に好評だと見ている。ここは磨き続けていきたい。

ただ、VCのようなことをやるつもりは今のところ予定していない。あくまでもベンチャー企業をはじめとした中小法人が簡単に利用できる便利な銀行サービスを提供することを今後も続けたい。

―第一次産業向けにいろいろな仕掛けをしていきたいとのことだが、そのマネタイズのイメージは
詳しくは言えないが、基本はプラットフォームを提供することによって、今のBaaSと全く同じで定額の利用料をもらうようなビジネスモデルにする予定で、フィービジネスだ。

銀行のビジネスとは決定的に違っており、SaaS型のビジネスモデルにする予定で、アセットに依存せずに、利用が増えれば増えほど収益が積み上がっていく。まさにテックビジネスの典型的なビジネスモデルにしていくので、投資は最初は多少かかるかもしれないが、非常に利益利益率の高いものになると想定している。

BaaSもその1つだが、今後はアセットに依存しない手数料ビジネスによりフォーカスして、銀行業からテクノロジー企業へのシフトを目指していく。第一次産業へのDX事業がまさにそれだと理解してほしい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

関連記事