9日、インフォメティスが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1080円を8.06%下回る993円を付け、1070円で引けた。ソニーグループから2013年に独立した。最先端のAIを駆使して、電力使用量を分析し、利用効率を最適化するサービスを行っている。2026年から順次設置される次世代スマートメーターによるサービス強化に備える。只野太郎社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

―終値が初値と比べて少し高かったが、受け止めは
マーケットの評価として真摯に受け止めながら、一喜一憂するのではなく、我々としてはマーケットとのコミュニケーションをより強くする意識を持って進めていきたい。
―2022年に一度上場を中止しているが、グロース市場全体が少し落ち込んでいるなかで今回このタイミングを選んだ理由は
国内の次世代スマートメーター(の本格的な普及)が、もう待ったなしの状態。電力会社は(次世代スマートメーターの設置を)2025年度と発表しているが、2025年度というのは2026年3月期である。つまり、もう本当に待ったなしの今が、そこに向けた準備の最終段階になっている。我々としては新しいそのインフラ化に向けたサービスの拡充や技術開発の加速も待ったなしになってきているので、それが1番大きな理由だ。
もう1つは英国(などでのガスボイラーから電化への流れ)も2025年に大きな潮目を迎えるというところもある。大きく分けるとその2つをタイミングとしては意識した。
―2022年に上場を中止してから今までに変化したことや、乗り越えてきたことはあるか
2022年は、コロナや(ウクライナ)戦争の影響があり、一旦上場を断念した。その期間は、社会や働き方の変化、それから我々の運営する市場の変化もあり、苦しい時期だった。
ただ、そのなかでもサービスラインアップの拡充は手を緩めずに行ってきた。あの当時描いていた大きな成長に向けた大きな投資は一旦ブレーキを踏んだが、3年前の社員数と今の社員数を比べると、スリム化をしながらも、特にIT側、サービスラインアップを拡充している。収益化という意味では、体質の変化を生かして成長したと自負している。
―今回の上場で得た資金をどのように活用していくか
営業をガンガン強めるというよりは、サービスを拡充させ、価値をもっと世の中に示していく、作っていくことが主眼になっている。主には新技術開発や海外事業の加速、人件費が焦点になってくる。
―社長が考えるインフォメティスの強みは何か
我々は、技術大企業出身であり、技術が強み。加えて、この10年間我々が作ってきたのは、大手企業とのアライアンスだ。東京電力や関西電力、ダイキン工業、日立製作所しかり、そうそう組めない大企業にこの技術を買ってもらった。大手企業と組んだことによって、我々が自分たちで営業担当者を抱えて全国を渡り歩くことはない。その大企業の開拓の力をよく使わせてもらい、拡大に繋げられているのが2つ目の強みだ。
―上場企業になってどんな価値を世の中や投資家に提供していくか
まさしく我々がやっていることが、世に理解されることだ。今日私の説明を聞いても、あまり分からなかったと思う。電力のことは理解されていないし、今、再生可能エネルギーを普及させなければならない、脱炭素といったことは、皆が考えていることだが、そこで何が課題になっているのかも、業界レベルで知っている人はほとんどいないだろう。
それを専門家ではなく市場参加者に、何なら一般の人たちにも分かりやすく伝えていくことも、我々の使命だ。それがマーケットコミュニケーションにもなり、自分たちの価値を理解してもらえることだと考える。マーケットとのコミュニケーションはこれから重要である。
―一般需要家に普及させていくためには、独自で提案していくよりは、小売電気事業者を通して、サービスを普及させていくのか
両方取り組んでいる。伊藤忠エネクスには非常に力になってもらって、いろいろな声をもらって一緒に考えている企画もあるし、我々自身でより需要家の役に立てるためには何ができるのかといったところも企画を進めている。今回の新事業やラインアップを拡充するといったところへの投資は、一般需要家に向いたものも含まれている。
―欧州でのビジネスは収益化フェーズに入るまでは、どのくらい時間がかかるか
我々だけでなく、パートナーであるダイキンのスピード感や状況もあるが、来年には大きな潮目があるので、期待という意味では来年度も収益化のチャンスがあると思う。
このあたりは今後コミュニケーションを詰めて協業の状況によって変化していくだろうが、何年も先というよりは、割と足元のところでチャンスが大きいと想定している。
―今後、他領域に展開していく話だが、例えば、「総合暮らし利便スマート・リビング」まで実現した頃には、ARRや売上高などの規模の面では、どの程度イメージしているか
2030年といった時間軸では、100億円や200億円といった売上規模の成長が見込めそうだ。今は、中長期計画でそういった規模の数字を話す段階ではないが、イメージとしては単価やサービス、規模などを併せ考えれば、そういったレベルの成長を遂げるべきだと思っている。
―伊藤忠エネクスの「テラりんアイ(AI)」の活用状況について、顧客が自分の家の家電の使用状況が分かるのか。小売電気事業者向けにDR(デマンドレスポンス)などの機能が付いているのか。その活用状況と、伊藤忠エネクスや顧客からの反応はどうか
30分値を使ったNILM(機器分離推定)技術のサービスだが、伊藤忠エネクスが調査している結果を我々が詳しく話すことはできない。少し大括りなことを言えば、一定の評価を得ていると聞いている。一方で、それをより良いデマンドレスポンスに活用し、場合によってはその小売電気事業者の顧客分析や顧客満足度の分析にも活用すべく、データの分析を進めており、今のところ伊藤忠エネクスからもプラスの反応をもらっている。伊藤忠エネクスの「テラりんアイ(AI)」を北海道のトドック電力に利用してもらっており、どんどん横に広がってきている。
かなり役に立っていると思うので、電力会社のメリットだけでなく、エンドユーザーである消費者などにもっと活用してもらえる工夫を、デマンドレスポンスも含めて考えている。
―家電ごとの電力使用量が見えることは、プライバシーの問題と懸念する人もいると思うが、そこはどのように解決しているのか
創業当初から課題になっていたことで、当時から欧州であればGDPR(General Data Protection Regulation)という制度が普及していたし、国内でも情報銀行という話がある通り、基本的に消費者のデータは消費者のものであるというスタートに立ってサービスを展開する。当然ながら消費者などの許可を取ってサービスを展開するし、そのデータをマーケティングデータとして販売することは、行わないのが原則だ。
一方で、電力の需給バランスに資する、安全を提供する(必要がある)ようなケースであれば、場合によっては電力会社が顧客を守るために許可なく使うこともある。しかし、マーケティング的に、例えば、保険や見守りといった用途は、基本的に消費者の許可を取ったサービスだけになっている。
[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]
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